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学園編 § 学校生活編
第58話 飛鳥の認知度
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「あのさ、・・・その、僕のこと・・・。」
「あー、その話、寮に帰ってからで良くね?てか、ここ公道っしょ?誰の耳があるか分かんないのに、飛鳥、不用心じゃね?」
「あ、あぁ・・・。」
「プッ・・・ハハハハ。なんか、いいよなぁ、ハハハ、飛鳥ってば、想像、裏切ってくれる、つうか、裏切らねぇっつうか・・・ハハハ。」
「なんだよ。」
「まぁ、いいからいいから。そういうのも寮へ帰ってから。そうだ、監督さんへ、今日の報告、とか、今の話題としては良いと思うんだけど?」
「う、うん・・・」
「じゃあ、まずは守備から・・・」
太朗が戻ってきて、二人で寮に向かう。
すぐ側とはいえ、確かに不用心。
おおざっぱに見えて、以外と周りを見ている子だ。
僕としては、どう接して良いか正直掴みかねているのに、なんていうか、コミュ力、高いな。
今日の野球班の総括を聞きながら、僕は、そんな風に考えていた。
僕が、寮に着くと、部屋には4人が集合していた。
気配で、僕が1人じゃないことを把握していたのだろう、蓮華が軽く睨む以外は、みんな普通に迎え入れてきた。
太朗が、ちょっとピキンと研ぎ澄まされた空気にも気づかないように、「お邪魔しまぁす。」と言いながら、僕の後に続いて入って来る。
「ちわっす。ちょっと飛鳥に込み入った話があって、お邪魔してます。あ、皆さんも聞いて貰っていいんで、突然の訪問、ご容赦の程を。」
誰かが何かを言う前に、太朗が口を開いた。
「その、ですね。皆さんもはっきりとは把握していないんじゃないかな、なんて思ってます、この学校での直江飛鳥ってヒーローの認知度、について、って話、なんすけど?」
ニカッと、擬音が聞こえるくらいの笑顔をみんなに向ける。
それを見た4人の表情が一転する。戦闘態勢の表情だ。
まずったか?
「やだなぁ。そんな怖い顔しないでくださいよ。ちなみに俺としては、田口飛鳥の友人として、この話を飛鳥やみなさんにしておこうかな、と思って来たんですけどね?」
・・・
しばしの沈黙。
「ふうん。たしか鈴木太朗君、だったかしら?興味深いお話しねぇ。その口ぶりなら、うちの馬鹿がやらかした、ってことじゃないんでしょうね?」
蓮華が口を開く。
僕がやらかした、わけじゃない、とは思う、けど・・・
「あ、それはないっす。と、言い切れないところはあるでしょうけど、まぁ、俺の件は違うっす。その、直江飛鳥がこの学校に潜入する、ってのは、会う前から知ってたんで。」
「知ってた?ごめん。ちょっと分かんない。なんで、あんたが知ってるの?」
「いやね、うちの親が飛鳥フリーク、なもんで・・・」
「?」
「ハハハ。両親して、初恋の人が飛鳥なんすよ。まだ就学前に飛鳥に助けられたことがあるらしくて、それ以来、ずっと動向を追ってる、っつうか・・・おかげで両親、結婚して、ま、結果、俺がここにいる、つうか。ハハハ。」
まさか、斜め上の告白だった。
なんだそれ?こいつの両親を助けた?
他の連中もお互い目配せしている。
「鈴木君、だっけ?確かおうちは自動車メーカーの。」
「はい、そうっす。まぁ、この学校ではパッと出の下々のもんってやつですかね?曾祖父の代で起業して、父で3代目ってとこですし。ちなみに、母方は、元華族です。といっても、普通の軍属筋らしいですが。」
つまりは、霊能者の家系ではない。AAOと直接は関係ないので、僕の、というか、我々4人の情報が直接行くような一族ではないから、身バレしているはずの人物、からは逃れていた、と。
「はぁ。だから言ってたんだよな。いつまでも協力者だけに目を向けてたら足を引っ張られるって。もっと外に目を向けろってのに、あのじじいども・・・」
文句言ってる淳平だけど、そのじじいども、ほとんど同年代だよね。むしろ年下?
心の中でツッコんだんだけど、わざわざ立ちあがって、スリッパ脱いで、頭を叩いてきた。てか、痛覚上げやがって、何、切れてんだよ。
涙目で淳平を睨んだけど、ちょっと違和感だ。
意外と淳平の奴、自分で暴力振るってくることは少ない。まぁ、蓮華が手が早いからってのもあるけど、痛覚の調整をして嫌がらせするぐらいで、本人が直接殴るのは、珍しかった。逆に蓮華が、爪をかじったまま動かない。なんか、考え込んでいるときの癖。僕は警戒レベルを少し上げた。次に起動するときの蓮華は、大概が無茶振りだ。
「まぁまぁ、センセ。暴力は良くないって。いや、俺としてもさ、両親からの話、聞かされて育ったし、バイブルは『神に逆らった英雄たちの物語』だからさ。初めてホンモノの飛鳥を見た時は、感動したし。でさ、そういうやつって、結構な数いると思うんだ。」
「『神に逆らった英雄たちの物語』?」
なんだそれ?
初めて聞くそれに僕は首を傾げたけど、どうやら4人は何か知ってる様子だ。
「ああ、僕も愛読してました。」
「俺も、ガキの時は、一番好きだったな。」
ノリとゼンがそんな風に言う。
「何、それ?」
「ああ、飛鳥は知らないか・・・一番こじらせてた時だもんな。」
淳平が言った。
「蘭子、覚えてるか?」
さらに、懐かしい名前を言われた。
もちろん覚えている。
蘭子。高坂蘭子。僕と同い年の女の子だった。まだ僕が普通に生きていた頃の同級生。当時は一応、というか、普通に高校に通わされていた。ほとんど行くことはなかったけど、在籍だけはしていた、というべきか。
当時は厚労省の外郭団体、ってことで、将来は一応厚労省に入省させようとしていたらしい。そこで、上のヤツらは、僕に実際の学歴的アリバイを作ろうとしていた。僕としてはどうでもいいことだったけど、任務の一環で、たまに学校に顔を出していたんだ。
蘭子は、ジャーナリスト志望の女の子だった。好奇心旺盛で、僕の存在にきな臭さを感じるような、勘の鋭い子だった。
当時はまだセキュリティなんて考え方はなくって、在校生の連絡先は冊子になって公表されていたんだ。僕の住所もそんな感じで名簿に計上されていて、彼女はそこに張り込んだりしていた。その住所に僕は住んでいないこともすぐに気付かれたこともあって、彼女から逃れるのに苦労したもんだ。
結局、彼女は『日本精神学会協力者協会』にたどり着き、協力者として潜り込んできた。もうとっくに僕は高校なんて忘れていて、世界中を飛び回っていた時期だ。神々が、この世界を他の世界と混ぜ合わせようと画策していた頃、というべきかもしれない。
ちょうど僕の能力が噂され始めていたこともあって、世界の綻び、魔物、あやかし、人外、そんな対処に必死になっていた頃。僕が戦い始めてすでに3年、4年と経っていたけど、どこへいっても未だ最年少で、こんな子供に頼らなければいけないなんて、と、悔しがられること、謝られることは、もう気にもしなくなっていた。
蘭子はそれに憤り、あらゆるところに噛みついて、僕を戦いから遠ざけようとしていたと、後日、聞いた。
僕は、うろうろする一般人の蘭子が鬱陶しくって、よく喧嘩した。今考えると、唯一の同年代。愚痴のはけ口にしてしまっていたんだと思う。
そして、あの日。1999年7月7日。
彼女は、学校にいたはずだ。
高校3年生。ちょうど期末試験の頃だったんじゃないかな?
僕たちは、神々の方針に逆らい、他次元の侵攻をかろうじて防ぎ止めた。
蘭子は夏休みに、何が起こったかもしらないまま、協会を訪れた。
変わりゆく協会。やがてAAOができ、僕らの異常性が判明し、AAOによる僕らの管理・検査が始まって・・・
僕が壊れたのは7、8年経った頃からだったろう。
最後に彼女を見たのは、たぶん、僕がハンストする前か。
ある年、僕は食物の摂取を完全にやめ、静かな死を望んだ。
定例会から帰宅し、次の定例会に呼び出されるために訪れたスタッフに見つかるまで、僕は仮死状態で過ごした1年弱。
目覚めた、その後、彼女と会った、という記憶は、ない。
「お前が自殺未遂を繰り返していた頃だ。蘭子がある絵本を書いた。それが『神に逆らった英雄たちの物語』だ。すでに出版ラインにのる直前、AAOの検閲に引っかかって回収された。そのときすでに刷られていたものは、彼女の意向で関係者に配られたんだ。AAO内でのみ販売という形でな。いまだに重版されてるって噂だ。」
「?それがなんでここで出てくる?」
「簡単な話だ。この物語はあの馬鹿神どもとの戦いの物語りなんだ。飛鳥、お前を中心とした、な。」
「はぁ?」
「あのねぇ、あの子は、蘭ちゃんはね、あんなに頑張って地球を救ったあんたが壊れていくことが許せなかったの。AAOでもザ・チャイルドは手綱が必要な化け物扱い。壊れない道具としか思っていない連中もいたわ。10年近くも経つと、当時のことを知りもしないで、私たちを責める者も少なくない。そんな現状を打破しようと、蘭ちゃんは、絵本という形でみんなに、いいえ、次世代に伝えようとしたの。仲間じゃなく、友として外から見ていた自分だから書ける物語で、いつまでも飛鳥や私たち、ずっと生きなきゃならない者達を守りたい、そう言って私や、あのとき共に戦った者たちに話を聞きにきてたの。そうして、できたのがあの絵本よ。」
淳平に続いて蓮華がそんな風に説明してくる。
なんだよ。
そんなの知らない・・・
「ハハハ、だったら、蘭子先生の思惑は大成功っす。僕らのヒーローは飛鳥っすから。」
「確かに、俺にとっても、ヒーローだったな。いつかは、この人と並び立って戦う、そう思って修行をしてきた。いや、多くの子供たちが、飛鳥を夢見て修行をしている。」
「僕の場合は、飛鳥との出会いが先、ですけどね。もちろん絵本は読みましたよ。なんていうか、雄々しすぎて違和感がすごかったですね。」
「俺は、ノリから飛鳥のリアルを聞いたときは、ショックだったがな。」
「先輩方も、ですか。俺の場合は、なんとなく親から聞いてましたから。なんでも、昔、東京でオリンピックが開かれたときに、国関係のパーティに出たんだそうです。多分護衛かなんかで飛鳥もいたみたいで、父はなんてかわいいお姉さんだろうと思い、母はきれいなお兄さんだって思ったそうです。二人とも中学生ぐらいのお兄さんかお姉さん、と思ったって聞いてたから、マッチョなイメージはなかったですねぇ。そのとき、子供が集められているところに化け物が出たらしくって、気付いた飛鳥が飛び込んできたそうです。長い髪を1本の三つ編みにしていたんだけど、間に飛び込んだときに、化け物に真ん中から切られたのを見た、と言ってました。飛鳥の動きに合わせて、空中に髪がバサッと広がって、それがとっても幻想的だったそうです。」
東京オリンピックのとき?確か世界的パンデミックが起こって1年延期された?
確かあれはパンデミック自体が作為的で、僕らが動員されたんだったか。いくつかの国でウィルス抗体を作るのにザ・チャイルドも犠牲になった。異様に早く予防接種が世界で行われた影に、苦しんだ仲間がいたのは今でも苦い思い出だ。
「あ、ちなみに、あの絵本ですが、ここの小学校の図書館に収蔵されています。ご存じでしたか?」
今日一番の爆弾が、太朗によって投下された。
「あー、その話、寮に帰ってからで良くね?てか、ここ公道っしょ?誰の耳があるか分かんないのに、飛鳥、不用心じゃね?」
「あ、あぁ・・・。」
「プッ・・・ハハハハ。なんか、いいよなぁ、ハハハ、飛鳥ってば、想像、裏切ってくれる、つうか、裏切らねぇっつうか・・・ハハハ。」
「なんだよ。」
「まぁ、いいからいいから。そういうのも寮へ帰ってから。そうだ、監督さんへ、今日の報告、とか、今の話題としては良いと思うんだけど?」
「う、うん・・・」
「じゃあ、まずは守備から・・・」
太朗が戻ってきて、二人で寮に向かう。
すぐ側とはいえ、確かに不用心。
おおざっぱに見えて、以外と周りを見ている子だ。
僕としては、どう接して良いか正直掴みかねているのに、なんていうか、コミュ力、高いな。
今日の野球班の総括を聞きながら、僕は、そんな風に考えていた。
僕が、寮に着くと、部屋には4人が集合していた。
気配で、僕が1人じゃないことを把握していたのだろう、蓮華が軽く睨む以外は、みんな普通に迎え入れてきた。
太朗が、ちょっとピキンと研ぎ澄まされた空気にも気づかないように、「お邪魔しまぁす。」と言いながら、僕の後に続いて入って来る。
「ちわっす。ちょっと飛鳥に込み入った話があって、お邪魔してます。あ、皆さんも聞いて貰っていいんで、突然の訪問、ご容赦の程を。」
誰かが何かを言う前に、太朗が口を開いた。
「その、ですね。皆さんもはっきりとは把握していないんじゃないかな、なんて思ってます、この学校での直江飛鳥ってヒーローの認知度、について、って話、なんすけど?」
ニカッと、擬音が聞こえるくらいの笑顔をみんなに向ける。
それを見た4人の表情が一転する。戦闘態勢の表情だ。
まずったか?
「やだなぁ。そんな怖い顔しないでくださいよ。ちなみに俺としては、田口飛鳥の友人として、この話を飛鳥やみなさんにしておこうかな、と思って来たんですけどね?」
・・・
しばしの沈黙。
「ふうん。たしか鈴木太朗君、だったかしら?興味深いお話しねぇ。その口ぶりなら、うちの馬鹿がやらかした、ってことじゃないんでしょうね?」
蓮華が口を開く。
僕がやらかした、わけじゃない、とは思う、けど・・・
「あ、それはないっす。と、言い切れないところはあるでしょうけど、まぁ、俺の件は違うっす。その、直江飛鳥がこの学校に潜入する、ってのは、会う前から知ってたんで。」
「知ってた?ごめん。ちょっと分かんない。なんで、あんたが知ってるの?」
「いやね、うちの親が飛鳥フリーク、なもんで・・・」
「?」
「ハハハ。両親して、初恋の人が飛鳥なんすよ。まだ就学前に飛鳥に助けられたことがあるらしくて、それ以来、ずっと動向を追ってる、っつうか・・・おかげで両親、結婚して、ま、結果、俺がここにいる、つうか。ハハハ。」
まさか、斜め上の告白だった。
なんだそれ?こいつの両親を助けた?
他の連中もお互い目配せしている。
「鈴木君、だっけ?確かおうちは自動車メーカーの。」
「はい、そうっす。まぁ、この学校ではパッと出の下々のもんってやつですかね?曾祖父の代で起業して、父で3代目ってとこですし。ちなみに、母方は、元華族です。といっても、普通の軍属筋らしいですが。」
つまりは、霊能者の家系ではない。AAOと直接は関係ないので、僕の、というか、我々4人の情報が直接行くような一族ではないから、身バレしているはずの人物、からは逃れていた、と。
「はぁ。だから言ってたんだよな。いつまでも協力者だけに目を向けてたら足を引っ張られるって。もっと外に目を向けろってのに、あのじじいども・・・」
文句言ってる淳平だけど、そのじじいども、ほとんど同年代だよね。むしろ年下?
心の中でツッコんだんだけど、わざわざ立ちあがって、スリッパ脱いで、頭を叩いてきた。てか、痛覚上げやがって、何、切れてんだよ。
涙目で淳平を睨んだけど、ちょっと違和感だ。
意外と淳平の奴、自分で暴力振るってくることは少ない。まぁ、蓮華が手が早いからってのもあるけど、痛覚の調整をして嫌がらせするぐらいで、本人が直接殴るのは、珍しかった。逆に蓮華が、爪をかじったまま動かない。なんか、考え込んでいるときの癖。僕は警戒レベルを少し上げた。次に起動するときの蓮華は、大概が無茶振りだ。
「まぁまぁ、センセ。暴力は良くないって。いや、俺としてもさ、両親からの話、聞かされて育ったし、バイブルは『神に逆らった英雄たちの物語』だからさ。初めてホンモノの飛鳥を見た時は、感動したし。でさ、そういうやつって、結構な数いると思うんだ。」
「『神に逆らった英雄たちの物語』?」
なんだそれ?
初めて聞くそれに僕は首を傾げたけど、どうやら4人は何か知ってる様子だ。
「ああ、僕も愛読してました。」
「俺も、ガキの時は、一番好きだったな。」
ノリとゼンがそんな風に言う。
「何、それ?」
「ああ、飛鳥は知らないか・・・一番こじらせてた時だもんな。」
淳平が言った。
「蘭子、覚えてるか?」
さらに、懐かしい名前を言われた。
もちろん覚えている。
蘭子。高坂蘭子。僕と同い年の女の子だった。まだ僕が普通に生きていた頃の同級生。当時は一応、というか、普通に高校に通わされていた。ほとんど行くことはなかったけど、在籍だけはしていた、というべきか。
当時は厚労省の外郭団体、ってことで、将来は一応厚労省に入省させようとしていたらしい。そこで、上のヤツらは、僕に実際の学歴的アリバイを作ろうとしていた。僕としてはどうでもいいことだったけど、任務の一環で、たまに学校に顔を出していたんだ。
蘭子は、ジャーナリスト志望の女の子だった。好奇心旺盛で、僕の存在にきな臭さを感じるような、勘の鋭い子だった。
当時はまだセキュリティなんて考え方はなくって、在校生の連絡先は冊子になって公表されていたんだ。僕の住所もそんな感じで名簿に計上されていて、彼女はそこに張り込んだりしていた。その住所に僕は住んでいないこともすぐに気付かれたこともあって、彼女から逃れるのに苦労したもんだ。
結局、彼女は『日本精神学会協力者協会』にたどり着き、協力者として潜り込んできた。もうとっくに僕は高校なんて忘れていて、世界中を飛び回っていた時期だ。神々が、この世界を他の世界と混ぜ合わせようと画策していた頃、というべきかもしれない。
ちょうど僕の能力が噂され始めていたこともあって、世界の綻び、魔物、あやかし、人外、そんな対処に必死になっていた頃。僕が戦い始めてすでに3年、4年と経っていたけど、どこへいっても未だ最年少で、こんな子供に頼らなければいけないなんて、と、悔しがられること、謝られることは、もう気にもしなくなっていた。
蘭子はそれに憤り、あらゆるところに噛みついて、僕を戦いから遠ざけようとしていたと、後日、聞いた。
僕は、うろうろする一般人の蘭子が鬱陶しくって、よく喧嘩した。今考えると、唯一の同年代。愚痴のはけ口にしてしまっていたんだと思う。
そして、あの日。1999年7月7日。
彼女は、学校にいたはずだ。
高校3年生。ちょうど期末試験の頃だったんじゃないかな?
僕たちは、神々の方針に逆らい、他次元の侵攻をかろうじて防ぎ止めた。
蘭子は夏休みに、何が起こったかもしらないまま、協会を訪れた。
変わりゆく協会。やがてAAOができ、僕らの異常性が判明し、AAOによる僕らの管理・検査が始まって・・・
僕が壊れたのは7、8年経った頃からだったろう。
最後に彼女を見たのは、たぶん、僕がハンストする前か。
ある年、僕は食物の摂取を完全にやめ、静かな死を望んだ。
定例会から帰宅し、次の定例会に呼び出されるために訪れたスタッフに見つかるまで、僕は仮死状態で過ごした1年弱。
目覚めた、その後、彼女と会った、という記憶は、ない。
「お前が自殺未遂を繰り返していた頃だ。蘭子がある絵本を書いた。それが『神に逆らった英雄たちの物語』だ。すでに出版ラインにのる直前、AAOの検閲に引っかかって回収された。そのときすでに刷られていたものは、彼女の意向で関係者に配られたんだ。AAO内でのみ販売という形でな。いまだに重版されてるって噂だ。」
「?それがなんでここで出てくる?」
「簡単な話だ。この物語はあの馬鹿神どもとの戦いの物語りなんだ。飛鳥、お前を中心とした、な。」
「はぁ?」
「あのねぇ、あの子は、蘭ちゃんはね、あんなに頑張って地球を救ったあんたが壊れていくことが許せなかったの。AAOでもザ・チャイルドは手綱が必要な化け物扱い。壊れない道具としか思っていない連中もいたわ。10年近くも経つと、当時のことを知りもしないで、私たちを責める者も少なくない。そんな現状を打破しようと、蘭ちゃんは、絵本という形でみんなに、いいえ、次世代に伝えようとしたの。仲間じゃなく、友として外から見ていた自分だから書ける物語で、いつまでも飛鳥や私たち、ずっと生きなきゃならない者達を守りたい、そう言って私や、あのとき共に戦った者たちに話を聞きにきてたの。そうして、できたのがあの絵本よ。」
淳平に続いて蓮華がそんな風に説明してくる。
なんだよ。
そんなの知らない・・・
「ハハハ、だったら、蘭子先生の思惑は大成功っす。僕らのヒーローは飛鳥っすから。」
「確かに、俺にとっても、ヒーローだったな。いつかは、この人と並び立って戦う、そう思って修行をしてきた。いや、多くの子供たちが、飛鳥を夢見て修行をしている。」
「僕の場合は、飛鳥との出会いが先、ですけどね。もちろん絵本は読みましたよ。なんていうか、雄々しすぎて違和感がすごかったですね。」
「俺は、ノリから飛鳥のリアルを聞いたときは、ショックだったがな。」
「先輩方も、ですか。俺の場合は、なんとなく親から聞いてましたから。なんでも、昔、東京でオリンピックが開かれたときに、国関係のパーティに出たんだそうです。多分護衛かなんかで飛鳥もいたみたいで、父はなんてかわいいお姉さんだろうと思い、母はきれいなお兄さんだって思ったそうです。二人とも中学生ぐらいのお兄さんかお姉さん、と思ったって聞いてたから、マッチョなイメージはなかったですねぇ。そのとき、子供が集められているところに化け物が出たらしくって、気付いた飛鳥が飛び込んできたそうです。長い髪を1本の三つ編みにしていたんだけど、間に飛び込んだときに、化け物に真ん中から切られたのを見た、と言ってました。飛鳥の動きに合わせて、空中に髪がバサッと広がって、それがとっても幻想的だったそうです。」
東京オリンピックのとき?確か世界的パンデミックが起こって1年延期された?
確かあれはパンデミック自体が作為的で、僕らが動員されたんだったか。いくつかの国でウィルス抗体を作るのにザ・チャイルドも犠牲になった。異様に早く予防接種が世界で行われた影に、苦しんだ仲間がいたのは今でも苦い思い出だ。
「あ、ちなみに、あの絵本ですが、ここの小学校の図書館に収蔵されています。ご存じでしたか?」
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