神に喧嘩を売った者達 ~教科書には書かれない真実の物語~

平行宇宙

文字の大きさ
上 下
56 / 90
学園編 § 学校生活編

第56話 球技大会練習

しおりを挟む
 僕は葵と別れて、体育館へと回った。
 そこそこ広い体育館。
 バスケとバレーだったか?
 これなら全クラス一緒に練習できるだろうに、そんな風に思いつつ、人が集まっているところに歩いて行く。

 バシュッ!

 ちょっ、危ない!
 顔をめがけて、何かが飛んできた。
 バスケットボール?
 思わず避けて、後ろに飛んでいったボールを目で追った。
 あれ、中学生の球か?僕じゃなかったら大けがですまないぞ。
 そんな風に思った直後。
 「遅いぞ!」
 と、聞き慣れた声が飛んできた。

 なんだ、淳平か。とすると、わざと僕にボールを投げたんだ。ったく、当たってたら大けがだぞ。正直怪我するだけなら問題ないけど、リカバーしてしまう体のことを考えるとゾッとする。まぎれもなく、そのレベルの脅威だった。

 ボールを放置、しても、どうせ取ってこいって言われるんだろうな、と思いつつ、僕は後方へ飛んだボールを回収して、彼らの元へ。

 「先にサッカーのところへ行ってたんですよっ。」
 ちょっとキレ気味にボールを投げ返したけど、しれっと受け取られた。

 「ちょっと飛鳥君、そんなに強く投げたら危ないでしょ。先生は目が見えないんだからね。」
 まだ名前を覚えてない女子からクレームだ。
 目が見えない、なんてことは、この化けもんにはハンディにもならないんだよ、そう言い返したいけど、さすがにできないよな。僕は小さく口の中でごめんとつぶやいたけど、その子、と便乗してきた数人の女子が、ちゃんと謝りなさい、とか、詰め寄ってくる。

 ああ、そうだったな。僕は心の中で大きくため息をついた。
 チャラい雰囲気も相まって、淳平はやたらとモテる。この学校は真面目そうな年配の教師が多いから、なおさらだ。
 この年頃の女の子は、年上に憧れる、というのもあるしな。

 「飛鳥ちゃん、ちゃんと謝ろ?」
 ルカがそんな風に声をかけてきた。そういえばバスケ班か。背が小さいけどカットやドリブルが上手い、らしい。

 いや、謝ろうもなにも、最初に仕掛けてきたのは淳平なんだが・・・多勢に無勢ってやつか。女子の剣幕に男子が弱腰になってるって図?
 だけじゃないか。
 やり玉に挙がってる僕を気の毒に思いつつ、面白がってもいるけど、なんだか上から目線で生暖かく見守ってる、って感じ?
 そう感じつつむかついた自分を俯瞰して、気づいた。
 さっきの葵とのやりとりのせいで、敏感になってる?
 言い換えれば、テレパシー能力が発動してしまってる。

 僕は、目線だけで淳平を見た。
 これは、気づかれてるな。
 深呼吸をしつつ、回路を閉じるように発動を押さえるけど、苦手っていうのはこういうところにも出る。

 テレパシー系は苦手だ。防御も苦手だけど、無意識に発動してしまった力を押さえ込むのも苦手。
 誰かから強烈な思念を向けられたとき、その圧に当てられて、引っ張られることがある。そういうのはドロドロしてて酔うっていうか硬直したり、ゲーム風に言えばデバフをかけられたみたいになってしまう。
 それもあって、できるだけ心をシャットアウトする訓練をやらされてはきてるけど、そもそもいろんな力を受け入れられるという僕の特殊性が、それを困難にしてる。

 ああ言い訳だよ。
 極力、人の思念に引っ張られないよう、言われてる。けど、さっき、葵に手を握られて、なんでこの世界の人が?って疑問に思ってしまって、揺さぶられた。自分の思考の読み取りをカットしつつ、彼女の能力発動を感知しようと探った。別に思考を探るような使い方はしてないけど、彼女の能力があるのかないのか、霊力の流れを探るようなことはした。そのせいでテレパシーの発動が甘くなってしまってる。

 『ったく、別に飛鳥が思ってるほど、能力が漏れてるわけじゃねぇよ。こいつらを見れば、そのぐらいの分析は可能だ。』
 僕の動揺に、淳平が念話で話しかけてきた。
 僕と違って、彼のテレパシー能力は高い。そもそもが人の力をコントロールするような力だ。僕の思考なんて簡単に筒抜けになる。本人曰く思考じゃなくて、感情が分かる程度だって話だが、そこから思考を推測されるなら同じことだ。
 それは蓮華でも一緒で、ハハ、考えてみたら今更ノリに覗かれてもそんなに抵抗がないのは、この慣れのせいか。ノリの場合は感情だけではなく思考そのものが筒抜けってことだけど、僕にはどう違うか分からない。

 『問題ないなら良いよ。一応報告。体育館の裏、この敷地の裏口近く、で、転移先を発見した。倉間葵の情報だ。』
 『寮でみんなと聞く。』
 『お前も目で見てこいよ。』
 『飛鳥ちゃんと違って、ぼくちんは忙しいの。』
 はぁ?
 こんなところで油を売ってるのに何をいってるんだか。

 「はいはい。謝るのが苦手なお子様には後でお話ししてもらうとして、みんなせっかく練習に来たんだから、練習しないとね。少人数制の練習ってことで、今日は試合形式。相手は監督1人で大丈夫だと思うんで、まずは先発候補でやってみようか。」
 はぁ?
 「ちょっと待って。相手は監督1人ってどういうことだよ。」
 「田口君なら、一人で3人相手のバスケ、できるでしょ?6人ぐらいならバレーボールも。」
 「できるわけないだろ!」
 「サッカーで10人抜き、やったんだってね?」
 ・・・・
 え、マジ?とか、さすがにあの筋肉か、とか、それなら1人で相手にして貰ってもいい、とか、監督のレベルが知りたい、とか、みんな好き勝手、言ってる。

 僕はチッと舌打ちをした。
 やりすぎ、だったのかもしれない。
 どうせやり過ぎたんなら、こっちも合わせろ、と淳平の目が言ってる。
 だけど、さすがに試合はないだろ?
 できない、じゃなくて、手加減が難しいんだ、って。
 それが分かっててのオーダーってのがむかつくんだ。

 僕はいろんな力のコントロールが上手くなくて、そのあたりの訓練には時間が割かれてる。これも訓練に入れようって心づもりなんだろう。だけど相手は中学生の子供。下手打つのが、正直・・・怖い。
 壊していい魔物たちと違い、人間って簡単に壊れるんだ・・・

 「あぁ、先生?さすがに飛鳥ちゃんの負担大きいですよぉ。それにほら、顔も青いし。飛鳥ちゃん病弱、なんでしょ?」
 ルカが僕の肩を抱くようにして、淳平に抗議してくれてるようだ。僕の顔、そんなに青い、のか?

 「まぁ、無制限ってことじゃないさ。そうだな。各10分。それぐらいなら問題ないだろ?」
 いや、十分長いわ!
 「まぁ、それくらいなら、ねぇ。飛鳥ちゃん頑張れる?」
 「お前は僕の味方じゃなかったのかよ。」
 「うーん、味方だけどね?味方だけど、ちょっと飛鳥ちゃんの勇姿も見てみたいかな?なんてね、ハハっ。」
 ・・・


 結局、バスケとバレーを各10分。
 僕1人で試合形式の練習を行った。
 やってわかったこと。
 これらはボールが1つしかない。
 それに合わせて動けば良いだけ。
 つまりは、考えていたよりずっと楽だったってこと。
 何度か、ジャンプをしかけて、力尽くで淳平に体をキャンセルされ、転けてしまう、というハプニングはあったけど、思いの外楽しんでる自分に、ちょっと戸惑ってしまう。
 最初に転がされたとき、『普通の人間は膝丈しか飛べないことを忘れるな。』って、頭の中で怒鳴られたけど、逆に普通に出来ない動きを淳平が強制キャンセルしてくれる、そんな安心感があった、ということを口にするつもりはない、けどな。


 そして。
 病弱、という微妙な設定を言い訳にしつつ、試合後は淳平とともに体育館を出た。
 なんだかんだ言いつつ、一応先ほどの転移先に向かい、二人で確認を行う。
 鍵をなんとかする、そう言う淳平を放置し、僕は、みんなに集合をかけつつ、寮に戻った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

処理中です...