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学園編 § 編入準備編
第45話 実験
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僕は、二人に連れられて、大使館の敷地内に建てられた、だだっ広い建物に入っていった。
すでにそこには、数名の見知った顔がいて・・・・
まずは、不思議じゃない人物。ニーチェ。ロシア支部のザ・チャイルド。サイコメトラーとして有名だ。
そしてうちの副支部長竹内辰也。世界唯一の事務方ザ・チャイルド。
ここまではいい。
「どうしてあんたが?」
僕は思わず聞いたよ。
「挨拶なしにそれかい。」
フンと鼻を鳴らす胡散臭い魔術師。
「まぁいい。グレゴリーに招聘されたんだよ。うちの管轄じゃないか、とね。」
なるほど。確かに魔術師の管轄だな。この魔法陣はどう考えても、西洋魔術系だ。
彼、アメリカ支部長を務めるアレイスター・クロウリーは、黒魔術を扱う魔術師として、それなりに有名だ。魔術、というものに興味を持ったものなら一度は耳にする名前かもしれない。当然、というべきか、奴もザ・チャイルドではない不死者の一人だ。黒魔術の中でも禁術に失敗して死にきれず、不死者の呪いを受けた、と言われているが定かではない。なんにせよ、いろいろ秘密が多い人物だ。
彼が特別なのは、あの1999年当時、すでに不死者であった彼は、唯一、あの戦いに参加した不死者である、というところだろう。彼は『世界の理』をより深く知るために、あの戦いに参加したらしい。それこそが特等席だと思ったから、僕らの側で戦った、と言ってはばからない。まぁ、そんな奴だ。
「今日は特等席で実験を拝見しようと思ってね。」
クロウリーは、にやりと笑って言った。
「なんにせよ、理を紡ぐのは飛鳥の側が一番だ。」
なんだよ、それ。相変わらず意味不明な奴だ。
僕は、相手をするのもばかばかしくて、彼を無視し、周りを見回した。
なるほど。四隅に置かれた特殊な石は結界発生の術式を組み込んだものだろう。あれらを起点に、相当協力な結界を発生する、いやもうしているみたいだな。設置型術式の典型、といったところか。
さらに、広い部屋の中央、みんなが集まっているこの場所には、小さな丸い机が置かれている。3本足に小さな円盤が乗っている形の、木製のものだ。そしてその上に、おそらくニーチェが念写した原本だろう、魔法陣が乗っている。
それは先日寮の部屋へ蓮華が持ち込んだものと同じもの。だが、どうやら霊力を通しやすく加工した特殊な紙に転写されたものみたいだ。これはすなわち、実用に値するもので、だけど、やっぱりいびつな形。
「飛鳥に、これを起動して貰いたい。」
グレゴリーが、そう言った。ちなみに、ここにいる人間は僕も含めて全員ロシア語日本語英語が使える。で、誰もどこかの国に合わせるなんて殊勝な心がけを持つわけもなく、好き勝手な言語で、つまりは母国語で会話している。これが結構カオスで、言語によって使う脳が若干違うから、僕としては、どこかに統一してほしいと切実に思う。が、無理だろうな。
「僕?クロウリーがいるのに?」
そもそも、この手の魔法陣は、彼の得意分野だ。わざわざ僕がやらなくたって、ホンモノの術者にやらせた方がいいだろうに。
「いやいや、自分でやったら観察が出来ないじゃないか。」
何を言ってる?みたいに言うけど、こっちが言いたいよ。自分とこの術式だろうに。
「いや、飛鳥が適任だ。これを描いた人間が魔術系ではない可能性が出てきた。」
そう言ったのは我らが副支部長。
でもなんで?
「書き癖から、どうも仮名を好き慣れてる者が描いた可能性が出てきた。」
「どういうこと?」
副部長はシートを僕に差し出した。
どうやら、この魔法陣の研究は一応各所でやっているようだ。で、その考察として、魔法陣に書かれている文字は、札に使われる文字のような、留めやはらいが見て取れるらしい。密教や神道、陰陽道、道教、そういった系列の術者が描いたと思われる、ということのようだ。そういうものであれば、その文字の影響、または術者の霊力の影響、といったものが出るかもしれない、というのがみんなの結論。
だけど、それなら、この記入段階で影響が出てると、僕は思う。
実際、蓮華や淳平が、魔法陣を勉強しているときに、これを描こうとしたら、ちょっとした反発を起こしたって経験がある。
「飛鳥は納得がいかない、という顔だね。」
「普通、影響あるなら描く段階で、なんかあるだろ?」
「いや、そもそもの霊力量の問題だ。描いただけで起動するのは、相当の強者の印だろう?」
「蓮華も淳平も焦がしてたぞ。」
「あの二人は相当な術者だろ?」
まぁ、そうか。
「そうごねてないで、さっさとやろう。安全パイをとるなら飛鳥が起動するのが一番だ。」
別にごねてるわけじゃない。
だけど、気持ち悪いだろ、これ?
僕はクロウリーを見た。
「ゆがみが、酔いそうか?」
「まぁ。」
「別に儂がやってもいいが、そうなると指向性がいるから、飛鳥に術を向けるぞ。いいか?」
「はぁ?なんでだよ。」
「無目的に霊力を注ぐのは、レベルが上がるほど無理なのは知っているだろう。高位の術者ほどベクトル指定の数が増える。そうしないとコントロール自体が危うくなるからな。力を注ぐことをオーダーというのは、その名の通り、術式の展開命令を、行うからだ。」
確かそんなことは聞いた気がする。
霊力を術式に送ることにもそれぞれの系統で色、すなわち教義ごとの癖がある。そこで術式が微妙に変遷するのだという。それをも計算するのが正しい術式なのだとか。そしてその変遷の仕方によっては、アウトプットの命令が実行されにくい。術にとって一番難しいのが、術の顕現、すなわちアウトプットだ。これをスムーズにするには、霊力を注ぐ段階で、道をある程度作ってやる必要があるらしい。つまりは、誰に対して術式を当てるか、ということだ。
クロウリーは、それを僕に当てる、なんて、無茶を言ってる。
別に僕じゃなくても、無機物に向ければ良いだろうに。
「この術式を見るに、正しいものはこうだろう。」
懐から、クロウリーは手のひら大の用紙を出して見せた。
なるほど、これなら分かる。
周りの霊力を持つ者を誘引、確保、転送、といったところか。
うん、確かに念写した物に似ている、というか、これを手本に知らない人が書き写すとああなる、のか?
「霊的存在を捕まえて、どこかに集める、というのが、この陣の目的だろう、ということは見当がついている。しかしこの転送先がわからん。文字が崩れているからな。」
なるほど。で、クロウリーは崩れた文字に僕をあてようとしてるってわけか。冗談にも程があるよ。
「で、飛鳥に向けて、でいいのか?」
「やめてよ。分かったよ、僕がやればいいんでしょ。で、目的はこの転送先?」
「そういうことだ。」
はっきりと読めないけど、実際霊力を注いだら、もともとのその目的地または近隣へと僕の霊力が引っ張られる。その反応を見て犯人捜し、ってことだろうな。日本支部メインでの人海戦術、ってところか。副支部長が出張るってことは、そこそこ大きなプロジェクトになってる、ってことだろう。さすがにロシアとアメリカの支部長に出張られたら、手綱をつけたい、というのが心情だろうけど。
僕は、ため息をつくと、このニーチェが写し取った魔法陣に、ゆっくりと霊力を注いでいった。
すでにそこには、数名の見知った顔がいて・・・・
まずは、不思議じゃない人物。ニーチェ。ロシア支部のザ・チャイルド。サイコメトラーとして有名だ。
そしてうちの副支部長竹内辰也。世界唯一の事務方ザ・チャイルド。
ここまではいい。
「どうしてあんたが?」
僕は思わず聞いたよ。
「挨拶なしにそれかい。」
フンと鼻を鳴らす胡散臭い魔術師。
「まぁいい。グレゴリーに招聘されたんだよ。うちの管轄じゃないか、とね。」
なるほど。確かに魔術師の管轄だな。この魔法陣はどう考えても、西洋魔術系だ。
彼、アメリカ支部長を務めるアレイスター・クロウリーは、黒魔術を扱う魔術師として、それなりに有名だ。魔術、というものに興味を持ったものなら一度は耳にする名前かもしれない。当然、というべきか、奴もザ・チャイルドではない不死者の一人だ。黒魔術の中でも禁術に失敗して死にきれず、不死者の呪いを受けた、と言われているが定かではない。なんにせよ、いろいろ秘密が多い人物だ。
彼が特別なのは、あの1999年当時、すでに不死者であった彼は、唯一、あの戦いに参加した不死者である、というところだろう。彼は『世界の理』をより深く知るために、あの戦いに参加したらしい。それこそが特等席だと思ったから、僕らの側で戦った、と言ってはばからない。まぁ、そんな奴だ。
「今日は特等席で実験を拝見しようと思ってね。」
クロウリーは、にやりと笑って言った。
「なんにせよ、理を紡ぐのは飛鳥の側が一番だ。」
なんだよ、それ。相変わらず意味不明な奴だ。
僕は、相手をするのもばかばかしくて、彼を無視し、周りを見回した。
なるほど。四隅に置かれた特殊な石は結界発生の術式を組み込んだものだろう。あれらを起点に、相当協力な結界を発生する、いやもうしているみたいだな。設置型術式の典型、といったところか。
さらに、広い部屋の中央、みんなが集まっているこの場所には、小さな丸い机が置かれている。3本足に小さな円盤が乗っている形の、木製のものだ。そしてその上に、おそらくニーチェが念写した原本だろう、魔法陣が乗っている。
それは先日寮の部屋へ蓮華が持ち込んだものと同じもの。だが、どうやら霊力を通しやすく加工した特殊な紙に転写されたものみたいだ。これはすなわち、実用に値するもので、だけど、やっぱりいびつな形。
「飛鳥に、これを起動して貰いたい。」
グレゴリーが、そう言った。ちなみに、ここにいる人間は僕も含めて全員ロシア語日本語英語が使える。で、誰もどこかの国に合わせるなんて殊勝な心がけを持つわけもなく、好き勝手な言語で、つまりは母国語で会話している。これが結構カオスで、言語によって使う脳が若干違うから、僕としては、どこかに統一してほしいと切実に思う。が、無理だろうな。
「僕?クロウリーがいるのに?」
そもそも、この手の魔法陣は、彼の得意分野だ。わざわざ僕がやらなくたって、ホンモノの術者にやらせた方がいいだろうに。
「いやいや、自分でやったら観察が出来ないじゃないか。」
何を言ってる?みたいに言うけど、こっちが言いたいよ。自分とこの術式だろうに。
「いや、飛鳥が適任だ。これを描いた人間が魔術系ではない可能性が出てきた。」
そう言ったのは我らが副支部長。
でもなんで?
「書き癖から、どうも仮名を好き慣れてる者が描いた可能性が出てきた。」
「どういうこと?」
副部長はシートを僕に差し出した。
どうやら、この魔法陣の研究は一応各所でやっているようだ。で、その考察として、魔法陣に書かれている文字は、札に使われる文字のような、留めやはらいが見て取れるらしい。密教や神道、陰陽道、道教、そういった系列の術者が描いたと思われる、ということのようだ。そういうものであれば、その文字の影響、または術者の霊力の影響、といったものが出るかもしれない、というのがみんなの結論。
だけど、それなら、この記入段階で影響が出てると、僕は思う。
実際、蓮華や淳平が、魔法陣を勉強しているときに、これを描こうとしたら、ちょっとした反発を起こしたって経験がある。
「飛鳥は納得がいかない、という顔だね。」
「普通、影響あるなら描く段階で、なんかあるだろ?」
「いや、そもそもの霊力量の問題だ。描いただけで起動するのは、相当の強者の印だろう?」
「蓮華も淳平も焦がしてたぞ。」
「あの二人は相当な術者だろ?」
まぁ、そうか。
「そうごねてないで、さっさとやろう。安全パイをとるなら飛鳥が起動するのが一番だ。」
別にごねてるわけじゃない。
だけど、気持ち悪いだろ、これ?
僕はクロウリーを見た。
「ゆがみが、酔いそうか?」
「まぁ。」
「別に儂がやってもいいが、そうなると指向性がいるから、飛鳥に術を向けるぞ。いいか?」
「はぁ?なんでだよ。」
「無目的に霊力を注ぐのは、レベルが上がるほど無理なのは知っているだろう。高位の術者ほどベクトル指定の数が増える。そうしないとコントロール自体が危うくなるからな。力を注ぐことをオーダーというのは、その名の通り、術式の展開命令を、行うからだ。」
確かそんなことは聞いた気がする。
霊力を術式に送ることにもそれぞれの系統で色、すなわち教義ごとの癖がある。そこで術式が微妙に変遷するのだという。それをも計算するのが正しい術式なのだとか。そしてその変遷の仕方によっては、アウトプットの命令が実行されにくい。術にとって一番難しいのが、術の顕現、すなわちアウトプットだ。これをスムーズにするには、霊力を注ぐ段階で、道をある程度作ってやる必要があるらしい。つまりは、誰に対して術式を当てるか、ということだ。
クロウリーは、それを僕に当てる、なんて、無茶を言ってる。
別に僕じゃなくても、無機物に向ければ良いだろうに。
「この術式を見るに、正しいものはこうだろう。」
懐から、クロウリーは手のひら大の用紙を出して見せた。
なるほど、これなら分かる。
周りの霊力を持つ者を誘引、確保、転送、といったところか。
うん、確かに念写した物に似ている、というか、これを手本に知らない人が書き写すとああなる、のか?
「霊的存在を捕まえて、どこかに集める、というのが、この陣の目的だろう、ということは見当がついている。しかしこの転送先がわからん。文字が崩れているからな。」
なるほど。で、クロウリーは崩れた文字に僕をあてようとしてるってわけか。冗談にも程があるよ。
「で、飛鳥に向けて、でいいのか?」
「やめてよ。分かったよ、僕がやればいいんでしょ。で、目的はこの転送先?」
「そういうことだ。」
はっきりと読めないけど、実際霊力を注いだら、もともとのその目的地または近隣へと僕の霊力が引っ張られる。その反応を見て犯人捜し、ってことだろうな。日本支部メインでの人海戦術、ってところか。副支部長が出張るってことは、そこそこ大きなプロジェクトになってる、ってことだろう。さすがにロシアとアメリカの支部長に出張られたら、手綱をつけたい、というのが心情だろうけど。
僕は、ため息をつくと、このニーチェが写し取った魔法陣に、ゆっくりと霊力を注いでいった。
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