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学園編 § 編入準備編

第33話 オリエンテーリング 7

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 「なぁ、飛鳥。それってハズレだよな?」
 夕食時、カレーと共に渡されたサラダを食べていると、聖也が言ってきた。
 そうなのか?
 確かにマスタードはかなりきいていた。けど、辛くて食べられないほどじゃない。そもそも、辛みより酸味が強いマスタードで、中学生が作ったんならこんなのもあるだろう、と思う程度のものだった。辛いにしても酸っぱいにしても、拙い、にしたって、世界中でいろんなものを食べてきたから、料理下手、程度にしか思ってなかったんだけど。

 「だめだよ、飛鳥ちゃん。被害者はちゃんと報告しないと。」
 ルカが、人差し指を振りながら、そんな風に言ってくる。
 彼はどうしても世話が焼きたいらしい。
 なんでも、自分より童顔で自分より背の低い僕、というのがはまったというんだ。でも、背はともかく、顔は僕の方がよっぽどか上だと思う。そもそも、この顔は18歳の時のまま。中学時代ならともかく、この顔で下に見えると言われても、そんなはずないだろうに。

 ルカはちょっと見、小学生の男の子、といった感じだ。
 どうやら、男女問わず、マスコットというか小さな子扱いで、それが不満らしい。自分より小さな男子ならば、逆が出来る、そう思ったようだが、背だけでいわれても、というのが、正直な感想だ。

 「小4小5ぐらいってさ、女の子はちょっと大人っぽいだろ?んで、男子はガキ丸出しっていうかさ。外見も中身も。ルカと飛鳥って、そんな感じだよな。」
 しみじみと太朗が言うけど、そもそもいろいろ違うだろうに。
 「あ、わかる。そうだよ、飛鳥って女の子っぽいっていうより、大人びた小学生女子みたいなんだよな。かわいい系からきれい系に変わるところの微妙な感じ。」
 「だから、僕は男だって。」
 「ま、それは、風呂で証明してくれれば良いって。」
 はぁ、とため息をつきつつ、まずいサラダを口に入れる。
 「あー!」
 立ちあがって僕を指さすルカ。
 外見だけでなく行動も小学生並だな。
 「だから、飛鳥ちゃん、ちゃんと申告しなきゃダメって!それって明らかにハズレでしょ。」
 「そうなのか?」
 「ん、これ食べてみ。」
 自分のサラダを太朗が僕に差し出す。一口、食べてみると、うん、普通にうまい。
 「普通にうまいな。」
 「ていうか、よくそんなの素の顔してたべてるよね。」
 「いや、料理が下手なだけかと・・・」
 「もしかして、日本の味がそれだとか思った?」
 「いや、こっちで住んだこともあるし、親は日本人だし。」
 「そうだよね。」

 「あ、生徒会長!ここに被害者います!」
 聖也が、少し向こうを通りかかった生徒会長を大声で呼びつける。わざわざ僕を指さすのも忘れない。

 「あら、田口君。転校早々くじ運いいわねぇ。そっだ。いいのあるあるわ。ふふ、さっ、先にお着替えしましょ。」
 やってきた会長は一人で大盛り上がり。
 「生徒会長。べっぴんにしてやってね。」
 太朗は体をくねくねさせながら、いらんことをいう。
 「おまかせ。」
 ウィンクすると、僕を引っ張っていくけど、ちょっと、まだ食事中なんだが。
 「着替えてから食べる暇あるから大丈夫。早く着替えないと食事の時間、減っちゃうわよ。」
 そういわれて、渋々ついていく。

 全身タイツ。どこかの戦隊もの。馬。ネコ。騎士。ピエロ。幽霊。サラリーマン。姫。セーラー服戦士。
 生徒会に連れてこられた被害者10名の前に並べられた衣装の数々。
 1年男3女1、2年男2女4。そんな内訳。
 例年、2年が先に選択し余ったものを1年が着るらしい。年功序列が好きな学校だ。
 例年は、そうなんだが・・・
 「田口君はこれね。あとは2年生から選んで。」
 会長が僕にそのうち1つを渡して来た。
 なんでだよ!
 「これは女の子が着たがるでしょ。」
 僕は会長に突き返して断られたので、女の子にどうぞ、と差し出した。
 「会長が転校生君にこれを着ろっていったのに、それを奪って着る勇気ないわ。」
 「どう考えても、一番似合うでしょ、あんた。」
 「せっかくの会長のはからいをぶちこわしたなんてバレたら、私たちもう学校来られません。」
 口々に言う女子に、なんでそうなるんだよ、と睨んだけど、どこ吹く風。
 結局逃げ切れず、男女別に衣装を持って着替えることになった。

 僕らコスプレ集団が夕食会場に到着すると、確かに盛り上がったさ。

 背の高い男装の騎士に手を引かれた、姫姿の僕は、その後しばらく姫または飛鳥姫、と呼ばれることになった。



 つつがなく、ともいえないか、何故か高台に豪華(風)な椅子が設置され、そこに僕が座らされたキャンプファイアーも終わって、解散となっても、僕らのあてがわれた部屋には、馬鹿みたいに人が集まっている。クラスメート男子、ほぼ全員、だそうだ。ほぼ、は、2名ほどいないから。1人は生徒会、1名は欠席。都合11名が集まってるらしいが、なんでここに集まってるんだか・・・

 風呂は、2年生から。
 同学年では代表者がじゃんけんで決めるらしい。
 今年はABC組の順。僕らはB組だそうだ。
 今はA組が使ってるらしいが、呼ばれるとさっさと入れ、とのこと。そりゃこれだけの人数だから、急がないと大変だな。
 僕は、普通にスウェットを用意していた。
 普通に黒の上下の模様もないスウェットだ。
 それを見たやつらが、なぜかブゥブゥ文句を言ってるが、知るか。男のパジャマに色気なんていらん!

 そうこうするうちに、A組だという男の子が、入るようにと、呼びに来た。
 全員でゾロゾロと出る。なるほど、1つの部屋に集まってれば呼び出しが簡単、ということか。
 「そうでもないんだけどな。」
 聖也がニヤニヤと僕を見て言う。
 「でも、それ脱ぐんだよね。なんかもったいないなぁ。」
 誰かが言うけど、何ももったいなくないよ。
 「田口、マジ大丈夫か。本当は女の子だ、って言うなら今がチャンスだぞ。その、なんだ・・・・更衣室でキャアとか言われても、俺、どうしたら良いか・・・」
 名前はまだ知らない、そいつの腹に僕は黙って拳を撃ち込んでやった。
 うずくまってるけど、それぐらいじゃ死なねぇよ。
 僕は、フン、と言って、風呂場に急いだ。

 うずくまってる奴に半分が残り、僕に半分ついてくる。
 「ねぇ、飛鳥ちゃん、ひょっとして空手か柔道でもやってる?」
 ルカがちょっと顔を引きつらせながら言う。
 「怖いなら、僕に近づかない方が良いよ。いやむしろ近づくな。僕はこの学校に仲良しこよしをしようと思って来たわけじゃないんだ。放っておいてくれた方がありがたい。」
 この際だから、ちょっと嫌われて遠巻きにされるように持っていくか、そう思って僕は意地悪く言ってやった。あまり近づかれても仕事の邪魔になる。無視をされるぐらいの方が、かえって楽だしな。情報のゲットなんて生徒の様子をこっそりうかがってればできる。あえて接触する必要はない。
 僕は何に気を遣っていたんだろう。そもそも、夕食だって無視して仕事をしていれば、こんなわらわらと人に囲まれることもなかったんじゃないか?やっぱり1年以上のブランクで調子出ないのかな?
 僕は、ちょっと泣きそうな顔をしているルカを放置して、さらに早足で歩く。

 〈ハイ、飛鳥。喧嘩かい?仲良くしなさい、って言ってなかった?〉
 その時、風呂場の前になぜか淳平がいて、遠目から見てたんだろう、急に英語で話しかけてきた。
 〈淳平?!な、なんでこんな所にいるんだよ。〉
 〈先生だからね、一緒に入るんだよ。〉
 〈はぁ?〉
 〈言ってなかった?俺ってば2Bの担任ね。今回6人の引率いただろ?各クラスの担任。風呂は、担当クラスと一緒に入るんだってさ。男は男と。本当なら女の子の方が良かったんだけどねぇ。〉
 〈だったら女風呂へ行ってこいよ。〉
 〈飛鳥と違って僕はどうみても男だからねぇ。さすがに先生クビになるわ。〉
 〈なっても困らんだろうが。〉
 〈ほら、みんな遠巻きに見てる。さ、謝って仲直りする。泣かした子と・・・〉
 そう言いながら、僕をくるりとみんなの方に向けて頭を押してきた。
 そして、そこまで言うと、手の力をガシッを強くして、頭を万力並みに握り込んでくる。
 〈あの殴った子には、特にね。〉
 殺気、まで、たたき込んできたのは、怒ってるってことか?
 でも、そんなに強く殴ったわけじゃないぞ。
 『素人相手に暴力沙汰は御法度だろ。しかも子供相手に何をやってるんだか。』
 念話が入って来る。力はさらに強まり、いや、痛覚を上げられた?これ、マジの奴か。おふざけにしては、容赦なさ過ぎる。声を出さないようにするのが必死で。

 「あの、先生。喧嘩ってほどでも。なぁ。」
 太朗がルカと、腹を押さえる生徒に、同意を求める。
 「あ、うん。ちょっとびっくりしただけ。僕なんか気に触るようなことしたんだったら、飛鳥ちゃん、ごめんなさい。だから近づくななんて言わないで。」
 「あ、俺も、ちょっとびっくりしただけってか、痛いと思ったけど、全然痛くないわ。あれ?おかしいな?」
 『一応、治療しておいたが、いつも俺が側にいられるわけじゃない。分かってるな。』
 そう言うと、スッと痛みが引いた。

 「そっか、それは良かった。この子、小さい頃から女の子に間違えられるのを嫌がって、すぐ切れちゃうんだよね。僕が心配してた理由。ま、知り合いの身びいきはここまでだから、飛鳥、これからは知り合いの兄ちゃんじゃなくて先生だからな。さ、さっさと風呂だ風呂。後ろつかえてるぞ。」

 僕は言われるまま、二人に小さく謝り、誰にだか分からないまま、脱衣所に連れて行かれ、気がつくと裸に剥かれていた。

 「おおぉぉぉぉー。」

 なぜか、A組も帰らずその場にいて、僕が脱がされるのを見ていたのだが・・・

 僕のまっぱを見て、なぜか低いうなり声の重唱だ。

 「あ、飛鳥・・・君、てば、脱いだらすごいんだな・・・」
 太朗が引きつりながら僕を見て、自分を見て、力こぶを作ろうとする。
 そうだな、ずっと野球をやってるって言ってたから肉体に自信があったんだろう。けど、僕は中学生から4年以上実践で鍛えられてる。生憎とお遊びの筋肉じゃない。
だてに最前線で戦って最強なんて言われていたわけじゃない。

 「はいはい。こんなところで裸見てないで風呂入る。A組はさっさと出ろ~」
 僕を肩にかつぎあげて、そんな風に言いながら風呂場に向かう、もう一人の脱いだらすごいんです、の大人の体を見て、ため息をつきつつ従うB組男子。
 いや、この状況をツッコんで、僕を降ろすよう先生に言おうよ。
 みんながみんな、僕が担がれていることをスルーしてるけど、僕を洗い場で降ろし、シャワーで髪の毛に湯をかけられているのを見て、そこはスルーしなかった。

 「先生だけずるい。俺も飛鳥の髪の毛洗わせて。」
 「僕も」「俺も」・・・

 なんだかなるようになれ、そう思いながら、髪の毛を洗われるに任せて、風呂の時間は過ぎていった。
 
 
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