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学園編 § 編入準備編
第27話 オリエンテーリング 1
しおりを挟む寮に、僕宛の生徒会からオリエンテーリングへ参加のお知らせ、という冊子が届けられた。
こういうのは、もっと前に渡されるんじゃないだろうか?と思ったけど、どうやらイレギュラーの参加は急遽決まったので、こんなギリギリになったようだ。これって、僕のスケジュール、入ってたらどうするんだろう。ていうか、入ってたし。
オリエンテーリングは、お盆ど真ん中に2日がかりで行うようだ。紹介する施設の中に、合宿用の施設もあるということで、そこで泊まってキャンプファイヤーとかのイベント等もする、とのこと。案内係になっていない2年生は、このイベントを用意するなんらかの係に当てはめられていて、もともと中2の僕は、強制参加イベントだったらしい。全1,2年生が集まるこのイベントは、学校としても連帯感を高める恒例行事とかで、重要視されているのだそうだ。
お盆に合わせて、早めにきたのは、こんな仲良しイベントに参加するためじゃないんだけどな。
そもそも、このお盆というのは、1年間でも特異点として知られている。昔からある暦は、もともとが霊的事象を中心に組まれた予測表だ。平安時代には暦を司る公の部署があったほどには重要で、地の気を読み、天の気を読んで、人ならざるモノの
の穢れより、人々を守ったのだという。
最近は、京の守りを超えて、異様な数のあやかしが増殖していた。前情報として聞いていた僕も、その多さにびっくりしたほどだ。
お盆にはさらにその数が増えると予測され、その間引きをするために、この時期に僕らはやってきたんだ。
京の市中は、南北および東西に碁盤のように辻が作られている。
また、その中には坂や橋も多く、観光名所になっている場所も多い。
あやかしはどこにでも現れるように見えて法則があって、辻や橋、坂なんかが、現出スポットとなる場合が多い。これらは、現世と異界の境目、として位置していて、実際この辺りで次元がすれ違うことが多いから、結界もこれを起点としていたりする。
京の碁盤の目は魔法陣であり、人によっては曼荼羅を地上に表現したもの、ともいう。京自体は、そもそもあやかしを寄せ付けないためのものではなく、より大きな護国のために、あやかしを呼び寄せ、弱らせ、またその霊素や魔素といったエネルギーを巻き上げるシステムでもあるんだ。
そんなわけで、僕らは溢れてしまったあやかしの駆逐とともに、もしも強力な化け物が出現した場合の戦力としてやってきた。だから、お盆なんてのは、仕事が目白押し。遊んでる場合じゃないんだけど・・・
「飛鳥は、当然オリエンテーリング参加な。」
昨日、冊子を手にした僕に、淳平は、そんな風に言ってきた。
「いや、間引くのが先だろ。」
「どうせ、メインどころ結構回るんだ。監視係殿たちが嫌った方法で歩けば、ウィンウィンだろ。」
「どういう意味ですか。」
ノリが口を出して来た。
「こいつの霊力なら1日中結界替わりに自分の周りに展開したってどうってことないんだよ。大御所がたには、一応俺と蓮華で挨拶回りはしてきたしな。そもそもボスキャラのでっかい加護をしょってんだ。既存の御霊=大御所様たちは、ああ飛鳥がやってるな、程度で気にしないさ。逆に言えば、気にして出てきた大物を相手にすれば良い。飛鳥や俺たちを知らない潜りのあやかしなんざ、碌なモノじゃないからな。」
「そんなばかな方法、あり得ないでしょう。」
「坊や、それがあり得るの。私たちの65年、舐めないで。」
蓮華まで、なんか食い込んできたよ。
この1ヶ月、なんか楽しそうにみんなやってると思ってたけど、まさかまともに任務に入る前にこうなるとはなぁ。完全に新旧でいがみ合ってる。なんか、淳平が特にいつもと違う気がする。気に入らない相手でもへらへらと煙に巻くのに、なんだかずっと真面目モードで、こっちまで緊張してしまう。
「ねぇ、飛鳥。どうして君はそう他人事なんですか。分かってますか?君のことなんですよ。」
おっと、黙っててもこっちに飛び火する。本当に面倒くさい。
「飛鳥に確認する必要なんてねえよ。オリエンテーリングに参加するのは既定路線。相棒は俺と蓮華。勝手知ったるスリーマンセルだ。坊主達二人は、辻を中心に巡回しつつ、調査と間引き。飛鳥の能力も知らん奴にこいつは使いこなせねえよ。安心して適材適所やってろ。」
「はぁ?僕たちは飛鳥の保護者を任ぜられている。勝手なこと言わないでくれ。」
「いいか坊主たち。今、俺が話しているのは仕事の話だ。オリエンテーリングなんて言ってるが、そこそこ霊的に重要な地を回る。資料でそのぐらい把握してないのか?特に学生が使うような場所を回るから、建物に堂々と入って調査できる環境はおいしいんだよ。合宿所なんて、寝てる暇なんて絶対ないような場所だぜ。これを効率よく調査・駆除するには飛鳥が必要だ。逆にお前らと回ったところで、むしろこいつの体質が仕事の邪魔をするんじゃないのか。調査関係なく駆逐するなら問題ないだろうが、お前らの目的は違うんだろう?」
なるほど、そういうことか。
なんでそこまでマウントとりたいか分かんないけど、同じデータから、現状把握の差を叩きつけるなんて、あんまり淳平らしくない。いや、ちょっと先生っぽいキャラ付けでもしている最中なのかな?この学校がそういう感じの教育なら、練習中かもしれないけど・・・ないか・・・
少なくともノリもゼンも淳平がちゃんと考えた布陣を言ってるのは理解したみたいだが、なんとも気持ち的に納得してないって顔をしている。
「これは基本だが、飛鳥も含めて、俺たちはザ・チャイルドだ。つまり、現場での最終判断はこっちが上だ。お前達が監視員を兼ねているのは知っている。だが、飛鳥はともかく、俺と蓮華は、家格はお前達と変わらないはずだろ?ザ・チャイルドとしての最低限の義務は別としても、機構での立場はドローか、まだこっちが上だ。不死者の人権云々言うんなら、飛鳥だけじゃなく俺たちにも命令できるなんて幻想、とっとと捨てるんだな。飛鳥に対してだって、おまえらに任せられないと思ったら、こっちが主導権はいただいていく。お前らの保護者だって、そうなりゃこっちの意見に頷くさ。」
そっか、眠る暇ないのか。僕はぼーっと二人の話を聞きながら、そんな風に思う。
僕も、きっとそうだろうな、なんて思ってはいたんだ。
実際、このパンフレットを見て、僕の知ってる京都を考えると、各地点で仕事入りそうだな、と思ったんだ。だから面倒だなぁと思って、オリエンテーリングの欠席をさせてくれないかなぁ、と間引く仕事を申し出たんだけど・・・
この前否定された方法でなら、そりゃ歩くだけで間引けるさ。だからわざわざノリたちと行く方が非効率的だ。あれは却下されてる方法だって思って、頭から除外してたけど・・・
あ、でも他の生徒と行くんだろ?特に僕は生徒会が同行って言ってなかったっけ?鞍馬の頭目の娘なら、見えたりしないのか?しかもまだ他にも面倒そうな名前があると言ってた気がする。
「なぁ、別にどっちでもいいけど、もしオリエンテーリング班で、霊力広げて歩いた場合、気づかれたりしないのか?」
「それも狙いの一つよ。坊や達の行動見て思ったんだけどさ、飛鳥が霊力展開して歩くだけで、あんたのこと知ってるこの子たちでさえ、あの過剰反応よ。知らない子だったら、もっと、って思うでしょ?普段見えない振りしてる子をまとめてあぶり出す。ね、一石二鳥よ。」
「なんでそんな面倒なことを。」
「後出しで、実は見えてました、なんて言って頭ツッコまれる方が面倒でしょ。」
「ああ・・・なるほど。」
あるある、だな。
特に変に自分に自信があるほど、首を突っ込んできて、面倒ごとになる。
はじめっからあぶり出す、か。
どのくらいの期間、潜入するのか知らないけど、その間ずっと怖がらせなきゃならないのか。シカトしてくれればありがたいんだけど・・・
「ねえ、飛鳥。飛鳥も淳さんと同じようにオリエンテーリングを使うことを考えていたんですね。」
僕と蓮華の会話に気をとられて、いつの間にか話を聞いていたノリがそう言ってきた。
「まぁ、そりゃね。」
「どうせ、ガキどもと回った方が楽できるから、間引き班になりたい、とか思ってたんだろ。」
「別に良いだろ。そっちだったら、どうせ僕は役立たずだから、言われたあやかしだけ軽く対峙してればいいんだから、普通ならそっち取るだろ。」
「甘~い!飛鳥ちゃんは、僕チン達とキリキリ働くのでぇーす。」
「うざい。」
「はぁ?僕ちゃん悲しい。いったいいつからこんな冷たい子になったの、オヨヨ~」
なんか、いつものテンションになってる淳平。逆にこんなこいつを知らない二人が目を丸くしている。
「そういうのいらないから。で?わざわざ二人を指導するってことは、まだなんかあるんだろ。」
「マジ、かわいくねー。ま、いっか。とりあえず明日の確認だ。俺が飛鳥を迎えにここに来る。日本を知らないガキのお守りってとこだ。で、会話は英語。蓮華とも、だ。タンタンはああ見えて、世界的にメジャーな医者だからな、俺もケンブリッジ大で出会ったことになってる。蓮華は、そのあたりのショップで働いてた。その時のまぁ日本人コミュニティで会って、友人になったって感じだな。その線で飛鳥、お前も蓮華と会った。俺とはまずタンタン絡みで会って、コミュニティで再会だ。」
僕は頷いた。間違っちゃいけないのは会った順番くらいか。メインが英語ならごまかしもききやすい。
「飛鳥は、イギリスの小学校の経験があるから、会話の感じはその辺のレベルで。俺は、日本人の理系訛りでいく。」
「私は、おばかぐらいで。」
「なんだよ、おばかって。」
「ワーホリのレベルってことよ。ほとんどツーリストに毛が生えた程度。」
ハハ・・・確かに無難だ。
「だったら蓮華とは日本語の方が良くない?」
「いや、一応、蓮華は英語の先生で入る。生徒にそれっぽく見せている先生の図に協力してくれ。」
「なるほど。で、淳平は何の先生だ?」
「化学だ。お前ら3人とも担当する。蓮華もだな。」
「うわぁ・・・」
「ということで、お前達があんまりこいつに構いたがるから、他人の振りはむずしいと踏んだんだ。飛鳥はこいつらにも英語だ。」
「ちょっと待て。片言ぐらいしかむりだよ。」
「俺は、英語は苦手だ。」
「まさかの次代の担い手様が英語もできないとはねぇ。だが、それこそ好都合。外国から来た同室の中坊にちょっかいかけまくるには、いいシチュエーションだろ。ついでに勉強にもなる。飛鳥もいいな。」
「ya!」
子供っぽいスラング的なyesで答えた僕に、淳平達は満足そうに頷き、ノリたちはちょっと眉をしかめた。が、ノリたちもこの英語での会話は受け入れたみたいだった。
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