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学園編 § 編入準備編

第22話 入寮

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 ここ頂法寺学園は、京都の本当の意味での中心地である。
 頂法寺という寺の近くにいくつかの校舎や施設を有する巨大な私立学園である。
 公家と呼ばれた、日本製の貴族を祖に持つ子弟や歴史のある家系からの入学が多く、一般家庭の者は少ない。理由の一つはその学費である。別に幼等部、小等部はあるが、この学院の中枢をなす中等部後頭部は全寮制である。この寮費を含む学費が1年で1000万円はくだらない。
 幼等部からのエスカレーター組も多く、すべてを合わせれば億の単位となるだろう。これはあくまで学費であり、そんな子供同士親同士の交際費となると、果たしてどこまで跳ね上がるか。
 それでも、振興の金持ちや分からず入学してくる者も当然いる。彼らのというよりその親の目的は人脈の形成だ。なんだかんだ言ってもこれだけの金額を教育に出せる旧家となると、政財界に関わる者がほとんどだ。当然その子弟と親交を結べれば将来は明るい。
 そんなことからも、この学園は、実際の政財界の縮図ともなっている。
 旧家、というのは、歴史があるだけに面倒なしがらみやらしきたりも多い。


 僕が、潜入目的で入学することになったその学園の寮は、まるで機能的なシティホテルだった。
 が、一部の生徒、たとえば生徒会の役員等の特別待遇の者を除き、基本的には部屋は4名1室となる。とはいうものの、部屋の中は共同スペースを中心に、ベッドとウォークインクローゼットのみの小部屋が4つある仕様であるから、プライベートスペースが完全にゼロというわけではないが。
 共同スペースには小さなキッチンのついたダイニングスペースと、バスタブ付の風呂、風呂とは別にトイレもある。風呂の脱衣スペースには脱水機付洗濯機も完備され、普通に高級マンションのようだ。

 だがしかし、
 「絶対、納得いかねぇ。」
 僕はクローゼットに置かれた、真新しい制服と、教科書等の備品を見て声を上げた。
 「仕方ないでしょ。中等部の警護も必要なんだし、そもそも、寮は中等部と高等部の共同部屋になると決まってるんですから。」
 ノリの言うことは分かる。だが、だったら中学生をやるのはノリでもいいはずだ。

 そう。ここに用意された名入の制服は、僕だけ中等部の白、二人は高等部の紺の独特のラインが入った学生服だったんだ。

 この1ヶ月の訓練で、呼び方が憲央からノリに変わったこのさとりの化け物は、僕が年齢より下に見られることを、気にしていると知っていて、面白がってるのは明白だ。
 僕の様子を相変わらずの無表情で見ているゼンだって、僕が中等部に編入されることを知っていたのだろう、こんな騒ぎになるのは知っていた、と言わんばかりの様子。どうせ、知ったときには、僕に伝えようと提案したけどノリに阻止された、とかの経緯でもあるとみた。

 「諦めろ、飛鳥。ノリの言うとおり、一人は中坊をやりゃなならんのだし、もう決まってることだ。」
 「だから、なんで僕が中坊なんだって話だろ。」
 「善も僕もそもそも高2だから、高2でいいんだよ。だったら中2担当は飛鳥しかいないでしょ。」
 「いや、だからそれがおかしいって言ってるんだよ。僕が一番年上だろ?なんでお前らの下の役なんだよ!」
 「だったら一番下がやるのか?誕生日から言うと、俺が一番下だぞ。」
 「それは・・・」
 さすがにゼンが中坊はないな。高校生でも嘘!て感じで、かなり羨ましい。
 僕もゼンみたいな容姿だったら、みんなの当たりも違ってたのにな。
 「飛鳥は飛鳥のままでいいんだからね。善を羨む必要なんてないよ。飛鳥は飛鳥。善は善。」
 いや、問題そらすなよ。僕はノリを睨んだ。

 「俺も無理があるが、ノリも中学生には見えんだろう。飛鳥以外にはどう考えても無理だ。実際、経験もあるんだろう?」
 正直なところ、経験は、ある。
 霊的な問題は、感情を糧に起こることが多い。そういう意味で学校での怪異は少なくない。調査や警護のため、高校生だけでなく、中学生に扮することも多々あった。今まで、疑惑を持たれたことはないのが悔しいところだが。
 「疑惑どころか、女子中学生にも化けたんでしょ?年齢でいえば小学生もやったみたいじゃない?」
 こういう追い打ちをかけるから、こいつは嫌いなんだ。
 確かに女子中学生や高校生もやった。仕方ないじゃないか、女子高だって怪異は起こるんだ。
 それに小学生はそもそもこの国じゃない。イギリスでの話だ。あちらの子供は発育がいいんだ。日本人なら誰でもできる、はず・・・だ。

 「とにかく、とっくに決まってる話だ。飛鳥が中2、俺達は高2。これ以上ゴネるなら、鉄拳制裁も辞さないが?」
 ゼンは、面倒になると、すぐこれだ。
 そして有言実行の男でもある。
 本当なら、せめて僕が18、彼らが17の年齢アドバンテージを取りたいところだが、上からの命令で、僕の再教育なんてふざけたお墨付きを貰っている二人に、僕の勝ち目がないのは、この1ヶ月で身に染みた。
 僕はチッと舌打ちして、自分に与えられたプライベートスペースへと移動しようと立ち上がった。
 しかし、

 「ハァイ、引きこもらない。まずは現状認識とお仕事の話するよ。」
 そう言いながら、三編みにした長い髪の毛をグイっと引っ張って、僕の退散をノリは止めたんだ。


 「まずは、ここ。コレが僕らの通う高等部。そして、道を挟んでここ。飛鳥が通う中等部になる。」
 ノリは取り出した近辺の地図を指差しながら、説明する。
 「そして、こっちの地図。赤い点が、この1年で怪異の報告されたところ。地図外でも、畿内という範囲に広げれば相当数の現象が発見されてる。」
 ノリは、京都の市内全域の地図に赤い点がたくさん描かれた地図も並べながら言った。

 「いずれこの辺の調査は行う必要があるとして、明日は、貴船と鞍馬に行こうと思う。」
 「貴船と鞍馬?」
 「うん。あの辺りを縄張りにしてる一族はちょっと面倒だから、先に着任の挨拶を入れておく。それに、あそこらの結界の綻びは市内よりも酷いようだ。僕らにしろ地元のやつにしろ、何らかの対策は必要だよ。」
 「蓮華も連れて行くのか?」
 結界修復なら彼女が適任だ。 
 「いや、蓮華とは、相手が悪い。彼女の力が必要なら、改めて、ということになるかな?」

 こういうのがめんどいんだ。どこの家とどこの家は仲が悪い、とか、あの家に声をかけるなら、こっちの家にも声をかけろ、とか、どこそこで仕事するなら、ここの家に声をかけろ、とか。そんな霊能者間のしがらみまで、覚えてられない、というのが本音だ。

 「さ、ということで、今日は今からこの寮の探検だ。何かあったときのルート作成から、食堂、購買部のチェック。他にもトレーニングルームとかもあるらしいし、とにかくみんなで探検しようよ。」
 
 
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