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1.それは偶然という名の仕組まれた出来事
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それは、逃げてきた図書館での出来事だった。
面倒くさい争いに巻き込まれ、それに辟易して逃げてきたそこで、頭上から落ちてきた本を拾ったのが運の尽き。
これなら、その面倒くさい争いに関わっていた方がましかもしれないと思ってしまうほど。
しかし、起こってしまった偶然をどうにか過去に戻すことも出来ないので、今この現状をひたすら、戦々恐々として過ごす。
目の前には、背の高い男性が二人。
片方は、目の前にドアップでいて、もう片方は後ろで腕を組んでいる。
わたしの背後には本棚があって、顔の横には手があって、これがいわゆる壁ドンか! と感動している暇もないほどの圧力を感じているせいで、感動どころか背筋が凍る。
それを知ってか知らずか、目の前の超ド級の王子顔のお方は、微笑みながらわたしに凄む。
「これ、中見た? 見たよね? 見たって言ったほうがいいよ?」
本棚に横に手をつき、もう片方の手で、わたしが拾った本を見せつけながら、尋問してくるので、言葉なくわたしはひたすら首を振って否定、否定、否定。
「へー、僕の目には開いたように見えたんだけどなぁ」
わたしは再びぶん、ぶん、ぶんと首を振る。
「そうかぁ、ザーレはどう思う?」
後ろに控える相手に視線を向けると、その相手は目の前のお方とはまた違った美形。
その彼は呆れたような顔で、ため息をついていた。
「ルイ殿下、お遊びはおやめください。彼女が困っております」
「えぇ!? だってこれは乙女の憧れ壁ドンだよ? 僕は正真正銘の王子様だから、ここは、きゅんと恋に落ちるところだよ?」
「……」
えーと? 馬鹿王子なのかな? うん、きっとおかしい思考回路なんだな。あー、頭いい人って、頭のねじがどこか吹き飛んでいるってほんとだなぁ。
なんて現実逃避していると、こちらの考えなどお見通しとでも言うように、輝かしい王子スマイルが一変、腹黒スマイルにジョブチェンジした。
「あーあ、悲しいなぁ。君、ちっとも動揺しないし、楽しくないよ。いいかい? ここは恥ずかしがって、『わたし、本当に見ていないんです。許してください、殿下』って言うところだよ」
滔々と語る目の前の御仁を止めてほしくて、後ろで呆れて声もかけることを諦めている美形に助けを求めると、視線がばっちりあった瞬間諦めろと頷かれた。
ええぇぇえ!!? 助けてよ! 紳士らしく助けようよ!
と必死で訴えると、微笑まれた。
その意味は――
がんばれ!
と。
助けてくれる気は一切ないような男に、わたしは殺意を覚えつつ、なんとかおかしい事を語っている男を止めるべく、声をかけた。
「す、すみません! ルイ第二皇子殿下!! 実はわたしそれを見てしまいました! それと、わたしはそんなベタな展開は好みじゃなくて、この本みたいにさりげない純愛が好みなんです!!」
自分でも何を言っているのか意味不明。
だけど、この大国アーシェの第二皇子殿下であり、わたしの目の前で楽しく勝手な妄想を繰り返していた人物は、いきなりぱぁっと本気の輝きでわたしに笑いかけた。
くっ、まぶしい!
地味女には、その輝きが息苦しい。
「君! 分かってるね!? 僕もだよ。でも、僕はベタな展開もすごく好きでね、ちなみにこの作者のシリーズは全部持っているんだよ! いや、今までこんな話の出来る友達いなかったからうれしいよ! ミリア!」
わたしはぎょっとしてルイ皇子殿下を見上げた。
なぜわたしの名前を知っているのかと。
彼は、わたしの疑問をあっさりと解明してくれた。
「学院生の顔と名前くらい覚えるのが当然だよ。これくらい普通できるでしょ?」
うん、化け物です。
普通できませんとも。なにせ、この学院は世界各国から学生を受け入れていて千人は超すんですから。
これで分かった。
天才はおかしな人間が多いのだと。
そして、ちょっと皇子殿下、後ろもみようか?
あなたの側近がそっと目を伏せていますよ?
「ねぇ、ザーレ。これはぜひとも僕の部屋に招待しないといけないと思わない?」
「そうですね、それがよろしいかと思います。ぜひ存分に親交を深めることをお勧めします」
「やっぱりね! 分かってるなぁ。ザーレは話相手には不向きだからね」
人身御供にしやがったその男は、再びわたしに笑みを向けてきた。
皇子様のお相手をよろしくなと――……。
くそぉ!
そもそも、なんでわたしはこのタイミングで図書館に来てしまったんだろうと思い返すも、頭を抱えたくなる。
「じゃあ、行こうか! いいお茶を準備するから。この本の事は流石に大っぴらに言えないから、同志ができるのはうれしいぁ!」
その瞬間、わたしは悟った。
あ、これ初めから仕組まれていたのだと。
図書館に来たのは偶然だ。
でも、この広い図書館の中でこの場所に来たのは偶然じゃない。
そして、頭上から本が落ちてきたことも偶然じゃないのだ。
この皇子様が大っぴらに言えない本を持ち込んで、うっかり落とす偶然を考えればほとんどゼロに近いのだから。
「同志、ミリア! ぜひ語り合おう! 僕たちの好きな物を。そして、友情を確かめ合って、深め合おうじゃないか!」
「ちょ! 助けてください!! ザーレ・ルドベキスキー様!」
ぐいっと肩を押され、無理矢理連れ出されそうになるわたしは、今度こそ助けを求めて声を張り上げた。
しかし、彼は無情だった。
「私も側にいるので、安心しろ」
全く安心できないんですけどぉ!?
わたしの絶叫は誰にも届くことなく、心の中で響きだけだった。
面倒くさい争いに巻き込まれ、それに辟易して逃げてきたそこで、頭上から落ちてきた本を拾ったのが運の尽き。
これなら、その面倒くさい争いに関わっていた方がましかもしれないと思ってしまうほど。
しかし、起こってしまった偶然をどうにか過去に戻すことも出来ないので、今この現状をひたすら、戦々恐々として過ごす。
目の前には、背の高い男性が二人。
片方は、目の前にドアップでいて、もう片方は後ろで腕を組んでいる。
わたしの背後には本棚があって、顔の横には手があって、これがいわゆる壁ドンか! と感動している暇もないほどの圧力を感じているせいで、感動どころか背筋が凍る。
それを知ってか知らずか、目の前の超ド級の王子顔のお方は、微笑みながらわたしに凄む。
「これ、中見た? 見たよね? 見たって言ったほうがいいよ?」
本棚に横に手をつき、もう片方の手で、わたしが拾った本を見せつけながら、尋問してくるので、言葉なくわたしはひたすら首を振って否定、否定、否定。
「へー、僕の目には開いたように見えたんだけどなぁ」
わたしは再びぶん、ぶん、ぶんと首を振る。
「そうかぁ、ザーレはどう思う?」
後ろに控える相手に視線を向けると、その相手は目の前のお方とはまた違った美形。
その彼は呆れたような顔で、ため息をついていた。
「ルイ殿下、お遊びはおやめください。彼女が困っております」
「えぇ!? だってこれは乙女の憧れ壁ドンだよ? 僕は正真正銘の王子様だから、ここは、きゅんと恋に落ちるところだよ?」
「……」
えーと? 馬鹿王子なのかな? うん、きっとおかしい思考回路なんだな。あー、頭いい人って、頭のねじがどこか吹き飛んでいるってほんとだなぁ。
なんて現実逃避していると、こちらの考えなどお見通しとでも言うように、輝かしい王子スマイルが一変、腹黒スマイルにジョブチェンジした。
「あーあ、悲しいなぁ。君、ちっとも動揺しないし、楽しくないよ。いいかい? ここは恥ずかしがって、『わたし、本当に見ていないんです。許してください、殿下』って言うところだよ」
滔々と語る目の前の御仁を止めてほしくて、後ろで呆れて声もかけることを諦めている美形に助けを求めると、視線がばっちりあった瞬間諦めろと頷かれた。
ええぇぇえ!!? 助けてよ! 紳士らしく助けようよ!
と必死で訴えると、微笑まれた。
その意味は――
がんばれ!
と。
助けてくれる気は一切ないような男に、わたしは殺意を覚えつつ、なんとかおかしい事を語っている男を止めるべく、声をかけた。
「す、すみません! ルイ第二皇子殿下!! 実はわたしそれを見てしまいました! それと、わたしはそんなベタな展開は好みじゃなくて、この本みたいにさりげない純愛が好みなんです!!」
自分でも何を言っているのか意味不明。
だけど、この大国アーシェの第二皇子殿下であり、わたしの目の前で楽しく勝手な妄想を繰り返していた人物は、いきなりぱぁっと本気の輝きでわたしに笑いかけた。
くっ、まぶしい!
地味女には、その輝きが息苦しい。
「君! 分かってるね!? 僕もだよ。でも、僕はベタな展開もすごく好きでね、ちなみにこの作者のシリーズは全部持っているんだよ! いや、今までこんな話の出来る友達いなかったからうれしいよ! ミリア!」
わたしはぎょっとしてルイ皇子殿下を見上げた。
なぜわたしの名前を知っているのかと。
彼は、わたしの疑問をあっさりと解明してくれた。
「学院生の顔と名前くらい覚えるのが当然だよ。これくらい普通できるでしょ?」
うん、化け物です。
普通できませんとも。なにせ、この学院は世界各国から学生を受け入れていて千人は超すんですから。
これで分かった。
天才はおかしな人間が多いのだと。
そして、ちょっと皇子殿下、後ろもみようか?
あなたの側近がそっと目を伏せていますよ?
「ねぇ、ザーレ。これはぜひとも僕の部屋に招待しないといけないと思わない?」
「そうですね、それがよろしいかと思います。ぜひ存分に親交を深めることをお勧めします」
「やっぱりね! 分かってるなぁ。ザーレは話相手には不向きだからね」
人身御供にしやがったその男は、再びわたしに笑みを向けてきた。
皇子様のお相手をよろしくなと――……。
くそぉ!
そもそも、なんでわたしはこのタイミングで図書館に来てしまったんだろうと思い返すも、頭を抱えたくなる。
「じゃあ、行こうか! いいお茶を準備するから。この本の事は流石に大っぴらに言えないから、同志ができるのはうれしいぁ!」
その瞬間、わたしは悟った。
あ、これ初めから仕組まれていたのだと。
図書館に来たのは偶然だ。
でも、この広い図書館の中でこの場所に来たのは偶然じゃない。
そして、頭上から本が落ちてきたことも偶然じゃないのだ。
この皇子様が大っぴらに言えない本を持ち込んで、うっかり落とす偶然を考えればほとんどゼロに近いのだから。
「同志、ミリア! ぜひ語り合おう! 僕たちの好きな物を。そして、友情を確かめ合って、深め合おうじゃないか!」
「ちょ! 助けてください!! ザーレ・ルドベキスキー様!」
ぐいっと肩を押され、無理矢理連れ出されそうになるわたしは、今度こそ助けを求めて声を張り上げた。
しかし、彼は無情だった。
「私も側にいるので、安心しろ」
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