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7.罠に勝手に嵌っただけ
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「それって……本当に?」
「はい……事実ですわ。――軽蔑しましたか?」
アンジェの告白に驚きながら、少しうれしくなった。
そして、僕はやっと色々な事が見えてきた。
*** ***
アンジェが僕は好きだと自覚したのは学校に通っていたころで、二学年生の時。
隣国の学校は三学年制で、その真ん中。
一番楽しかった時期だ。
そして、その時期からシエラ嬢と王太子殿下が親しくなり始めた。
その関係で僕の事を調べて知ったのだと思ったら、それは違うようで、なんともっと以前から知っていたとの事。
僕はそんなに注目集めるような事をした覚えはない。
成績だって真ん中くらいだし、学校での評価もとにかく標準。
友人付き合いだって身の丈って言うのを知っているから、雲の上の人間と親しくなるなんて事もなく、だからと言って最下層の位置づけという訳でもない。
うーん、と考え込んでいると、アンジェが言いにくそうに言った。
「エーリッヒ様はこの国のお国柄のせいか、女生徒にはたいそう人気でしたのよ」
「なにそれ?」
「優しく紳士で、困っている女性を見捨てず、さりげなく手を貸してくれる、そんな理想の殿方です。我が国――というのもおかしいですが、とにかくわたくしの生まれ育った国では考えられません」
「あー……」
なんとなく分かった。
確かに僕の価値観では女性は守るべきもの、尊ぶべき人という基礎教育がある。
この国では男性は、女性には基本的に優しいし、隣国に比べたらそりゃあ紳士ぞろいだろう。
かく言う僕も、自然と困っている女性がいたら助ける。そこに下心があるわけではなく、そうすることが当然だからだ。
「あの国では男性が女性にそんな事をすることはまずほとんどありません。男性は女性を好きなように扱って、女性はそれを喜んで受け入れる。それが刷り込み的に刷り込まれています。わたくしもそれがおかしいとは全く思っていませんでした」
「生まれ育った国だしねぇ」
「でも、エーリッヒ様に出会って、その優しさに触れて、わたくし今までの自分の考えが馬鹿らしくなってしまったのです」
そんな時に、シエラ令嬢と王太子殿下が急接近して、アンジェは堪えられなくなったとの事。
「わたくしはいずれ王太子妃、そして王妃になるのだとずっと思って我慢してきました。でも、王太子殿下がシエラ令嬢の方がかわいげがあるとか、自分の事を良く分かっているとか、いじらしいとかおっしゃってるのを聞いてしまい、それを隣でシエラ令嬢も聞いていて、うれしいですとか、殿下の事を第一に考えるのはこの国の国民として当然ですなどと言う事をおっしゃっているのを知り、あんなに素晴らしい婚約者がいるのにと、怒りに震えましたわ!」
う、うーん。
なんだか怒りの方向性がおかしい気もしないでもない。
「それで、エーリッヒ様の事がいらないのなら、わたくしがいただこうかと思いまして――……、色々がんばりました」
あ、全部省略された。
一体何をがんばったのか知りたいけど、そこは突っ込んでは駄目なやつだ。
アンジェの笑顔がちょっと怖いから。
「つまり、エーリッヒ様の事好きだったのは二学年生の頃なのです。婚約者もいるのに、違う殿方にうつつを抜かすなんて、はしたない事です」
「えっと、そんな前から僕の事好きだったわけ?」
「ええ、本気ですわ! この気持ちだけは嘘偽りございません」
そこは疑う事はない。
自分の国を捨てる事になっても、ここまで来たその行動がすべてを語っている。
本気でないのなら、ここまでできない。
「信じて、いただけるんですね?」
「そこは、もちろん」
僕はアンジェの事をずっと高嶺の花だと思っていたので、好意はあっても異性として好きという気持ちはほとんどなかった。
だけど、その気持ちを変えたのはアンジェで、僕もそれは別にいやではない。
むしろ、アンジェに選ばれたことを光栄にも思えた。
「あの……大変申し訳ないんだけど、もう一度……触れてもいいかな?」
話を聞き終えて、アンジェがどれほど僕の事を思っていたのか知ると、反応しかかっていた熱が、再び熱くなってきた。
我慢することも出来たけど、触れたい気持ちが強くなる。
アンジェはうれしそうにコクリと頷き目を閉じた。
僕はアンジェにやさしくキスを送り、肌に手を滑らせた。
結局、アンジェが様々な罠を張り巡らせ、僕は勝手にそこに突入して嵌っていったのだけど、ヘタレな僕にはちょうどいいのかも知れない。
お国柄的に、女性の尻に敷かれているほうが家庭関係は上手くいくので、これもまた人生なのだなぁとしみじみ思っていた。
―――完―――
「はい……事実ですわ。――軽蔑しましたか?」
アンジェの告白に驚きながら、少しうれしくなった。
そして、僕はやっと色々な事が見えてきた。
*** ***
アンジェが僕は好きだと自覚したのは学校に通っていたころで、二学年生の時。
隣国の学校は三学年制で、その真ん中。
一番楽しかった時期だ。
そして、その時期からシエラ嬢と王太子殿下が親しくなり始めた。
その関係で僕の事を調べて知ったのだと思ったら、それは違うようで、なんともっと以前から知っていたとの事。
僕はそんなに注目集めるような事をした覚えはない。
成績だって真ん中くらいだし、学校での評価もとにかく標準。
友人付き合いだって身の丈って言うのを知っているから、雲の上の人間と親しくなるなんて事もなく、だからと言って最下層の位置づけという訳でもない。
うーん、と考え込んでいると、アンジェが言いにくそうに言った。
「エーリッヒ様はこの国のお国柄のせいか、女生徒にはたいそう人気でしたのよ」
「なにそれ?」
「優しく紳士で、困っている女性を見捨てず、さりげなく手を貸してくれる、そんな理想の殿方です。我が国――というのもおかしいですが、とにかくわたくしの生まれ育った国では考えられません」
「あー……」
なんとなく分かった。
確かに僕の価値観では女性は守るべきもの、尊ぶべき人という基礎教育がある。
この国では男性は、女性には基本的に優しいし、隣国に比べたらそりゃあ紳士ぞろいだろう。
かく言う僕も、自然と困っている女性がいたら助ける。そこに下心があるわけではなく、そうすることが当然だからだ。
「あの国では男性が女性にそんな事をすることはまずほとんどありません。男性は女性を好きなように扱って、女性はそれを喜んで受け入れる。それが刷り込み的に刷り込まれています。わたくしもそれがおかしいとは全く思っていませんでした」
「生まれ育った国だしねぇ」
「でも、エーリッヒ様に出会って、その優しさに触れて、わたくし今までの自分の考えが馬鹿らしくなってしまったのです」
そんな時に、シエラ令嬢と王太子殿下が急接近して、アンジェは堪えられなくなったとの事。
「わたくしはいずれ王太子妃、そして王妃になるのだとずっと思って我慢してきました。でも、王太子殿下がシエラ令嬢の方がかわいげがあるとか、自分の事を良く分かっているとか、いじらしいとかおっしゃってるのを聞いてしまい、それを隣でシエラ令嬢も聞いていて、うれしいですとか、殿下の事を第一に考えるのはこの国の国民として当然ですなどと言う事をおっしゃっているのを知り、あんなに素晴らしい婚約者がいるのにと、怒りに震えましたわ!」
う、うーん。
なんだか怒りの方向性がおかしい気もしないでもない。
「それで、エーリッヒ様の事がいらないのなら、わたくしがいただこうかと思いまして――……、色々がんばりました」
あ、全部省略された。
一体何をがんばったのか知りたいけど、そこは突っ込んでは駄目なやつだ。
アンジェの笑顔がちょっと怖いから。
「つまり、エーリッヒ様の事好きだったのは二学年生の頃なのです。婚約者もいるのに、違う殿方にうつつを抜かすなんて、はしたない事です」
「えっと、そんな前から僕の事好きだったわけ?」
「ええ、本気ですわ! この気持ちだけは嘘偽りございません」
そこは疑う事はない。
自分の国を捨てる事になっても、ここまで来たその行動がすべてを語っている。
本気でないのなら、ここまでできない。
「信じて、いただけるんですね?」
「そこは、もちろん」
僕はアンジェの事をずっと高嶺の花だと思っていたので、好意はあっても異性として好きという気持ちはほとんどなかった。
だけど、その気持ちを変えたのはアンジェで、僕もそれは別にいやではない。
むしろ、アンジェに選ばれたことを光栄にも思えた。
「あの……大変申し訳ないんだけど、もう一度……触れてもいいかな?」
話を聞き終えて、アンジェがどれほど僕の事を思っていたのか知ると、反応しかかっていた熱が、再び熱くなってきた。
我慢することも出来たけど、触れたい気持ちが強くなる。
アンジェはうれしそうにコクリと頷き目を閉じた。
僕はアンジェにやさしくキスを送り、肌に手を滑らせた。
結局、アンジェが様々な罠を張り巡らせ、僕は勝手にそこに突入して嵌っていったのだけど、ヘタレな僕にはちょうどいいのかも知れない。
お国柄的に、女性の尻に敷かれているほうが家庭関係は上手くいくので、これもまた人生なのだなぁとしみじみ思っていた。
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