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1.婚約破棄された令嬢と婚約が白紙になった僕
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罠に嵌められたんだよなぁ。
これが僕の心情で、でもそれもまた人生かと考えていた。
*** ***
事の起こりは、学院の卒業式前夜祭での事だった。
その前夜祭は明日卒業の卒業生が主役のパーティーで、毎年下級生が主催してくれている一大イベントだ。
もちろん、明日無事卒業する僕もまた主役の一人ではある。
ただし、主役と言いながらも一般人枠だ。
運がいいのか悪いのか、僕の年は黄金世代とか言われていて、王太子殿下やそのお付き、そしてその婚約者様も同学年のせいで、僕みたいな地味な男はそんな輝かしい相手の裏で、ひっそりと生きて行くしかなかった。
別にそれが嫌なわけではないし、妬んでもいない。
自分には縁のない世界だと思っているし、むしろ表舞台に立ったら、死にたくなりそうと思うくらいには、面倒臭がり屋だ。
でだ。
そんな一大イベントで、盛大な暴露と発表がなされれば、みんな呆然とする。
もちろん、僕も唖然として言葉を失った。
「アンジェリーナ・リズベッド・シャンベル! 貴様は上位貴族であり私の婚約者でありながら、下級貴族や守るべき民をイジメていた事は分かっている! そんな女は未来の王太子妃やゆくゆくは王妃などとても務まらん! この私アルベルト・ワンズ・ルーディ・シグナートは、お前との婚約を破棄し、このシエラ・ディン男爵令嬢との婚約を新たに発表する!」
シーンと静まり返っている会場に響く王太子殿下の言葉に、固唾をのんでその場を見守る生徒教師、そして父兄たち。
「本来なら、お前を司法の場で裁きたいところだが、このシエラがそれは不憫だと止めてくれたことに感謝するのだな。シエラはお前と違って寛大で、とても心優しい令嬢だ」
「たとえ罪を犯しても、アンジェリーナ様はきっと悔い改めて下さると信じています」
「シエラ、君はどうしてそんなに犯罪者にも優しいのだ……」
僕は舞台下にいる、今まさに王太子殿下から婚約破棄された、アンジェリーナ様を見た。
さすがは、令嬢の鏡と言われた人だ。
顔色一つ変えずに、毅然と向き合っている。
「一つお伺いいたしますわ。それくらいの発言はお許しくださるのでしょう?」
「本来なら、犯罪者であるお前に発言権はないが、特別に許可してやる」
存大な態度で王太子殿下がアンジェリーナ様に言った。
そもそも、犯罪者にだって言い分はあるのだから、発言は認められている、などと思っていると、アンジェリーナ様が王太子殿下に冷たい視線で問いかけた。
「わたくしがやったと言う証拠はどこにあるのですか?」
「ふん、しらじらしい。多くの者が見ているのだ。目撃情報は多数寄せられている。それでもなお、言い逃れる気か!」
その瞬間、アンジェリーナ様がふっと笑った気がした。
しかし、それは本当に一瞬の事で、僕の見間違いかと思った。
「いいえ? 特別言い逃れは致しませんわ。確かに、彼女に嫌がらせは行いましたが、それも恋心ゆえの幼い幼児のようないたずらばかりですわ。まさかその程度で傷つくとは思っていなかったんですの。お子様には、少々理解できない大人の行動だったようですわ」
今度はハッキリとクスリと笑うのが見て取れた。
視線の先にいるのはシエラ嬢で、馬鹿にしたかのような視線は何を意味しているのか、男の僕でも分かった。
「ひどいですわ……アル様がアンジェリーナ様からお心が離れてしまったのは、きっとその傲慢な態度だからです! それに身体で引きとめようなど考えていらっしゃったようですけど、そのような色仕掛けはアル様には通用しません!」
なんとなくシエラ嬢の発言が負け惜しみ感じてしまうのは、なぜだろう。
それは、僕の個人的好みでいえば、断然アンジェリーナ様だからだろうか。
下世話な事を言うならば、僕は薄い体つきより豊満な体つきの方が好きだ。
アンジェリーナ様が胸を張ると、その豊かな胸部が強調されて、いけないと思いつつも視線が向かってしまう。
それに対しシエラ嬢は、いい意味で言うなら瘦せていて、悪い意味なら下町言葉で洗濯板。
そこは好みの問題かもしれないが、どうやら王太子殿下は貧乳派らしい。
僕とは相いれない。
そんなどうでもいい事を悶々と考えていると、アンジェリーナ様が素晴らしく芸術的なカーテシーを決めた。
「今までお世話になりました。この時をもってして、わたくしはこの国を去ろうと思います。お父様とお母様にもご迷惑をおかけして、家門にも傷をつけてしまいました。よって、わたくしの事は亡き者と考え、捨てて下さればと思います」
「ふん、逃げる気か! まあ、お前にはちょうど良い罰だな。二度とこの国に足を踏み入れるな!」
「かしこまりました」
言い訳一つせず堂々としたアンジェリーナ様はやはり素敵な人だ。
おそらく冤罪だとは思う。
常に公正なアンジェリーナ様の事はみんなが知っている。
それでも、目撃証言があるのなら、どう頑張ったって覆せない事もあった。
例えその証言が、王太子殿下やシエラ嬢の知り合いからもたらされたものだって、証言は証言だ。
こうして、アンジェリーナ様は美しく微笑んで、退場していった。
その後はもちろん、パーティーを楽しむ気分ではない者が大半で。
それは僕も一緒だった。
国が認めた次期王太子妃の婚約破棄、それと同時に発表された新王太子妃候補。
そしてその陰に隠れて、ひそかに幕を閉じたもう一つの婚約。
ふと僕が思うのは、これ、結局僕もふられたって事なんだよなぁという事だった。
これが僕の心情で、でもそれもまた人生かと考えていた。
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事の起こりは、学院の卒業式前夜祭での事だった。
その前夜祭は明日卒業の卒業生が主役のパーティーで、毎年下級生が主催してくれている一大イベントだ。
もちろん、明日無事卒業する僕もまた主役の一人ではある。
ただし、主役と言いながらも一般人枠だ。
運がいいのか悪いのか、僕の年は黄金世代とか言われていて、王太子殿下やそのお付き、そしてその婚約者様も同学年のせいで、僕みたいな地味な男はそんな輝かしい相手の裏で、ひっそりと生きて行くしかなかった。
別にそれが嫌なわけではないし、妬んでもいない。
自分には縁のない世界だと思っているし、むしろ表舞台に立ったら、死にたくなりそうと思うくらいには、面倒臭がり屋だ。
でだ。
そんな一大イベントで、盛大な暴露と発表がなされれば、みんな呆然とする。
もちろん、僕も唖然として言葉を失った。
「アンジェリーナ・リズベッド・シャンベル! 貴様は上位貴族であり私の婚約者でありながら、下級貴族や守るべき民をイジメていた事は分かっている! そんな女は未来の王太子妃やゆくゆくは王妃などとても務まらん! この私アルベルト・ワンズ・ルーディ・シグナートは、お前との婚約を破棄し、このシエラ・ディン男爵令嬢との婚約を新たに発表する!」
シーンと静まり返っている会場に響く王太子殿下の言葉に、固唾をのんでその場を見守る生徒教師、そして父兄たち。
「本来なら、お前を司法の場で裁きたいところだが、このシエラがそれは不憫だと止めてくれたことに感謝するのだな。シエラはお前と違って寛大で、とても心優しい令嬢だ」
「たとえ罪を犯しても、アンジェリーナ様はきっと悔い改めて下さると信じています」
「シエラ、君はどうしてそんなに犯罪者にも優しいのだ……」
僕は舞台下にいる、今まさに王太子殿下から婚約破棄された、アンジェリーナ様を見た。
さすがは、令嬢の鏡と言われた人だ。
顔色一つ変えずに、毅然と向き合っている。
「一つお伺いいたしますわ。それくらいの発言はお許しくださるのでしょう?」
「本来なら、犯罪者であるお前に発言権はないが、特別に許可してやる」
存大な態度で王太子殿下がアンジェリーナ様に言った。
そもそも、犯罪者にだって言い分はあるのだから、発言は認められている、などと思っていると、アンジェリーナ様が王太子殿下に冷たい視線で問いかけた。
「わたくしがやったと言う証拠はどこにあるのですか?」
「ふん、しらじらしい。多くの者が見ているのだ。目撃情報は多数寄せられている。それでもなお、言い逃れる気か!」
その瞬間、アンジェリーナ様がふっと笑った気がした。
しかし、それは本当に一瞬の事で、僕の見間違いかと思った。
「いいえ? 特別言い逃れは致しませんわ。確かに、彼女に嫌がらせは行いましたが、それも恋心ゆえの幼い幼児のようないたずらばかりですわ。まさかその程度で傷つくとは思っていなかったんですの。お子様には、少々理解できない大人の行動だったようですわ」
今度はハッキリとクスリと笑うのが見て取れた。
視線の先にいるのはシエラ嬢で、馬鹿にしたかのような視線は何を意味しているのか、男の僕でも分かった。
「ひどいですわ……アル様がアンジェリーナ様からお心が離れてしまったのは、きっとその傲慢な態度だからです! それに身体で引きとめようなど考えていらっしゃったようですけど、そのような色仕掛けはアル様には通用しません!」
なんとなくシエラ嬢の発言が負け惜しみ感じてしまうのは、なぜだろう。
それは、僕の個人的好みでいえば、断然アンジェリーナ様だからだろうか。
下世話な事を言うならば、僕は薄い体つきより豊満な体つきの方が好きだ。
アンジェリーナ様が胸を張ると、その豊かな胸部が強調されて、いけないと思いつつも視線が向かってしまう。
それに対しシエラ嬢は、いい意味で言うなら瘦せていて、悪い意味なら下町言葉で洗濯板。
そこは好みの問題かもしれないが、どうやら王太子殿下は貧乳派らしい。
僕とは相いれない。
そんなどうでもいい事を悶々と考えていると、アンジェリーナ様が素晴らしく芸術的なカーテシーを決めた。
「今までお世話になりました。この時をもってして、わたくしはこの国を去ろうと思います。お父様とお母様にもご迷惑をおかけして、家門にも傷をつけてしまいました。よって、わたくしの事は亡き者と考え、捨てて下さればと思います」
「ふん、逃げる気か! まあ、お前にはちょうど良い罰だな。二度とこの国に足を踏み入れるな!」
「かしこまりました」
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おそらく冤罪だとは思う。
常に公正なアンジェリーナ様の事はみんなが知っている。
それでも、目撃証言があるのなら、どう頑張ったって覆せない事もあった。
例えその証言が、王太子殿下やシエラ嬢の知り合いからもたらされたものだって、証言は証言だ。
こうして、アンジェリーナ様は美しく微笑んで、退場していった。
その後はもちろん、パーティーを楽しむ気分ではない者が大半で。
それは僕も一緒だった。
国が認めた次期王太子妃の婚約破棄、それと同時に発表された新王太子妃候補。
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