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4.弟リックは思いつく。兄カインは賛同する
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「幼馴染としては心配だったんだよ。特にレイティアの家の事はよく知っているから」
付き合いが長い分だけ、わたしやわたしの家族の事を二人はよく知っている。
ミリアがいつもわたしのものを欲しがることや、家族はミリアの味方であることを。
「カインだってこれでも心配してるんだから」
「俺はティアが今度こそ本気でキレたのか気になるだけだ!」
「レイティアの柄じゃないでしょ、それ」
呆れたようにリックがため息をついた。
いつもの二人の様子に、わたしはクスリと笑って言った。
「二人とも、心配してくれてありがとう。だけど、本当に大丈夫よ。少なくとも気持ちの方は自分でもおかしいと思うくらい何もないの。ただ困ったのは、卒業後どうしようってことぐらい。最悪、二人のところで雇ってもらおうかとも思ったわ」
カインとリックの家は国でも一位二位を争う商家でもある。
その商団で雇ってもらおうかとも考えていたと明かすと、リックはなんとも言えない顔になった。
「いや、まあ……。レイティアの事はよく知っているから雇うことは問題ないと思うけど……」
「駄目に決まってるだろ!」
リックが言葉を濁しカインがはっきりと駄目だという。
「いいか? お前は領地経営まで学んだエリートなんだ。汗水たらして働くんじゃなくて、世のため人のためにその頭脳を使うべきだ!」
どうやら、働く事を否定するのではなく、働く場所が気に食わないらしい。
「それなら王宮文官を目指すべきかしら?」
「というか、結婚願望はないの? レイティアは。貴族令嬢はやっぱり結婚するのが普通じゃない」
リックの至極真っ当な疑問に、わたしはやや考え込んだ。
「そうすることが当たり前、と思っていたわ。きっと結婚した方が正しいのかもしれないけど、わたしは婚約者を妹に奪われたのよ。正確には譲った形だけど、世間はそうはみないでしょう? 誰が見ても妹の方が美人で可愛げがあって。そのうち婚約者がミリアを好きになったのはわたしにも原因があるのだと噂になるわ」
すでに諦めたことだった。
いつもミリアと容姿を比べて言われてきたことだから。
不美人なわたしと美人なミリアを比べたら、男性ならミリアの方を選ぶに決まっていると、そのうちそこかしこで言われるようになる。
「噂は悪意をもって広がるものだから、わたしに原因があると広められたら、今独身の男性はわたしを忌避するようになるでしょう? 結婚することが義務だとお父様も思っていらっしゃるなら、あまり条件のよくない男性と結婚させられる可能性があるわ。それなら初めから自立を目指した方がいいのかなって思って」
胸の内を話すと、カインはムッとしながら眉間にしわを寄せた。
「噂ごときで忌避する男ような小物は無視しろ。お前を知らない男なんて相手にする価値さえない! いいか!? あんな女の言いなりになるな! 卑屈になるな! もっと自信を持て! 俺が認める女なんだから、堂々としてろ!」
ビシッとわたしを指さしてきた。
悪い気はしない。
わたしに価値があるというのは、いつもカインとリックだけだ。それにいつも慰められてきたのは否定できない。
「でも実際、見た目で判断する男性が多いのは否定できないでしょう?」
「それなら、変わればいいんじゃない?」
良い事を思いついたと顔を上げたリックが、にっこりと笑った。
「いい考えだ、リック! ティア、お前は自己評価が低すぎる。まずは、お前自身に見せてやる。よし、街に行くぞ!」
思い立ったが吉日とでもいうのか、カインが突然席を立った。
やれやれと顔を軽く振りながらリックが同じく席を立つ。
わたしは一体何が始まったのかよくわからず、目を瞬かせた。
「えっと、わたしは授業を……」
「一日ぐらいさぼったところで問題ない! それ以上に大事な用事だ」
こうと決めたらカインは突き進む。
それを窘めるのがリックの役目だけど、今回ばかりはカインの味方らしい。
「僕たちの成績なら一日ぐらいさぼっても何も言われないよ。家の用事って事にしておけば、問題にならないしね。何かあったら全部カインがなんとかしてくれるから」
「そもそも、どこに行くの?」
カインがニヤリと笑ってわたしを見下ろした。
「決まってるだろ。お前の自己評価が低いのは、見た目をいつもあの女と比べられてきたからだ。だから、実感させてやる。ティアの方があの女よりもずっと綺麗だということを。男にとって、どっちが本当に望む存在なのかを」
カインが手を差し出してくる。
自然とその手を重ねると、ぐいっと引っ張り上げられるように立たされた。
あまりの勢いにバランスを崩したわたしをカインはやすやすと受け止め、カインの真意を確かめるように上目遣いで見上げると、彼は悪戯を思いついた子供のように目を輝かせていた。
これは非常に楽しい事を思いつき、それを実践しようとしているときの顔。
でも、わたしはその顔が一番好きだった。
キラキラ輝き力がみなぎっているその瞳を見ると、こっちもわくわくしてくるから。
「それで、本当にどこに行くつもり?」
一応聞いておく。
聞いたところで止めようがないけど。
カインは何言ってるんだ? という顔をして満面の笑みを浮かべた。
「ブティックだよ。まずはお前のドレスを買う」
止めた方がよさそうだった。
付き合いが長い分だけ、わたしやわたしの家族の事を二人はよく知っている。
ミリアがいつもわたしのものを欲しがることや、家族はミリアの味方であることを。
「カインだってこれでも心配してるんだから」
「俺はティアが今度こそ本気でキレたのか気になるだけだ!」
「レイティアの柄じゃないでしょ、それ」
呆れたようにリックがため息をついた。
いつもの二人の様子に、わたしはクスリと笑って言った。
「二人とも、心配してくれてありがとう。だけど、本当に大丈夫よ。少なくとも気持ちの方は自分でもおかしいと思うくらい何もないの。ただ困ったのは、卒業後どうしようってことぐらい。最悪、二人のところで雇ってもらおうかとも思ったわ」
カインとリックの家は国でも一位二位を争う商家でもある。
その商団で雇ってもらおうかとも考えていたと明かすと、リックはなんとも言えない顔になった。
「いや、まあ……。レイティアの事はよく知っているから雇うことは問題ないと思うけど……」
「駄目に決まってるだろ!」
リックが言葉を濁しカインがはっきりと駄目だという。
「いいか? お前は領地経営まで学んだエリートなんだ。汗水たらして働くんじゃなくて、世のため人のためにその頭脳を使うべきだ!」
どうやら、働く事を否定するのではなく、働く場所が気に食わないらしい。
「それなら王宮文官を目指すべきかしら?」
「というか、結婚願望はないの? レイティアは。貴族令嬢はやっぱり結婚するのが普通じゃない」
リックの至極真っ当な疑問に、わたしはやや考え込んだ。
「そうすることが当たり前、と思っていたわ。きっと結婚した方が正しいのかもしれないけど、わたしは婚約者を妹に奪われたのよ。正確には譲った形だけど、世間はそうはみないでしょう? 誰が見ても妹の方が美人で可愛げがあって。そのうち婚約者がミリアを好きになったのはわたしにも原因があるのだと噂になるわ」
すでに諦めたことだった。
いつもミリアと容姿を比べて言われてきたことだから。
不美人なわたしと美人なミリアを比べたら、男性ならミリアの方を選ぶに決まっていると、そのうちそこかしこで言われるようになる。
「噂は悪意をもって広がるものだから、わたしに原因があると広められたら、今独身の男性はわたしを忌避するようになるでしょう? 結婚することが義務だとお父様も思っていらっしゃるなら、あまり条件のよくない男性と結婚させられる可能性があるわ。それなら初めから自立を目指した方がいいのかなって思って」
胸の内を話すと、カインはムッとしながら眉間にしわを寄せた。
「噂ごときで忌避する男ような小物は無視しろ。お前を知らない男なんて相手にする価値さえない! いいか!? あんな女の言いなりになるな! 卑屈になるな! もっと自信を持て! 俺が認める女なんだから、堂々としてろ!」
ビシッとわたしを指さしてきた。
悪い気はしない。
わたしに価値があるというのは、いつもカインとリックだけだ。それにいつも慰められてきたのは否定できない。
「でも実際、見た目で判断する男性が多いのは否定できないでしょう?」
「それなら、変わればいいんじゃない?」
良い事を思いついたと顔を上げたリックが、にっこりと笑った。
「いい考えだ、リック! ティア、お前は自己評価が低すぎる。まずは、お前自身に見せてやる。よし、街に行くぞ!」
思い立ったが吉日とでもいうのか、カインが突然席を立った。
やれやれと顔を軽く振りながらリックが同じく席を立つ。
わたしは一体何が始まったのかよくわからず、目を瞬かせた。
「えっと、わたしは授業を……」
「一日ぐらいさぼったところで問題ない! それ以上に大事な用事だ」
こうと決めたらカインは突き進む。
それを窘めるのがリックの役目だけど、今回ばかりはカインの味方らしい。
「僕たちの成績なら一日ぐらいさぼっても何も言われないよ。家の用事って事にしておけば、問題にならないしね。何かあったら全部カインがなんとかしてくれるから」
「そもそも、どこに行くの?」
カインがニヤリと笑ってわたしを見下ろした。
「決まってるだろ。お前の自己評価が低いのは、見た目をいつもあの女と比べられてきたからだ。だから、実感させてやる。ティアの方があの女よりもずっと綺麗だということを。男にとって、どっちが本当に望む存在なのかを」
カインが手を差し出してくる。
自然とその手を重ねると、ぐいっと引っ張り上げられるように立たされた。
あまりの勢いにバランスを崩したわたしをカインはやすやすと受け止め、カインの真意を確かめるように上目遣いで見上げると、彼は悪戯を思いついた子供のように目を輝かせていた。
これは非常に楽しい事を思いつき、それを実践しようとしているときの顔。
でも、わたしはその顔が一番好きだった。
キラキラ輝き力がみなぎっているその瞳を見ると、こっちもわくわくしてくるから。
「それで、本当にどこに行くつもり?」
一応聞いておく。
聞いたところで止めようがないけど。
カインは何言ってるんだ? という顔をして満面の笑みを浮かべた。
「ブティックだよ。まずはお前のドレスを買う」
止めた方がよさそうだった。
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