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3.双子の兄弟

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 連れてこられたのは、裏庭。
 その一角に二人がお気に入りの場所がある。

 ほとんど誰も近寄らない寂れた庭園と少し崩れた東屋だ。校舎からかなり離れているので、誰かに邪魔されることは少ない。

 なぜそんな場所があるのかというと、実は学院自体が王族の元所有地なのだ。
 そして、この場所は愛妾などに使われていた場所。そのため、人に隠すような作りになっており、学生の使う学び舎とはかなり離れている。
 近くには愛妾が暮らしていた建物もあるけど、今は手入れもされていない上、廃墟同然のようになっていた。

 この場所は外聞的にあまりよくないので、学生たちはほとんど知らない場所となり、校内図にも書かれていない。
 それなのになぜ二人が知っているのかは謎。たまたま見つけたとはぐらかされている。

「授業があるんだけど」
「受けなくたって問題ないだろ。出席日数は足りてるんだし」
「レイティアもたまには楽をしてくださいね。勉強だけでは疲れてしまいますよ」
「でもわたしは二人ほど頭が良くないから」
「たいして変わんないだろ」

 カインとリック、二人は二卵性の双子でわたしとは同学年。
 現在最終学年なので、今年は卒業だ。

 卒業後に婚約発表をして結婚し、跡継ぎとして本格的に領地に関わっていくことになっていたけど、その根底がひっくり返されてしまったので、学べることはできるだけ学んでおきたい。
 どんな知識が役に立つかわからないから。

「お前が何を考えているかわかってるんだよ。いい子ちゃんでいて、就職先でも探す気だろ? 勉強しとけば確かにどっかからは声かかるだろうしな」
「カイン、言い方」
「俺たちの仲でオブラートに包む方がおかしいだろ」

 俺が正しいと俺様のような態度でふんと鼻を鳴らす。
 カインのしっとりとした黒髪が風に揺れ前髪がさらりと靡くと、意志の強そうな輝きをもつ碧眼が余計に輝きを増した気がした。
 いつだって力強く自分の力で前に進んできたカイン。
 以前は丸みを帯びていたふっくらした顔の輪郭は、年齢とともにすっきりとした顎のラインを描き、男性らしい骨格を手に入れた。
 よく制服を着崩しているので、喉ぼとけがさらけ出され色気を纏っている。

 対するリックは、カインよりも柔和な男性だ。
 柔らかそうな黒髪は波うち、カインと同じ碧眼は優しい日差しのよう。
 身長はカインとさほど変わらないけど、全体的にほっそりとしているので、カインよりも話しかけやすい雰囲気をもっている。

 リックはカインとはまた違った魅力あふれる男性だけど、一つ言えるのは二人そろって最高峰の容姿をもっているということだった。

 そんな二人を幼馴染にもつわたしは、妬まれたりもしたけど、学院入学そうそうにアレックス様と内々で婚約が決まったので、妬まれてはいるものの、安全な女として認知された。

 実際は、彼らと全く釣り合っていない容姿を持っているから、安全だと思われたんだろうけど。

「それで? またあの女に盗られたのか? 今回ばかりはさすがに怒ったんだよな?」
「カイン、だから言い方……ごめん、ティア」

 リックのため息が深くなる。

「おい! ティアって呼ぶな。お前はレイティアと呼べって言っただろ」

 さっぱりよくわからないけど、二人の間で何かがあったらしく、いつの間にかそういう決まりになっていた。
 昔は二人ともわたしをティアと呼んでいた。

「癖で出ちゃうのは見逃してよ……とにかく、レイティアは大丈夫なの?」
「大丈夫って何が?」
「おい」

 カインがイライラとしているのがよくわかる。

 だけど、何年幼馴染をしていると思っているのか。カインの苛立ちに対して、怖いと思う事はない。

「変にはぐらかすなよ。俺たちだってもう知ってるんだからな」
「はぐらかしているわけではないんだけど……」

 わたしが苦笑すると、諦めたようなため息がカインから漏れた。
 実際、大丈夫と問われても何が? と聞き返すぐらいには、ミリアとアレックス様の件は何も感じていなかった。

 唯一困ったことになったというのは、卒業後どうしようかと思ったこと。
 そして、そう思ったことへの罪悪感。

 アレックス様とは約6年間婚約者として過ごしてきたのに、こんなあっけなく心変わりされて怒りも失望も湧いてこなかった。
 ただ、ああアレックス様もか、とどこか諦めの感情。

 きっと本当に好きならば、もっと泣きわめいたりしたのかもしれない。
 そうならなかった時点で、わたしはアレックス様に対しなんの期待もしていなかったのだと認識させられた。
 もしかしたら、アレックス様もそれを感じていて、天真爛漫で甘えたがりなミリアに心変わりされたのかもしれない。

 男性は、一人で立って歩けるような女性よりも庇護欲そそる女性の方が好きだから。
 例外はいるけど。

「ところで、二人はどこで知ったの? 昨日の今日だけど……」
「昨日、用事で街に出かけていた時二人を見かけてね。たまたま・・・・お茶を飲むためにカフェテリア入ったら近くの席だったから、二人の会話が聞こえてきちゃって」
たまたま・・・・ね?」
「中央の通りに面しているファーレって店だよ」
「女性に大人気のお店よね?」
「甘いもの食べるには、女性人気のある店に限るよ」

 リック微笑んだ。
 カインはそこまで甘いものが得意ではないけど、リックは大の甘いもの好き。
 人の目など気にせず、一人でだって女性であふれかえる店に入れるという鋼の心臓を持っている。

「女性でいっぱいだから、噂が広まるのも早いよね」

 ということらしい。



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