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43.ローレンツサイド
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「ザック、面白い状況になってきたな」
書類片手に、ローレンツはくつくつ笑いながら傍らにいるザックに話しかけた。
その笑みは、まるで悪役のようで、世間で語られる英雄とはかけ離れている。
しかし、ザックは指摘しない。
ローレンツが、英雄気取りの男ではないことをいやというほど理解しているから。
もちろん、ローレンツも自分の本性など誰よりも理解しているので改めることもしない。
「面白いのはお前だけかもな」
「いや? 貴族連中も平民もみなこの行方を楽しみにしているさ。せっかく、妊娠した運命の恋人も登場して色々証言してくれているしな」
人の不幸ほど面白い娯楽はない。
なんでも公判は立ち見ができるほど盛況らしい。
そのため、いつも行われる判決場を変えて、より多くの人が聞けるようにしたようだ。
異例ともいえる場所変更にさらに憶測が飛ぶが、王室からの発表はおおむね歓迎できる者だった。
誰だって、一番に今シーズン最大の悪人を見たいだろう。
「潔く認めるのならまだ精々犯罪奴隷くらいだったのにな……。さてでもどうしたものか? どうしたらより残虐に絶望に叩き落せると思う?」
「オレに聞くなよ。そういうのはお前の方がお得意だろう? そもそも、判決に口挟めると言う方がおかしな話だ」
「王室と取引だ。大人しく飼われてやるから、敵を排除する権利をもらっただけさ」
そう、はじめからすべてローレンツの掌で踊っていた。
唯一の計算違いが、アリーシアの事だ。
アリーシアの生家の子爵家もやり手ではあるが、それで多くの人を不幸にした。
そんな家の人間なのだから、根性ねじ曲がっていると思っていたが、全く正反対の被害者だった。
もともと、色々面倒な子爵家もつぶそうと思っていたので、この結婚自体はなんとも思わず、むしろ計算通りだったので歓喜さえしていた。
姻戚関係で、伯爵家の罪をそのまま子爵家にも適用しようと思っていたが、アリーシアの件があり、変更せざるを得なかった。
ただ、向こうも理解はしている。
アリーシアが抑止力となっていることを。だからこそ、態度を変えてきているのだ。
アリーシアの件は未だに、ローレンツの中では色々思う事があった。
もう少し詳しく内情を調べておくべきだったと。
「あの頃は戦場も佳境を迎えていて、報告書を後回しにしていたのツケが出たな」
「別に、終わった事だろ?」
そう終わったことだ。
終わったことだが、後悔はあった。
ローレンツは自分の復讐のために、誰かを巻き込みたくはなかったが、多少の犠牲もやむを得ないとは思っていた。
ただし、そのために何の咎もない人間が死ぬのは、やはり気分がいいモノではない。
「巻き込んだ償いにせめて関りにないように離婚だけでも成立させてやりたかったが、まさか自分から言い出すとは思ってもいなかった」
実は彼女が、処女である事は助けた時から知っていた。
妊娠していた困ったことになるので、その有無を確認させたとき、驚くべきことが証明されたのだから、その瞬間は素で困惑した。
もちろん、アリーシアにはそのことを知らせてはいない。
告白されたときは、まさか知られている事を知らない彼女に、少し気まずい思いをした。
「白い結婚が認められれば、姻戚関係が無くなり、子爵家も道連れにはできなくなったが……まあ、さすがに感づいたな、向こうも」
アリーシアの父親はなくなり、今はその息子に引き継がれているが、なかなか鋭いところは似ているらしい。
優秀なのは結構なことだ。
ローレンツの邪魔さえしなければ。
しかし、アリーシアを今まで物の様に扱ってきた家が再び利用しようと近づいてきたことは不愉快だった。
「隠してもいないからだと思うが……面倒くさい理論展開はもういいのか?」
「面倒くさいじゃない。倫理的問題だ」
「どっちでもいいけど、お前的にどうするんだ?」
「自分が結婚しているからと言って、俺の事に口出すな。シアだって、今はそんな事を考える余裕はないだろう。一度目の結婚がああだったのなら、次は慎重になるだろうし、考えてもいないだろう」
自分の気持ちには整理がついている。
はじめは妹を重ねていたが、今はハッキリと違う事が分かっていた。
ただし、無理に事を進める気はない。
「自覚してきた時で、いいだろ。彼女は、まだ若いしな。ここが居心地よくなれば、離れたくないと思うようになる」
アリーシアは愛を知らずに生きてきた。
ここはそう言う意味では彼女の欲しい物がそろっている。
優しくされること、頼られること、そして愛されること。
その全てを満たしてやれる。
ここが居心地よくなれば、離れていく事はない。
「お前って、どうしてそうなの? 深く考える事ないだろ。好きだと言えばそれでいいじゃねーか」
「事は、そう簡単じゃない。誰もがお前みたいに考えなしじゃない」
「へーへー、どうせオレは考えるのが苦手ですよ」
ザックは面倒くさそうにそういうと、さっさと部屋を出て行った。
部屋に一人残ったローレンツは、醜い主従の罪の擦り付け合いの報告書を暖炉に投げつけて火をつける。
味方はいない伯爵家の末路などどうにでも出来ると思うと、なぜだか途端につまらない物になった。
正直、こんなものかとも思ってしまう。
子供の頃脅威に思っていても、相手は衰え自分は成長し力を持った。
それを理解すると、相手を哀れにも感じる。
「憂いがなくなれば、彼女ももっと前を向くだろう」
それは自分も同じだった。
全てが終われば、やっと過去ばかり振り返らずにいられる、そんな気がした。
「耐え忍ぶのは嫌いじゃない。その先の楽しみを考える事ができるからな」
ふっと笑いながら、ローレンツは今度こそ楽しい事を考える事に集中した。
いずれそれを再現できることを考えて、その時彼女はどんな反応をするのか、あれこれ想像する。
いろいろな感情をアリーシアは学ぶことになるが、その中でも愛とはどういうものか教える権利は自分だけだと思いながら。
―・―・―・―・―・―・―・―・―
前話を書き足しました。
そして、この話で物語は終了となります。
思い付きで勢いだけで書いていたので、少し設定が苦しくなってきたので、結構無理矢理ですが終わらせることにしました。
力不足で申し訳ないです。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
次回はもっとがんばって、いい感じに終わらせたいと思います。
書類片手に、ローレンツはくつくつ笑いながら傍らにいるザックに話しかけた。
その笑みは、まるで悪役のようで、世間で語られる英雄とはかけ離れている。
しかし、ザックは指摘しない。
ローレンツが、英雄気取りの男ではないことをいやというほど理解しているから。
もちろん、ローレンツも自分の本性など誰よりも理解しているので改めることもしない。
「面白いのはお前だけかもな」
「いや? 貴族連中も平民もみなこの行方を楽しみにしているさ。せっかく、妊娠した運命の恋人も登場して色々証言してくれているしな」
人の不幸ほど面白い娯楽はない。
なんでも公判は立ち見ができるほど盛況らしい。
そのため、いつも行われる判決場を変えて、より多くの人が聞けるようにしたようだ。
異例ともいえる場所変更にさらに憶測が飛ぶが、王室からの発表はおおむね歓迎できる者だった。
誰だって、一番に今シーズン最大の悪人を見たいだろう。
「潔く認めるのならまだ精々犯罪奴隷くらいだったのにな……。さてでもどうしたものか? どうしたらより残虐に絶望に叩き落せると思う?」
「オレに聞くなよ。そういうのはお前の方がお得意だろう? そもそも、判決に口挟めると言う方がおかしな話だ」
「王室と取引だ。大人しく飼われてやるから、敵を排除する権利をもらっただけさ」
そう、はじめからすべてローレンツの掌で踊っていた。
唯一の計算違いが、アリーシアの事だ。
アリーシアの生家の子爵家もやり手ではあるが、それで多くの人を不幸にした。
そんな家の人間なのだから、根性ねじ曲がっていると思っていたが、全く正反対の被害者だった。
もともと、色々面倒な子爵家もつぶそうと思っていたので、この結婚自体はなんとも思わず、むしろ計算通りだったので歓喜さえしていた。
姻戚関係で、伯爵家の罪をそのまま子爵家にも適用しようと思っていたが、アリーシアの件があり、変更せざるを得なかった。
ただ、向こうも理解はしている。
アリーシアが抑止力となっていることを。だからこそ、態度を変えてきているのだ。
アリーシアの件は未だに、ローレンツの中では色々思う事があった。
もう少し詳しく内情を調べておくべきだったと。
「あの頃は戦場も佳境を迎えていて、報告書を後回しにしていたのツケが出たな」
「別に、終わった事だろ?」
そう終わったことだ。
終わったことだが、後悔はあった。
ローレンツは自分の復讐のために、誰かを巻き込みたくはなかったが、多少の犠牲もやむを得ないとは思っていた。
ただし、そのために何の咎もない人間が死ぬのは、やはり気分がいいモノではない。
「巻き込んだ償いにせめて関りにないように離婚だけでも成立させてやりたかったが、まさか自分から言い出すとは思ってもいなかった」
実は彼女が、処女である事は助けた時から知っていた。
妊娠していた困ったことになるので、その有無を確認させたとき、驚くべきことが証明されたのだから、その瞬間は素で困惑した。
もちろん、アリーシアにはそのことを知らせてはいない。
告白されたときは、まさか知られている事を知らない彼女に、少し気まずい思いをした。
「白い結婚が認められれば、姻戚関係が無くなり、子爵家も道連れにはできなくなったが……まあ、さすがに感づいたな、向こうも」
アリーシアの父親はなくなり、今はその息子に引き継がれているが、なかなか鋭いところは似ているらしい。
優秀なのは結構なことだ。
ローレンツの邪魔さえしなければ。
しかし、アリーシアを今まで物の様に扱ってきた家が再び利用しようと近づいてきたことは不愉快だった。
「隠してもいないからだと思うが……面倒くさい理論展開はもういいのか?」
「面倒くさいじゃない。倫理的問題だ」
「どっちでもいいけど、お前的にどうするんだ?」
「自分が結婚しているからと言って、俺の事に口出すな。シアだって、今はそんな事を考える余裕はないだろう。一度目の結婚がああだったのなら、次は慎重になるだろうし、考えてもいないだろう」
自分の気持ちには整理がついている。
はじめは妹を重ねていたが、今はハッキリと違う事が分かっていた。
ただし、無理に事を進める気はない。
「自覚してきた時で、いいだろ。彼女は、まだ若いしな。ここが居心地よくなれば、離れたくないと思うようになる」
アリーシアは愛を知らずに生きてきた。
ここはそう言う意味では彼女の欲しい物がそろっている。
優しくされること、頼られること、そして愛されること。
その全てを満たしてやれる。
ここが居心地よくなれば、離れていく事はない。
「お前って、どうしてそうなの? 深く考える事ないだろ。好きだと言えばそれでいいじゃねーか」
「事は、そう簡単じゃない。誰もがお前みたいに考えなしじゃない」
「へーへー、どうせオレは考えるのが苦手ですよ」
ザックは面倒くさそうにそういうと、さっさと部屋を出て行った。
部屋に一人残ったローレンツは、醜い主従の罪の擦り付け合いの報告書を暖炉に投げつけて火をつける。
味方はいない伯爵家の末路などどうにでも出来ると思うと、なぜだか途端につまらない物になった。
正直、こんなものかとも思ってしまう。
子供の頃脅威に思っていても、相手は衰え自分は成長し力を持った。
それを理解すると、相手を哀れにも感じる。
「憂いがなくなれば、彼女ももっと前を向くだろう」
それは自分も同じだった。
全てが終われば、やっと過去ばかり振り返らずにいられる、そんな気がした。
「耐え忍ぶのは嫌いじゃない。その先の楽しみを考える事ができるからな」
ふっと笑いながら、ローレンツは今度こそ楽しい事を考える事に集中した。
いずれそれを再現できることを考えて、その時彼女はどんな反応をするのか、あれこれ想像する。
いろいろな感情をアリーシアは学ぶことになるが、その中でも愛とはどういうものか教える権利は自分だけだと思いながら。
―・―・―・―・―・―・―・―・―
前話を書き足しました。
そして、この話で物語は終了となります。
思い付きで勢いだけで書いていたので、少し設定が苦しくなってきたので、結構無理矢理ですが終わらせることにしました。
力不足で申し訳ないです。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。
次回はもっとがんばって、いい感じに終わらせたいと思います。
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