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39.ヘンリーサイド
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手あたりしだいモノを投げつけ、蹴り倒し、それでも収まらな怒りに、ヘンリーの瞳は爛々と憎しみが募っていく。
神殿を出た瞬間に、憂いを帯び、慰めに似た言葉をかけながら、面白おかしく口ずさみ馬鹿にしたような貴族にも腹が立つが、平民風情が上級貴族たるヘンリーに無遠慮に取材を申し入れてきたことは、殺してやりたいほどだった。
絶対的有利だった。
神殿は基本的に権力主義。
権力のある貴族に有利に働くようになっている。
それが、まるで自分の方が取るに足らないかのように、見限られたのだ。
はじめは、ヘンリーの味方の様に誘導していたのに、途中――そう、あの男が関わってからどこかおかしくなった。
確かに後ろ盾は立派なものだ。
しかし、だからと言って醜聞を起こすような英雄など王家だって必要ないはずだ。
それなのに、堂々と神殿に乗り込んできた。
どうせ、アリーシアを引き渡し自分達とは関係ないと示すだろうと思っていたのに。
「ヘンリー様の心痛はこのローデンが一番分かっております。下賤な生まれには、貴族のような振る舞いが出来ないことは分かっておりましたが、ここまで恥知らずとは私も想定外でした」
あらかた物を壊し、部屋の中を荒らし終わると、それなりに気分が落ち着いた。
それなりというだけで、全く心の平和は訪れていない。
「ローデン! あの女せいでここまで我が家門が陥れられたのだ! 無能な父上のせいだ。本当に厄介な女を押し付けてくれたものだ!」
「さようでございますね。ですので、きっと天罰が下さりあのような悲惨な最期をお迎えになられたのでしょう」
ヘンリーの父親は愛人の男によって殺されている。
実は、この愛人は裏社会の男の情婦でもあり、関係を知った男によってありとあらゆる苦痛をその身で体験しながら殺されたと、後々知った。
裏社会の人間の仕業だったからなのか、その身体は死体を見慣れている人間ですらむごたらしいく視線を逸らせるものだったらしい。
唯一のみもとが残っていたので、ヘンリーの父親だと分かったが、そうでなければ、誰か分からず処理されていた。
「ヘンリー様、向こうが恥も外聞も気にしない相手ならば、こちらも遠慮する必要性はありません。それに、きっと天罰が下されることでしょう」
「そうだな、恥知らずな人間に、貴族というのはどういうものか知らせてやる必要性があるな……何かいい方法があるか?」
ニヤリと笑いながらヘンリーがローデンに問う。
すると優秀な執事はもちろんありますと答えを返した。
「全てはこのローデンにお任せください。ヘンリー様の憂いは、この私がすべて取り除いて差し上げます」
ゆっくり微笑むローデンは、ヘンリーにとって頼もしい唯一無二の味方だ。
ヘンリーをここまで見守り育てたのはローデンであるという意識もある。そのため、誰よりも側においているのだ。
ヘンリーが何をしようと、全て肯定し、困ったことがあればすべて処理してくれて。
本当に、便利な執事だと思っている。
「ローデン、そういえば少々困った事にもなった。あの英雄気取りの成り上がりが、国王陛下にある事ない事吹き込んでいるらしい。そのせいで、今度衛兵隊が乗り込んでくる。まあ、何も隠すことなどないが、一応知らせておく」
「……どなたからお聞きしたのですか?」
「ああ、親切な友人さ。困ったことがあればなんでも相談してくれと言ってくれた」
「さようでございますか」
「家門の歴史では我が伯爵家に劣るが、まあまあ悪くないから友人として付き合ってきたが、こういう情報を教えてくれるくらいには、使える奴だよ」
利用されているとは知らない馬鹿な友人だからこそ、使い勝手がいい。
領地さえない宮廷貴族の分際で、わざわざ意見してきたことは気に障ったが、まあ有益な情報を与えてくれているのだから、寛大に許そうと思っている。
「ヘンリー様、衛兵隊が来る前に邸宅の掃除をしたく思います。すぐに取り掛からなければ、いけませんので失礼いたします」
「そんなに汚れていないぞ?」
「もちろん、掃除を怠るようなことはしておりませんが、よりよく衛兵隊の方々を迎え入れるために、必要なことでございます」
ヘンリーは良く分かっていなかったが、ローデンが必要だと言うのならそうなのだろうと、退室を許可した。
本音ではもっとヘンリーの憤りを聞いてほしかったが、仕方がない。
無能な父と面倒な女のせいで、こんな風に社交界で笑いものになったが、一時的なものだ。
ヘンリーの仲間が社交場で、ヘンリーの正しさを誇張しながら噂を流してくれている予定になっている。
貴族に伝手のないあの男に対し、社会的に殺すことなどヘンリーには造作がない事を思い知らせてやると決意し、ローデンが用意していたワインを一気にあおった。
神殿を出た瞬間に、憂いを帯び、慰めに似た言葉をかけながら、面白おかしく口ずさみ馬鹿にしたような貴族にも腹が立つが、平民風情が上級貴族たるヘンリーに無遠慮に取材を申し入れてきたことは、殺してやりたいほどだった。
絶対的有利だった。
神殿は基本的に権力主義。
権力のある貴族に有利に働くようになっている。
それが、まるで自分の方が取るに足らないかのように、見限られたのだ。
はじめは、ヘンリーの味方の様に誘導していたのに、途中――そう、あの男が関わってからどこかおかしくなった。
確かに後ろ盾は立派なものだ。
しかし、だからと言って醜聞を起こすような英雄など王家だって必要ないはずだ。
それなのに、堂々と神殿に乗り込んできた。
どうせ、アリーシアを引き渡し自分達とは関係ないと示すだろうと思っていたのに。
「ヘンリー様の心痛はこのローデンが一番分かっております。下賤な生まれには、貴族のような振る舞いが出来ないことは分かっておりましたが、ここまで恥知らずとは私も想定外でした」
あらかた物を壊し、部屋の中を荒らし終わると、それなりに気分が落ち着いた。
それなりというだけで、全く心の平和は訪れていない。
「ローデン! あの女せいでここまで我が家門が陥れられたのだ! 無能な父上のせいだ。本当に厄介な女を押し付けてくれたものだ!」
「さようでございますね。ですので、きっと天罰が下さりあのような悲惨な最期をお迎えになられたのでしょう」
ヘンリーの父親は愛人の男によって殺されている。
実は、この愛人は裏社会の男の情婦でもあり、関係を知った男によってありとあらゆる苦痛をその身で体験しながら殺されたと、後々知った。
裏社会の人間の仕業だったからなのか、その身体は死体を見慣れている人間ですらむごたらしいく視線を逸らせるものだったらしい。
唯一のみもとが残っていたので、ヘンリーの父親だと分かったが、そうでなければ、誰か分からず処理されていた。
「ヘンリー様、向こうが恥も外聞も気にしない相手ならば、こちらも遠慮する必要性はありません。それに、きっと天罰が下されることでしょう」
「そうだな、恥知らずな人間に、貴族というのはどういうものか知らせてやる必要性があるな……何かいい方法があるか?」
ニヤリと笑いながらヘンリーがローデンに問う。
すると優秀な執事はもちろんありますと答えを返した。
「全てはこのローデンにお任せください。ヘンリー様の憂いは、この私がすべて取り除いて差し上げます」
ゆっくり微笑むローデンは、ヘンリーにとって頼もしい唯一無二の味方だ。
ヘンリーをここまで見守り育てたのはローデンであるという意識もある。そのため、誰よりも側においているのだ。
ヘンリーが何をしようと、全て肯定し、困ったことがあればすべて処理してくれて。
本当に、便利な執事だと思っている。
「ローデン、そういえば少々困った事にもなった。あの英雄気取りの成り上がりが、国王陛下にある事ない事吹き込んでいるらしい。そのせいで、今度衛兵隊が乗り込んでくる。まあ、何も隠すことなどないが、一応知らせておく」
「……どなたからお聞きしたのですか?」
「ああ、親切な友人さ。困ったことがあればなんでも相談してくれと言ってくれた」
「さようでございますか」
「家門の歴史では我が伯爵家に劣るが、まあまあ悪くないから友人として付き合ってきたが、こういう情報を教えてくれるくらいには、使える奴だよ」
利用されているとは知らない馬鹿な友人だからこそ、使い勝手がいい。
領地さえない宮廷貴族の分際で、わざわざ意見してきたことは気に障ったが、まあ有益な情報を与えてくれているのだから、寛大に許そうと思っている。
「ヘンリー様、衛兵隊が来る前に邸宅の掃除をしたく思います。すぐに取り掛からなければ、いけませんので失礼いたします」
「そんなに汚れていないぞ?」
「もちろん、掃除を怠るようなことはしておりませんが、よりよく衛兵隊の方々を迎え入れるために、必要なことでございます」
ヘンリーは良く分かっていなかったが、ローデンが必要だと言うのならそうなのだろうと、退室を許可した。
本音ではもっとヘンリーの憤りを聞いてほしかったが、仕方がない。
無能な父と面倒な女のせいで、こんな風に社交界で笑いものになったが、一時的なものだ。
ヘンリーの仲間が社交場で、ヘンリーの正しさを誇張しながら噂を流してくれている予定になっている。
貴族に伝手のないあの男に対し、社会的に殺すことなどヘンリーには造作がない事を思い知らせてやると決意し、ローデンが用意していたワインを一気にあおった。
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