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31.ローデンサイド
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ローデンはソファにもたれる様に眠るマリアを冷めた目で見ながら、部屋に男を二人入れる。
体格の良い男で、裏の道ではそれなりに信用のある者たちだ。
「どうするんだ?」
「いつものように処理してください。くれぐれも、慎重に。近頃こちらを伺っている愚かな者がいますので」
ローデンは男たちに指示すると静かに部屋を出る。
仕事の早い侍女がお茶の準備をして戻ってきていた。
「マリア様はお休みになるそうです。お茶は結構との事ですので下がってもよろしい」
最近のマリアはすぐに癇癪を起すので、侍女はすぐさま去っていく。
全く、嘆かわしい。
育てたヘンリーがのめり込んでいたから、女主人として優遇してやっていただけだ。
しかし、ヘンリーは目覚めたようだ。
自分の愚かな行為に対して。
ローデンは、自分が心から仕えている主がきちんと成長していることをうれしく思った。
間違いに気づき、適切な処理を行う。
これこそ、ローデンが育てたヘンリーだ。
「ヘンリー様の心痛の原因を排除しなければ」
ローデンの心はいつだってヘンリーと共にある。
今ヘンリーが一番苦しんでいる原因、それはきっとあの金づるの事だ。
金でヘンリーの妻の座に座った女。
結局最後は役に立たず、逃げ出した女。
その女が逃げ出したために、なかなか話が進まなかった。
しかし、その行き先も知った。
しかも、こちらに有利になりそうだった。
「あれは失態だった」
今まで、ローデンは失敗したことなどない。
もちろん、あれも自分の失態ではないと思っている。
無能な存在が、失敗しただけだ。
ただし、あの姿の金づる女が保護されていた場合、こちらにも火の粉が降りかかる恐れがある事も、多少は理解している。
しかし、まさか保護されていたのが、今社交界をにぎわせている人物だとは思いもしなかった。
これが吉と出るか凶と出るか。
ただ、一つ分かっていることは、かの人物には味方が少ないという事だ。
特にいきなり上級貴族の仲間入りをしたのだから、その反発はかなりのもの。
かくいうローデンもその一人。
栄えある上級貴族のひとりにたがか平民、しかも傭兵などという存在が紛れ込むなど前代未聞で、不愉快だ。
上級貴族としての在り方など、全く知らない相手を尊重するなどしたくはない。
ローデンの主であるヘンリーも不愉快そうだ。いや、ヘンリーだけでなく、上級来ぞ期のほとんどが、だ。
むしろ歓迎しているのは王族の国王と王太子派だけ。
そんな状態で、歴史ある上級貴族の伯爵家に喧嘩を売るような書状が届いたのだから。、ヘンリーが怒るのも無理はない。
「万が一にも負けることはないだろうな。少なくとも、こちらの方が有利ではある」
男に助けられ、今までかくまわれてきたなど社交界で知れ渡れば、社会的にあの金づるは消せる。
どうせ実家の方にも見捨てられた女だ。
全く得することもないような女に、あの平民である傭兵もすぐさま見限るだろう。
そうすれば、簡単にあの女を始末できる。
いや、地獄は見せなければならない。
ヘンリーをあそこまで追い詰めたのだから。
「旦那、金はいつもの通りでいいな?」
「それで結構」
思考を戻されて、ローデンは答えた。
「では確実にお願いする」
「任せておけよ、俺たちと旦那の仲だろう? 仕事はきちんとこなすことを誰よりもわかっているはずだ」
薄汚い平民風情がと心の中で罵倒し、同意することなく男たちを伯爵邸から追い出した。
本来なら、こんな男たちを伯爵邸に入れたくはなかったが、信用のある下男は先日処分してしまった。
今思えば、一度くらいは慈悲を与えてもよかったかも知れない。
一度の失敗で処分したが、少し機会を与えて様子を見てもよかった。
ふむ、とローデンは立ち止まる。
人を育てるというのは存外時間がかかるのは承知している。
それがローデンの手足となって動けるような人を育てるのは。
ヘンリーの事は誰よりも素晴らしい貴族に育てられたと思っている。
やはり、上級貴族の人間というのは、平民とは違うのだとも再認識した。
過去、息子も娘もいたがどちらも無能でこの家の主人のために仕える喜びを理解できない低能な存在だった。
自分の血を引いているのに、なぜあそこまで何も理解できなかったのか、ローデンには分からない。
おかげで、父から叱責され苛立たしかったのは今でも覚えている。
そこそこの存在に育っていたが、惜しい気持ちよりも切り捨てる気持ちの方が上回り、身一つで追い出したが、それでも温情あるほうだった。
「全く、教育とは難しいものだ。特に低能な人間を躾けるのは骨が折れる」
今日もまた、新たに雇った下女の教育を行わねばならなかった。
しかし、きっと今ヘンリーがこれから教育を行う下女の躾を先んじて行っているに違いない。
「ヘンリー様自ら教育してくださっているのに理解できない女でないことを祈るばかりだ」
ローデンは教育を行っているであろう離れに向かう。
ヘンリーにマリアの事を報告するために。
体格の良い男で、裏の道ではそれなりに信用のある者たちだ。
「どうするんだ?」
「いつものように処理してください。くれぐれも、慎重に。近頃こちらを伺っている愚かな者がいますので」
ローデンは男たちに指示すると静かに部屋を出る。
仕事の早い侍女がお茶の準備をして戻ってきていた。
「マリア様はお休みになるそうです。お茶は結構との事ですので下がってもよろしい」
最近のマリアはすぐに癇癪を起すので、侍女はすぐさま去っていく。
全く、嘆かわしい。
育てたヘンリーがのめり込んでいたから、女主人として優遇してやっていただけだ。
しかし、ヘンリーは目覚めたようだ。
自分の愚かな行為に対して。
ローデンは、自分が心から仕えている主がきちんと成長していることをうれしく思った。
間違いに気づき、適切な処理を行う。
これこそ、ローデンが育てたヘンリーだ。
「ヘンリー様の心痛の原因を排除しなければ」
ローデンの心はいつだってヘンリーと共にある。
今ヘンリーが一番苦しんでいる原因、それはきっとあの金づるの事だ。
金でヘンリーの妻の座に座った女。
結局最後は役に立たず、逃げ出した女。
その女が逃げ出したために、なかなか話が進まなかった。
しかし、その行き先も知った。
しかも、こちらに有利になりそうだった。
「あれは失態だった」
今まで、ローデンは失敗したことなどない。
もちろん、あれも自分の失態ではないと思っている。
無能な存在が、失敗しただけだ。
ただし、あの姿の金づる女が保護されていた場合、こちらにも火の粉が降りかかる恐れがある事も、多少は理解している。
しかし、まさか保護されていたのが、今社交界をにぎわせている人物だとは思いもしなかった。
これが吉と出るか凶と出るか。
ただ、一つ分かっていることは、かの人物には味方が少ないという事だ。
特にいきなり上級貴族の仲間入りをしたのだから、その反発はかなりのもの。
かくいうローデンもその一人。
栄えある上級貴族のひとりにたがか平民、しかも傭兵などという存在が紛れ込むなど前代未聞で、不愉快だ。
上級貴族としての在り方など、全く知らない相手を尊重するなどしたくはない。
ローデンの主であるヘンリーも不愉快そうだ。いや、ヘンリーだけでなく、上級来ぞ期のほとんどが、だ。
むしろ歓迎しているのは王族の国王と王太子派だけ。
そんな状態で、歴史ある上級貴族の伯爵家に喧嘩を売るような書状が届いたのだから。、ヘンリーが怒るのも無理はない。
「万が一にも負けることはないだろうな。少なくとも、こちらの方が有利ではある」
男に助けられ、今までかくまわれてきたなど社交界で知れ渡れば、社会的にあの金づるは消せる。
どうせ実家の方にも見捨てられた女だ。
全く得することもないような女に、あの平民である傭兵もすぐさま見限るだろう。
そうすれば、簡単にあの女を始末できる。
いや、地獄は見せなければならない。
ヘンリーをあそこまで追い詰めたのだから。
「旦那、金はいつもの通りでいいな?」
「それで結構」
思考を戻されて、ローデンは答えた。
「では確実にお願いする」
「任せておけよ、俺たちと旦那の仲だろう? 仕事はきちんとこなすことを誰よりもわかっているはずだ」
薄汚い平民風情がと心の中で罵倒し、同意することなく男たちを伯爵邸から追い出した。
本来なら、こんな男たちを伯爵邸に入れたくはなかったが、信用のある下男は先日処分してしまった。
今思えば、一度くらいは慈悲を与えてもよかったかも知れない。
一度の失敗で処分したが、少し機会を与えて様子を見てもよかった。
ふむ、とローデンは立ち止まる。
人を育てるというのは存外時間がかかるのは承知している。
それがローデンの手足となって動けるような人を育てるのは。
ヘンリーの事は誰よりも素晴らしい貴族に育てられたと思っている。
やはり、上級貴族の人間というのは、平民とは違うのだとも再認識した。
過去、息子も娘もいたがどちらも無能でこの家の主人のために仕える喜びを理解できない低能な存在だった。
自分の血を引いているのに、なぜあそこまで何も理解できなかったのか、ローデンには分からない。
おかげで、父から叱責され苛立たしかったのは今でも覚えている。
そこそこの存在に育っていたが、惜しい気持ちよりも切り捨てる気持ちの方が上回り、身一つで追い出したが、それでも温情あるほうだった。
「全く、教育とは難しいものだ。特に低能な人間を躾けるのは骨が折れる」
今日もまた、新たに雇った下女の教育を行わねばならなかった。
しかし、きっと今ヘンリーがこれから教育を行う下女の躾を先んじて行っているに違いない。
「ヘンリー様自ら教育してくださっているのに理解できない女でないことを祈るばかりだ」
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