8 / 9
8.お互いの事情
しおりを挟む
「さて、ヴィオレッタ。君には礼を言わなければならないな」
「できれば、ルーとお呼びくださいと何度も申し上げているんですが? あなたの頭は鳥頭ですか?」
「可愛げがないね。まあ、そこが君のいいところだけど。なんだか一年前の事を思い出すなぁ」
馬車に相乗りさせてもらっているのは大変ありがたいけど、いい加減特別親しくもない女性の名前を呼ぶのは止めていただきたい。
周囲に誤解を生む。
自慢ではないけど、わたしもツェルナー侯爵も社交界ではかなりの有名人だ。
今日は、その有名人二人が同時に婚約破棄されたので、しばらくはその話題で持ちきりだろうけど、親しげに名前を呼ばれていると、その渦中にわたしも飛び込むことになる。
「一年前、君が乗り込んできた時は驚いたけど、結果的には良かったよ。いや、むしろこちらがお礼をいいたいな」
「言葉ではなく現物支給でお願いします」
「おっと、これは手厳しい」
苦笑しながら、ツェルナー侯爵は懐から封筒に入った手紙をわたしに渡してきた。
「これ、向こう側の領地経営権。でも、君本当にすごい事考えるね。まあ、上手くいけば私にも利益があるから協力したけど」
「ふん、あの強欲ガマガエルにこれ以上いい様にされては堪りません!」
「そうだね。隣国からの唯一の関所のある、ロブドリー公爵は私もいい加減なんとかしたかったんだ」
「だから、彼女と婚約したのでしょう?」
「まあね、結果としたら上々さ」
ふっと口元を吊り上げたツェルナー侯爵。その姿にわたしは多少アメリアに同情した。
この男に目を付けられてのが、運の尽き。
まあ、そのぶん領地は潤ったはずだし、その金で好き勝手やっていたのだから、お互い様ともいう
「皇室も噛んでいるから、困ったものだったよ」
「全く困った顔しておりませんが?」
「それは、誤解というものだよ。さて、これから忙しくなるな。早く売り手を決めておかないと。まあ、もう有力候補は決まっているけどね」
楽しそうに輝きながら口にする言葉は、えげつないの一言。
さすがにわたしだってそこまではしない。
せめて選ばせてやるくらいの優しさはあるのだ。
「アメリア嬢は見た目だけは可憐で庇護欲をそそるから、加虐趣味の男には大人気なんだよね。本性知っても、躾け好きは多いから」
さすがに口元が引きつった。
もっと愛ある方向にはいかなかったのか。
そんなわたしの様子に、ツェルナー侯爵がくすくす笑うが、瞳の輝きが歪んでいた。
「娼館に売って一時的に金銭が増えるよりも、影響力のある男に売った方が、結果的には私にとって有利になるんだから、仕方がないんだよ。ちなみに、一番の筆頭相手を聞きたい?」
「特別興味がないので、結構です」
そう、残念と言いながら、あっさりと引いたが、どうせそのうち噂が流れてくるだろう。
「今回、子爵領を私が手に入れたからロブドリー公爵も黙っていないだろうから、私も皇室に多少の貢物はしておかないとまずいんだよ」
と、思っていたら、半分以上のネタ晴らし。
皇室の方々の性癖など、知りたくないし、聞かなかったことにして、無理矢理話を変えた。
「はじめから回りくどい手を使わずに、さっさと子爵領を手中に収めればよかったじゃないですか」
「お金はあるけど、さすがになんの咎もない子爵家をつぶすには良心が痛むんだよ」
なんて言ってるけど、それが口だけなのは分かっている。
狙いは子爵一家も含めてだろうが、この下種野郎閣下。
そもそも事の起こりは、隣国との唯一の関所のあるロブドリー公爵が代替わりしたところから始まった。
その男は強欲で、輸入品や輸出品にかんして領地独自の関税を取り入れた。
ちなみに、これは違法ではない。
領地経営では、そこを通過する品物に自由に関税をかけていい事になっている。
しかし、やりすぎると多方面からにらまれるので、やっている領地はほとんどいない。もしやるにしても政敵ぐらいだ。
ところが、この新ロブドリー公爵は、自分のところが唯一の関所であると分かっているので、やりたい放題やり出した。
新ロブドリー公爵の奥方は隣国のラットン公国の公女様で、母親は現国王陛下の妹。
そのせいで、苦情を言ったところで流されて、逆に盾突こうとすれば、隣国からの品物は入ってこない。
そんな中、ツェルナー侯爵は王都に向かう最も近い通り道である子爵領を手中に収め、ロブドリー公爵に嫌がらせを始めた。
領地関税をかけたのだ。
そのせいで、完全にロブドリー公爵とツェルナー侯爵が敵対。
そして、ルー商会はツェルナー侯爵の肩を持つことになった。
むしろ、ツェルナー侯爵がルー商会に目を付けたと言ってもいい。
というのも、子爵家の本家である侯爵家の領地を借金の形にあらかた押さえているのがルー商会だったからだ。
皇都に向かうのに通る道はいくつかあるが、その二つを押さえておけば、とりあえず最大限に抑止力になるということだ。
つまり、皇都に向かうための領地すべてを押さえておきたい侯爵と、ロブドリー公爵に対し被害のあるルー商会は手を組むことになった。
その一環で、名乗りを上げたのがわたしという事だ。
まあ、一言でいえば、領地権を完全に手に入れる事。
そして、新たな交易路の確保。
実は試してみたいことがあったので、嬉々として名乗りを上げた。
「まさか、山を削って交易路を作るとか、考えてもみなかったな」
その話をしたときのツェルナー侯爵は、本気で驚いていて、わたしは少しだけうれしかった。
「できれば、ルーとお呼びくださいと何度も申し上げているんですが? あなたの頭は鳥頭ですか?」
「可愛げがないね。まあ、そこが君のいいところだけど。なんだか一年前の事を思い出すなぁ」
馬車に相乗りさせてもらっているのは大変ありがたいけど、いい加減特別親しくもない女性の名前を呼ぶのは止めていただきたい。
周囲に誤解を生む。
自慢ではないけど、わたしもツェルナー侯爵も社交界ではかなりの有名人だ。
今日は、その有名人二人が同時に婚約破棄されたので、しばらくはその話題で持ちきりだろうけど、親しげに名前を呼ばれていると、その渦中にわたしも飛び込むことになる。
「一年前、君が乗り込んできた時は驚いたけど、結果的には良かったよ。いや、むしろこちらがお礼をいいたいな」
「言葉ではなく現物支給でお願いします」
「おっと、これは手厳しい」
苦笑しながら、ツェルナー侯爵は懐から封筒に入った手紙をわたしに渡してきた。
「これ、向こう側の領地経営権。でも、君本当にすごい事考えるね。まあ、上手くいけば私にも利益があるから協力したけど」
「ふん、あの強欲ガマガエルにこれ以上いい様にされては堪りません!」
「そうだね。隣国からの唯一の関所のある、ロブドリー公爵は私もいい加減なんとかしたかったんだ」
「だから、彼女と婚約したのでしょう?」
「まあね、結果としたら上々さ」
ふっと口元を吊り上げたツェルナー侯爵。その姿にわたしは多少アメリアに同情した。
この男に目を付けられてのが、運の尽き。
まあ、そのぶん領地は潤ったはずだし、その金で好き勝手やっていたのだから、お互い様ともいう
「皇室も噛んでいるから、困ったものだったよ」
「全く困った顔しておりませんが?」
「それは、誤解というものだよ。さて、これから忙しくなるな。早く売り手を決めておかないと。まあ、もう有力候補は決まっているけどね」
楽しそうに輝きながら口にする言葉は、えげつないの一言。
さすがにわたしだってそこまではしない。
せめて選ばせてやるくらいの優しさはあるのだ。
「アメリア嬢は見た目だけは可憐で庇護欲をそそるから、加虐趣味の男には大人気なんだよね。本性知っても、躾け好きは多いから」
さすがに口元が引きつった。
もっと愛ある方向にはいかなかったのか。
そんなわたしの様子に、ツェルナー侯爵がくすくす笑うが、瞳の輝きが歪んでいた。
「娼館に売って一時的に金銭が増えるよりも、影響力のある男に売った方が、結果的には私にとって有利になるんだから、仕方がないんだよ。ちなみに、一番の筆頭相手を聞きたい?」
「特別興味がないので、結構です」
そう、残念と言いながら、あっさりと引いたが、どうせそのうち噂が流れてくるだろう。
「今回、子爵領を私が手に入れたからロブドリー公爵も黙っていないだろうから、私も皇室に多少の貢物はしておかないとまずいんだよ」
と、思っていたら、半分以上のネタ晴らし。
皇室の方々の性癖など、知りたくないし、聞かなかったことにして、無理矢理話を変えた。
「はじめから回りくどい手を使わずに、さっさと子爵領を手中に収めればよかったじゃないですか」
「お金はあるけど、さすがになんの咎もない子爵家をつぶすには良心が痛むんだよ」
なんて言ってるけど、それが口だけなのは分かっている。
狙いは子爵一家も含めてだろうが、この下種野郎閣下。
そもそも事の起こりは、隣国との唯一の関所のあるロブドリー公爵が代替わりしたところから始まった。
その男は強欲で、輸入品や輸出品にかんして領地独自の関税を取り入れた。
ちなみに、これは違法ではない。
領地経営では、そこを通過する品物に自由に関税をかけていい事になっている。
しかし、やりすぎると多方面からにらまれるので、やっている領地はほとんどいない。もしやるにしても政敵ぐらいだ。
ところが、この新ロブドリー公爵は、自分のところが唯一の関所であると分かっているので、やりたい放題やり出した。
新ロブドリー公爵の奥方は隣国のラットン公国の公女様で、母親は現国王陛下の妹。
そのせいで、苦情を言ったところで流されて、逆に盾突こうとすれば、隣国からの品物は入ってこない。
そんな中、ツェルナー侯爵は王都に向かう最も近い通り道である子爵領を手中に収め、ロブドリー公爵に嫌がらせを始めた。
領地関税をかけたのだ。
そのせいで、完全にロブドリー公爵とツェルナー侯爵が敵対。
そして、ルー商会はツェルナー侯爵の肩を持つことになった。
むしろ、ツェルナー侯爵がルー商会に目を付けたと言ってもいい。
というのも、子爵家の本家である侯爵家の領地を借金の形にあらかた押さえているのがルー商会だったからだ。
皇都に向かうのに通る道はいくつかあるが、その二つを押さえておけば、とりあえず最大限に抑止力になるということだ。
つまり、皇都に向かうための領地すべてを押さえておきたい侯爵と、ロブドリー公爵に対し被害のあるルー商会は手を組むことになった。
その一環で、名乗りを上げたのがわたしという事だ。
まあ、一言でいえば、領地権を完全に手に入れる事。
そして、新たな交易路の確保。
実は試してみたいことがあったので、嬉々として名乗りを上げた。
「まさか、山を削って交易路を作るとか、考えてもみなかったな」
その話をしたときのツェルナー侯爵は、本気で驚いていて、わたしは少しだけうれしかった。
216
お気に入りに追加
4,353
あなたにおすすめの小説
婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~
みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。
全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。
それをあざ笑う人々。
そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません
編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。
最後に取ったのは婚約者でした。
ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。
結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様
新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。
皆様ごきげんよう。悪役令嬢はこれにて退場させていただきます。
しあ
恋愛
「クラリス=ミクランジェ、君を国宝窃盗容疑でこの国から追放する」
卒業パーティで、私の婚約者のヒルデガルト=クライス、この国の皇太子殿下に追放を言い渡される。
その婚約者の隣には可愛い女の子がーー。
損得重視の両親は私を庇う様子はないーーー。
オマケに私専属の執事まで私と一緒に国外追放に。
どうしてこんなことに……。
なんて言うつもりはなくて、国外追放?
計画通りです!国外で楽しく暮らしちゃいますね!
では、皆様ごきげんよう!
【完結済み】妹の婚約者に、恋をした
鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。
刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。
可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。
無事完結しました。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる