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3.頭を悩ませる面倒な女
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面倒なフランツとのやり取りを終わらせて、ふーっと身を深くして座っていると、いきなりガチャリとドアが開いた。
瞬時にルーナが立ちはだかる。
「あら、お嬢様。お嬢様は、全く礼儀がなっていないようですね? ドアをノックもせずに開けるなんて、庶民の子供でもしませんわ」
馬鹿にする態度で、ルーナが見下すのは、頭を悩ませる存在その二、アメリアだった。
入室の許可は出していないのに、そんな礼儀はわたしには不要だとでも言うように、背後にこの侯爵家に古くから仕える、フランツの乳母であり、この屋敷の侍女統括でもある、カタリナ夫人を従えて入って来る。
「あ、ごめんなさい。フランツの声が聞こえたので、居るのかと思って。ほら、わたくしこの家にずっといるから、第二の我が家みたいなもので。いつも自由にしていたから、うっかりしていたの。ごめんなさいね? でも自分の家のドアをノックして入らないでしょう? それと同じなの」
ピクリとルーナが反応して言い返そうとするところを、静止した。
いつもの事なので、相手にしていたらキリがない。
アメリアは何も言っていないのに、先ほどまでフランツが座っていた席に座った。
もちろん許可は出していない。
「あの、ヴィオレッタ……フランの事を謝るわ。フランはわたくしの事を心配しているだけなのよ。だから、気を悪くしないでね。結婚とかとんでもない事だわ。わたくしの家はフランとは釣り合わないのは分かっているの。しがない子爵だし。それにお金もないし、見た目にしか価値がないのは分かっているの」
つまり、貴族でもなくお金しか能のない女と言いたいのかしら? それとも、自分の方が容姿が上だとマウント取りたいの?
「でもね、フランにはちゃんと言い聞かせているの。夢を見るのはおしまいよって。いくらわたくしの方がフランの事を分かっているからと言っても、婚約者をないがしろにするのは良くないと。だから、ヴィオレッタももう少し寛大な気持ちでフランを許してあげてね?」
可愛らしく首を傾け、眉尻を下げて許しを請う姿は、いかにも庇護欲がそそる。
うん、これなら男はコロッと騙されるだろう。
言っている事は、なかなか悪意あるけど、これ天然なのかしら……と思うのは一年前で終わっている。
「それでね、やはり身分の低いあなたから歩み寄っていかないとだめだと思うのよ! 侯爵家のみんなはすごくいい人ばかりなのに、あなたってば、あれこれ言いつけて我儘を言っているのでしょう? それが反感をかっているの。本当はこんな事言いたくないんだけど、やっぱり誰かは言わないとでしょう? でも、嫌な気持ちにならないでね」
上目遣いで、伺う様子に、口元が引きつりそうになりながらなんとか耐えたわたしの精神力を誰か褒めてほしい。
それにあれこれ言って我儘を言っているとアメリアは言うが、真っ当な事しか言っていない。仕事をさぼっている下女を叱ったり、言われたことが出来ない侍女に物申したり、その程度。まあ、その過程で首にされたくなかったらしっかり働けとにニュアンスを含んでいたのはご愛嬌。
だけど一つ言いたいのは、侯爵家の人間に言われるならともかく、まるで女主人のように振る舞っている、ただの親戚である子爵令嬢であるアメリアが口に出すべきことではない。
いつもそうだ。
フランツがわたしに苦言を呈しに来ると、アメリアはフランツの事を謝りつつ、事あるごとにわたしを庶民で礼儀を知らない、厄介な女として扱ってくる。
それで仲良くなりたい、自分が教えてあげると言われても、素直に、はいそうですか、よろしくお願いします、なんて口にしたくもない。
「実は、わたくし提案があるのよ。カタリナ夫人をあなたの筆頭侍女にしてはどうかと。だって、カタリナ夫人ほどこの家の事に精通している人はいないの。わたくしの第二の母なのよ。フランと一緒にいつも可愛がってくださって……、だからきっと力になってくれると思うの!」
「アメリアお嬢様! そこまで気を使う必要性はありませんよ。お嬢様は貴族、ヴィオレッタ様は貴族ではないのですから」
「そんな事言っちゃだめよ。それに、カタリナ夫人がヴィオレッタについてくれたら、きっとヴィオレッタも侯爵家の事をもっと考えてくれるわ! 色々と教えてあげてほしいのよ。お願い、カタリナ夫人」
「――結構ですわ」
そう思わず言ってしまった。
瞬時にルーナが立ちはだかる。
「あら、お嬢様。お嬢様は、全く礼儀がなっていないようですね? ドアをノックもせずに開けるなんて、庶民の子供でもしませんわ」
馬鹿にする態度で、ルーナが見下すのは、頭を悩ませる存在その二、アメリアだった。
入室の許可は出していないのに、そんな礼儀はわたしには不要だとでも言うように、背後にこの侯爵家に古くから仕える、フランツの乳母であり、この屋敷の侍女統括でもある、カタリナ夫人を従えて入って来る。
「あ、ごめんなさい。フランツの声が聞こえたので、居るのかと思って。ほら、わたくしこの家にずっといるから、第二の我が家みたいなもので。いつも自由にしていたから、うっかりしていたの。ごめんなさいね? でも自分の家のドアをノックして入らないでしょう? それと同じなの」
ピクリとルーナが反応して言い返そうとするところを、静止した。
いつもの事なので、相手にしていたらキリがない。
アメリアは何も言っていないのに、先ほどまでフランツが座っていた席に座った。
もちろん許可は出していない。
「あの、ヴィオレッタ……フランの事を謝るわ。フランはわたくしの事を心配しているだけなのよ。だから、気を悪くしないでね。結婚とかとんでもない事だわ。わたくしの家はフランとは釣り合わないのは分かっているの。しがない子爵だし。それにお金もないし、見た目にしか価値がないのは分かっているの」
つまり、貴族でもなくお金しか能のない女と言いたいのかしら? それとも、自分の方が容姿が上だとマウント取りたいの?
「でもね、フランにはちゃんと言い聞かせているの。夢を見るのはおしまいよって。いくらわたくしの方がフランの事を分かっているからと言っても、婚約者をないがしろにするのは良くないと。だから、ヴィオレッタももう少し寛大な気持ちでフランを許してあげてね?」
可愛らしく首を傾け、眉尻を下げて許しを請う姿は、いかにも庇護欲がそそる。
うん、これなら男はコロッと騙されるだろう。
言っている事は、なかなか悪意あるけど、これ天然なのかしら……と思うのは一年前で終わっている。
「それでね、やはり身分の低いあなたから歩み寄っていかないとだめだと思うのよ! 侯爵家のみんなはすごくいい人ばかりなのに、あなたってば、あれこれ言いつけて我儘を言っているのでしょう? それが反感をかっているの。本当はこんな事言いたくないんだけど、やっぱり誰かは言わないとでしょう? でも、嫌な気持ちにならないでね」
上目遣いで、伺う様子に、口元が引きつりそうになりながらなんとか耐えたわたしの精神力を誰か褒めてほしい。
それにあれこれ言って我儘を言っているとアメリアは言うが、真っ当な事しか言っていない。仕事をさぼっている下女を叱ったり、言われたことが出来ない侍女に物申したり、その程度。まあ、その過程で首にされたくなかったらしっかり働けとにニュアンスを含んでいたのはご愛嬌。
だけど一つ言いたいのは、侯爵家の人間に言われるならともかく、まるで女主人のように振る舞っている、ただの親戚である子爵令嬢であるアメリアが口に出すべきことではない。
いつもそうだ。
フランツがわたしに苦言を呈しに来ると、アメリアはフランツの事を謝りつつ、事あるごとにわたしを庶民で礼儀を知らない、厄介な女として扱ってくる。
それで仲良くなりたい、自分が教えてあげると言われても、素直に、はいそうですか、よろしくお願いします、なんて口にしたくもない。
「実は、わたくし提案があるのよ。カタリナ夫人をあなたの筆頭侍女にしてはどうかと。だって、カタリナ夫人ほどこの家の事に精通している人はいないの。わたくしの第二の母なのよ。フランと一緒にいつも可愛がってくださって……、だからきっと力になってくれると思うの!」
「アメリアお嬢様! そこまで気を使う必要性はありませんよ。お嬢様は貴族、ヴィオレッタ様は貴族ではないのですから」
「そんな事言っちゃだめよ。それに、カタリナ夫人がヴィオレッタについてくれたら、きっとヴィオレッタも侯爵家の事をもっと考えてくれるわ! 色々と教えてあげてほしいのよ。お願い、カタリナ夫人」
「――結構ですわ」
そう思わず言ってしまった。
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