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2.婚約の事情

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「そうね、今が一番いいところなのに。それにわたしがいなくなったら計画がとん挫してしまうわ。この侯爵家には領地を気にかける人はいないんだから」
「だからと言って、ヴィオレッタ様がたった一年で収益を上げたそれを半分以上持っていかれるのは我慢なりません!」
「それが、契約だったから仕方ないわ。まあ、まだ婚約者としてお披露目されていないので、婚約破棄してもダメージは少ないわ。理想は向こうから言ってくれる事だけど」

 実はこの婚約にはいろいろと裏があり、未だに正式に婚約者としてお披露目していないので、わたしがフランツの婚約者という知名度はない。
 フランツの方も、恋する相手と結婚出来ない悲劇の男を気取って、心の中で思う事は自由とでも思っているのか、それとも、気に食わない相手と婚約している事実がいやなのか、口外していない。

 障害があれば燃え上がるのが、恋というものなのか、二人の関係は明らかに恋人同士のようだった。
 人目を気にせず、お茶会やら、舞踏会やら派手に遊んでいる。
 しかも、アメリアの着るドレスはなぜか全部フランツがお金を出していた。
 婚約者でもない、直系の家族でもないのに、ふつうはそんなことしない。
 そのお金がどこから生み出されているのか少しは考えてほしい。

 当初はわたしも仲の良い従姉くらいにしか思わなかったが、侯爵家では彼女の地位が深層の令嬢で、坊ちゃまフランツの大事なお姫様だった。
 そのため、この侯爵家にきてすぐに敵意を感じ、わたしが二人の仲を妨害する悪女的位置づけだったのはすぐに分かった。
 それを先導しているような存在が、アメリアである事も。
 ただし、先に言うが、そもそもアメリアはわたしがフランツと婚約した頃には、金持ちの侯爵様と婚約していた。
 付け加えるなら、アメリアは婚約時すでに行き遅れと言われるような年齢であり、侯爵様は結婚適齢期。
 一年以上の婚約期間を置くのが習わしだとしても、そろそろ結婚してもおかしくない。

 そんな相手をまるで自分の恋人のように連れまわしているフランツはある意味、その侯爵様から恨まれるのではないかとも思った。
 なので、やんわりと言った。
 そう、やんわりと。

 具体的には、人目のあるところでは気にしてほしい事と、彼女へのプレゼントは婚約者のやる事である事。

 そうすると、出るわ出るわの大批判。
 曰く、アメリアは従姉で子爵令嬢だが、この侯爵家で育ち侯爵家の令嬢のような存在で庶民のわたしとは違って繊細である。
 曰く、アメリアは美しい心と容姿をもっているがゆえに不幸にも年上の金持ち侯爵に買われてしまった。この先不幸になるのだから、結婚前くらいには楽しい思いをさせてやりたい。
 曰く、アメリアは最高級で華やかな品しか合わないのに、地味でセンスのない贈り物でアメリアを大事にするそぶりも見せない。だから、自分がアメリアを大事にするのだ。

 繊細な令嬢は、男に媚び売って生きてはいかないし、年上の侯爵と言ってはいるが、その差は四つで、むしろ理想的な年の差だ。地味でセンスのない贈り物であろうと、何もプレゼントをしないお前よりましだけど?と言いたかったが、呆気にとられて、呆然として、こいつ馬鹿なのかと真剣に悩んだ結果、沈黙でしか答えられなかったのは遠い過去の出来事。
 その沈黙でわたしを言いくるめたと勘違いした馬鹿――フランツは、わたしの了承があったのだと思い込み、さらに頻繁にアメリアを連れ出して、二人の距離感は以前より近くなった。

 もちろんアメリアも、婚約に満足していないからこそ、フランツを受け入れている。もともと、恋心はあったのかも知れないけど、婚約しているのだから少しは自重すべきこと。
 しかも相手は高位貴族なのだから。
 もし何か言われても、言い訳はきっとフランツがするような言い訳だ。
 従弟と出かけているだけだと。
 言い訳としては妥当だけど、それを相手が信じてくれるかはまた別だ。

 そうして二人の後ろを眺める事約一年。
 何度か物申したけど変わる事はない。
 そのうち恋人ごっこに飽きるだろうと思っていたのに、どんどん熱を帯びていく二人に、結局わたしが出した結論は、『あー、こいつら無理だわ』だった。
 

 
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