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39.未来への歩み
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『勝負は初めから決まっていたと思うのよね』
過去に、アメルとデリックの試験の勝負について話を聞いたアイリーンがそう言った。
当初、それはアメルとデリックの試験結果の話だと思っていたが、それは未来を示唆していたのだと、最近アメルは気づいた。
「結局、恋に奥手気味なアメルじゃあ、デリックから逃げるのは不可能だったって事ね」
何人もの人に真っ白なドレスを着つけられ、髪を結われ、化粧を施されているのは今日の主役である、アメルだ。
その姿をうれしそうにアイリーンが眺めている。
「アイリーン、わたしは別にデリックから逃げきれなかったわけじゃなくて、自分で選んだ結果だから――」
「うんうん、分かってるって」
今日はアメルとデリックの結婚式だ。
今日を迎えるにあたって色々とあったが、今となってはそれも懐かしい。
「家の方も大丈夫なんでしょう?」
「無理に継がなくてもいいとはずっと言われていたけど、ディール公爵の爵位は王家に返上することが正式に決まったから」
もともと、そうなる予定ではあったらしいのだが、周囲がそれに待ったをかけた。
一応筆頭公爵家であったディール家が失われるのは、国民感情がどうとか色々言われていた。
しかし、最終的には跡継ぎ不在ということを掲げて王家に返上し、領地もそのまま王領となる。
いつか王家の子供たちの誰かが臣籍降下する際に、渡される予定だ。。
「デリックにしてみたら、気が気じゃなかったでしょうね。いつアメルがルングレム王国に帰ってしまうか分からなかったし。必死に取り入ってる姿は笑いものだったわ」
愛されてるわねぇ、とからかいを含んだ声音に、アメルは唇を尖らせた。
「デリックの告白を受け入れた後も色々うるさかったから、信用されてないって思ったものだわ」
「まあまあ、そんな顔しないで。ほらそろそろ時間」
追い立てられるようにアメルはヴェールを被る。
アメルは結婚を考えたことがなかった。
それは、今は修道院に預けられている従姉の姿を見ていたから。
それに、その周囲の男性陣の姿を見ていれば、将来こんな中から選ばなくちゃいけない事を思うと、絶望しかなかった。
しかし、アーバント帝国に来てから、アメルの考えは変わっていった。
リディアやアイザックが留学という名目でアーバント帝国にやって来た時、リディアではなくアメルを常に守ってくれていた。
それから少しずつ意識し出して、告白されて――。
「すごく綺麗だ」
隣に並ぶ新郎のデリックが、うっとりとアメルを見つめた。
「デリックも、すごく格好いいわ」
ノイマン家は大貴族であるがゆえに敵も多い。
だからこそ、堂々として立っていなければならない。
ただ面倒だから、という理由で相手に従う事はできないのだ。
立ち向かっていくことも必要だが、デリックはこの先もずっと自分の味方でいてくれるはずだ。
命令するのではなく、お互いを尊重し、敬い生きて行く。
そして、アメルは上に立つ者として自覚をしっかり持っていくことを心に誓った。
「何を考えてる?」
「ちょっと、反面教師についてかな?」
「すごく気になるところだが、今は我慢しよう。この先いくらでも聞く機会があるからな」
デリックの腕に導かれ、日の当たる場所でアメルは背筋を伸ばした。
そして、過去に囚われる事なく、ゆっくりと歩み出した。
過去に、アメルとデリックの試験の勝負について話を聞いたアイリーンがそう言った。
当初、それはアメルとデリックの試験結果の話だと思っていたが、それは未来を示唆していたのだと、最近アメルは気づいた。
「結局、恋に奥手気味なアメルじゃあ、デリックから逃げるのは不可能だったって事ね」
何人もの人に真っ白なドレスを着つけられ、髪を結われ、化粧を施されているのは今日の主役である、アメルだ。
その姿をうれしそうにアイリーンが眺めている。
「アイリーン、わたしは別にデリックから逃げきれなかったわけじゃなくて、自分で選んだ結果だから――」
「うんうん、分かってるって」
今日はアメルとデリックの結婚式だ。
今日を迎えるにあたって色々とあったが、今となってはそれも懐かしい。
「家の方も大丈夫なんでしょう?」
「無理に継がなくてもいいとはずっと言われていたけど、ディール公爵の爵位は王家に返上することが正式に決まったから」
もともと、そうなる予定ではあったらしいのだが、周囲がそれに待ったをかけた。
一応筆頭公爵家であったディール家が失われるのは、国民感情がどうとか色々言われていた。
しかし、最終的には跡継ぎ不在ということを掲げて王家に返上し、領地もそのまま王領となる。
いつか王家の子供たちの誰かが臣籍降下する際に、渡される予定だ。。
「デリックにしてみたら、気が気じゃなかったでしょうね。いつアメルがルングレム王国に帰ってしまうか分からなかったし。必死に取り入ってる姿は笑いものだったわ」
愛されてるわねぇ、とからかいを含んだ声音に、アメルは唇を尖らせた。
「デリックの告白を受け入れた後も色々うるさかったから、信用されてないって思ったものだわ」
「まあまあ、そんな顔しないで。ほらそろそろ時間」
追い立てられるようにアメルはヴェールを被る。
アメルは結婚を考えたことがなかった。
それは、今は修道院に預けられている従姉の姿を見ていたから。
それに、その周囲の男性陣の姿を見ていれば、将来こんな中から選ばなくちゃいけない事を思うと、絶望しかなかった。
しかし、アーバント帝国に来てから、アメルの考えは変わっていった。
リディアやアイザックが留学という名目でアーバント帝国にやって来た時、リディアではなくアメルを常に守ってくれていた。
それから少しずつ意識し出して、告白されて――。
「すごく綺麗だ」
隣に並ぶ新郎のデリックが、うっとりとアメルを見つめた。
「デリックも、すごく格好いいわ」
ノイマン家は大貴族であるがゆえに敵も多い。
だからこそ、堂々として立っていなければならない。
ただ面倒だから、という理由で相手に従う事はできないのだ。
立ち向かっていくことも必要だが、デリックはこの先もずっと自分の味方でいてくれるはずだ。
命令するのではなく、お互いを尊重し、敬い生きて行く。
そして、アメルは上に立つ者として自覚をしっかり持っていくことを心に誓った。
「何を考えてる?」
「ちょっと、反面教師についてかな?」
「すごく気になるところだが、今は我慢しよう。この先いくらでも聞く機会があるからな」
デリックの腕に導かれ、日の当たる場所でアメルは背筋を伸ばした。
そして、過去に囚われる事なく、ゆっくりと歩み出した。
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