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36.久しぶりの故郷

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「久しぶりだね、アメルの留学前に会ったのが最後か?」

 アーバント帝国から海路でやってくると、一番近い港はリンデルス伯爵領にある港だ。
 そのため、アメルの案内でリンデルス伯爵邸にデリックは招待された。
 
 そこで、アメルの父親であるリンデルス伯爵が歓迎してくれる。

「ご無沙汰しております、リンデルス伯爵。いえ、もうディール公爵とお呼びした方がよろしいでしょうか?」
「いやいや、まだ正式に継いだわけではないからね。それに、しばらくはリンデルス伯爵家の称号も私が持つことになる」

 リンデルス伯爵家の次期跡取りは、まだ未成年。
 そのため、彼が成人するまではアメルの父親がどちらの称号も持つことになる。

「アメルは迷惑かけていないか?」
「そんな事はありません。学業に関しても、優秀ですので心配なさらないでください」
「デリック、余計な事いわなくていいから」

 なんとなく気恥ずかしい。

「それよりも! お父様は王都にいるものだとばかり思っていたんだけど」

 今、父親が忙しのはよく分かっている。
 貴族全体を巻き込んだ、摘発がいくつも行われ、貴族派閥は弱体化し、王宮内の人事も相当変わってきていると聞いた。

「要人の護送のため――といえば聞こえはいいが、十日前にアイザック様とリディアたちを乗せた船が着いてね。その件で、こちらにいたのだよ」

 彼らはすでにその身分をほぼ剥奪されていると言っても過言ではない。
 しかし、それでも今回ルングレム王国で起きた大規模な粛清の中心にいた彼らが、暗殺されるなどというようなことになれば、それはそれで厄介。

 そのため、リンデルス伯爵でありディール公爵となる父親が、彼らを王都に護送するための陣頭指揮に立っていたというわけだ。

「親族の行ったことです。心中お察しします」
「親族とは言っても、兄とは折り合い悪かったからね。こんなことになっても、自業自得だという感情しかない。しかし、リディアの言動は兄たちの教育のせいでもある。しっかりと厳しく躾けられていたら、こんな結末にはならなかっただろう」

 子供の教育というのは重要だ。
 ディール公爵夫妻が甘やかした結果、リディアは増長し成長したというのも事実。

「嘆願書を提出しのも、全部が全部子供だけのせいではないと思ったからだ。子供は悪いことはすぐに覚える。それを諭し導く存在となれる大人が必要だ。リディアは私の姪でもあった。兄と確執があっても、関わり合いを持てるはずではあったが……」
「それはお父様のせいではないわ。何か注意したところで、どうせリディアはすぐに伯父様たちに文句を言ったはずだもの」
「それは事実だろうが、それでも言わなければならない時に何も言わないのは罪だと私は思う。もしかしたら、少しは考える可能性もあるだろう?」

 あのリディアがそんな風にかわるとは思えないが、会話は大事だと言うことは理解できる。
 はじめから拒否していては、前に進めない。

「この先、ルングレム王国はどのように?」
「第二王子殿下は、思慮深く公平なお方だ。次代交代まではまだまだ時間もあるだろう。その間に腐敗は取り除いていく。簡単なことではないが、ルングレム王国も変わらねばならん」
「リディアたちはどうなるのですか?」

 嘆願書を提出したとは言っても、貴族としての地位は失い、おそらく修道院あたりに送られるのではないかとアメルは想像していた。

「色々と罪状もつくため、貴族としての地位は剥奪。そして、女性修道院へ預けられることになるだろう。アイザック様は第二王子殿下の妨げにならないように、王族の地位は剥奪され、生涯離宮で監禁されることになる」

 それが妥当なところなのだろう。
 生きていれば、旗印として利用されないとも限らないが、そこは親の情もあったのかもしれない。

 一人の貴族――つまりリディアの父親が全ての責任を取る形で毒胚を煽ったと聞いたので、それによって生かされたということだ。

「さて、私は少々忙しくてな。アメル、デリックの世話はお前に任せる。そうだ、ノイマン家からの手紙を受け取っているが、あとで商談の話をしておきたい。晩餐の後になるが、少し時間をとれるかね?」
「問題ありません。むしろお忙しい中時間をとっていただきありがとうございます」

 デリックが礼を言うのと同時に、父親が席を立つ。

「アーバント帝国に比べれば何もない田舎だが、ゆっくりしていってくれ。アメル、あとは頼めるな?」
「はい」

 デリックの世話はアメルに一任されたが、もとよりそのつもりだったので、はっきりと頷いた。

 

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