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34.押しの強さ
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「この数日は散々だった」
帰宅後に漏らしたデリックに、アメルは苦笑した。
確かにデリックは散々だったかもしれないと。
「ごめん、結局色々巻き込んだね」
「好きで巻き込まれたから別にいい」
目を閉じてソファに深々と座ると、長い足を投げ出した。
「なんで俺がお前から救われなくちゃいけなんだよ、そこからおかしいだろうが」
大使がようやく重い腰をあげ、リディアやアイザックを連れて行ったわけだが、その間リディアと会うたびに、リディアがデリックに絡んでいた。
学校内でのヒエラルキー上位であるデリックが自分のものになれば、気分がいいし、なによりアメルから奪い取れたという優越感も味わえる。
そのために、デリックはアメルによって洗脳されている、わたしの言っていることが正しい、どうか話を聞いてほしい、ととにかく面倒な事になっていた。
「周りの男どもが情報を渡しているせいか、学校内では逃げるに逃げられん」
思い出しただけでも眉間に皺が寄りそなほど、うんざりしている。
女子たちには総無視されているものの、男子たちからはなぜか崇拝されているようなリディアが頼めば、それこそ使用人のようにリディアに付き従う。
そこには、リディアが望む情報だってある。
「しばらく休んだらよかったのに」
「それはそれで逃げたみたいだろ」
本音では、自分がいない間にリディアにアメルが傷つけられないか心配だっただけだった。
側にはアイリーンもいるから早々変なことはおきないと分かっていたが、それでもできるだけ自分が守りたいと思っていた。
そんな男心をアメルが理解しているのかというと、全く気付いていないが。
「そういえば、あいつらはルングレム王国ではどんな扱いになるんだ?」
「アイザック様は、次期国王にふさわしくないとして廃嫡される予定みたい。アーバンド帝国では、散々ルングレム王国の悪評を流してたみたいだし」
アイザックは知らなかったが、アーバンド帝国では国民間での情報網がすごい。
そのため、アイザックたちの自堕落な女性との日常は、帝都中に広まっていたりする。
実は、何度も低俗な娯楽新聞に取り上げられていたりするのだが、彼らが手にするのはお上品な新聞ばかりだったので、知らなかった。
そして、新聞の取捨選択をしているのはホテル側――つまり、デリックだったというわけで、彼らに情報規制を仕掛けていた。
「リディアは、ルングレム王国の王族費を勝手に使い込んだ容疑で、貴族から平民になるみたい。ディール公爵家も借金まみれで爵位を返上する流れもあったんだけど、そこはお父様が引き受けたって書いてある」
リンデルス伯爵である父にとってもたら、ディール公爵家は生家だ。
どれだけ借金にまみれていようとも、両親が守ってきた家を無くしたいわけではないようだ。
すべての借金を自らの財で返済し、名実ともに公爵家の実権を握った。
「アメルは、この先公爵令嬢か?」
「そうなるけど、実感がわかないというか……」
実は、すでに有象無象の貴族がリンデルス伯爵であった父に取り入ろうとしているらしい。
その影響はおそらくアメルにもあるはずだと手紙には書かれていた。
今まで、ルングレム王国の年近い令息令嬢はリディアがアメルを冷遇していたので、それに倣っていた。
しかし、今やアメルは建国以来の筆頭公爵家の令嬢となり、リディアは平民に落ちぶれた。
まさかこんな結果になるとは思っていなかった彼らは、気まずい中でも自らの弁明のために多くの贈り物をしてきているとか。
「新たな王太子内定の式典があるから一度は戻らないといけないんだけど、少し憂鬱かも」
しかし、これでアメルはディール公爵家の筆頭相続人になった。
デリックは、これはこれでまずい展開だと脳裏で考えを巡らせていた。
「継ぐのか?」
「お父様は無理には継がなくていいって言ってるの。そもそも、わたしは跡継ぎ教育を受けていないし、婿養子をとってもいいけど、わたしの事を嘲笑っていた人たちの中から選びたくないし」
リンデルス伯爵家は母親の実家であり、次期伯爵は母の妹の息子にすでに決まっている。
ディール公爵家を父親が統べることになったのは、想定外でアメルにとっても実感がわかない。
「とりあえず、まだまだ先の話だしゆっくり考える。お父様とも話をしなくちゃいけないし」
「だったら俺も一緒に行ってもいいか? 面倒な男に絡まれるくらいなら、俺が側にいれば盾にもなるし」
というか、側には寄らせない。
「うーん、散々迷惑かけたのに、ちょっと気が引けるんだけど」
「いいから、素直に甘えておけよ」
断ってもデリックの意思は変わらないと感じたアメルは、最終的にはデリックと共にルングレム王国に戻ることになった。
帰宅後に漏らしたデリックに、アメルは苦笑した。
確かにデリックは散々だったかもしれないと。
「ごめん、結局色々巻き込んだね」
「好きで巻き込まれたから別にいい」
目を閉じてソファに深々と座ると、長い足を投げ出した。
「なんで俺がお前から救われなくちゃいけなんだよ、そこからおかしいだろうが」
大使がようやく重い腰をあげ、リディアやアイザックを連れて行ったわけだが、その間リディアと会うたびに、リディアがデリックに絡んでいた。
学校内でのヒエラルキー上位であるデリックが自分のものになれば、気分がいいし、なによりアメルから奪い取れたという優越感も味わえる。
そのために、デリックはアメルによって洗脳されている、わたしの言っていることが正しい、どうか話を聞いてほしい、ととにかく面倒な事になっていた。
「周りの男どもが情報を渡しているせいか、学校内では逃げるに逃げられん」
思い出しただけでも眉間に皺が寄りそなほど、うんざりしている。
女子たちには総無視されているものの、男子たちからはなぜか崇拝されているようなリディアが頼めば、それこそ使用人のようにリディアに付き従う。
そこには、リディアが望む情報だってある。
「しばらく休んだらよかったのに」
「それはそれで逃げたみたいだろ」
本音では、自分がいない間にリディアにアメルが傷つけられないか心配だっただけだった。
側にはアイリーンもいるから早々変なことはおきないと分かっていたが、それでもできるだけ自分が守りたいと思っていた。
そんな男心をアメルが理解しているのかというと、全く気付いていないが。
「そういえば、あいつらはルングレム王国ではどんな扱いになるんだ?」
「アイザック様は、次期国王にふさわしくないとして廃嫡される予定みたい。アーバンド帝国では、散々ルングレム王国の悪評を流してたみたいだし」
アイザックは知らなかったが、アーバンド帝国では国民間での情報網がすごい。
そのため、アイザックたちの自堕落な女性との日常は、帝都中に広まっていたりする。
実は、何度も低俗な娯楽新聞に取り上げられていたりするのだが、彼らが手にするのはお上品な新聞ばかりだったので、知らなかった。
そして、新聞の取捨選択をしているのはホテル側――つまり、デリックだったというわけで、彼らに情報規制を仕掛けていた。
「リディアは、ルングレム王国の王族費を勝手に使い込んだ容疑で、貴族から平民になるみたい。ディール公爵家も借金まみれで爵位を返上する流れもあったんだけど、そこはお父様が引き受けたって書いてある」
リンデルス伯爵である父にとってもたら、ディール公爵家は生家だ。
どれだけ借金にまみれていようとも、両親が守ってきた家を無くしたいわけではないようだ。
すべての借金を自らの財で返済し、名実ともに公爵家の実権を握った。
「アメルは、この先公爵令嬢か?」
「そうなるけど、実感がわかないというか……」
実は、すでに有象無象の貴族がリンデルス伯爵であった父に取り入ろうとしているらしい。
その影響はおそらくアメルにもあるはずだと手紙には書かれていた。
今まで、ルングレム王国の年近い令息令嬢はリディアがアメルを冷遇していたので、それに倣っていた。
しかし、今やアメルは建国以来の筆頭公爵家の令嬢となり、リディアは平民に落ちぶれた。
まさかこんな結果になるとは思っていなかった彼らは、気まずい中でも自らの弁明のために多くの贈り物をしてきているとか。
「新たな王太子内定の式典があるから一度は戻らないといけないんだけど、少し憂鬱かも」
しかし、これでアメルはディール公爵家の筆頭相続人になった。
デリックは、これはこれでまずい展開だと脳裏で考えを巡らせていた。
「継ぐのか?」
「お父様は無理には継がなくていいって言ってるの。そもそも、わたしは跡継ぎ教育を受けていないし、婿養子をとってもいいけど、わたしの事を嘲笑っていた人たちの中から選びたくないし」
リンデルス伯爵家は母親の実家であり、次期伯爵は母の妹の息子にすでに決まっている。
ディール公爵家を父親が統べることになったのは、想定外でアメルにとっても実感がわかない。
「とりあえず、まだまだ先の話だしゆっくり考える。お父様とも話をしなくちゃいけないし」
「だったら俺も一緒に行ってもいいか? 面倒な男に絡まれるくらいなら、俺が側にいれば盾にもなるし」
というか、側には寄らせない。
「うーん、散々迷惑かけたのに、ちょっと気が引けるんだけど」
「いいから、素直に甘えておけよ」
断ってもデリックの意思は変わらないと感じたアメルは、最終的にはデリックと共にルングレム王国に戻ることになった。
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