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33.お互いの身分
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「ちょっと! わたしは公爵令嬢なのよ!? どうしてこんな扱いされないといけないのよ!?」
外交官とアーバンド帝国の大使に連れられて、リディアたちは彼らの本拠地である大使館にやって来ていた。
人のいる外ではそれなりに丁重ではあったが、館の中に入った瞬間、リディアは無理矢理一室に閉じ込められた。
それから、誰もやってこない。
お茶菓子どころか、ご用伺いの鐘さえないのだ。
これが公爵令嬢への扱いなのか、憤慨する。
しかも通された部屋は、まるで使用人のような狭い部屋。
ベッドと机といすが一つずつ。
掃除も行き届いていないのか、埃っぽく、これでは身体が汚れてしまう。
「全く、国に帰ったら絶対にここの人間の無能さを伝えないと。これが国の代表なんて恥ずかしいわ」
地団太を踏んでやりたいところだが、埃がたつのでそれはやめた。
「もう! こんなことになっているのは、全部アメルのせいだわ!」
きっとそうだとリディアは腕を組んだ。
ルングレム王国ではあれだけ親切に面倒みてやったのに、アーバンド帝国では恩をあだで返すように意地悪い。
アイザックが他の女の色香に引っかかったのも苛立つが、それももしかしたら全部アメルの仕組んだことかもしれないと思いなおす。
なにせ、アメルはリディアの美貌と周囲の環境にいつも嫉妬していた。
無表情で、こちらを見ていたが、その目にはうらやむ気持ちがあったのは確かだ。
特にリディアが男性にモテて、色々と贈り物を贈られている姿を見るたびに、目がその贈られた品物にいっていた。
きっとリディアに嫌がらせするには、アイザックと仲違いさせるのが一番だと考えたに違いない。
しかし、その作戦は大いに有効だったと認めよう。
アイザックがリディアに罪を擦り付けようとしていたが、アメルもまたリディアを犯罪者のような目で見ていた。
きっと、アイザックはアメル経由で雇われた女子たちに変な事を囁かれた。
そして、リディアを犯罪者に仕立て上げたのだ。
「アメルが学校でもわたしのことを悪く言っていたんだわ! そうでなければ、もっとわたしに人が集まるはずだもの! 悪口どころか、わたしを犯罪者扱いするまで裏工作するなんて、なんて子なの! 身の潔白が証明されたら、覚えておきなさいよ!」
憤慨して、ベッドへとドスンと座る。
すると、埃が舞い上がりせき込んだ。
「ごほごほ! もう! 例え犯罪者扱いだとしても、貴賓にはきちんとした対応をしてほしいわ! それよりも、のども渇いたし、おなかもすいてきちゃったじゃない」
小さな窓の外はすでに日が落ち、薄暗くなっていた。
すでにかなりの時間を過ごしているのに、誰もやってこない。
囚人だとしても、普通は食事位は提供されるはずなのに。
「もう、アイザック様は期待できないわ! 何を吹き込まれたのかしらないけど、どうしてわたしがアイザック様が背負うべき罪まで背負わなくちゃいけないの? ディリス様もアーバンド帝国に来てから情けないし。店の入店を拒否されるなんて、平民にも侮られる人なんてわたしにはふさわしくないわ。助けに来ないし」
一体どうなっているのか外の様子が知りたかったが、閉じ込められている部屋のドアを叩いても蹴っても誰も反応しない。
まさか、このままここで餓死させる気じゃないだろうかと、脳裏をよぎった。
結局一晩過ごし翌日、朝も早い時間に兵士がやってきた。
「出ろ」
「あなた、一体どちらの家門? わたしにそんな偉そうな態度とってもいいと思っているの? わたしは一国の王妃にだってなれる身分なんだから!」
腕を組んで、相手に言うと、兵士は馬鹿にしたように短く嘲笑した。
「はっ、なんにも知らないお嬢様だな」
「あんたこそ、わたしを何者かしらないようね?」
「知っていますとも、ディール公爵令嬢様? いや今はただの平民だったか。俺よりも身分が低くなったんだった」
一体何をいっているのだ、とリディアが兵士を眉間に皺を寄せてみた。
「これから、あんたは本国に送られることになっている。船の準備ができたから、そちらに移ってもらうことになっている。すでに通知されていることだが、お前には誰も教えていないんだな。ディール公爵はすでに罪が確定し、名誉のために毒胚を煽った。そして、あんたは今やただの平民――いや、犯罪者だ」
「はぁ? なによそれ! わたしの家は建国以来王家に仕えてきた筆頭公爵家で――……」
「ディール公爵家の立て直しに、リンデルス伯爵が名乗り出た。多くの借金を自費で返し、さらには荒れた領地にも惜しみなく支援している。兄弟でどうしてあそこまで違うのか、国民の間でも言われているよ。しかし、本当にできたお方だ。こんな悪女に嘆願書を出してくださった」
「悪女? 嘆願書?」
本当に一体何を言っているのだろうか。
理解が追い付かないのに、兵士は自分がしゃべりたいことだけ話していく。
「お前はアイザック様を誑し込み、国を乗っ取ろうとした悪女。死んで命を絶った方が国のためだが、命ばかりは助けてほしいとリンデルス伯爵から嘆願がされた。お優しい方だ。前ディール公爵に散々ひどい目にあわされておきながら、姪を助けてほしいと訴えるとは」
リディアは何が何だか分からず混乱するが、父が死んで、アメルの父親が公爵位に収まったということだけは理解した。
「そ、それはお家の乗っ取りじゃない!」
「全く理解していないな……、まあ大使からも頭がわるいと言われていたが。おい、お前はこれからその身をもってして自分の犯した罪をしっかりと償え」
早く出ろ、と無理矢理腕を掴まれ部屋の外に出される。
そして、両腕には縄をかけられ、早く歩けとせっつかれた。
リディアは船内のまるで牢屋のような一室に入れられた。
暗くじめじめしているそこで、ルングレム王国まで過ごすことになった。
外交官とアーバンド帝国の大使に連れられて、リディアたちは彼らの本拠地である大使館にやって来ていた。
人のいる外ではそれなりに丁重ではあったが、館の中に入った瞬間、リディアは無理矢理一室に閉じ込められた。
それから、誰もやってこない。
お茶菓子どころか、ご用伺いの鐘さえないのだ。
これが公爵令嬢への扱いなのか、憤慨する。
しかも通された部屋は、まるで使用人のような狭い部屋。
ベッドと机といすが一つずつ。
掃除も行き届いていないのか、埃っぽく、これでは身体が汚れてしまう。
「全く、国に帰ったら絶対にここの人間の無能さを伝えないと。これが国の代表なんて恥ずかしいわ」
地団太を踏んでやりたいところだが、埃がたつのでそれはやめた。
「もう! こんなことになっているのは、全部アメルのせいだわ!」
きっとそうだとリディアは腕を組んだ。
ルングレム王国ではあれだけ親切に面倒みてやったのに、アーバンド帝国では恩をあだで返すように意地悪い。
アイザックが他の女の色香に引っかかったのも苛立つが、それももしかしたら全部アメルの仕組んだことかもしれないと思いなおす。
なにせ、アメルはリディアの美貌と周囲の環境にいつも嫉妬していた。
無表情で、こちらを見ていたが、その目にはうらやむ気持ちがあったのは確かだ。
特にリディアが男性にモテて、色々と贈り物を贈られている姿を見るたびに、目がその贈られた品物にいっていた。
きっとリディアに嫌がらせするには、アイザックと仲違いさせるのが一番だと考えたに違いない。
しかし、その作戦は大いに有効だったと認めよう。
アイザックがリディアに罪を擦り付けようとしていたが、アメルもまたリディアを犯罪者のような目で見ていた。
きっと、アイザックはアメル経由で雇われた女子たちに変な事を囁かれた。
そして、リディアを犯罪者に仕立て上げたのだ。
「アメルが学校でもわたしのことを悪く言っていたんだわ! そうでなければ、もっとわたしに人が集まるはずだもの! 悪口どころか、わたしを犯罪者扱いするまで裏工作するなんて、なんて子なの! 身の潔白が証明されたら、覚えておきなさいよ!」
憤慨して、ベッドへとドスンと座る。
すると、埃が舞い上がりせき込んだ。
「ごほごほ! もう! 例え犯罪者扱いだとしても、貴賓にはきちんとした対応をしてほしいわ! それよりも、のども渇いたし、おなかもすいてきちゃったじゃない」
小さな窓の外はすでに日が落ち、薄暗くなっていた。
すでにかなりの時間を過ごしているのに、誰もやってこない。
囚人だとしても、普通は食事位は提供されるはずなのに。
「もう、アイザック様は期待できないわ! 何を吹き込まれたのかしらないけど、どうしてわたしがアイザック様が背負うべき罪まで背負わなくちゃいけないの? ディリス様もアーバンド帝国に来てから情けないし。店の入店を拒否されるなんて、平民にも侮られる人なんてわたしにはふさわしくないわ。助けに来ないし」
一体どうなっているのか外の様子が知りたかったが、閉じ込められている部屋のドアを叩いても蹴っても誰も反応しない。
まさか、このままここで餓死させる気じゃないだろうかと、脳裏をよぎった。
結局一晩過ごし翌日、朝も早い時間に兵士がやってきた。
「出ろ」
「あなた、一体どちらの家門? わたしにそんな偉そうな態度とってもいいと思っているの? わたしは一国の王妃にだってなれる身分なんだから!」
腕を組んで、相手に言うと、兵士は馬鹿にしたように短く嘲笑した。
「はっ、なんにも知らないお嬢様だな」
「あんたこそ、わたしを何者かしらないようね?」
「知っていますとも、ディール公爵令嬢様? いや今はただの平民だったか。俺よりも身分が低くなったんだった」
一体何をいっているのだ、とリディアが兵士を眉間に皺を寄せてみた。
「これから、あんたは本国に送られることになっている。船の準備ができたから、そちらに移ってもらうことになっている。すでに通知されていることだが、お前には誰も教えていないんだな。ディール公爵はすでに罪が確定し、名誉のために毒胚を煽った。そして、あんたは今やただの平民――いや、犯罪者だ」
「はぁ? なによそれ! わたしの家は建国以来王家に仕えてきた筆頭公爵家で――……」
「ディール公爵家の立て直しに、リンデルス伯爵が名乗り出た。多くの借金を自費で返し、さらには荒れた領地にも惜しみなく支援している。兄弟でどうしてあそこまで違うのか、国民の間でも言われているよ。しかし、本当にできたお方だ。こんな悪女に嘆願書を出してくださった」
「悪女? 嘆願書?」
本当に一体何を言っているのだろうか。
理解が追い付かないのに、兵士は自分がしゃべりたいことだけ話していく。
「お前はアイザック様を誑し込み、国を乗っ取ろうとした悪女。死んで命を絶った方が国のためだが、命ばかりは助けてほしいとリンデルス伯爵から嘆願がされた。お優しい方だ。前ディール公爵に散々ひどい目にあわされておきながら、姪を助けてほしいと訴えるとは」
リディアは何が何だか分からず混乱するが、父が死んで、アメルの父親が公爵位に収まったということだけは理解した。
「そ、それはお家の乗っ取りじゃない!」
「全く理解していないな……、まあ大使からも頭がわるいと言われていたが。おい、お前はこれからその身をもってして自分の犯した罪をしっかりと償え」
早く出ろ、と無理矢理腕を掴まれ部屋の外に出される。
そして、両腕には縄をかけられ、早く歩けとせっつかれた。
リディアは船内のまるで牢屋のような一室に入れられた。
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