31 / 39
31.不毛な罵り合い
しおりを挟む
周囲がアイザックへと視線を向けた。
アイザックは正統派王子と言った容姿を持っている。
そのアイザックがただれた生活を送っていたと知り、信じられない目で見ていた。
デリックが言ったことが、嘘かもしれないのに、誰もが彼が語ったことが真実なのだと信じたのは、デリックがアーバント帝国でも有数の権力者の嫡男であり、ルングレム王国からの留学生待遇だったアイザックたちの態度があまりにひどかったからだ。
もし、品行方正に学校生活を送っていれば、さすがにデリックの言ったことを鵜呑みにすることはなかったはずだ。
『何? どういうこと? 説明して頂戴!』
リディア一人がデリックの言ったことを理解していない。
しかし、彼の一言でアイザックがひどく立場を無くしていることはなんとなく分かった。
そのため、自分を助けてくれるのかと、デリックに向けて弱弱しく訴えた。
『デリック様! わたしを助けに来てくれたんですね!?』
しかし、デリックは完全にリディアを無視し、道を空けた。
「ルングレム王国に帰るのなら止めないが、ホテルでの滞在費はきちんと支払ってからにしれくれ」
その響きは、田舎の貧乏人が、という嘲笑が混ざっていそうだ。
踏み倒すなど絶対に許さないぞと睨む。
「ぜひとも、それはお願いしたいですね。まさか、今までの買い物を全て、こちらの好意で支払いを免除していると思っていらっしゃいました?」
デリックの後ろからひょこりとカイゼンが現れた。
「色々なものをお買い上げいただけて、こちらはとてもうれしく思いますが、支払いをしないままお国に戻られれば、抗議の文面を大使殿に送ることになります」
「そなた! 好きに買い物をしてくれと言っていたではないか!? 支払いについても後日でよいと!」
「言いましたけど、支払いは後日で言いというのは、踏み倒していいという意味ではありませんよ? ルングレム王国にお戻りになられるのなら、支払いを全て終えてからお願いしますね」
アメルは、デリックとその隣のカイゼンに目を細めた。
「些細な金額で大騒ぎするなど、恥ずかしいものだ。金にばかり固執するなど、卑しいもののすることだと知らないのか?」
「それはルングレム王国での話でしょう。アーバンド帝国では、些細な金額でもしっかり請求するのがお国柄なんですよ。知りませんでしたか?」
にこりと笑みを浮かべるカイゼンに、デリックが睨んだ。
「俺は――」
「あ、はいはい! あとで話合おうね、デリック」
さらりと流すカイゼンが、懐から用紙を取り出しアイザックに渡す。
「こちらは請求書ですよ」
バッと勢いよく奪い、アイザックが確認する。
そして、目を見開いた。
「不当な金額の請求ではないか!」
「全く不当ではありませんよ。我が家は最高級のものしか置いていません。小さな石一つとっても、他の店のものとは比べようもありません。アイザック様から贈られた宝石を、みなさん喜んでいませんでした?」
カイゼンの実家が運営する商会の宝石は、どの店よりも一級品だ。
それこそ、帝室の人間だって好んで商会を利用する。
アーバンド帝国では、カイゼンの店で取り扱われている宝石を身に着けることが、女性たちの夢でもあった。
『ああ、あなたは確か大陸共通語がご理解いただけていないんですよね? 少し説明しますと、アイザック様は装飾品を数多くの女性に送っておりまして、その支払いを請求しておりました』
カイゼンは懇切丁寧にリディアに説明する。
『かなりの金額ですが、それだけ価値のある宝石ばかり。私はあなたに贈るものだとばかり思っておりましたが、どうやら違ったようですね』
その煽るような一言は余計だ。
リディアが、キッとアイザックを目つき鋭く睨む。
『わたしに罪を擦り付ける前に、あなた様はその女性にだらしないところを直した方がよろしいですわね? アイザック様はわたしが公爵令嬢だから求婚したとおっしゃいましたが、わたしだってあなたが王太子だから求婚を受けようと思ったんです』
『私を愚弄するのか!?』
『事実を申し上げたまでです。宝石一つすぐに支払えない貧乏人では、わたしにはふさわしくないことがよく分かりました。本当に、あなたの本性を知れてほっとしています。小さな石で満足するような売女がよほどお似合いですわね?』
不毛な争いが繰り広げられ、デリックが余計な事を言ったカイゼンの足を蹴っているのがアメルの目に映った。
お互いがお互いを罵り合う姿に、ある者はしらけ、ある者は大いに楽しみ、ある者はつまらない喜劇を見ているかのようにその現場を見ていた。
翌日には、学校中に知れ渡るこの騒動は、しばらく他の噂では書き消えない娯楽だろうな、と自国の恥に、深くため息をついた。
アイザックは正統派王子と言った容姿を持っている。
そのアイザックがただれた生活を送っていたと知り、信じられない目で見ていた。
デリックが言ったことが、嘘かもしれないのに、誰もが彼が語ったことが真実なのだと信じたのは、デリックがアーバント帝国でも有数の権力者の嫡男であり、ルングレム王国からの留学生待遇だったアイザックたちの態度があまりにひどかったからだ。
もし、品行方正に学校生活を送っていれば、さすがにデリックの言ったことを鵜呑みにすることはなかったはずだ。
『何? どういうこと? 説明して頂戴!』
リディア一人がデリックの言ったことを理解していない。
しかし、彼の一言でアイザックがひどく立場を無くしていることはなんとなく分かった。
そのため、自分を助けてくれるのかと、デリックに向けて弱弱しく訴えた。
『デリック様! わたしを助けに来てくれたんですね!?』
しかし、デリックは完全にリディアを無視し、道を空けた。
「ルングレム王国に帰るのなら止めないが、ホテルでの滞在費はきちんと支払ってからにしれくれ」
その響きは、田舎の貧乏人が、という嘲笑が混ざっていそうだ。
踏み倒すなど絶対に許さないぞと睨む。
「ぜひとも、それはお願いしたいですね。まさか、今までの買い物を全て、こちらの好意で支払いを免除していると思っていらっしゃいました?」
デリックの後ろからひょこりとカイゼンが現れた。
「色々なものをお買い上げいただけて、こちらはとてもうれしく思いますが、支払いをしないままお国に戻られれば、抗議の文面を大使殿に送ることになります」
「そなた! 好きに買い物をしてくれと言っていたではないか!? 支払いについても後日でよいと!」
「言いましたけど、支払いは後日で言いというのは、踏み倒していいという意味ではありませんよ? ルングレム王国にお戻りになられるのなら、支払いを全て終えてからお願いしますね」
アメルは、デリックとその隣のカイゼンに目を細めた。
「些細な金額で大騒ぎするなど、恥ずかしいものだ。金にばかり固執するなど、卑しいもののすることだと知らないのか?」
「それはルングレム王国での話でしょう。アーバンド帝国では、些細な金額でもしっかり請求するのがお国柄なんですよ。知りませんでしたか?」
にこりと笑みを浮かべるカイゼンに、デリックが睨んだ。
「俺は――」
「あ、はいはい! あとで話合おうね、デリック」
さらりと流すカイゼンが、懐から用紙を取り出しアイザックに渡す。
「こちらは請求書ですよ」
バッと勢いよく奪い、アイザックが確認する。
そして、目を見開いた。
「不当な金額の請求ではないか!」
「全く不当ではありませんよ。我が家は最高級のものしか置いていません。小さな石一つとっても、他の店のものとは比べようもありません。アイザック様から贈られた宝石を、みなさん喜んでいませんでした?」
カイゼンの実家が運営する商会の宝石は、どの店よりも一級品だ。
それこそ、帝室の人間だって好んで商会を利用する。
アーバンド帝国では、カイゼンの店で取り扱われている宝石を身に着けることが、女性たちの夢でもあった。
『ああ、あなたは確か大陸共通語がご理解いただけていないんですよね? 少し説明しますと、アイザック様は装飾品を数多くの女性に送っておりまして、その支払いを請求しておりました』
カイゼンは懇切丁寧にリディアに説明する。
『かなりの金額ですが、それだけ価値のある宝石ばかり。私はあなたに贈るものだとばかり思っておりましたが、どうやら違ったようですね』
その煽るような一言は余計だ。
リディアが、キッとアイザックを目つき鋭く睨む。
『わたしに罪を擦り付ける前に、あなた様はその女性にだらしないところを直した方がよろしいですわね? アイザック様はわたしが公爵令嬢だから求婚したとおっしゃいましたが、わたしだってあなたが王太子だから求婚を受けようと思ったんです』
『私を愚弄するのか!?』
『事実を申し上げたまでです。宝石一つすぐに支払えない貧乏人では、わたしにはふさわしくないことがよく分かりました。本当に、あなたの本性を知れてほっとしています。小さな石で満足するような売女がよほどお似合いですわね?』
不毛な争いが繰り広げられ、デリックが余計な事を言ったカイゼンの足を蹴っているのがアメルの目に映った。
お互いがお互いを罵り合う姿に、ある者はしらけ、ある者は大いに楽しみ、ある者はつまらない喜劇を見ているかのようにその現場を見ていた。
翌日には、学校中に知れ渡るこの騒動は、しばらく他の噂では書き消えない娯楽だろうな、と自国の恥に、深くため息をついた。
223
お気に入りに追加
5,036
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【完結】義姉の言いなりとなる貴方など要りません
かずきりり
恋愛
今日も約束を反故される。
……約束の時間を過ぎてから。
侍女の怒りに私の怒りが収まる日々を過ごしている。
貴族の結婚なんて、所詮は政略で。
家同士を繋げる、ただの契約結婚に過ぎない。
なのに……
何もかも義姉優先。
挙句、式や私の部屋も義姉の言いなりで、義姉の望むまま。
挙句の果て、侯爵家なのだから。
そっちは子爵家なのだからと見下される始末。
そんな相手に信用や信頼が生まれるわけもなく、ただ先行きに不安しかないのだけれど……。
更に、バージンロードを義姉に歩かせろだ!?
流石にそこはお断りしますけど!?
もう、付き合いきれない。
けれど、婚約白紙を今更出来ない……
なら、新たに契約を結びましょうか。
義理や人情がないのであれば、こちらは情けをかけません。
-----------------------
※こちらの作品はカクヨムでも掲載しております。

【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。
かのん
恋愛
真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。
けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。
ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!

彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから
水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」
「……はい?」
子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。
だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。
「エリオット様と別れろって言っているの!」
彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。
そのせいで、私は怪我をしてしまった。
いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。
だって、彼は──。
そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる