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30.筒抜けの行動
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いつもリディアの側にいる男子生徒もアイザックの迫力に負けていた。
リディアが喚いても、女子生徒はそれが当然の結果だとでもいうようだ。
『お待ちください』
騒然とする教室は、その一言で静まり返った。
ほとんどが意味を理解していなかったに違いないが、それでもこのアイザックに待ったをかけたことだけはなんとなく察して、声の主を探す。
『誰だ? ルングレム語を話すお前は、何者だ?』
『お久しぶりでございます、王太子殿下。わたしはアメル・リンデルスでございます。リディア・ディールの従妹と言った方が分かりやすいでしょうか?』
アイザックがアメルの名に反応し、驚いたように目を見張る。
ディリスもそうだったが、どうやらアメルの変化は相当驚きのようだ。
『リディアの行ったことは裁きを受けるに等しいでしょうが、さすがに暴力はよろしくないかと』
暴力というほどのことはしていない。ただ、腕を強く掴んで引きずり出そうとしていただけで。
しかし、さすがに校内で男子生徒の女子生徒への乱暴な行いは見過ごせなかった。
正確には、この二人がルングレム王国の王侯貴族であるため、二人の行いがそのままルングレム王国の評価につながりかねないためだ。
『リンデルス伯爵令嬢か? この女を目障りに思っていたのはお前も同じだと思っていたが? この私が直々に処分してやるのだから、感謝するのが筋だろう?』
つまり、間接的にアメルを助ける事にもなるのだから、リンデルス伯爵家が後ろ盾になれ、という事かと即座に理解し、アメルはため息をついた。
アイザックは貴族派でリンデルス伯爵家は国王派。
寝返ろと言われて、アメルとてそれを認めることはできない。
『わかりました』
そちらの考えは。
だから言わせてもうことにした。
『わたしは別にリディアを恨んではいませんよ。むしろ、彼女を反面教師にできたので、アーバント帝国では上手くやっております。むしろ、あなた方来たことでわたしの生活を乱され、苛立ちさえ覚えています』
『何?』
『王太子殿下、あなたは廃嫡されるでしょうが、それはリディアだけが原因ではありません。民の声を聴くことを拒否して、甘い言葉にしか耳を傾けることをしなかったあなた自身の責任です』
自分の都合の悪いことは、他人のせいにして責任を押し付ける。
そして、自分の見たいもの聞きたいものしか受け入れない。
そんな態度が民に受け入れられるとでも思っているのか。
『そんな事はない! この女が全てわるいのだ。リディアを付き出せば、きっと父上はまだ私を見捨てたりはしない!』
『では、ぜひリディアを連れてお戻りください』
暴力は見過ごせないが、早くアーバンド帝国から去ってほしいという気持ちはある。
『アメル! どうしてわたしを助けてくれないのよ!? ああ、本当になんてひどいのかしら! 従姉が大変な目に合うのに、あなたは手助けさえしてくれないなんて!』
涙を浮かべて助けを求めているリディアを見捨てるような構図は、アメルが悪役に見える。
なにせ、この大半の人間はルングレム語を聞き取れない。
初めから見ている者や、リディアの言動を知っている者はなんとなく察している面があるが、途中からこの騒ぎを見ている者にとっては、庇護欲をそそるようなリディアの涙を冷徹に拒絶しているようにしか見えない。
誰か助けてやれよ、教師呼んできた方が――
次第に大きくなるリディアへの擁護の声。しかし、それをかき消すように、否定の声音が響いた。
「ずいぶんな騒ぎになってるが、これ以上自分たちを貶める前にさっさとルングレム王国に帰れよ」
腕を組んで教室の入り口に立っているのは、デリックだった。
「ずいぶんとお互いの罪の擦り付けをしているが、アーバンド帝国じゃなくルングレム王国の裁判所でぜひともやってほしいものだ」
デリックとはクラスが違えど同じ学年。
教室は近く、しかもアイザックと同じクラス。
授業が終わった直後に、アイザックは午後の授業に出ていなかった側近から何かを受け取り、それを見た瞬間に教室を飛び出していた。
さすがに、その様子は無視できずデリックも急いでやってきていた。
「君、我々の話に割って入らないでくれたまえ」
「話に割って入る? 悪いがそうもいっていられない。ルングレム王国の立場が悪くなれば、困るのはアメルだからな。ルングレム王国からの留学生が、お前たちの行いでどれだけ迷惑してると思っている? ルングレム王国の評判が下がれば、苦労するだろうが」
「ルングレム王国の悪評が広まるのなら、この女のせいだろう。私は何も悪くない!」
「そうか? 女をとっかえひっかえしているというのは、ただの噂か? 今根城にしている最高級ホテルで毎晩女を招いて騒いでいると、苦情が入っているが」
「何!? 私はルングレム王国の王太子だぞ! 多くの女性と交友関係があるのは当然だ。それに、なぜそんな個人的な事を知っている! アーバンド帝国の最高級ホテルだというから使ってやったのに、客の情報を売るとは!」
「常識というのを知らないんだな」
デリックが呆れたように呟いた。
「言っておくが、そのホテルは俺の実家が経営している商会に属している。知らないことは何もないんだよ」
ホテル側から苦情が来ているのは本当の事だ。
最高級の対応をしているが、癇癪持ちなのか嫌な事があれば、ホテルの従業員に当たり散らし、女性従業員を娼婦とでも思っているのか、謝罪の代わりに身体を要求したり。
追い出したいが、一応ルングレム王国の王太子だから国際問題になるのではないかと、訴えがあった。
しかし、今聞いた話では彼はすでに廃嫡されることが決まっていたようだった。
遠慮する必要はない。
わざと大陸共通語で話しているのは、彼らがどれほど愚かな存在かを知ってもらうためだった。
リディアが喚いても、女子生徒はそれが当然の結果だとでもいうようだ。
『お待ちください』
騒然とする教室は、その一言で静まり返った。
ほとんどが意味を理解していなかったに違いないが、それでもこのアイザックに待ったをかけたことだけはなんとなく察して、声の主を探す。
『誰だ? ルングレム語を話すお前は、何者だ?』
『お久しぶりでございます、王太子殿下。わたしはアメル・リンデルスでございます。リディア・ディールの従妹と言った方が分かりやすいでしょうか?』
アイザックがアメルの名に反応し、驚いたように目を見張る。
ディリスもそうだったが、どうやらアメルの変化は相当驚きのようだ。
『リディアの行ったことは裁きを受けるに等しいでしょうが、さすがに暴力はよろしくないかと』
暴力というほどのことはしていない。ただ、腕を強く掴んで引きずり出そうとしていただけで。
しかし、さすがに校内で男子生徒の女子生徒への乱暴な行いは見過ごせなかった。
正確には、この二人がルングレム王国の王侯貴族であるため、二人の行いがそのままルングレム王国の評価につながりかねないためだ。
『リンデルス伯爵令嬢か? この女を目障りに思っていたのはお前も同じだと思っていたが? この私が直々に処分してやるのだから、感謝するのが筋だろう?』
つまり、間接的にアメルを助ける事にもなるのだから、リンデルス伯爵家が後ろ盾になれ、という事かと即座に理解し、アメルはため息をついた。
アイザックは貴族派でリンデルス伯爵家は国王派。
寝返ろと言われて、アメルとてそれを認めることはできない。
『わかりました』
そちらの考えは。
だから言わせてもうことにした。
『わたしは別にリディアを恨んではいませんよ。むしろ、彼女を反面教師にできたので、アーバント帝国では上手くやっております。むしろ、あなた方来たことでわたしの生活を乱され、苛立ちさえ覚えています』
『何?』
『王太子殿下、あなたは廃嫡されるでしょうが、それはリディアだけが原因ではありません。民の声を聴くことを拒否して、甘い言葉にしか耳を傾けることをしなかったあなた自身の責任です』
自分の都合の悪いことは、他人のせいにして責任を押し付ける。
そして、自分の見たいもの聞きたいものしか受け入れない。
そんな態度が民に受け入れられるとでも思っているのか。
『そんな事はない! この女が全てわるいのだ。リディアを付き出せば、きっと父上はまだ私を見捨てたりはしない!』
『では、ぜひリディアを連れてお戻りください』
暴力は見過ごせないが、早くアーバンド帝国から去ってほしいという気持ちはある。
『アメル! どうしてわたしを助けてくれないのよ!? ああ、本当になんてひどいのかしら! 従姉が大変な目に合うのに、あなたは手助けさえしてくれないなんて!』
涙を浮かべて助けを求めているリディアを見捨てるような構図は、アメルが悪役に見える。
なにせ、この大半の人間はルングレム語を聞き取れない。
初めから見ている者や、リディアの言動を知っている者はなんとなく察している面があるが、途中からこの騒ぎを見ている者にとっては、庇護欲をそそるようなリディアの涙を冷徹に拒絶しているようにしか見えない。
誰か助けてやれよ、教師呼んできた方が――
次第に大きくなるリディアへの擁護の声。しかし、それをかき消すように、否定の声音が響いた。
「ずいぶんな騒ぎになってるが、これ以上自分たちを貶める前にさっさとルングレム王国に帰れよ」
腕を組んで教室の入り口に立っているのは、デリックだった。
「ずいぶんとお互いの罪の擦り付けをしているが、アーバンド帝国じゃなくルングレム王国の裁判所でぜひともやってほしいものだ」
デリックとはクラスが違えど同じ学年。
教室は近く、しかもアイザックと同じクラス。
授業が終わった直後に、アイザックは午後の授業に出ていなかった側近から何かを受け取り、それを見た瞬間に教室を飛び出していた。
さすがに、その様子は無視できずデリックも急いでやってきていた。
「君、我々の話に割って入らないでくれたまえ」
「話に割って入る? 悪いがそうもいっていられない。ルングレム王国の立場が悪くなれば、困るのはアメルだからな。ルングレム王国からの留学生が、お前たちの行いでどれだけ迷惑してると思っている? ルングレム王国の評判が下がれば、苦労するだろうが」
「ルングレム王国の悪評が広まるのなら、この女のせいだろう。私は何も悪くない!」
「そうか? 女をとっかえひっかえしているというのは、ただの噂か? 今根城にしている最高級ホテルで毎晩女を招いて騒いでいると、苦情が入っているが」
「何!? 私はルングレム王国の王太子だぞ! 多くの女性と交友関係があるのは当然だ。それに、なぜそんな個人的な事を知っている! アーバンド帝国の最高級ホテルだというから使ってやったのに、客の情報を売るとは!」
「常識というのを知らないんだな」
デリックが呆れたように呟いた。
「言っておくが、そのホテルは俺の実家が経営している商会に属している。知らないことは何もないんだよ」
ホテル側から苦情が来ているのは本当の事だ。
最高級の対応をしているが、癇癪持ちなのか嫌な事があれば、ホテルの従業員に当たり散らし、女性従業員を娼婦とでも思っているのか、謝罪の代わりに身体を要求したり。
追い出したいが、一応ルングレム王国の王太子だから国際問題になるのではないかと、訴えがあった。
しかし、今聞いた話では彼はすでに廃嫡されることが決まっていたようだった。
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