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29.ただ一つの価値
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「そういえば、一応ルングレム王国ではあの女はどういう扱いになるんだ?」
貴族が勝手に王族費を使い込んだ件については、いまのところまだ確定の罪ではない。
そのため、ルングレム王国に戻っても捕らえられることはない。
重要参考人として、王宮に呼び出され軟禁されるくらいだ。
ただし、今日の感じではリディアはルングレム王国に戻らないだろう。
アメルが言わなくても、そのうち王太子アイザック経由で知るだろうからリディアに、今のリディアの現状を伝えたのだが、少し間違いだったかと反省した。
「しばらくは、様子をみるしかないと思うけど、その間迷惑かけちゃうね」
「こっちもバカ皇子の件では迷惑かけそうだ」
お互い様だから気にするなとデリックが肩をすくめた。
それから、平穏とはいいがたい日常が待っていた。
基本的にリディアと関わるのは学校内だが、彼女はいたるところで女子生徒からの敵意を買っていた。
ディリスとの関係は相変わらずのようだが、他の事は何一つ上手くいっていないリディアの当たり散らす先はアメルか、リディア曰く気の利かない女子生徒。
ルングレム王国では自分が学院の女王的存在であったので、その延長でアーバント帝国でも同じ態度をとっていたら、当然の事だ。
アーバント帝国では、誰もリディアを手助けする者はいない。
しかも、頼りの綱だったはずのアイザックも、いまだにリディアとの関係は拗れたまま。
あろうことか、アイザックはリディア以外の女子生徒をいつも連れていた。
それを見たリディアがまた怒りを露わに、アイザックに詰め寄るものだから、学校側でもリディアの扱いに辟易としていた。
リディアはアメルにも怒りを爆発させている。
いつになったら、自分が暮らす部屋が準備できるのかと。
それに関しては、のらりくらりと交わしている。
アメルの狙いは、リディアが学校の品位を落としていると判断され国に戻されることだ。
留学という名目でアーバント帝国にいる場合、学校に通うことがなくなれば国に帰らなければならいと、アーバント帝国の法にあるのだ。
ルングレム王国に戻れば、おそらく一生外に出て歩くことはできなくなる。
リディアはおそらく、アーバント帝国の法律など詳しくないはず。
リディアの犠牲になっている学校の生徒に申し訳ない思いもあるが、正直学校だけでなくアーバント帝国の平穏を考えれば、リディアはアーバント帝国から追い出した方がいい。
そんな事を考えて数日。
学校側が動き出す前に、アイザックの方が動き出した。
授業の終わる放課後、アイザックが教室にやってきてリディアに罵声を浴びせたのだ。
『リディア、お前は何ということをしでかしたんだ!!』
突然の事に、リディアは目を見開いた。
しかし、近頃の目に余るアイザックの行動に怒りを覚えていたのはリディアも同じ。
怒鳴られて、黙ってはいられなかった。
『なんですか、突然か弱い女性を怒鳴るなど! 王太子としての品位を疑いますよ』
『はっ、その王太子の席は弟に移ったそうだ。私は国に戻れば、一生監視されて生きて行くことになる。すべて、お前のせいでだ!』
『どういうことですか? わたしのせいですって? ご自分の品性が下劣なだけでしょうに』
心底バカにしたような目でアイザックを見るリディアに、アイザックが睨みつけた。
『お前、私の王族費を使い込んだらしいな? しかも、それだけでなく王宮で管理していた装飾品も売っていたと、先ほど知らせが届いた』
『なんですか? 装飾品の類は殿下がくれたものではないですか。それをどう扱おうとわたしの勝手。そもそも、盗みなどしていません』
『王太子妃に代々伝わる国宝を、お前が勝手に売り払ったというのはどういうことだ? 私は王太子妃になるお前に管理を頼んだはずだ』
リディアは、ああと頷いた。
『古臭いデザインでしたので、売ったお金でわたしが新しく最新のデザインの物を作らせましたの。受け取る前に留学が決まってしまったのですが、今頃素敵なものが仕上がっているはずですよ。まあ、わたしはもうアイザック様と結婚する事はなくなりましたが、もしこの先どなたかと結婚するときは、素敵な装飾品を作らせたわたしにお礼をおっしゃってもかまいませんよ?』
悪びれもなくリディアはにこりと微笑んだ。
アイザックは身体をふるわせていた。
『代々伝わる装飾品は、個人のものではなく国のものだ。それは貴族なら全員が知っている。それを、個人の自由で売ったとなれば、重大な事件になる! そして、安易にお前に管理を頼んだ私は人を見る目がないとの事で、国を任せる事はできないと判断された』
ルングレム王国は、長子相続が基本。
そのため、王太子の座を追われれば、長子であるアイザックは王族ではなくなり、生涯監視され、自由を奪われることになる。
『すべてお前の責任だ!』
アイザックがリディアの腕を掴んだ。
『いいか? お前はこれから罪人としてルングレム王国に帰国する。私は自分の犯した過ちを自らの手で諫めたことにし、挽回の機会をもらうつもりだ』
『わたしを犠牲にするということですか!? わたしは筆頭公爵家の令嬢なんですよ!?』
『なんだ、知らなかったのか? ディール公爵家を後ろ盾にすれば盤石になると思ってお前のような愚かな女の相手をしてやっていただけだ。そのディール公爵家も没落の一途を辿っているのだから、お前には何の価値もない。ああ、一つだけあった。私のためにすべての罪を認め、全ての責任をとることだけが、お前の価値だな』
アイザックは、リディアを引きずるように連れ出すが、誰も止められなかった。
それだけの気迫がアイザックから漂っていたからだ。
貴族が勝手に王族費を使い込んだ件については、いまのところまだ確定の罪ではない。
そのため、ルングレム王国に戻っても捕らえられることはない。
重要参考人として、王宮に呼び出され軟禁されるくらいだ。
ただし、今日の感じではリディアはルングレム王国に戻らないだろう。
アメルが言わなくても、そのうち王太子アイザック経由で知るだろうからリディアに、今のリディアの現状を伝えたのだが、少し間違いだったかと反省した。
「しばらくは、様子をみるしかないと思うけど、その間迷惑かけちゃうね」
「こっちもバカ皇子の件では迷惑かけそうだ」
お互い様だから気にするなとデリックが肩をすくめた。
それから、平穏とはいいがたい日常が待っていた。
基本的にリディアと関わるのは学校内だが、彼女はいたるところで女子生徒からの敵意を買っていた。
ディリスとの関係は相変わらずのようだが、他の事は何一つ上手くいっていないリディアの当たり散らす先はアメルか、リディア曰く気の利かない女子生徒。
ルングレム王国では自分が学院の女王的存在であったので、その延長でアーバント帝国でも同じ態度をとっていたら、当然の事だ。
アーバント帝国では、誰もリディアを手助けする者はいない。
しかも、頼りの綱だったはずのアイザックも、いまだにリディアとの関係は拗れたまま。
あろうことか、アイザックはリディア以外の女子生徒をいつも連れていた。
それを見たリディアがまた怒りを露わに、アイザックに詰め寄るものだから、学校側でもリディアの扱いに辟易としていた。
リディアはアメルにも怒りを爆発させている。
いつになったら、自分が暮らす部屋が準備できるのかと。
それに関しては、のらりくらりと交わしている。
アメルの狙いは、リディアが学校の品位を落としていると判断され国に戻されることだ。
留学という名目でアーバント帝国にいる場合、学校に通うことがなくなれば国に帰らなければならいと、アーバント帝国の法にあるのだ。
ルングレム王国に戻れば、おそらく一生外に出て歩くことはできなくなる。
リディアはおそらく、アーバント帝国の法律など詳しくないはず。
リディアの犠牲になっている学校の生徒に申し訳ない思いもあるが、正直学校だけでなくアーバント帝国の平穏を考えれば、リディアはアーバント帝国から追い出した方がいい。
そんな事を考えて数日。
学校側が動き出す前に、アイザックの方が動き出した。
授業の終わる放課後、アイザックが教室にやってきてリディアに罵声を浴びせたのだ。
『リディア、お前は何ということをしでかしたんだ!!』
突然の事に、リディアは目を見開いた。
しかし、近頃の目に余るアイザックの行動に怒りを覚えていたのはリディアも同じ。
怒鳴られて、黙ってはいられなかった。
『なんですか、突然か弱い女性を怒鳴るなど! 王太子としての品位を疑いますよ』
『はっ、その王太子の席は弟に移ったそうだ。私は国に戻れば、一生監視されて生きて行くことになる。すべて、お前のせいでだ!』
『どういうことですか? わたしのせいですって? ご自分の品性が下劣なだけでしょうに』
心底バカにしたような目でアイザックを見るリディアに、アイザックが睨みつけた。
『お前、私の王族費を使い込んだらしいな? しかも、それだけでなく王宮で管理していた装飾品も売っていたと、先ほど知らせが届いた』
『なんですか? 装飾品の類は殿下がくれたものではないですか。それをどう扱おうとわたしの勝手。そもそも、盗みなどしていません』
『王太子妃に代々伝わる国宝を、お前が勝手に売り払ったというのはどういうことだ? 私は王太子妃になるお前に管理を頼んだはずだ』
リディアは、ああと頷いた。
『古臭いデザインでしたので、売ったお金でわたしが新しく最新のデザインの物を作らせましたの。受け取る前に留学が決まってしまったのですが、今頃素敵なものが仕上がっているはずですよ。まあ、わたしはもうアイザック様と結婚する事はなくなりましたが、もしこの先どなたかと結婚するときは、素敵な装飾品を作らせたわたしにお礼をおっしゃってもかまいませんよ?』
悪びれもなくリディアはにこりと微笑んだ。
アイザックは身体をふるわせていた。
『代々伝わる装飾品は、個人のものではなく国のものだ。それは貴族なら全員が知っている。それを、個人の自由で売ったとなれば、重大な事件になる! そして、安易にお前に管理を頼んだ私は人を見る目がないとの事で、国を任せる事はできないと判断された』
ルングレム王国は、長子相続が基本。
そのため、王太子の座を追われれば、長子であるアイザックは王族ではなくなり、生涯監視され、自由を奪われることになる。
『すべてお前の責任だ!』
アイザックがリディアの腕を掴んだ。
『いいか? お前はこれから罪人としてルングレム王国に帰国する。私は自分の犯した過ちを自らの手で諫めたことにし、挽回の機会をもらうつもりだ』
『わたしを犠牲にするということですか!? わたしは筆頭公爵家の令嬢なんですよ!?』
『なんだ、知らなかったのか? ディール公爵家を後ろ盾にすれば盤石になると思ってお前のような愚かな女の相手をしてやっていただけだ。そのディール公爵家も没落の一途を辿っているのだから、お前には何の価値もない。ああ、一つだけあった。私のためにすべての罪を認め、全ての責任をとることだけが、お前の価値だな』
アイザックは、リディアを引きずるように連れ出すが、誰も止められなかった。
それだけの気迫がアイザックから漂っていたからだ。
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