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27.お断りの理由
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何を言っても無駄だと分かっていても、アメルにはリディアに言いたいことがあった。
それは、今後の自分との関わりについてだ。
『リディア、悪いけどわたしはもうあなたの命令は聞かないわ』
『なにを言っているの? わたしはアメルに命令したことなんてないでしょう? わたしは親切に色々教えてあげていただけ。それに対して対価としてアメルがわたしの言うことを聞くのは当然でしょう?』
『あなたがどう思っても、アーバント帝国でわたしの助けは期待しないで』
アメルははっきりと拒絶した。
それに対し、リディアは唇を尖らせている。
『やっぱりアメルはアーバント帝国に来てから変わってしまったのね……。ルングレム王国にいた時は、わたしの後をいつもついて回っていたのに。わたしの庇護がなければ生きていけなかったのに』
『あなたが言いがかりをつけてくるから従っていただけよ。でも、もう頼りの権力はないも等しいのに、あなたに従うとでも思っているの?』
初めからリディアに付き合う必要性はなかった。
リンデルス伯爵家はそれだけの力を持っていたが、父の生家だから気を使っただけだ。
『この邸宅になぜやって来たかは分からないけど、ここではあなたは歓迎されないわ。わたしの方は話す事もないから、もう帰ってちょうだい』
『待って! わたしはあなたのために一緒に暮らそうと言いに来たのよ! それなのに、あなたは優しさの欠片もなく、わたしを犯罪者扱いして……。そちらの彼がなんていうかしら? 親戚さえも大事にしない子なんか、きっと呆れているはずだわ。あなたこそ、ルングレム王国の名を汚しているのではなくて?』
ちらりとデリックを上目遣いで見上げ、うるうると目じりに涙を浮かべた。
『リディア、大丈夫だ。リディアがもう一度教育を行えば、すぐに従順になるさ』
ディリスが慰めるように言う。
『わたしの事を分かっていてくれるのは、ディリス様だけです。こんな優しいのに、アーバント帝国の方々は見る目がないのですね……』
「見る目がなくて悪かったな。どうやら、お二人と我々とはまったくもって意見が合いそうもないな」
大陸共通語でデリックが返す。
その顔は無表情だが、目が冷ややかだ。
リディアは何を言われているのか分からず、首を傾げている。
ディリスの方は、デリックの態度に睨みつけてきた。
『リディア、やはりここはそなたにはふさわしくない! このような礼儀も知らない男の側に、置いておけない。このように愛らしいのに、何をされるか分かったものではない!』
『ディリス様、それならなおの事こちらにいなければなりません。帝室のお方への態度の示し方を知らないのであれば、わたしが教えて差し上げられると思うのです。社交マナーは完璧ですもの』
『リディア、そなたはなんと心根が優しいのだ。誰にでもそのように優しくすると、みなそなたを好きになってしまう』
『心配なさらないで?』
今生の別れかのような言葉のかけあいだ。
まるで、リディアがこの先永遠にノイマン公爵家で過ごすことが決定事項かのように。
『リディア、言っておくけどノイマン公爵家であなたを預かることはできないわ。ライヒラおば様からも言われたでしょう? ノイマン家と第一皇子殿下の派閥は政敵同士。第一皇子と親しいあなたがノイマン家にいるのは、外聞が良くないわ』
『そんな事わたしには関係ないわ。わたしはただ純粋にあなたとデリック様を心配しているだけなのだから。それに、アーバント帝国内での争いは、ルングレム王国出身のわたしには関係ないでしょう?』
大ありだとも。
しかし、それを説明したところで、堂々巡りだ。
どうせ理解してもらえないのだから、言うだけ無駄。
これ以上馬鹿らしい話を聞くに堪えなかったデリックが、アメルの腕を掴み席を立った。
『どこに行くの?』
「人を滞在させ部屋があるのか、母上に確認してくる。殿下、通訳してやってください」
大股でデリックが部屋を出て、その後ろをアメルがついて行く。
そして、応接室から離れた廊下でデリックが苛立ち紛れに言った。
「俺にマナーが必要とか言っていたが、あっちにこそ必要じゃないのか? 必要なのはマナーだけじゃないと思うがな。とりあえず、力技で追い出すぞ」
「それは後々問題になりそうだけど……」
「母上が許可出しているのだから、別にいいだろう。父上もバカ皇子の顔を見たくないはずだ。あの女がいる限り、あのバカ皇子も我が家を出入りするだろうし、それは俺もごめんだ」
そもそも、政敵のトップである第一皇子がノイマン家を何度も訪問すれば、ノイマン家が困る。
バカ皇子派閥についたのだと思われかねない。
「なんか、本当にごめんなさい……」
「もう、いっその事破滅させてやるか? いや、俺がやらなくても勝手に自滅するだろうな」
すでに破滅への道を進んでいるのにも関わらず、リディアはそのことを真面目にとらえていない。
公爵令嬢だから裁判も忖度され、少しの謹慎くらいで終わるとでも思っているのかもしれないが、今のルングレム王国でそれはあり得ないだろうと断言できる。
「とりあえず、リディアと第一皇子殿下にご帰宅いただきましょうか? まずは冷静に話し合いで。部屋の準備がないと言えば、今日は帰ってくれると思うわ」
不自由な中で生活することになると付け加えれば、とりあえず快適な暮らしができているであろうディリスの邸宅に今日は帰るだろう。
それは、長い事従姉妹をやってきたアメルの確信だった。
それは、今後の自分との関わりについてだ。
『リディア、悪いけどわたしはもうあなたの命令は聞かないわ』
『なにを言っているの? わたしはアメルに命令したことなんてないでしょう? わたしは親切に色々教えてあげていただけ。それに対して対価としてアメルがわたしの言うことを聞くのは当然でしょう?』
『あなたがどう思っても、アーバント帝国でわたしの助けは期待しないで』
アメルははっきりと拒絶した。
それに対し、リディアは唇を尖らせている。
『やっぱりアメルはアーバント帝国に来てから変わってしまったのね……。ルングレム王国にいた時は、わたしの後をいつもついて回っていたのに。わたしの庇護がなければ生きていけなかったのに』
『あなたが言いがかりをつけてくるから従っていただけよ。でも、もう頼りの権力はないも等しいのに、あなたに従うとでも思っているの?』
初めからリディアに付き合う必要性はなかった。
リンデルス伯爵家はそれだけの力を持っていたが、父の生家だから気を使っただけだ。
『この邸宅になぜやって来たかは分からないけど、ここではあなたは歓迎されないわ。わたしの方は話す事もないから、もう帰ってちょうだい』
『待って! わたしはあなたのために一緒に暮らそうと言いに来たのよ! それなのに、あなたは優しさの欠片もなく、わたしを犯罪者扱いして……。そちらの彼がなんていうかしら? 親戚さえも大事にしない子なんか、きっと呆れているはずだわ。あなたこそ、ルングレム王国の名を汚しているのではなくて?』
ちらりとデリックを上目遣いで見上げ、うるうると目じりに涙を浮かべた。
『リディア、大丈夫だ。リディアがもう一度教育を行えば、すぐに従順になるさ』
ディリスが慰めるように言う。
『わたしの事を分かっていてくれるのは、ディリス様だけです。こんな優しいのに、アーバント帝国の方々は見る目がないのですね……』
「見る目がなくて悪かったな。どうやら、お二人と我々とはまったくもって意見が合いそうもないな」
大陸共通語でデリックが返す。
その顔は無表情だが、目が冷ややかだ。
リディアは何を言われているのか分からず、首を傾げている。
ディリスの方は、デリックの態度に睨みつけてきた。
『リディア、やはりここはそなたにはふさわしくない! このような礼儀も知らない男の側に、置いておけない。このように愛らしいのに、何をされるか分かったものではない!』
『ディリス様、それならなおの事こちらにいなければなりません。帝室のお方への態度の示し方を知らないのであれば、わたしが教えて差し上げられると思うのです。社交マナーは完璧ですもの』
『リディア、そなたはなんと心根が優しいのだ。誰にでもそのように優しくすると、みなそなたを好きになってしまう』
『心配なさらないで?』
今生の別れかのような言葉のかけあいだ。
まるで、リディアがこの先永遠にノイマン公爵家で過ごすことが決定事項かのように。
『リディア、言っておくけどノイマン公爵家であなたを預かることはできないわ。ライヒラおば様からも言われたでしょう? ノイマン家と第一皇子殿下の派閥は政敵同士。第一皇子と親しいあなたがノイマン家にいるのは、外聞が良くないわ』
『そんな事わたしには関係ないわ。わたしはただ純粋にあなたとデリック様を心配しているだけなのだから。それに、アーバント帝国内での争いは、ルングレム王国出身のわたしには関係ないでしょう?』
大ありだとも。
しかし、それを説明したところで、堂々巡りだ。
どうせ理解してもらえないのだから、言うだけ無駄。
これ以上馬鹿らしい話を聞くに堪えなかったデリックが、アメルの腕を掴み席を立った。
『どこに行くの?』
「人を滞在させ部屋があるのか、母上に確認してくる。殿下、通訳してやってください」
大股でデリックが部屋を出て、その後ろをアメルがついて行く。
そして、応接室から離れた廊下でデリックが苛立ち紛れに言った。
「俺にマナーが必要とか言っていたが、あっちにこそ必要じゃないのか? 必要なのはマナーだけじゃないと思うがな。とりあえず、力技で追い出すぞ」
「それは後々問題になりそうだけど……」
「母上が許可出しているのだから、別にいいだろう。父上もバカ皇子の顔を見たくないはずだ。あの女がいる限り、あのバカ皇子も我が家を出入りするだろうし、それは俺もごめんだ」
そもそも、政敵のトップである第一皇子がノイマン家を何度も訪問すれば、ノイマン家が困る。
バカ皇子派閥についたのだと思われかねない。
「なんか、本当にごめんなさい……」
「もう、いっその事破滅させてやるか? いや、俺がやらなくても勝手に自滅するだろうな」
すでに破滅への道を進んでいるのにも関わらず、リディアはそのことを真面目にとらえていない。
公爵令嬢だから裁判も忖度され、少しの謹慎くらいで終わるとでも思っているのかもしれないが、今のルングレム王国でそれはあり得ないだろうと断言できる。
「とりあえず、リディアと第一皇子殿下にご帰宅いただきましょうか? まずは冷静に話し合いで。部屋の準備がないと言えば、今日は帰ってくれると思うわ」
不自由な中で生活することになると付け加えれば、とりあえず快適な暮らしができているであろうディリスの邸宅に今日は帰るだろう。
それは、長い事従姉妹をやってきたアメルの確信だった。
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******
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