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26.家族の情

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『はした金でリディアを責めるとは、ルングレム王国も高が知れているな。大丈夫だ、リディア。ここにいる限り、私が守ってやる』

 アーバント帝国とルングレム王国では、国力が違いすぎる。
 確かに、アーバント帝国の帝室の一員であるディリスから見れば些細な金額かもしれないが、問題は王族費をただの貴族が勝手に使ったことだ。

 しかも、今は次期国王について二分した意見が出ている。
 長子相続であるルングレム王国では、第二王子が王位を継ぐには王太子であるアイザックが廃嫡されるしかない。

 もしくは、自ら王位継承権を捨て国を出るかだ。

 リディアの件は、アイザックを廃嫡させたい派閥にとって格好の餌となる形だ。
 勝手に王族費を使い込んでいた上に、その理由も自分勝手なもの。

 こんな考えの者が王妃に着けばどうなるか。
 そして、王妃にふさわしい器量も持っていない者に傾倒して王族費を使わせたアイザックにも責任を追及される。

『わたしがいないのに、勝手に罪が作られるなんて……わたし、もうルングレム王国に帰れないわ。冤罪を容認するような国が母国なんて恥ずかしい』

 完全な冤罪ではないが、それでもアイザックやリディアがルングレム王国にいたならば、内々で済ませることもできたが、国を離れていたからこそ、力技で罪を大げさにできた。

『アイザック様、王太子として管理責任を追及されているのよ。この知らせはきっとアイザック様の元にもそろそろ届くでしょうね。リディアの実家でお父様の実家であるディール公爵家は、王族費の勝手な運用に関して、かなり苦しい立場にあるわ』
『なによ! 王族費王族費って! それなら返せば問題ないんでしょう!?』

 アメルに次々に責められて、リディアが声を荒げた。
 返せばいい、という問題でもないが、返す方が多少穏便に済む。

 しかし、それができない事情がディール家にはあった。

『ディール公爵家は、現在脱税の容疑の嫌疑がかかっていると知らないの?』

 アメルがリディアに険しい顔を向けた。

『かなり以前から、ディール公爵家の財政はがたがたよ。リンデルス伯爵家にも借金の申し入れがあったもの。お父様は、断っていたようだけど』

 ディール公爵家の先代は、厳格な人だった。
 その先代がなくなり、押さえつけられてきた感情があふれ出たのか、それ以降からディール公爵は贅沢を始めた。

 多少贅をこらしても、財産が底をつくことはないはずだ。
 しかし、投資の失敗、かけ事など身を持ち崩した。

 しかも、娘は贅沢好きで一度身に着けたドレスは嫌がり、宝飾品の類も、一度付けたらすぐに新しいものにとりかえるようなリディアで。

 ただし、もしリディアが王太子妃になればすべてがもとに戻る。

 ただし、目先の金も必要で。
 彼は、領地からの収入の一部を報告せずに、全体収入の低下を報告。

 公爵家の規模からいえば、それは相当な税収だった。

『ふざけないで! ディール公爵家はルングレム王国筆頭公爵家。王族の親戚でもあるのに、罰せられるはずがないわ! わたしたちの一族がどれほど国に貢献してきたと思っているの?』
『罪は罪でしょう? ルングレム王国でも近年貴族の横暴に国民の怒りが高まっているのよ』

 島国であっても、外の情報は入ってくる。
 そして、一番近い国がアーバント帝国で、その国は実力主義で貴族はいても、彼らも罪には罰則をもって刑を施行されると国民の間でも話題だ。

 そのため、このまま貴族優位な政策ばかり続けば、いずれルングレム王国は破綻する。

 少し考えれば分かる事なのに、リディアは全く理解しようともしていなかった。

『下賤な生まれの人間を管理するのが、王侯貴族の務めでしょう? ルングレム王国の決まりごとに歯向かうのなら、捕らえてしまえばいいのよ。わたしは高貴な生まれよ。下賤な人間よりも、ずっとずっと価値があるの。そうでしょう? でもいい話を聞けたわ、アメル』
『リディア?』
『お父様のしたことは、娘のわたしとは何の関係もないもの。それに、ルングレム王国がわたしに冤罪を押し付けるような国なのだとしたら、わたしが生きるのにふさわしい国ではないわ。アーバント帝国に来てすぐに分かったわ。わたしには、この国の方がふさわしいって』
『リディア、あなた伯父様を見捨てる気なの?』
『だって、仕方ないじゃない? お父様の罪をわたしにも押し付けようとするかもしれないでしょう? そんな国にこれ以上義理立てする必要ないでしょう? それに、わたしにふさわしくないのなら、わたしにふさわしい場所が必要なんですもの。ねぇ、ディリス様もそう思うでしょう?』
『そうだな、リディアにはあんな田舎の国よりもはるかに豊かなこのアーバント帝国こそふさわしい』
『そうですよね?』
 
 家族の情くらいはあると思っていたが、リディアは本当に自分だけが大事だった。
 アメルは、もう何を言っても無駄だとため息をついた。


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