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21.迷惑な客
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アメルたちが、お茶を飲み終わりあらかた話を終えるタイミングで、ノイマン家から伝達が届いた。
緊急の要件以外で伝達が使われることはない。
そのため、デリックが伝達を受け取っているその瞬間、アメルたちには変な緊張が走る。
ノイマン家は、現皇太子殿下である第二皇子殿下の筆頭支持者だ。
そのため、第一皇子陣営とはたいそう仲が悪い。
まさか、今日の昼休みの事で、何か問題が起こったのかと、アメルたちは考えていた。
しかも、伝達を受け取ったデリックの顔がしかめ面になったので、よほど何かあったのだと感じていた。
扉越しに、伝達を受け取っていたデリックは、深いため息とともにアメルたちの元まで戻って来て、どかりと椅子に座る。
そして、苛立たし気に前髪をかきあげ、舌打ちをした。
「何かあったのかな? ずいぶんがらが悪いけど。その態度から察するに、家の事というよりも、個人的な事って感じかな?」
カイゼンがデリックの態度から、そう推測する。
「母上からだ。至急戻って来いと。それから、アメルは今日はアイリーンの世話になってくれ。アイリーンが無理なら、どこか宿でも――」
「ちょっと待って、デリック。わたしは別に構わないけど、一体何があったの? アメルに聞かれたくない事情ってこと?」
どれだけ親しくても、アメルは他国の人間だ。
そして、ノイマン公爵家は政治経済の中心にいる。
聞かれたくない話題の一つや二つあるのは、理解できた。
しかし、あまりにも唐突で、しかもカイゼンの推測があっているとなれば、家の事ではなく、個人的事情。
一体どういうことなのか、アイリーンが説明を求めた。
「デリック、わたしも聞きたいわ。聞いてもいい事ならだけど」
アイリーンの言葉は無視できても、デリックはアメルの事は無視できない。
しかも、その伝達はアメルに関わる事だから。
もし、後々知られれば、きっと怒るんだろうな、とデリックが分かっていた。
それでも、できる限りアメルを関わらせたくない気持ちもあった。
どうしようかと考え、結局デリックは三人に事情を説明することにした。
デリックはアメルを見て、話し出す。
「今、お前の従姉とバカ皇子が我が家で騒ぎ立てているらしい」
一瞬、何を言われたのか理解が追い付かず、三人がデリックに視線を向けたまま、固まる。
「母上から、どういう事なのかすぐに帰って来いと。母上一人で相手にできるが、俺とアメルを出せと言っているらしくて、拉致があかないと」
「ああ、話を聞かない人の相手は大変だよね……」
同情的なカイゼンに、アイリーンも頷いた。
「本当よね。そもそも、敵陣営に乗り込んでくるって方が、どうかしてるけど」
「ごめん、なんかリディアがすごく迷惑かけてるね……おばさまにも後で謝らないと……」
リディアが話を聞かないのは今に始まったことじゃない。
アメルは散々それで苦労してきている。
まさか、その大変なリディアの相手をお世話になっている家の女主人にさせることになるとは。
申し訳ない気持ちと、恥ずかしい気持ち、それに頭痛がしてきた。
今日の昼の様子では、第一皇子殿下がノイマン家を訪れたというよりも、リディアの我儘の可能性が高い。
そして、その目的はおそらくデリックだ。
さすがにアメルを含めた全員が、そのことに気づく。
だからデリックは嫌そうに渋面を作っていたのだ。
デリックの性格上、リディアとは水と油並みに反りが合わない。
「リディアちゃんとアメルが対面すれば、アメルが傷つくと思ったのかな? それでアメルを当座けて自分だけ犠牲になろうとするなんて、すごい紳士的だねぇ」
「そうねぇ。騎士様って感じねぇ。でも、実際に守った方が点数高いんじゃないのぉ?」
カイゼンとアイリーンがにやにやとデリックに意見する。
「うるさい! とにかく、俺一人で家に帰るから、アメルは――」
「あのね、デリック。心配してくれるのはうれしいけど、わたしの家の問題でもあるんだから、一緒に帰るわ。リディアとは、いつかぶつかることがあるとは思ってたし」
リディアが留学に来ると知った時から、白黒つけなければと思っていた。
このまま一生リディアに従う義理はない。
そして、リディアの迷惑に巻き込まれる気もない。
「そうよね。女同士決着つけなくちゃいけない時が来るから」
「女同士の社交の場に男は立ち入れないし、見守れるこの機会はデリックにとっても悪くないんじゃないかな? それにノイマン夫人もいるし、悪いようにはならないよ」
アイリーンとカイゼンがアメルの味方になって、デリックを説得してくれる。
結局、デリックが折れる形で、アメルはデリックと二人でノイマン公爵邸に帰宅した。
緊急の要件以外で伝達が使われることはない。
そのため、デリックが伝達を受け取っているその瞬間、アメルたちには変な緊張が走る。
ノイマン家は、現皇太子殿下である第二皇子殿下の筆頭支持者だ。
そのため、第一皇子陣営とはたいそう仲が悪い。
まさか、今日の昼休みの事で、何か問題が起こったのかと、アメルたちは考えていた。
しかも、伝達を受け取ったデリックの顔がしかめ面になったので、よほど何かあったのだと感じていた。
扉越しに、伝達を受け取っていたデリックは、深いため息とともにアメルたちの元まで戻って来て、どかりと椅子に座る。
そして、苛立たし気に前髪をかきあげ、舌打ちをした。
「何かあったのかな? ずいぶんがらが悪いけど。その態度から察するに、家の事というよりも、個人的な事って感じかな?」
カイゼンがデリックの態度から、そう推測する。
「母上からだ。至急戻って来いと。それから、アメルは今日はアイリーンの世話になってくれ。アイリーンが無理なら、どこか宿でも――」
「ちょっと待って、デリック。わたしは別に構わないけど、一体何があったの? アメルに聞かれたくない事情ってこと?」
どれだけ親しくても、アメルは他国の人間だ。
そして、ノイマン公爵家は政治経済の中心にいる。
聞かれたくない話題の一つや二つあるのは、理解できた。
しかし、あまりにも唐突で、しかもカイゼンの推測があっているとなれば、家の事ではなく、個人的事情。
一体どういうことなのか、アイリーンが説明を求めた。
「デリック、わたしも聞きたいわ。聞いてもいい事ならだけど」
アイリーンの言葉は無視できても、デリックはアメルの事は無視できない。
しかも、その伝達はアメルに関わる事だから。
もし、後々知られれば、きっと怒るんだろうな、とデリックが分かっていた。
それでも、できる限りアメルを関わらせたくない気持ちもあった。
どうしようかと考え、結局デリックは三人に事情を説明することにした。
デリックはアメルを見て、話し出す。
「今、お前の従姉とバカ皇子が我が家で騒ぎ立てているらしい」
一瞬、何を言われたのか理解が追い付かず、三人がデリックに視線を向けたまま、固まる。
「母上から、どういう事なのかすぐに帰って来いと。母上一人で相手にできるが、俺とアメルを出せと言っているらしくて、拉致があかないと」
「ああ、話を聞かない人の相手は大変だよね……」
同情的なカイゼンに、アイリーンも頷いた。
「本当よね。そもそも、敵陣営に乗り込んでくるって方が、どうかしてるけど」
「ごめん、なんかリディアがすごく迷惑かけてるね……おばさまにも後で謝らないと……」
リディアが話を聞かないのは今に始まったことじゃない。
アメルは散々それで苦労してきている。
まさか、その大変なリディアの相手をお世話になっている家の女主人にさせることになるとは。
申し訳ない気持ちと、恥ずかしい気持ち、それに頭痛がしてきた。
今日の昼の様子では、第一皇子殿下がノイマン家を訪れたというよりも、リディアの我儘の可能性が高い。
そして、その目的はおそらくデリックだ。
さすがにアメルを含めた全員が、そのことに気づく。
だからデリックは嫌そうに渋面を作っていたのだ。
デリックの性格上、リディアとは水と油並みに反りが合わない。
「リディアちゃんとアメルが対面すれば、アメルが傷つくと思ったのかな? それでアメルを当座けて自分だけ犠牲になろうとするなんて、すごい紳士的だねぇ」
「そうねぇ。騎士様って感じねぇ。でも、実際に守った方が点数高いんじゃないのぉ?」
カイゼンとアイリーンがにやにやとデリックに意見する。
「うるさい! とにかく、俺一人で家に帰るから、アメルは――」
「あのね、デリック。心配してくれるのはうれしいけど、わたしの家の問題でもあるんだから、一緒に帰るわ。リディアとは、いつかぶつかることがあるとは思ってたし」
リディアが留学に来ると知った時から、白黒つけなければと思っていた。
このまま一生リディアに従う義理はない。
そして、リディアの迷惑に巻き込まれる気もない。
「そうよね。女同士決着つけなくちゃいけない時が来るから」
「女同士の社交の場に男は立ち入れないし、見守れるこの機会はデリックにとっても悪くないんじゃないかな? それにノイマン夫人もいるし、悪いようにはならないよ」
アイリーンとカイゼンがアメルの味方になって、デリックを説得してくれる。
結局、デリックが折れる形で、アメルはデリックと二人でノイマン公爵邸に帰宅した。
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