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11.アイリーンの指摘
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授業と授業の間には、短い休み時間がある。
しかし、午前中にはリディアはアメルに絡んでくる様子はなかった。
目が合ったし、すごい勢いで睨まれたので、絶対に何か言ってくると思ったが、他国の言葉も通じないような異国だからか、慎重に行動しているようだ。
案外成長していかもしれないと、ちょっと期待したいところだが、安心はできない。
それに、リディア以外にも留学しているであろう王太子アイザックの様子も気になるし、アイザックの側近であり、リディアへの求婚者である二人の存在も気になった。
リディアが大陸共通語を話せないのは、知っているはずなのに、一度も様子を見に来なかった。
そして、午前中の授業が終わり、昼食の時間になった時、リディアがかなり不機嫌そうにアメルの元にやってきた。
その時アメルはようやく気付く。
リディアがアメルの元に来なかったのは、単にアメルの方から挨拶に来るのが当然だと思っていたからなのだと。
ここで約一年過ごし、ルングレム王国の暗黙の了解を忘れていた。
『アメル久しぶりね。あなたって、本当に礼儀がなってないのね。普通はわたしに挨拶に来るものでしょう?』
約一年ぶりの再会なのに、いきなり小言から始まった。
一応親族なのだから、普通は体調とか、何をしていたとか、そう言った無難な話題から入るのが普通だ。
アメルを自分の使用人だと思っているからこそ、当たり前の挨拶さえない。
アメルは眉をひそめて、アイリーンを見る。
すると彼女は、どうやら話に加わる気がないようだった。
観察するように、じろじろとリディアを見ている。
その不躾ともいえる視線に、リディアがアイリーンを睨んだ。
『ちょっと、なんなのよ。もしかして友達? アメルに友達なんてできるのね。なんたって、あなたは本当に気が利かない愚図だったんだもの。ああ、でも礼儀知らずなお友達みたいだから、気が合うのかしら?』
「リディア、ここではルングレム語ではなく大陸共通語を使うのが普通よ。それに、挨拶もできないのは相変わらずみたいね」
絶対に聞き取れないであろう大陸共通語でアメルが返す。
すると、リディアはムッとした。
『頭がいいアピール? 嫌味な子ね。人の嫌がる事しかできないなんて……。見た目は少しは良くなったみたいだけど、性格は根暗なままなのね。いえ、性格が悪くなったわ。従姉としてわたしはあなたが恥ずかしい』
途端に目じりに涙を浮かべ、悲し気になる。
すると、それを目にした男子生徒が、庇うようにアメルとリディアの前に立った。
「アメルさん! リディア様をイジメるのはよくないと思う。同郷なのだから、助けてあげるのが普通だろう?」
男子生徒の言葉にアメルとアイリーンは目を見合わせた。
そして、黙ってアメルとリディアのやりとりを聞いていたアイリーンが、リディアを庇う男子生徒に食ってかかった。
「あのね、あんた。そのリディア様って何? そもそも、イジメていたわけじゃないって見てたでしょう? 目は大丈夫? 耳も聞こえてる?」
アメルとリディアのやり取りは、教室中の注目の的だった。
そのため、アメルの言葉はそこまで大きくなかったが、ほとんどの人に聞こえている。
男子生徒の目には、どうやらアメルがイジメているように見えているらしいが、女子生徒たちはアメルの言っていることが正しいので、アイリーンに返しに同調して頷いていた。
気持ちはやれやれ! ってところだろう。
リディアのたどたどしい言葉で、実力でこの学校に来たわけではないとすぐに分かるので、特別扱いされていることが分かる彼女には、はじめからいい感情はないのだ。
「話をしていても、頭が悪くなりそうだわ。アメル、行きましょう」
ガタリと音を鳴らして席を立つアイリーンが、アメルを促す。
『アメル! わたしの世話をするのがあなたの仕事なのよ? そう決まっているんだから!』
『決まっていなわよ、お嬢様! この国ではそういう身分でどうこうすることはできないの。少しはお勉強になったかしら?』
アイリーンがルングレム語で返すと、リディアが驚いたようにアイリーンを見た。
『なによ、あなたもずいぶんと性格が悪いのね。ルングレム語が話せるのに、わざわざ大陸共通語を使うなんて! この国は、本当に人を攻撃することしかできない野蛮だわ! 身分高い女性には、頭を下げるという常識も知らないのかしら?』
『そんな常識、この国にないって今言わなかった?』
呆れたようにアイリーンがため息をついた。
そして、アメルがこの従姉と話が合わない――いや、話をしない意味を理解する。
話しても無駄だ。
なにせ、会話にならないのだから。
面倒くさくなったアイリーンは、アメルの腕を引いて目の前の集団を抜けようとした。
その時、教室の入り口がざわついた。
主に女子の声が。
教室のドアをくぐって中に入ってきたのは、デリックとカイゼンだった。
しかし、午前中にはリディアはアメルに絡んでくる様子はなかった。
目が合ったし、すごい勢いで睨まれたので、絶対に何か言ってくると思ったが、他国の言葉も通じないような異国だからか、慎重に行動しているようだ。
案外成長していかもしれないと、ちょっと期待したいところだが、安心はできない。
それに、リディア以外にも留学しているであろう王太子アイザックの様子も気になるし、アイザックの側近であり、リディアへの求婚者である二人の存在も気になった。
リディアが大陸共通語を話せないのは、知っているはずなのに、一度も様子を見に来なかった。
そして、午前中の授業が終わり、昼食の時間になった時、リディアがかなり不機嫌そうにアメルの元にやってきた。
その時アメルはようやく気付く。
リディアがアメルの元に来なかったのは、単にアメルの方から挨拶に来るのが当然だと思っていたからなのだと。
ここで約一年過ごし、ルングレム王国の暗黙の了解を忘れていた。
『アメル久しぶりね。あなたって、本当に礼儀がなってないのね。普通はわたしに挨拶に来るものでしょう?』
約一年ぶりの再会なのに、いきなり小言から始まった。
一応親族なのだから、普通は体調とか、何をしていたとか、そう言った無難な話題から入るのが普通だ。
アメルを自分の使用人だと思っているからこそ、当たり前の挨拶さえない。
アメルは眉をひそめて、アイリーンを見る。
すると彼女は、どうやら話に加わる気がないようだった。
観察するように、じろじろとリディアを見ている。
その不躾ともいえる視線に、リディアがアイリーンを睨んだ。
『ちょっと、なんなのよ。もしかして友達? アメルに友達なんてできるのね。なんたって、あなたは本当に気が利かない愚図だったんだもの。ああ、でも礼儀知らずなお友達みたいだから、気が合うのかしら?』
「リディア、ここではルングレム語ではなく大陸共通語を使うのが普通よ。それに、挨拶もできないのは相変わらずみたいね」
絶対に聞き取れないであろう大陸共通語でアメルが返す。
すると、リディアはムッとした。
『頭がいいアピール? 嫌味な子ね。人の嫌がる事しかできないなんて……。見た目は少しは良くなったみたいだけど、性格は根暗なままなのね。いえ、性格が悪くなったわ。従姉としてわたしはあなたが恥ずかしい』
途端に目じりに涙を浮かべ、悲し気になる。
すると、それを目にした男子生徒が、庇うようにアメルとリディアの前に立った。
「アメルさん! リディア様をイジメるのはよくないと思う。同郷なのだから、助けてあげるのが普通だろう?」
男子生徒の言葉にアメルとアイリーンは目を見合わせた。
そして、黙ってアメルとリディアのやりとりを聞いていたアイリーンが、リディアを庇う男子生徒に食ってかかった。
「あのね、あんた。そのリディア様って何? そもそも、イジメていたわけじゃないって見てたでしょう? 目は大丈夫? 耳も聞こえてる?」
アメルとリディアのやり取りは、教室中の注目の的だった。
そのため、アメルの言葉はそこまで大きくなかったが、ほとんどの人に聞こえている。
男子生徒の目には、どうやらアメルがイジメているように見えているらしいが、女子生徒たちはアメルの言っていることが正しいので、アイリーンに返しに同調して頷いていた。
気持ちはやれやれ! ってところだろう。
リディアのたどたどしい言葉で、実力でこの学校に来たわけではないとすぐに分かるので、特別扱いされていることが分かる彼女には、はじめからいい感情はないのだ。
「話をしていても、頭が悪くなりそうだわ。アメル、行きましょう」
ガタリと音を鳴らして席を立つアイリーンが、アメルを促す。
『アメル! わたしの世話をするのがあなたの仕事なのよ? そう決まっているんだから!』
『決まっていなわよ、お嬢様! この国ではそういう身分でどうこうすることはできないの。少しはお勉強になったかしら?』
アイリーンがルングレム語で返すと、リディアが驚いたようにアイリーンを見た。
『なによ、あなたもずいぶんと性格が悪いのね。ルングレム語が話せるのに、わざわざ大陸共通語を使うなんて! この国は、本当に人を攻撃することしかできない野蛮だわ! 身分高い女性には、頭を下げるという常識も知らないのかしら?』
『そんな常識、この国にないって今言わなかった?』
呆れたようにアイリーンがため息をついた。
そして、アメルがこの従姉と話が合わない――いや、話をしない意味を理解する。
話しても無駄だ。
なにせ、会話にならないのだから。
面倒くさくなったアイリーンは、アメルの腕を引いて目の前の集団を抜けようとした。
その時、教室の入り口がざわついた。
主に女子の声が。
教室のドアをくぐって中に入ってきたのは、デリックとカイゼンだった。
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