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10.たどたどしい挨拶
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「リディア・ディールデス。コウシャクイエデス。ヨロシクデス」
リディアは、華やかに可憐に微笑み、教室中の男子学生を一瞬で虜にした。
片言な大陸共通語の挨拶も、たどたどしくて可愛らしい――とでも思っていそうな、男子たちに教室中の女子生徒の視線が冷たい。
しかし、女子の中には若干ではあるものの、楽しそうに相手を観察している者もいる。
そのうちの一人が、隣に座っているアメルの友人だ。
アイリーンはこっそりアメルに話かけた。
「ねえねえ、アレがアメルの言っている従姉様?」
「そうよ、アイリーン」
「なんかいろいろとすごいわね。見てよ、男たちの目がハート状態よ」
「見た目は可憐な美少女ですから?」
「確かに、それはわたしも認めるわ」
アイリーンが感心するように言った。
しかし、アメルからリディアの話を聞いているアイリーンは、惑わされることはない。
教室の席は自由に座ることができるため、リディアは挨拶が終わると男子にちやほやされて、前の方の席に座った。
こちらを意識している様子はない。
「アメルの方を見ることもしなかったわね」
「まあ、ルングレム王国にいた時とはだいぶ見た目が違うから、目があっても気づかないかもしれないわ」
「ああ、なんだっけ? 地味にしてないと、ケチ付けられるんだっけ?」
「アイリーン、もっと言い方が……」
「でもそうなんでしょう?」
アメルはルングレム王国にいた頃、リディアによって眼鏡を強要されていたが、それはつまり地味に装っていろというお達しだった。
そのため、アメルはルングレム王国の貴族学院では、地味で色気もない根暗な落ちこぼれと思われていた。
そういう風に吹聴していのはリディアだが、アメルをイジメるのはリディアの楽しみの一つだから、他の生徒が手を出すことがなかったのは唯一よかったことだ。
そんなアメルは、ルングレム王国を出てから一気にあか抜けていた。
灰をかぶったように輝きを押さえていた銀色の髪の色を元に戻し、目にかかっていた前髪を切り、堂々と宝石のような輝きを放つ新緑の瞳を表にだした。
肌も白く滑らかで、アイリーンはよく羨ましく思っている。
実は、アメルもリディア同様に美少女だったが、リディアはそれが気に食わなかったのだ。
注目されるのは自分だけでいい、アメルは陰に控えていろと遠回しに伝えていた。
従姉妹同士のため、自分とアメルとを比較して、自分ほうが格段に上であることを見せつけたがったのだ。
とにかくちやほやされるのが何よりも好きなので、少しでも自分以外に褒める言葉が向かうのは許さないような少女だった。
リディアにしてみれば、地味にしているアメルの屈辱的な顔を見たかった事もあるのだが、姿を地味にするだけで、リディアからの嫌味が減るのならと、アメルは喜んでやっていた。
しかし、アーバンド帝国で姿を偽る必要性もない上に、デリックの母親からの強い押しによって、頭の天辺からつま先まで生まれ変わるかのように変化していた。
「わたしが出会ったときには、アメルはすでにあか抜けたあとだからどれだけ変ったのか知らないけど、そんなに違う?」
「わたしでもびっくりするぐらい変わったと思う。というか、おば様があれこれ注文つけてたけど、デリックもうるさかったから」
「デリックが?」
「買い物一つするのも、大変なくらいよ。普通、男性の方が嫌でしょうに。女性の買い物に付き合うのは」
思い出すと、ちょっとうんざりしそうになってしまった。
「ふーん、それ初めて聞いたかも」
今にも笑いだしそうなアイリーンの声音に、どこに笑う要素があるのか分からず、アメルは聞き流した。
「とにかく、向こうがわたしに気づかなくてもおかしくないって事」
「でも、このクラスにしたのは絶対アメルがいるからよね?」
「あわよくば、面倒見させたいんでしょう。同郷ってだけじゃなくて、一応従姉妹同士だし。それに、リディアの言葉を聞いていたら、納得したわ」
「ルングレム王国語話せるのは、この学校でもほんの一部だろうしね。通訳に使いたかったのね、教師陣は。実力主義をうたってるこの学校が汚されるようだわ」
留学生でもある程度の意思疎通が取れる大陸共通語と、学力試験が必要になるこの学校において、あれほどたどたどしい大陸共通語を話す者はリディア以外にはいない。
そもそも、リディア程度では試験に落とされるのが普通だ。
アイリーンが呆れるように続けた。
「あんな言葉遣いじゃあ留学生向けの試験だって絶対通らなそうなのに、お偉い方々が信奉者の方は違うわね、うらやましい限りだわ」
前列に座るリディアを見ながらアイリーンがしみじみと言った。
その口調からは、うらやましいと言いながらも、全くそうは感じなかった。
二人でリディアと、すでに取り巻きかしている男子を見ながらこそこそ話していると、突然リディアがアメルたちを振り返る。
そして、驚いたように目を見開き、次の瞬間睨みつけてきた。
しかし、それは本当に一瞬の出来事で、おそらく他の人はリディアの変貌を見ていなかったに違いない。
もしくは、見間違いだと勝手に脳内変換されているかだ。
「あー、あれはバレたわね」
アイリーンが口角をあげてにっこりと笑う。
まるで獲物を狩る直前かのような顔つきだ。
「この国でどんなことをやらすのか、今から楽しみだわ」
「自国の恥をさらすようで、こっちが恥ずかしくなりそうだわ」
アメルが、ため息をついた。
リディアは、華やかに可憐に微笑み、教室中の男子学生を一瞬で虜にした。
片言な大陸共通語の挨拶も、たどたどしくて可愛らしい――とでも思っていそうな、男子たちに教室中の女子生徒の視線が冷たい。
しかし、女子の中には若干ではあるものの、楽しそうに相手を観察している者もいる。
そのうちの一人が、隣に座っているアメルの友人だ。
アイリーンはこっそりアメルに話かけた。
「ねえねえ、アレがアメルの言っている従姉様?」
「そうよ、アイリーン」
「なんかいろいろとすごいわね。見てよ、男たちの目がハート状態よ」
「見た目は可憐な美少女ですから?」
「確かに、それはわたしも認めるわ」
アイリーンが感心するように言った。
しかし、アメルからリディアの話を聞いているアイリーンは、惑わされることはない。
教室の席は自由に座ることができるため、リディアは挨拶が終わると男子にちやほやされて、前の方の席に座った。
こちらを意識している様子はない。
「アメルの方を見ることもしなかったわね」
「まあ、ルングレム王国にいた時とはだいぶ見た目が違うから、目があっても気づかないかもしれないわ」
「ああ、なんだっけ? 地味にしてないと、ケチ付けられるんだっけ?」
「アイリーン、もっと言い方が……」
「でもそうなんでしょう?」
アメルはルングレム王国にいた頃、リディアによって眼鏡を強要されていたが、それはつまり地味に装っていろというお達しだった。
そのため、アメルはルングレム王国の貴族学院では、地味で色気もない根暗な落ちこぼれと思われていた。
そういう風に吹聴していのはリディアだが、アメルをイジメるのはリディアの楽しみの一つだから、他の生徒が手を出すことがなかったのは唯一よかったことだ。
そんなアメルは、ルングレム王国を出てから一気にあか抜けていた。
灰をかぶったように輝きを押さえていた銀色の髪の色を元に戻し、目にかかっていた前髪を切り、堂々と宝石のような輝きを放つ新緑の瞳を表にだした。
肌も白く滑らかで、アイリーンはよく羨ましく思っている。
実は、アメルもリディア同様に美少女だったが、リディアはそれが気に食わなかったのだ。
注目されるのは自分だけでいい、アメルは陰に控えていろと遠回しに伝えていた。
従姉妹同士のため、自分とアメルとを比較して、自分ほうが格段に上であることを見せつけたがったのだ。
とにかくちやほやされるのが何よりも好きなので、少しでも自分以外に褒める言葉が向かうのは許さないような少女だった。
リディアにしてみれば、地味にしているアメルの屈辱的な顔を見たかった事もあるのだが、姿を地味にするだけで、リディアからの嫌味が減るのならと、アメルは喜んでやっていた。
しかし、アーバンド帝国で姿を偽る必要性もない上に、デリックの母親からの強い押しによって、頭の天辺からつま先まで生まれ変わるかのように変化していた。
「わたしが出会ったときには、アメルはすでにあか抜けたあとだからどれだけ変ったのか知らないけど、そんなに違う?」
「わたしでもびっくりするぐらい変わったと思う。というか、おば様があれこれ注文つけてたけど、デリックもうるさかったから」
「デリックが?」
「買い物一つするのも、大変なくらいよ。普通、男性の方が嫌でしょうに。女性の買い物に付き合うのは」
思い出すと、ちょっとうんざりしそうになってしまった。
「ふーん、それ初めて聞いたかも」
今にも笑いだしそうなアイリーンの声音に、どこに笑う要素があるのか分からず、アメルは聞き流した。
「とにかく、向こうがわたしに気づかなくてもおかしくないって事」
「でも、このクラスにしたのは絶対アメルがいるからよね?」
「あわよくば、面倒見させたいんでしょう。同郷ってだけじゃなくて、一応従姉妹同士だし。それに、リディアの言葉を聞いていたら、納得したわ」
「ルングレム王国語話せるのは、この学校でもほんの一部だろうしね。通訳に使いたかったのね、教師陣は。実力主義をうたってるこの学校が汚されるようだわ」
留学生でもある程度の意思疎通が取れる大陸共通語と、学力試験が必要になるこの学校において、あれほどたどたどしい大陸共通語を話す者はリディア以外にはいない。
そもそも、リディア程度では試験に落とされるのが普通だ。
アイリーンが呆れるように続けた。
「あんな言葉遣いじゃあ留学生向けの試験だって絶対通らなそうなのに、お偉い方々が信奉者の方は違うわね、うらやましい限りだわ」
前列に座るリディアを見ながらアイリーンがしみじみと言った。
その口調からは、うらやましいと言いながらも、全くそうは感じなかった。
二人でリディアと、すでに取り巻きかしている男子を見ながらこそこそ話していると、突然リディアがアメルたちを振り返る。
そして、驚いたように目を見開き、次の瞬間睨みつけてきた。
しかし、それは本当に一瞬の出来事で、おそらく他の人はリディアの変貌を見ていなかったに違いない。
もしくは、見間違いだと勝手に脳内変換されているかだ。
「あー、あれはバレたわね」
アイリーンが口角をあげてにっこりと笑う。
まるで獲物を狩る直前かのような顔つきだ。
「この国でどんなことをやらすのか、今から楽しみだわ」
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アメルが、ため息をついた。
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