【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?

チカフジ ユキ

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9.男同士の内緒話

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 カフェテリアをアメルとアイリーンが出て行ってからしばらくすると、カイゼンが意味ありげにデリックに視線を投げた。
 それを受けて、デリックは無言でカイゼンの椅子を蹴った。

「ちょっと、僕何も言ってないけど?」

 あからさまに態度が砕けて、親友同士――というよりも悪友同士と言った雰囲気になった。

 デリックとカイゼンは幼馴染だ。
 お互いの事は、親よりも知っているような間柄で、特にカイゼンは人の機微には敏感なため、デリックの考えなど丸わかりだった。

 だが、分かっていても言わせたいのだ。
 面白いから。

「仏頂面しても、僕には効かないよ。言わないと伝わらないことはたくさんあると思うけどなぁ」
「うるさい、いちいちうっとうしい奴だな」

 カイゼンの顔を見れば、何を考えているのか分かる。
 周りの人間からは、ただ穏やかに笑みを浮かべているようにしか見えないカイゼンの微笑みは、デリックから見れば、にやにや笑っているようにしか見えない。

「そう? じゃあ、僕は行くよ。うっとうしい顔なんて見たくないでしょう?」

 にこにこと笑うカイゼンの横っ面を殴りたい衝動に駆られながら、デリックは相手を睨みつけながら言った。

「出禁にしろ」

 一言それだけ言うと、再びむっつりと黙り込んだ。
 カイゼンはおかしくなって、声を上げて笑いそうになる。

「それさ、アイリーンに言った方が早くない? アイリーンの実家は帝国一の商家だし。バカ皇子一行だって、使うでしょう?」
「あの皇子はもうすでに出禁になってる。聞いた話では、おそらく個人で使うことはないだろうな」
「リディア嬢の話だよね? 確かに男性と一緒に使いそうだ。主にバカ皇子とね。なるほど、バカ皇子がアイリーンの実家であるドックドリー商会からすでに出禁を食らっているのなら、次に選ぶのは僕のところか」

 アイリーンの実家は、アーバント帝国一の商家だが、第一皇子殿下といざこざがあり、第一皇子殿下とは犬猿の仲な上、傘下の商会に第一皇子殿下の出禁を命じている。
 本人だけを出禁にしているのは、まだ優しい処遇だ。

 第一皇子が行けないだけだが、きっと第一皇子はドックドリーの商会を彼らに進めることはしない。
 自分と敵対した商会を進めるのは、プライドが許さないだろう。

 そして、カイゼンの実家は宝石鉱山をいくつも持つ宝石業を営む実業家一家。
 全体的に見ればアイリーンの実家のドックドリーほどではないが、宝石に関して言えばアーバント帝国一の質と量を誇っている。

 つまり、アイリーンの実家とカイゼンの実家、どちらも彼らが使えないとなると、大いに困ることになるだろう。

「それから、ルングレム王国の第二王子が王位を継げるようにしたい」
「それは、アメルのため? それとも自分のため?」
「憂いを残したままだと、アーバント帝国に留まらないかもしれないだろ」

 腕を組んでそっぽを向くデリックに、カイゼンが今度こそ笑い声をあげた。
 カフェテリアは今二人しかいないので、思い切り笑う。

「あははは、君は本当にどうして本人の前では素直になれないのかな? 見てるこっちがむず痒い思いをいつもしてるって気づいてる? 性格変わりすぎて、笑うしかできないよ」

 デリックは、アメルの事が好きだ。
 そのため、なんとかこの国に留まらせたい。しかし、アメル自身は次期後継者に関して問題を抱えるルングレム王国に残している両親が気にかかり、学校を卒業したら国に帰りそうな感じだった。

 だが、もしこれが解消されれば、なんの憂いもなくアーバント帝国にとどまってくれる可能性がある。
 そうすれば、デリックが求婚しても受け入れてくれる可能性が高まる――そんな考えがデリックにはあった。

 カイゼンもアイリーンもデリックの気持ちには気づいている。本人だって積極的に隠しているわけでもないのに、アメルにだけ伝わっていない。

 デリックは、アメルが自分を男として見ていないことは重々承知していた。
 そのため、少しずつ囲い込むように動いている。それを側で見ているカイゼンとアイリーンは、呆れるよりも先に早く好きって言ってしまえという思いだった。

 良くも悪くも、カイゼンとアイリーンは似たような感性を持っている。

「アメルは、モテるから早く意思表示はしておいた方がいいと思うけど」

 アメルは頭がいいが、女性的なやわらかい空気を持っている。
 アーバント帝国の女性はどちらかと言えば気が強いが、アメルはお国柄的なのかアーバント帝国の女性陣より性格が控えめだ。

 留学している外国人だから、ということもあるかもしれないが。
 
 とにかく、そういう一面が、男子に人気だった。
 もちろん、見た目だってこの国に来てから、国では隠していた容姿を表に出しているので、人の目をよく引いている。

 アメルが、女子の一部から敵意を持たれているのは、何もデリックといつも一緒のせいではないのだ。
 アメル自身も十分魅力的な女性で、女子生徒はそれに嫉妬している。

 しかし、呼び出されて告白されてもおかしくはないのに、そういう行為が一度もないのは、側にデリックがいるせいだ。

 近づこうとする男子に威嚇して追い払っているデリックの姿は大層面白い。

「女性に関しては百戦錬磨な顔していて、本当にヘタレだなぁ」

 カイゼンが肩をすくめた。
 男性的な顔立ちであるデリックは、それこそ女性に不自由しなさそうなのに、遊んでいるそぶりはない。
 
 その硬派なところもまたモテるのだが、本人がたった一人だけを求めているのだから、その視線に気づくことはなかった。

「まあ、親友の恋路のため僕ができる限り支援してあげよう」
「誰が親友だ!」

 突っ込むどころはそこじゃないのかな、と思いながらカイゼンは再び声を上げて笑った。
 


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