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6.学校長の頼み事
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「先に言っておくけど、これはわたしの親族の話も関わってるの。以前少し話したことあったかもしれないけど」
「ああ、従姉の話?」
「そう、年の近い従姉と関係が悪くなったから、こっちに留学してって話」
デリックはアメルの家庭事情は知っている。
カイゼンとアイリーンは、友人として付き合いだした頃に、留学してきた経緯を話したことがあった。
「もう少し詳しく話すと、従姉――リディアは一人娘で筆頭相続人だったから、周りからもちやほやされて育ったの。おかげさまで、かなり我儘に成長したのよ。わたしの事を便利な小間使い扱いして、よく振り回されていたわ」
「それはなんとも大変そうだね、でも普通貴族は厳しい教育を受けると思うけど。そんなにちやほやされてたの?」
「カイゼン、厳しい教育を受けるのはこの国ではでしょ。ルングレム王国では違うのかもしれないわよ」
違わない。
ルングレム王国でも、貴族は模範的になる意味でも厳しく教育を行う。
ただし、リディアは違った。
リディアの生まれたディール家は、なかなか子供に恵まれず、正妻である公爵夫人は肩身の狭い思いをしていた。
外で浮気を繰り返す夫との関係も冷えこんでいたが、そんなときにできたのがリディアだった。
女の子ではあったが、生まれた時からどんな赤ん坊よりも美しかった彼女は両親を魅了し、公爵家の雰囲気はかなり改善されたらしい。
そして、可愛らしい我が子に苦労させたくない思いからか、父親も母親もかなり甘やかして育てた。
リディアが嫌だと言えばなんでもかんでも受けれられて、周囲からかわいい、美人だと称賛され、リディアは冗長して育っていく。
そんな彼女は、自分が一番でなければ気が済まない少女となった。
「まあ、どこにでもいるわよね。そういう子」
「その従姉が、留学してくるので、わたしにお世話係してほしいっていう打診を昨日されたの」
アメルがため息とともに吐き出すと、三人の視線が痛いほど注がれた。
「え、えぇ? その従姉さんって聞いてる限りだと勉強もアメルに全てお任せ状態じゃなかったっけ?」
「そう。一学年上だったんだけど、課題を押し付けられていました。わたしは予習で貴族学院の講義は全て終えていたから、問題なく課題はやってあげましたけどね」
「突き返してやればよかっただろ」
デリックが鋭く言ってきたが、すでに過去の事。
それにそうできなかった理由もある。
「断った後の方が、大変なのよ。リディアだけじゃなくて、なぜか彼女の信奉者からも苦言をもらうことになるから」
「それこそ、意味わかんないよね? 普通は、諫めるものじゃないかな?」
「普通じゃないから、反抗するのが面倒だったの。あ、そうそう。確かリディアの信奉者の中には、こちらの帝室の皇子殿下がいらっしゃったけど、知ってる?」
デリックはそれが誰の事かもちろん知っている。
そして、カイゼンとアイリーンは知らなくともすぐに察した。
「ああ、あのバカ皇子ね」
「アイリーン、一応皇子殿下だよ。第一皇子殿下って言ったらどうかな?」
苦笑とともにカイゼンはアイリーンの言葉を正すが、バカ皇子を否定する気はないようだ。
「この国では次代のトップも実力で選ぶからね。第一皇子か……、確か数年前に継承権剥奪されて暴れてたけど、まさかアメルの国にいるとは思わなかったなぁ」
カイゼンは興味なさそうにしみじみと言った。
「なんか、申し訳ないわね。こっちの恥知らずを引き受けていてくれたなんて」
「遊学って言っていたけど、本当はこの国に居場所がなかっただけなのは、アーバント帝国に来てすぐに知ったわ」
アメルもアーバント帝国の皇子がなぜやってきたのか詳しくは知らなかったので、デリックから事情を聞いて、色々と納得してしまった。
どこにでも手に負えない存在というのはいるのだなと、変なところでほっとした。
ふと思い出したのは、ルングレム王国の王太子アイザックといやに張り合っているなと思った事だった。
それは同じ皇子だからだと思っていたが、実は嫉妬していたのかもしれない。
ルングレム王国の王太子は長子相続だからだ。
アイザックには弟が一人いるが、どれだけ弟の出来がよくても、アイザックが国王を継ぐ。
もし、アーバント帝国がルングレム王国と同じなら、長子である第一皇子である自分が継げていたはず。
それがかなわないからこそ、アイザックが心寄せているリディアの気を必死で引こうとしている可能性があった。
嫌がらせの意味も兼ねて。
まあ、それだけではないと思うが。
「話が逸れてるけど、とにかくそんなちょっとどころじゃなく厄介な従姉さんがやってくるってことでいいのよね? それで、なんだっけ? アメルにその世話係をお願いしたいって?」
「学校長直々に」
「おかしいだろ。留学生がどんな身分の者でも、学生は平等に扱う。もちろん、王族だったら少しは融通利かせることあるが、一貴族だろう?」
もっともなデリックの疑問に、カイゼンとアイリーンも同時にその通りだと頷いた。
「ああ、従姉の話?」
「そう、年の近い従姉と関係が悪くなったから、こっちに留学してって話」
デリックはアメルの家庭事情は知っている。
カイゼンとアイリーンは、友人として付き合いだした頃に、留学してきた経緯を話したことがあった。
「もう少し詳しく話すと、従姉――リディアは一人娘で筆頭相続人だったから、周りからもちやほやされて育ったの。おかげさまで、かなり我儘に成長したのよ。わたしの事を便利な小間使い扱いして、よく振り回されていたわ」
「それはなんとも大変そうだね、でも普通貴族は厳しい教育を受けると思うけど。そんなにちやほやされてたの?」
「カイゼン、厳しい教育を受けるのはこの国ではでしょ。ルングレム王国では違うのかもしれないわよ」
違わない。
ルングレム王国でも、貴族は模範的になる意味でも厳しく教育を行う。
ただし、リディアは違った。
リディアの生まれたディール家は、なかなか子供に恵まれず、正妻である公爵夫人は肩身の狭い思いをしていた。
外で浮気を繰り返す夫との関係も冷えこんでいたが、そんなときにできたのがリディアだった。
女の子ではあったが、生まれた時からどんな赤ん坊よりも美しかった彼女は両親を魅了し、公爵家の雰囲気はかなり改善されたらしい。
そして、可愛らしい我が子に苦労させたくない思いからか、父親も母親もかなり甘やかして育てた。
リディアが嫌だと言えばなんでもかんでも受けれられて、周囲からかわいい、美人だと称賛され、リディアは冗長して育っていく。
そんな彼女は、自分が一番でなければ気が済まない少女となった。
「まあ、どこにでもいるわよね。そういう子」
「その従姉が、留学してくるので、わたしにお世話係してほしいっていう打診を昨日されたの」
アメルがため息とともに吐き出すと、三人の視線が痛いほど注がれた。
「え、えぇ? その従姉さんって聞いてる限りだと勉強もアメルに全てお任せ状態じゃなかったっけ?」
「そう。一学年上だったんだけど、課題を押し付けられていました。わたしは予習で貴族学院の講義は全て終えていたから、問題なく課題はやってあげましたけどね」
「突き返してやればよかっただろ」
デリックが鋭く言ってきたが、すでに過去の事。
それにそうできなかった理由もある。
「断った後の方が、大変なのよ。リディアだけじゃなくて、なぜか彼女の信奉者からも苦言をもらうことになるから」
「それこそ、意味わかんないよね? 普通は、諫めるものじゃないかな?」
「普通じゃないから、反抗するのが面倒だったの。あ、そうそう。確かリディアの信奉者の中には、こちらの帝室の皇子殿下がいらっしゃったけど、知ってる?」
デリックはそれが誰の事かもちろん知っている。
そして、カイゼンとアイリーンは知らなくともすぐに察した。
「ああ、あのバカ皇子ね」
「アイリーン、一応皇子殿下だよ。第一皇子殿下って言ったらどうかな?」
苦笑とともにカイゼンはアイリーンの言葉を正すが、バカ皇子を否定する気はないようだ。
「この国では次代のトップも実力で選ぶからね。第一皇子か……、確か数年前に継承権剥奪されて暴れてたけど、まさかアメルの国にいるとは思わなかったなぁ」
カイゼンは興味なさそうにしみじみと言った。
「なんか、申し訳ないわね。こっちの恥知らずを引き受けていてくれたなんて」
「遊学って言っていたけど、本当はこの国に居場所がなかっただけなのは、アーバント帝国に来てすぐに知ったわ」
アメルもアーバント帝国の皇子がなぜやってきたのか詳しくは知らなかったので、デリックから事情を聞いて、色々と納得してしまった。
どこにでも手に負えない存在というのはいるのだなと、変なところでほっとした。
ふと思い出したのは、ルングレム王国の王太子アイザックといやに張り合っているなと思った事だった。
それは同じ皇子だからだと思っていたが、実は嫉妬していたのかもしれない。
ルングレム王国の王太子は長子相続だからだ。
アイザックには弟が一人いるが、どれだけ弟の出来がよくても、アイザックが国王を継ぐ。
もし、アーバント帝国がルングレム王国と同じなら、長子である第一皇子である自分が継げていたはず。
それがかなわないからこそ、アイザックが心寄せているリディアの気を必死で引こうとしている可能性があった。
嫌がらせの意味も兼ねて。
まあ、それだけではないと思うが。
「話が逸れてるけど、とにかくそんなちょっとどころじゃなく厄介な従姉さんがやってくるってことでいいのよね? それで、なんだっけ? アメルにその世話係をお願いしたいって?」
「学校長直々に」
「おかしいだろ。留学生がどんな身分の者でも、学生は平等に扱う。もちろん、王族だったら少しは融通利かせることあるが、一貴族だろう?」
もっともなデリックの疑問に、カイゼンとアイリーンも同時にその通りだと頷いた。
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