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5.友人たち

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 過去のできごとが脳裏を巡り、その後隣のデリックを見上げた。

 今年十六になるアメルとデリックの付き合いは、すでに十年程になる。
 彼の父親が貿易商で、海を渡りやってくる際に使う港が、アメルの実家だった。
 そして、彼の家が留学先の滞在場所だ。

 アメルはデリックの事をよく知っているし、それはデリックも同様だ。

 そのため、アメルの眉根が寄るのを見たデリックは、すぐにアメルが何かに悩んでいることに気づく。

「おい、何かあったのか?」
「まあ、ちょっと」
「昨日、呼び出されたときに何か言われたのか?」

 アメル相手に遠慮はなしだ。
 もちろん、空気を読むこともできるが、空気を読んで話すまで待っていたら、一生話さないだろうことは、デリックには分かっていた。

「とりあえず、場所変えるぞ」

 これは逃がしてもらえないだろうな、という雰囲気がデリックから伝わってきたので、アメルは諦めてデリックの横を連れ立って歩く。

「あのね、別に大したことじゃないのよ。ただ、ちょっと面倒な事が起きそうだなって思っただけで」
「大したことないなら、別に普通に話せばいいだろう。ああ、ついでにあいつらも一緒に話を聞いてもらうか。二人よりも、悩む頭はたくさんあった方がいいだろ?」

 デリックの言うあいつらというのは、アメルとデリック共通の友人たちだ。
 学校に入学して早々に親しくなり、一年を通して常に行動を共にすることが多くなった。

「今ならカフェテリアにいるだろ、きっと」

 デリックの推測をアメルは否定をしなかった。
 そもそもテスト結果発表の日は、なぜかカフェテリアに集まってテスト結果について話すのが恒例だからだ。

 案の定、カフェテリアの一番良い席には、友人二人の姿。
 すでに、のんびり寛いでいるところをみると、テスト結果は見てきた後の様だ。

 アメルと、デリックの姿に気づくと気さくに挨拶をしてくる。

「おはよ、見てきた?」

 先に声をかけてきたのは、紺色の髪の男子学生だ。
 足を投げ出すようにして座り、片方の足は膝の上。制服も着崩しているのに、それが良く似合っている。
 座っているので分かりづらいが、彼もデリック並みに背が高く、女子生徒に人気の男子だった。

 野生的で端整な顔立ちのデリックとは対照的に、柔和な王子様的な顔立ちで、よく色々な女子生徒と一緒にいるところを見る。

「そっちも見てきたんだろ、カイゼン」
「もちろん、人が集まる前にさっさとね。僕はいつも通り三十前後だけど、そっちもいつも通りだったね」

 アメルとデリックの事だ。
 テスト結果を指摘されたデリックは憮然として、空いている席にアメルを促して座る。

「そのうちいつも通りじゃなくなる」
「それいつも言ってるけど、いつになったら実現するのか気になるわ。ちなみに、わたしは十五だったわよ」

 赤い髪の女子生徒が、揶揄うように言った。
 目鼻立ちがくっきりしている、派手な美少女だ。

「アイリーンの言う通りだね。ぜひ中等部の頃を思い出させてほしいな」

 カイゼンがデリックに言うと、デリックはふんとそっぽを向いた。

 アメルが留学する以前の学年では、デリックは追従を許さないほどトップをひた走っていた。その時のことを、カイゼンに言われている。

「まあ世界は広いってことよね」

 カイゼンの言葉を受けて、アイリーンが締めくくった。

 デリックはアーバント帝国において同世代の中で突出した知能を持っていた。
 誰も彼には敵わない――そう思われていたが、それを覆したのはアメルだった。

「まあ、僕はデリックが天才じゃないって知ってたけど。ちゃんと努力してるしね」

 デリック自身も、自分が天才だとは思っていなかった。
 確かに理解力はあるので、一を聞けば十を理解する能力はあったが、世の中には本当の天才がいることも知っている。
 一を聞かずとも理解している天才が。

 ちなみに、アメルも努力型だ。
 きちんと勉強してテストに挑んでいる。

 差がつくのは、おそらく自由課題の小論文だ。
 これには正解がないので、教師の好みに左右される面がある。
 アメルは、この国についてはまだまだ表面上の事しか知らないからこその着眼点もあり、それが教師にとっては面白く感じるらしい。

「ところで、何か話があるんじゃないの? なんか、そんな顔してるよ」

 カイゼンは人の顔色を見るのが得意だ。
 顔に出ていなくても、雰囲気だけで相手の感情を読み取ってくる。
 そのため、彼に隠し事は絶対にできない。
 
 それなのに、自分の感情は巧妙に隠すので、何を考えているのか分からないのだから、絶対に外交官向きだとアメルも、他の二人も思っている。

「俺じゃない、アメルの方だ」
「別に話って程のことじゃないんだけど」
「起きた時からぼーっとしてるくせに、何もないと言っても信用がないと分かっているか?」
「ぼーっとはしてないけど」
「してる、いつもより反応が鈍い」

 断言してくるデリックに、否定を繰り返すアメル。
 二人の話を止めたのはアイリーンだった。

「もう、どっちでもいいわよ。ところで、早く話してちょうだい。時間がもったいない」

 本当に大した話じゃないのに、むしろ自国の恥をさらす決まりの悪さがある。
 しかし、ここまできたら話をするまで解放されないだろうことも分かっていた。
 
 アメルは、仕方なく口を開いた。
 


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