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3.リディアとの関係性
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アメルが生まれたのは、島国である小国ルングレム王国のリンデルス伯爵家だった。
アメルの父親は、ルングレム王室と血の繋がりもある筆頭公爵家ディール家の次男で、リンデルス伯爵家の婿養子のため、アメルとリディアは父方の従姉妹同士という間柄。
しかし、リディアは権力の中枢である公爵家の娘であり、アメルは高位貴族とは言っても身分的にはだいぶ差があった。
そのせいか、リディアは年の近い従妹であるアメルをまるで自分の使用人だとでも思っているように、いいように扱っていた。
アメルは父親の弟の子供――つまり分家の子供のなのだから、総領娘である自分に尽くすのは当然――、そんな風に考えているのは、アメルも知っている。
実際はリンデルス伯爵家の婿養子になったのだから、分家でもなんでもないのだが、正しさを説けばすぐに癇癪を起し、巡り巡って父親の方にリディアの父親から苦情が入るのだから、そのうちアメルはリディアにしぶしぶ付き合うようになった。
アメルの父、リンデルス伯爵は従う必要性はないと言っていたが、国内にいる以上はリディアの方が身分が上である。
それに、父親と父親の実家を仲違いさせたいわけでもない。
黙っていれば、とりあえずどうってことないので、様子を見てほしいと訴え、現在に至る。
リディアとその取り巻き二人が馬車で意気揚々と王宮に出かけた後、アメルは自分の家の馬車に乗り込んで、ぐったりと座席に背を預ける。
そんな様子アメルの様子をまるで見ているかのように、御者のトーマスがアメルに声をかけてきた。
「お嬢様、お疲れさまでした。今日はそれほど拘束されずにようございました」
「本当に。もともと時間制限があったのは分かっていたから、あれこれ理由をつけて断らなかったけど、まさか直前でドレスを選べって言われるとは思わなかったわ」
アメルとて、嫌味や嫌がらせを常に受け続けているわけではない。
面倒だなと思えば、上手い言い訳を考えてリディアの用事を断ることもある。
そのほとんどが、父親の仕事の関係と言っておけばいい。
リディアは――というよりも、ルングレム王国の貴族女性は働くことを嫌悪する。
それは階級が上がれば上がるほど顕著となった。
女性は着飾って男性の隣で微笑み、華やかに相手を楽しませることこそが正しいという風潮なのだ。
そのため、娘であるアメルが父親を手伝って仕事をしているという行為は、リディアにとっては嘲笑の的。
おかげで、次に会ったときにリディアを優先しなかったことに対してねちねち言われず済む。
もちろん、父親を手伝って仕事をしていることを指摘され笑われるが。
ちなみにこの言い訳は、一番初めに、他の人と先約があるという言い訳を使ったときのリディアの言動が、あまりにも精神的疲労に繋がったため、色々考えた末の事だった。
「王家のバラ園に招待されたって言っていたけど、本当かしら?」
「何かおかしなことでも?」
「バラ園は王妃様の管理下にあるのよ。王妃様が開くお茶会以外では解放されたことはないと聞くわ。でも、王妃様主催のお茶会があるなんてお母様はおっしゃっていなかったのよ」
「個人的に使われているのでは?」
「さぁ、どうでしょうね? もしかしたら、リディアの気を引きたくて王太子様が頑張ったのかもしれないもの。リディアもまんざらでもなさそうだったし、これは本当に王太子妃候補になるかもしれないわ」
リディアはルングレム筆頭公爵家の一人娘で、身分的には誰よりもふさわしい。
ただし、その中身がふさわしいかどうかはまた別問題。
まあ、外面はいいし味方を作るのはとっても上手く、自らの敵を排除する際に自分に手を汚さずに、周囲が勝手に動くように仕向けるくらいの立ち回りはできるのだから、一国の王妃ももしかしたら勤まるかもしれない。
ただし、もしリディアが王太子妃に内定でもしたら、アメルはさっそうとこの国を出て二度と帰らないと誓うが。
「でも、今もまだ誰が一番いいかじっくりと品定め中のようだから、まだどうひっくり返るかわからないわ」
実のところ、リディアに恋心を抱いているのはなにも王太子だけではない。
他に、公爵家の嫡男や多くの鉱山を領地内に持つ裕福な伯爵家嫡男、他国の皇族も遊学のおりにリディアに惚れたと、押しかけ留学している。
とにかく、多種多様な顔の整った男性がリディアに求婚している状態だ。
だれもかれもがリディアにちやほやとし、リディアの欲しいものは湯水のごとくプレゼントしていた。
普通なら、そこで女性から反感を買いそうものだが、リディアが高位貴族の娘ということや外面の良さの結果、リディアに対する敵意は少ない。
少なからず敵意を持つ存在はいるのだが、そうそうにつぶされたのだから、皆見ないふりをしているともいうが。
この国は絶対的に身分がものをいう。
弱いものは、顔を上げることもできないのだ。
トーマスは、リディアの信奉者の顔を浮かべたのか、面白がるように言った。
「おやおや、それでは私は結婚前に子供を孕むことがない事を祈りましょう――……おっと、失礼いたしました」
辛辣ともいえるトーマスの言葉に、アメルは肩をすくめた。
「今のは聞かなかったことにしておくわ。外では誰が聞いているのか分からないのだから、口を慎むようになさい」
「かしこまりました、お嬢様」
軽口をたたいているうちに家に着いたアメルは、帰宅時の挨拶もそこそこに、父親のいる執務室へと赴いた。
アメルの父親は、ルングレム王室と血の繋がりもある筆頭公爵家ディール家の次男で、リンデルス伯爵家の婿養子のため、アメルとリディアは父方の従姉妹同士という間柄。
しかし、リディアは権力の中枢である公爵家の娘であり、アメルは高位貴族とは言っても身分的にはだいぶ差があった。
そのせいか、リディアは年の近い従妹であるアメルをまるで自分の使用人だとでも思っているように、いいように扱っていた。
アメルは父親の弟の子供――つまり分家の子供のなのだから、総領娘である自分に尽くすのは当然――、そんな風に考えているのは、アメルも知っている。
実際はリンデルス伯爵家の婿養子になったのだから、分家でもなんでもないのだが、正しさを説けばすぐに癇癪を起し、巡り巡って父親の方にリディアの父親から苦情が入るのだから、そのうちアメルはリディアにしぶしぶ付き合うようになった。
アメルの父、リンデルス伯爵は従う必要性はないと言っていたが、国内にいる以上はリディアの方が身分が上である。
それに、父親と父親の実家を仲違いさせたいわけでもない。
黙っていれば、とりあえずどうってことないので、様子を見てほしいと訴え、現在に至る。
リディアとその取り巻き二人が馬車で意気揚々と王宮に出かけた後、アメルは自分の家の馬車に乗り込んで、ぐったりと座席に背を預ける。
そんな様子アメルの様子をまるで見ているかのように、御者のトーマスがアメルに声をかけてきた。
「お嬢様、お疲れさまでした。今日はそれほど拘束されずにようございました」
「本当に。もともと時間制限があったのは分かっていたから、あれこれ理由をつけて断らなかったけど、まさか直前でドレスを選べって言われるとは思わなかったわ」
アメルとて、嫌味や嫌がらせを常に受け続けているわけではない。
面倒だなと思えば、上手い言い訳を考えてリディアの用事を断ることもある。
そのほとんどが、父親の仕事の関係と言っておけばいい。
リディアは――というよりも、ルングレム王国の貴族女性は働くことを嫌悪する。
それは階級が上がれば上がるほど顕著となった。
女性は着飾って男性の隣で微笑み、華やかに相手を楽しませることこそが正しいという風潮なのだ。
そのため、娘であるアメルが父親を手伝って仕事をしているという行為は、リディアにとっては嘲笑の的。
おかげで、次に会ったときにリディアを優先しなかったことに対してねちねち言われず済む。
もちろん、父親を手伝って仕事をしていることを指摘され笑われるが。
ちなみにこの言い訳は、一番初めに、他の人と先約があるという言い訳を使ったときのリディアの言動が、あまりにも精神的疲労に繋がったため、色々考えた末の事だった。
「王家のバラ園に招待されたって言っていたけど、本当かしら?」
「何かおかしなことでも?」
「バラ園は王妃様の管理下にあるのよ。王妃様が開くお茶会以外では解放されたことはないと聞くわ。でも、王妃様主催のお茶会があるなんてお母様はおっしゃっていなかったのよ」
「個人的に使われているのでは?」
「さぁ、どうでしょうね? もしかしたら、リディアの気を引きたくて王太子様が頑張ったのかもしれないもの。リディアもまんざらでもなさそうだったし、これは本当に王太子妃候補になるかもしれないわ」
リディアはルングレム筆頭公爵家の一人娘で、身分的には誰よりもふさわしい。
ただし、その中身がふさわしいかどうかはまた別問題。
まあ、外面はいいし味方を作るのはとっても上手く、自らの敵を排除する際に自分に手を汚さずに、周囲が勝手に動くように仕向けるくらいの立ち回りはできるのだから、一国の王妃ももしかしたら勤まるかもしれない。
ただし、もしリディアが王太子妃に内定でもしたら、アメルはさっそうとこの国を出て二度と帰らないと誓うが。
「でも、今もまだ誰が一番いいかじっくりと品定め中のようだから、まだどうひっくり返るかわからないわ」
実のところ、リディアに恋心を抱いているのはなにも王太子だけではない。
他に、公爵家の嫡男や多くの鉱山を領地内に持つ裕福な伯爵家嫡男、他国の皇族も遊学のおりにリディアに惚れたと、押しかけ留学している。
とにかく、多種多様な顔の整った男性がリディアに求婚している状態だ。
だれもかれもがリディアにちやほやとし、リディアの欲しいものは湯水のごとくプレゼントしていた。
普通なら、そこで女性から反感を買いそうものだが、リディアが高位貴族の娘ということや外面の良さの結果、リディアに対する敵意は少ない。
少なからず敵意を持つ存在はいるのだが、そうそうにつぶされたのだから、皆見ないふりをしているともいうが。
この国は絶対的に身分がものをいう。
弱いものは、顔を上げることもできないのだ。
トーマスは、リディアの信奉者の顔を浮かべたのか、面白がるように言った。
「おやおや、それでは私は結婚前に子供を孕むことがない事を祈りましょう――……おっと、失礼いたしました」
辛辣ともいえるトーマスの言葉に、アメルは肩をすくめた。
「今のは聞かなかったことにしておくわ。外では誰が聞いているのか分からないのだから、口を慎むようになさい」
「かしこまりました、お嬢様」
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