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2.投げ捨てられたドレス
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「ちょっと、アメル! あなた本当にセンスがないのね。こんなドレスを選ぶなんて、わたしに恥をかかせたいの!?」
そう言って、アメルの選んだドレスを投げ捨てたのは、金髪碧眼の美少女のリディアだ。
一事が万事、こんな事を言い出すのが、アメルの従姉だった。
アメルは、かすかにため息をつきながら、リディアの癇癪を憂鬱になりながら聞き流す。
それが最善であり、最も被害が少ないからだ。
しかし、リディアはそんなアメルの態度に気分を害したように苛立たし気に、アメルを見下ろしている。
そして、肩にかかる髪を手で払い、投げ捨てたドレスを拾い上げているアメルを侮蔑するように、この光景を眺めてくすくす笑っているお友達に意見を求めた。
「もう、みんな見てよ。リボンもフリルも宝石だってほとんどないドレスなのよ? こんなドレスしか選べない子なんて、どう思う?」
リディアが同意を求めれば、くすくす笑っているお友達は当然同意する。
「あら、本当に。アメルさんはリディア様のお美しさをご存じないようだわ」
意地悪そうな笑みを浮かべているのは、赤髪で妖艶な美少女だ。
体つきも男性が見とれるほどの、素晴らしい曲線を描き、まもなく女性として成熟する頃だった。
「ミリアもそう思うでしょう? 本当に愚図でのろまで、本当にわたしと同じ血が少しでも通っているのかと思う程なのよ」
「ですが、そう思っていらっしゃってもアメルさんを見限らないなんて、さすがリディア様! とてもお優しいですのね」
目には悪意を募らせながら、リディアを褒めたたえるのは、焦げ茶色の髪の少女。
こちらもまた美少女だが、どこか幼さが見受けられる童顔を持つ。
「あら、サーラ。だって今見限ったら、この子ったら成長する機会を無くすのよ? だからルングレム筆頭公爵家のわたしがこうして面倒見てあげてるの」
にっこりと笑みを浮かべるリディアは、可憐な清楚系美少女だった。
この笑みを見た人はみな、自愛に満ちた天使を見るかのようにうっとりと眺めるが、アメルはこの笑みが作られている笑みだと知っている。
しかし、そのせいでリディアのやっていることはなぜか全て肯定的に受け止められていた。
「アメルさんは、リディア様の一番のお付きなのに、どうしてこうもリディア様の魅力を削ぐようなことしかできないのですか?」
「やだわミリアさん、アメルさんは目がお悪いのよ。きっと、きちんと見えていないだけだわ」
確かにアメルは眼鏡をかけている。
だけど、幼いころにリディアに命じられたせいだ。
もちろん、家族は目が悪くもないのにそんな事をしなくてもいいとは言ってくれた。
でも、色々因縁をつけられるのは面倒だったアメルが、率先して眼鏡をすることを希望した。
つまり、目は悪くないのだ。
ちなみに、リディアはアメルに眼鏡をするように言った自分の発言の事など忘れているし、今この場にいるお友達は事情を何も知らない。
さらに言えば、リディアの取り巻きたちのアメルに対する“目が悪い”発言を訂正する気もアメルにはない。
ただひたすら黙って聞き流す方が楽だからだ。
アメルはドレスを拾って、数多くのドレスが並んでいるラックに丁寧にかけなおす。
どれも、リディアのために作られたものであり、リディアの好みを反映された形だ。
それなのに、気に入らないと投げ出される。
投げたドレスは、国内最高級の生地を使用したドレスで、すっきりとしたデザインがリディアの可憐さを引き出している。
「アメル、今度は間違いでちょうだい。早くしないと、お茶会に間に合わないわ。せっかくアイザック様が王室所有のバラ園にご招待してくださったのに」
困ったわと、頬に手を当てるリディアにお友達二人がそれではわたしどもが――と声をかけた。
そもそも、事前に決まっていた招待なのに、当日突然アメルは呼び出され、ドレスを選べと命じられたのだ。
こちらのほうが困惑する。
ただし、断るのも面倒なので応じてみれば、案の定な展開に呆れながらも、従えばこれだ。
「リディア様、こちらがよろしいかと思いますよ」
「あら、でしたら宝石はこちらで」
まるで初めから決まっていたかのように、次々に決まっていく。
というか、アメルを貶めたいがためにわざわざ呼びつけるくらいなら、もっと違いことに時間をかければいいのにと、アメルは楽しそうに見せびらかしながら着替えをするリディアを姿勢正しく、立ったまま眺めていた。
そして、一通りの準備を終えた一行が、屋敷の前に横付けされた二頭立ての馬車に乗り込もうとする。
その乗り込む瞬間、リディアは振り返りアメルに言った。
「アメル、従妹のあなたがかわいそうだからこうしてわたしが面倒見ているのだから、もうそろそろ失望させないで頂戴ね」
と。
これがアメルとリディアの日常だった。
そう言って、アメルの選んだドレスを投げ捨てたのは、金髪碧眼の美少女のリディアだ。
一事が万事、こんな事を言い出すのが、アメルの従姉だった。
アメルは、かすかにため息をつきながら、リディアの癇癪を憂鬱になりながら聞き流す。
それが最善であり、最も被害が少ないからだ。
しかし、リディアはそんなアメルの態度に気分を害したように苛立たし気に、アメルを見下ろしている。
そして、肩にかかる髪を手で払い、投げ捨てたドレスを拾い上げているアメルを侮蔑するように、この光景を眺めてくすくす笑っているお友達に意見を求めた。
「もう、みんな見てよ。リボンもフリルも宝石だってほとんどないドレスなのよ? こんなドレスしか選べない子なんて、どう思う?」
リディアが同意を求めれば、くすくす笑っているお友達は当然同意する。
「あら、本当に。アメルさんはリディア様のお美しさをご存じないようだわ」
意地悪そうな笑みを浮かべているのは、赤髪で妖艶な美少女だ。
体つきも男性が見とれるほどの、素晴らしい曲線を描き、まもなく女性として成熟する頃だった。
「ミリアもそう思うでしょう? 本当に愚図でのろまで、本当にわたしと同じ血が少しでも通っているのかと思う程なのよ」
「ですが、そう思っていらっしゃってもアメルさんを見限らないなんて、さすがリディア様! とてもお優しいですのね」
目には悪意を募らせながら、リディアを褒めたたえるのは、焦げ茶色の髪の少女。
こちらもまた美少女だが、どこか幼さが見受けられる童顔を持つ。
「あら、サーラ。だって今見限ったら、この子ったら成長する機会を無くすのよ? だからルングレム筆頭公爵家のわたしがこうして面倒見てあげてるの」
にっこりと笑みを浮かべるリディアは、可憐な清楚系美少女だった。
この笑みを見た人はみな、自愛に満ちた天使を見るかのようにうっとりと眺めるが、アメルはこの笑みが作られている笑みだと知っている。
しかし、そのせいでリディアのやっていることはなぜか全て肯定的に受け止められていた。
「アメルさんは、リディア様の一番のお付きなのに、どうしてこうもリディア様の魅力を削ぐようなことしかできないのですか?」
「やだわミリアさん、アメルさんは目がお悪いのよ。きっと、きちんと見えていないだけだわ」
確かにアメルは眼鏡をかけている。
だけど、幼いころにリディアに命じられたせいだ。
もちろん、家族は目が悪くもないのにそんな事をしなくてもいいとは言ってくれた。
でも、色々因縁をつけられるのは面倒だったアメルが、率先して眼鏡をすることを希望した。
つまり、目は悪くないのだ。
ちなみに、リディアはアメルに眼鏡をするように言った自分の発言の事など忘れているし、今この場にいるお友達は事情を何も知らない。
さらに言えば、リディアの取り巻きたちのアメルに対する“目が悪い”発言を訂正する気もアメルにはない。
ただひたすら黙って聞き流す方が楽だからだ。
アメルはドレスを拾って、数多くのドレスが並んでいるラックに丁寧にかけなおす。
どれも、リディアのために作られたものであり、リディアの好みを反映された形だ。
それなのに、気に入らないと投げ出される。
投げたドレスは、国内最高級の生地を使用したドレスで、すっきりとしたデザインがリディアの可憐さを引き出している。
「アメル、今度は間違いでちょうだい。早くしないと、お茶会に間に合わないわ。せっかくアイザック様が王室所有のバラ園にご招待してくださったのに」
困ったわと、頬に手を当てるリディアにお友達二人がそれではわたしどもが――と声をかけた。
そもそも、事前に決まっていた招待なのに、当日突然アメルは呼び出され、ドレスを選べと命じられたのだ。
こちらのほうが困惑する。
ただし、断るのも面倒なので応じてみれば、案の定な展開に呆れながらも、従えばこれだ。
「リディア様、こちらがよろしいかと思いますよ」
「あら、でしたら宝石はこちらで」
まるで初めから決まっていたかのように、次々に決まっていく。
というか、アメルを貶めたいがためにわざわざ呼びつけるくらいなら、もっと違いことに時間をかければいいのにと、アメルは楽しそうに見せびらかしながら着替えをするリディアを姿勢正しく、立ったまま眺めていた。
そして、一通りの準備を終えた一行が、屋敷の前に横付けされた二頭立ての馬車に乗り込もうとする。
その乗り込む瞬間、リディアは振り返りアメルに言った。
「アメル、従妹のあなたがかわいそうだからこうしてわたしが面倒見ているのだから、もうそろそろ失望させないで頂戴ね」
と。
これがアメルとリディアの日常だった。
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