1 / 1
罪とは
しおりを挟む「おかえりなさいませ、アンセル様」
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
「ただいま、プリシラ」
玄関で出迎えた私に、アンセル様が微笑む。
いつもと同じ、文句のつけようのない王子様スマイルなのだけれど、疲れているようだ。
アンセル様には先に一人で部屋に戻ってもらい、私は調理場に向かった。料理人に断って、お茶を入れさせてもらう。疲れが取れるようにハーブティーにはちみつを入れて、アンセル様は甘いものが苦手なのでスパイスも加えた。
それを持って部屋に戻る。
「アンセル様、よろしかったらどうぞ」
私が差し出したカップを受け取ったアンセル様は、なぜか目を見開いた。
「スパイス……」
「?甘いものお嫌いですから入れてみたんですが、だめでした?」
スパイスの入った料理は召し上がっているけれど、スパイスティーはお嫌いだったのかも?
癖があるから、苦手な人は苦手だものね。
心配になったけれど、アンセル様はすぐに微笑んでくれた。
「いや……ありがとう」
アンセル様はお茶を一気に飲みほした。空になったカップをテーブルに置く。
「美味しかったよ、プリシラ」
「それはよかったです。またお入れしますので、いつでも言ってください」
「……僕、疲れているように見えた?」
私の肩に、アンセル様が頭をことん、と置く。
私に甘えるようなしぐさをするのは珍しい。
「え、ええ。少しですけれど」
この若さで会社を経営なさってるんですもの。疲れるのは当然だ。私には見せないようにしてくれているけれど。
「私、頼りないかもしれないですけど、一応年上ですし妻ですからつらいときはおっしゃってください。できることはあまりないかもしれないですが」
言ってから気がついたけど、本当私できることないかも……。
こうやってお茶を入れる、とかお話を聞くくらいしかできない。しかも本当に話を聞くだけで、気の利いたアドバイスなんかは絶対にできない。
ウォルトなら頼りになる大人の男性なので、いい返しができそうだけれど。
「なんだと?」
アンセル様が顔を上げた。額には青筋が立ってる。
え? 何?
「も、もしかして口に出してました?」
「出していた」
かと言ってアンセル様がそんなお顔するようなことは言っていないんだけど?
「僕の前で、二度と他の男の名を口にするな」
「え?ウォルトですよ。執事ですよ。ややこしい感情なんか微塵もありませんし、向こうも迷惑ですよ?」
ウォルトの好みは年上らしいので、そもそも私なんか主人だから以前に問題外だ。アンセル様が落ち着くようにとそう言ったけれど、私の言葉だけでは安心できなかったようだ。
「当たり前だ。特別な感情があれば、ウォルトを殺しているところだ」
「……殺……」
アンセル様の表情はいたって真面目で、冗談を言っているようには見えない。
うわぁぁぁ。
もしも浮気なんかした日にはとんでもないことになりそう!
アンセル様一筋だからしないけど。
「プリシラができることはたくさんある。例えば」
「例えば?」
アンセル様がベッドの端に座った。
「もうおやすみですか? お食事は?」
「後でいい。おいで、プリシラ」
微笑んだアンセル様が膝を軽くたたく。
「はい」
私も微笑んで、大人しくアンセル様に背中を預けるように座った。向かい合わせはなんか、は、恥ずかしいので。
472
お気に入りに追加
63
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説




末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。
めちゅう
BL
末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。
お読みくださりありがとうございます。

息の仕方を教えてよ。
15
BL
コポコポ、コポコポ。
海の中から空を見上げる。
ああ、やっと終わるんだと思っていた。
人間は酸素がないと生きていけないのに、どうしてか僕はこの海の中にいる方が苦しくない。
そうか、もしかしたら僕は人魚だったのかもしれない。
いや、人魚なんて大それたものではなくただの魚?
そんなことを沈みながら考えていた。
そしてそのまま目を閉じる。
次に目が覚めた時、そこはふわふわのベッドの上だった。
話自体は書き終えています。
12日まで一日一話短いですが更新されます。
ぎゅっと詰め込んでしまったので駆け足です。



あの日の記憶の隅で、君は笑う。
15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。
その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。
唐突に始まります。
身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません!
幸せになってくれな!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる