菫青石が輝くとき

ゆい

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ーーーアシェルsideーーー

アレクセイの約2週間に渡る昇進試験も無事に終わった。
合否は1ヶ月後だが、アレクセイは『多分受かる』って言っていた。
筆記試験・実技試験・実地試験はもちろん、普段の素行なども含まれているって。
実地試験は新人1~2人を含む兵士5~6人の班を3日間に渡り、仮班長として指導をすることらしい。
元々の班長が補佐役になりつつ、仮班長の試験管をするそうだ。
剣術がいくらできても、まとめ役がいなければ、隊として力が出せないことから、筆記・実技試験の他に実地試験が加わったらしい。
魔獣も年々知恵をつけてきているということから、助け合いの重要性を考えてだそうだ。
1体の魔獣につき、10人の兵士が必要で、騎士であれば2~3人体制でやるそうだ。
手傷を負った魔獣は更に知恵をつけるから、襲い掛かれたらきちんと倒すまで逃がさないようにするのも大切らしい。
騎士も中々大変だなぁと思って聞いていた。



合否の発表があと1週間となった頃に、魔獣の氾濫の一報が入った。
マグドレン公爵領の魔の森だった。
アレクセイが結婚する半年前から、副団長一家3人が揃うことがなくなったので、魔獣を間引きする人がいなくて、溢れたらしい。
魔獣の繁殖力の凄さにびっくりだよ。
それより今まで3人で対処していたことの方が驚いたが。
マグドレン前公爵は、魔の森は現公爵では手に余ると考えて、アルサスさんに頼んでいたらしい。
けど、アルサスさんは多忙な上、現公爵は前公爵に反発するかのようにアルサスさんが魔の森に入ることに、横槍を入れていた。
だから、時々しか魔獣退治に行かなくなり、積もり積もって、ここにきて氾濫となった。
今後、現公爵は責任問題に問われるであろう。
魔の森から安全を守っていた先代たちの功績で、公爵という地位に着いていられるのだから。
今回の氾濫で騎士団、魔法師団、上級冒険者などで対処することになった。
もちろんアレクセイもアルサスさんも副団長も行くことが決まっていた。
僕も行きたかったが、侯爵家の後継者が僕だけなので、父に止められた。
アレクセイも必ず帰ってくるから、待っていてくれって言われた。
アレクセイに言われたのなら、僕は待つしかなかった。
代わりにイヤーカフや指輪に防御や治癒の付与魔術を念入りに入れ直した。
大きな怪我や病気の無いように、と祈りを込めて。



アルサスさんが転移魔法でアレクセイを迎えに来てくれた時に、付与したイヤーカフをつけたアレクセイを見て、
『なにその防御力が異常に高いアクセサリーは?』って、聞かれてしまった。
アレクセイは、『アーシェからの愛』と答えていた。
アレクセイの直球の答えに、僕は顔を赤くしながらもドヤ顔した。
『そ、そう。』と、珍しくアルサスさんは引き気味に答えていた。
アレクセイの直球の言葉は、母親的になんか引くものがあったらしい。
気をなんとか取り直したアルサスさんとアレクセイは直ぐに転移して行った。
もちろん行く前にいってらっしゃいのキスをしたけどね。

アレクセイがいなくても、僕はいつも通りの日常を過ごす。
氾濫の影響がない王都や領では普通の日常だ。
物流も物価も変わりはない。
毎夜ガラスの鳥で手紙のやり取りはしている。
事前に休憩時間を知らせてくれているから、その頃に手紙を送っている。
アレクセイの返事は短いものだが、それでも最後に『愛している』と書かれてある。
もちろん僕も書いているけど。



その日はハロルドとのお茶会の日だった。
他の出席者は、高位貴族の夫人が2人だけの4人という小規模だった。
王族派、貴族派、中立派の筆頭家の婦人3人だ。
王太子妃になるハロルドの地盤固めだろう。
うちは中立派なので、ハロルドとの個人的やり取りは別にしても、今回のお茶会には招待されていた。
一見和やかなお茶会は、水面下のマウント取り合戦で心身ともに疲弊する。
ハロルドも王族だけあって、にこやかにしているが、内心怒り狂っているだろう。
そして僕は笑顔のまま聞いているだけで、何も言わない。
同意を求められても、『私ではわかりかねます。』って言って逃げている。
下手に『そうですね』なんて言えない。
言質取ったとばかりに、あることないこと言われかねない。
僕もハロルドもピリピリとしたお茶会が早く終わらないかなぁと、どこかのんびり思っていた。
表面上和やかなお茶会も、突然の一羽の鳥の乱入により一転した。
それは、アルサスさんからの救援要請だった。

「ハロルド!陛下に謁見申請を!騎士団、魔法士団の団長達も緊急呼び出しをして!」

「了解!緊急要請が入りましたので、これにて失礼します。」

ハロルドは侍従と共にすぐに動いてくれた。
僕は収納魔法から紙とペンを出して、アルサスさんに返信を書き送った。
それからすぐに謁見室に向かった。



手紙の内容を陛下達に伝えた。
魔獣の氾濫により、地形が変わり、上流の川が一時期堰き止められていたのが土石流となって、近くの村を襲ったという内容だった。
そして村自体が土石流で埋まってしまったのだ。
村人も騎士も魔法師も何人かが今だ土砂の中にいるらしい。
魔獣退治に、災害救助と手が足りていない状況がわかるので、僕は陛下に土魔法の魔法師と治癒師の派遣を願った。
アルサスさんほどの使い手が要請をお願いするくらいなのだから、被害は甚大であると推測された。

「しかし、今から行ってもマグドレン領まで、早くて3日は掛かる。」

「いえ、僕が転移魔法陣で移送させます。魔法陣はアルサスさんから預かっております。」

「おお!では、準備できたものから、移送させてくれ。」

「では、魔法士団の鍛練場でお願いします。」

「陛下、あと幾らかの食糧をお願いします。村が埋まってしまったのであれば、食糧も足りないでしょう。」

「うむ。では、魔法士団長は土魔法の魔法師・治癒師の手配、騎士団長は食糧、治療用具等の輸送の手配を。」

「「「はっ!」」」

僕は魔法師団長に付いて、移送の準備をすることになった。
アレクセイの無事を祈りながら。












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感想 1

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みんなの感想(1件)

マリア
2024.08.06 マリア

ゆっくり体調を回復させていってください!
楽しみに待ってます!!😊

2024.08.06 ゆい

マリア 様
お読みいただきありがとうございます。
体調をしっかり整えて、続きを書きたいと思います。

解除

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