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ーーーアレクセイsideーーー
母さんに朝のキスを邪魔されて、その後は悶々としていた。
騎士団に行けば、同期から『顔が怖い』と言われた。
今日は市街地巡回があるので、民を怖がらせないようにと、顔の筋肉を和らげるようにマッサージをする。
「何かあったのか?」
「母さんに邪魔された。しかも拉致られた。」
「ああ、…お疲れさん。」
肩をぽんぽん叩かれる。
学園からの友達で、俺がいつもアーシェを気にかけていたのを唯一知っていたヤツだった。
アーシェから『嫁にこい』宣言を見て、『おめでとう』と言ってくれた。
周りはアーシェの見た目をバカにしていたが、彼だけは何も言わなかった。
よくよく聞いたら、平民で親に無理を言って学園の高等科に通わせてもらっているって言っていた。
騎士になりたいのに、騎士道に反したことはしたくないと言って、噂話に入っているのをみたことはなかった。
高等科になって、初めて俺の容姿も両親も気にしない人に出会えた。
同じ騎士を目指していることもあり、放課後はよく打ち合いをした。
『俺相手だと練習にならなくて悪いな。』と、よく言っていたが、彼の成長は目覚ましいもので、あっという間に俺の次に強くなった。
俺も彼に奮起され、家での鍛練にも一層真面目に取り組むようになった。
今俺がここにいるのは彼のおかげもあるが、それを彼には絶対に言わない。
揶揄われるから。
今はバディを組んで、仕事はほぼ一緒に行動している。
「そうそう、結婚したら姓が変わるだろ。なんて呼べばいいんだ。」
「名前でいい。」
「…お前、だって、」
「お前なら、名前でいいよ。」
「そっか。ありがとな、アレクセイ。」
「どういたしまして、グウェン。」
「今日は市街地巡回だ。頑張りますか。」
「巡回は本当に嫌がるな?」
「だって実家近くの巡回は、知り合いばかりだから、最悪だよ。」
「…ああ。」
思わず遠い目をしてしまう。
昔悪ガキだったグウェンが立派な騎士になったと、揶揄われたり、泣かれたり。
最近は、食べ物や物をもらったりしていた。
そしていつも一緒にいる俺にまでくれた。
平民のパワフルさに圧倒されるばかりで、巡回で出たはずが、帰ってきた時は買い物帰り状態だった。
上司や先輩からは、『おまえら何しに出ていたんだ?』と怒られてしまった。
初めて母さんに収納魔法をきちんと習っておけば良かったと思った。
「朝礼終わったら行きますか。」
「そうするか。」
朝から俺達は足取りが重かった。
午前中の巡回は何事もなく無事に終わり、昼休みに副団長室に呼ばれた。
「セイ、アルが家出した。行き先知らないか?」
父さんが悲壮感漂せながら真面目な顔でそう言う。
アーシェ風に言えば、『自業自得』である。
「母さんなら、アーシェを拉致して隣国まで逃亡しました。もう、夫婦喧嘩に巻き込まないでください。」
「…だってアルが。」
「だってじゃないでしょ。アーシェも忙しいのに巻き込んで!俺達の結婚式があと2週間足らずなんだよ?式で教会行くついでに離縁状を出されたくなかったら、きちんと母さんに謝って!」
「……アルがいつうちに帰って来るかわからないし。」
「今日勤務終わったら、うちに来ればいいでしょ?アーシェをちゃんと連れて帰って来るから。」
「…わかった。」
夫婦喧嘩の度に俺達を巻き込まないでもらいたい。
まぁ、母さんがアーシェと遊びたかったのも本音だろうけど。
夕方父さんが侯爵邸に行くことを、先に侯爵に伝えるように伝令を走らせた。
義父上、うちの両親が迷惑かけてすみません。
午後から新人を2人連れて巡回する。
1人は学園の後輩で、アーシェと同学年だった貴族子息と、もう1人は地方から出てきた平民出身だった。
平民出は、『道や店などを覚えろ』と言うグウェンの話を聞かずに、俺にあれやこれや聞いてくる。
貴族子息の方は、グウェンの話を聞き、歩きながら重要なところはメモに書き込んでいた。
「オッドレイ先輩って、副団長の息子さんなんでしょ?やっぱり、剣術強いんですよね?僕の指導をして欲しいなぁ。」
と、甘えた声で言ってくるが、俺は無視し続ける。
グウェンも貴族子息も彼の行動に呆れていた。
「カルバン、やめないか!今は指導していただいて、勤務中でもあるんだ。」
「ええ、だってオッドレイ先輩人気があるから、すぐ誰かに取られちゃうじゃない。」
「オッドレイ先輩には婚約者がきちんといる。婚約者以外は見向きもされない方だ。」
貴族間では周知されていた。
そして、オルスト侯爵子息を怒らせるな、と一緒に。
「でも聞いた話だと、平凡な顔をしているんでしょ?だったら、僕の方が綺麗だと思うよ?これでも地元ではモテていたんだから。」
グウェンは、コイツ終わったな、という顔をしていた。
貴族子息は、もう何を言ってもムダだと思い、喋らなくなった。
「ねぇ、オッドレイ先輩?僕に乗り換えない?」
とまで言ってきた。
貴族子息が何も言わなくなったから、口説いてよいと勝手に解釈したらしい。
「グウェン。」
「めんどくさ。カルバン、騎士規範第32条勤務中の私語厳禁に抵触したため、騎士団に戻りすぐ上司に報告する。」
と、俺とグウェンで両脇を固め、騎士団に戻って行った。
王都民に恥ずかしい様を見られる羽目になり、羞恥で顔を真っ赤にしていた。
騎士団に戻り、すぐに報告した。
規律違反として反省文10枚と、騎士規範を完全に覚えるまで謹慎となった。
上司はまたかと溜息を吐いた。
「オッドレイ、去年もこんなことあったな。お前の顔は規律違反を出させる顔なのか?」
「顔の文句は父に言ってください。」
「言えるわけないだろう!」
「なら、顔について文句は言わないでください。」
「去年のあの事件以降はみんな大人しくなったから、安心していたんだが。…新人か。新人指導の要項にオッドレイに過度の接触禁止を入れるべきか。」
「大変素晴らしい案だと思います。」
「…会議で意見として挙げておく。」
午後の巡回はなくなったので、事務作業を3人ですることになった。
少しの休憩の際に貴族子息から聞かれた。
「去年の事件てなんですか?」
俺は苦虫を噛み潰した顔をして、グウェンは笑い出した。
「こいつの婚約者はわかるよね?」
「オルスト様です。」
「ちょっと事件に巻き込まれたんだよ。犯人を捕まえた後に涼しい顔をして、蹴られたお礼って言って、肋骨を折ったんだよね。こいつはさも当然という顔しているし。あれからこいつにちょっかいをかける騎士はいなくなったんだよ。」
「オルスト様が怒ったのなら、それ相当のことをしたのでしょうね。」
「おっ、アシェル君のことわかっているね。」
「クラスが何度か同じになったくらいで、必要以上に話したことはないです。昨年1度だけ剣術の授業で怒ったところをみたことがあるんです。」
と当時のアシェルの話をしてくれた。
3年生になると、1年生の指導をする時間がある。
高等科から入った1年生は、初めて木剣を持つものが多い。
本人達はふざけて遊んでいたようだが、周りからしたら危なかった。
アシェルは一喝して止めたと言う。
高等科から入った生徒は、アシェルの容姿で反省の態度をみられなかったが、授業が始まりアシェルの剣術に圧倒され、木剣でも剣なのだから、扱い方では人を殺せるものだと教えていた。
彼らは授業終わりにはだいぶ反省をしていたらしい。
「オルスト様が優しくて真面目な方だと、みんな知っていますから、彼らが叱られたのも無理はないんですよ。」
「へぇ、自分の知らない学園生活聞けて良かったねぇ、セイ君。」
「うるさい。」
俺はそっぽを向く。
グウェンと貴族子息はクスクスと笑う。
今日は厄日だと思いながら、事務の続きをする。
帰りがけに父さんに捕まり、侯爵邸の馬車まで引きづられながら、乗せられた。
馬車の中で父さんは、『アルに手紙送ったけど、返事が来ない』とか、『まさか本当にアシェル君と浮気?!』なんて言いだす。
母さんとアシェルの仲を疑うなんて、よっぽど参っている証拠だ。
悪い想像ばかりをして、自分を追い詰めている様は、面白いから黙って聞いていたけど。
侯爵邸に着けば、義父上が出迎えてくれた。
父さんは義父上の顔を見て泣き出した。
『アルが、アルが、』って、父さん、3歳児か!
本当にうちの両親が申し訳ないです。
侯爵は、
「とりあえずギルフォード殿は私が見ているから、アレクセイ君は着替えて、夕食を食べてきなさい。」
と言ってくれた。
お言葉に甘えて、そうさせてもらった。
夕食を食べながら、執事長から話を聞いた。
「ギルフォード様は、奥様、リナイエル様によくアルサス様の相談に来られてまして。当主様と3人でよく集まっていたものです。」
「その頃から迷惑をかけていたんですね。本当にすみません。」
「いえいえ、当主様もリナイエル様も弟君のように思われておりましたよ。ギルフォード様も兄のように慕っているようにお見受けしましたし。」
「…かもしれませんね。あんな情けない姿、家族以外には見せませんから。」
「そうですね。貴族は素の自分を出せる場所は中々ございませんから。…アレクセイ様、おかわりはいりますか?」
「お願いします。今日も美味しいと料理長に伝えてください。」
「はい、承知しました。」
夕食をいただき、サロンに行くと、父さんはまだ泣いていた。
「義父上、ありがとうございました。」
「騎士は身体が資本だから、きちんとした生活を保つことだから。」
と言ってくれた。
父さんが頼りたくなるのもわかる。
義父上は、いつもさらっと先に準備をしてくれる。
アシェルもこういうところが似ていて、先回りしてやってくれることが多い。
仕方なく父さんを慰めていたら、母さんとアシェルが帰ってきた。
父さんは母さんに土下座して謝り出したので、義父上とアシェルとでさっさと部屋から出た。
アシェルの部屋に行き、今日の出来事を話してくれた。
楽しそうに話すアシェルは可愛かった。
もちろんキスもした。
ゆっくり深く味わうように。
アシェルが少し眠そうにしていたから、今日はここまで。
自分の部屋に戻り、シャワーを浴びて、ベッドに入る。
ここに暮らし始めて、アシェルの出迎えがなかった日。
アシェルの何気ない優しさを実感できた日でもあった。
母さんに朝のキスを邪魔されて、その後は悶々としていた。
騎士団に行けば、同期から『顔が怖い』と言われた。
今日は市街地巡回があるので、民を怖がらせないようにと、顔の筋肉を和らげるようにマッサージをする。
「何かあったのか?」
「母さんに邪魔された。しかも拉致られた。」
「ああ、…お疲れさん。」
肩をぽんぽん叩かれる。
学園からの友達で、俺がいつもアーシェを気にかけていたのを唯一知っていたヤツだった。
アーシェから『嫁にこい』宣言を見て、『おめでとう』と言ってくれた。
周りはアーシェの見た目をバカにしていたが、彼だけは何も言わなかった。
よくよく聞いたら、平民で親に無理を言って学園の高等科に通わせてもらっているって言っていた。
騎士になりたいのに、騎士道に反したことはしたくないと言って、噂話に入っているのをみたことはなかった。
高等科になって、初めて俺の容姿も両親も気にしない人に出会えた。
同じ騎士を目指していることもあり、放課後はよく打ち合いをした。
『俺相手だと練習にならなくて悪いな。』と、よく言っていたが、彼の成長は目覚ましいもので、あっという間に俺の次に強くなった。
俺も彼に奮起され、家での鍛練にも一層真面目に取り組むようになった。
今俺がここにいるのは彼のおかげもあるが、それを彼には絶対に言わない。
揶揄われるから。
今はバディを組んで、仕事はほぼ一緒に行動している。
「そうそう、結婚したら姓が変わるだろ。なんて呼べばいいんだ。」
「名前でいい。」
「…お前、だって、」
「お前なら、名前でいいよ。」
「そっか。ありがとな、アレクセイ。」
「どういたしまして、グウェン。」
「今日は市街地巡回だ。頑張りますか。」
「巡回は本当に嫌がるな?」
「だって実家近くの巡回は、知り合いばかりだから、最悪だよ。」
「…ああ。」
思わず遠い目をしてしまう。
昔悪ガキだったグウェンが立派な騎士になったと、揶揄われたり、泣かれたり。
最近は、食べ物や物をもらったりしていた。
そしていつも一緒にいる俺にまでくれた。
平民のパワフルさに圧倒されるばかりで、巡回で出たはずが、帰ってきた時は買い物帰り状態だった。
上司や先輩からは、『おまえら何しに出ていたんだ?』と怒られてしまった。
初めて母さんに収納魔法をきちんと習っておけば良かったと思った。
「朝礼終わったら行きますか。」
「そうするか。」
朝から俺達は足取りが重かった。
午前中の巡回は何事もなく無事に終わり、昼休みに副団長室に呼ばれた。
「セイ、アルが家出した。行き先知らないか?」
父さんが悲壮感漂せながら真面目な顔でそう言う。
アーシェ風に言えば、『自業自得』である。
「母さんなら、アーシェを拉致して隣国まで逃亡しました。もう、夫婦喧嘩に巻き込まないでください。」
「…だってアルが。」
「だってじゃないでしょ。アーシェも忙しいのに巻き込んで!俺達の結婚式があと2週間足らずなんだよ?式で教会行くついでに離縁状を出されたくなかったら、きちんと母さんに謝って!」
「……アルがいつうちに帰って来るかわからないし。」
「今日勤務終わったら、うちに来ればいいでしょ?アーシェをちゃんと連れて帰って来るから。」
「…わかった。」
夫婦喧嘩の度に俺達を巻き込まないでもらいたい。
まぁ、母さんがアーシェと遊びたかったのも本音だろうけど。
夕方父さんが侯爵邸に行くことを、先に侯爵に伝えるように伝令を走らせた。
義父上、うちの両親が迷惑かけてすみません。
午後から新人を2人連れて巡回する。
1人は学園の後輩で、アーシェと同学年だった貴族子息と、もう1人は地方から出てきた平民出身だった。
平民出は、『道や店などを覚えろ』と言うグウェンの話を聞かずに、俺にあれやこれや聞いてくる。
貴族子息の方は、グウェンの話を聞き、歩きながら重要なところはメモに書き込んでいた。
「オッドレイ先輩って、副団長の息子さんなんでしょ?やっぱり、剣術強いんですよね?僕の指導をして欲しいなぁ。」
と、甘えた声で言ってくるが、俺は無視し続ける。
グウェンも貴族子息も彼の行動に呆れていた。
「カルバン、やめないか!今は指導していただいて、勤務中でもあるんだ。」
「ええ、だってオッドレイ先輩人気があるから、すぐ誰かに取られちゃうじゃない。」
「オッドレイ先輩には婚約者がきちんといる。婚約者以外は見向きもされない方だ。」
貴族間では周知されていた。
そして、オルスト侯爵子息を怒らせるな、と一緒に。
「でも聞いた話だと、平凡な顔をしているんでしょ?だったら、僕の方が綺麗だと思うよ?これでも地元ではモテていたんだから。」
グウェンは、コイツ終わったな、という顔をしていた。
貴族子息は、もう何を言ってもムダだと思い、喋らなくなった。
「ねぇ、オッドレイ先輩?僕に乗り換えない?」
とまで言ってきた。
貴族子息が何も言わなくなったから、口説いてよいと勝手に解釈したらしい。
「グウェン。」
「めんどくさ。カルバン、騎士規範第32条勤務中の私語厳禁に抵触したため、騎士団に戻りすぐ上司に報告する。」
と、俺とグウェンで両脇を固め、騎士団に戻って行った。
王都民に恥ずかしい様を見られる羽目になり、羞恥で顔を真っ赤にしていた。
騎士団に戻り、すぐに報告した。
規律違反として反省文10枚と、騎士規範を完全に覚えるまで謹慎となった。
上司はまたかと溜息を吐いた。
「オッドレイ、去年もこんなことあったな。お前の顔は規律違反を出させる顔なのか?」
「顔の文句は父に言ってください。」
「言えるわけないだろう!」
「なら、顔について文句は言わないでください。」
「去年のあの事件以降はみんな大人しくなったから、安心していたんだが。…新人か。新人指導の要項にオッドレイに過度の接触禁止を入れるべきか。」
「大変素晴らしい案だと思います。」
「…会議で意見として挙げておく。」
午後の巡回はなくなったので、事務作業を3人ですることになった。
少しの休憩の際に貴族子息から聞かれた。
「去年の事件てなんですか?」
俺は苦虫を噛み潰した顔をして、グウェンは笑い出した。
「こいつの婚約者はわかるよね?」
「オルスト様です。」
「ちょっと事件に巻き込まれたんだよ。犯人を捕まえた後に涼しい顔をして、蹴られたお礼って言って、肋骨を折ったんだよね。こいつはさも当然という顔しているし。あれからこいつにちょっかいをかける騎士はいなくなったんだよ。」
「オルスト様が怒ったのなら、それ相当のことをしたのでしょうね。」
「おっ、アシェル君のことわかっているね。」
「クラスが何度か同じになったくらいで、必要以上に話したことはないです。昨年1度だけ剣術の授業で怒ったところをみたことがあるんです。」
と当時のアシェルの話をしてくれた。
3年生になると、1年生の指導をする時間がある。
高等科から入った1年生は、初めて木剣を持つものが多い。
本人達はふざけて遊んでいたようだが、周りからしたら危なかった。
アシェルは一喝して止めたと言う。
高等科から入った生徒は、アシェルの容姿で反省の態度をみられなかったが、授業が始まりアシェルの剣術に圧倒され、木剣でも剣なのだから、扱い方では人を殺せるものだと教えていた。
彼らは授業終わりにはだいぶ反省をしていたらしい。
「オルスト様が優しくて真面目な方だと、みんな知っていますから、彼らが叱られたのも無理はないんですよ。」
「へぇ、自分の知らない学園生活聞けて良かったねぇ、セイ君。」
「うるさい。」
俺はそっぽを向く。
グウェンと貴族子息はクスクスと笑う。
今日は厄日だと思いながら、事務の続きをする。
帰りがけに父さんに捕まり、侯爵邸の馬車まで引きづられながら、乗せられた。
馬車の中で父さんは、『アルに手紙送ったけど、返事が来ない』とか、『まさか本当にアシェル君と浮気?!』なんて言いだす。
母さんとアシェルの仲を疑うなんて、よっぽど参っている証拠だ。
悪い想像ばかりをして、自分を追い詰めている様は、面白いから黙って聞いていたけど。
侯爵邸に着けば、義父上が出迎えてくれた。
父さんは義父上の顔を見て泣き出した。
『アルが、アルが、』って、父さん、3歳児か!
本当にうちの両親が申し訳ないです。
侯爵は、
「とりあえずギルフォード殿は私が見ているから、アレクセイ君は着替えて、夕食を食べてきなさい。」
と言ってくれた。
お言葉に甘えて、そうさせてもらった。
夕食を食べながら、執事長から話を聞いた。
「ギルフォード様は、奥様、リナイエル様によくアルサス様の相談に来られてまして。当主様と3人でよく集まっていたものです。」
「その頃から迷惑をかけていたんですね。本当にすみません。」
「いえいえ、当主様もリナイエル様も弟君のように思われておりましたよ。ギルフォード様も兄のように慕っているようにお見受けしましたし。」
「…かもしれませんね。あんな情けない姿、家族以外には見せませんから。」
「そうですね。貴族は素の自分を出せる場所は中々ございませんから。…アレクセイ様、おかわりはいりますか?」
「お願いします。今日も美味しいと料理長に伝えてください。」
「はい、承知しました。」
夕食をいただき、サロンに行くと、父さんはまだ泣いていた。
「義父上、ありがとうございました。」
「騎士は身体が資本だから、きちんとした生活を保つことだから。」
と言ってくれた。
父さんが頼りたくなるのもわかる。
義父上は、いつもさらっと先に準備をしてくれる。
アシェルもこういうところが似ていて、先回りしてやってくれることが多い。
仕方なく父さんを慰めていたら、母さんとアシェルが帰ってきた。
父さんは母さんに土下座して謝り出したので、義父上とアシェルとでさっさと部屋から出た。
アシェルの部屋に行き、今日の出来事を話してくれた。
楽しそうに話すアシェルは可愛かった。
もちろんキスもした。
ゆっくり深く味わうように。
アシェルが少し眠そうにしていたから、今日はここまで。
自分の部屋に戻り、シャワーを浴びて、ベッドに入る。
ここに暮らし始めて、アシェルの出迎えがなかった日。
アシェルの何気ない優しさを実感できた日でもあった。
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