菫青石が輝くとき

ゆい

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ーーーアシェルsideーーー

王宮に着くと、待っていた侍従に案内をされる。
何故か王族の住まうエリアに向かい、豪華な一室に案内された。
すでに、陛下、王妃、王太子殿下、副団長、アルサスさんがソファに座り、僕達を待っていた。
父が挨拶をしようとしたら、陛下に止められ、ソファに座るように促される。
僕達は言われるがまま、ソファに座る。

「この度はうちの愚息が申し訳なかった。」

と、陛下の言葉を皮切りに王族3人が頭を下げる。

「陛下、頭を上げてください。」

父は言う。

「息子は無事戻ってきました。このようなことが二度と起こらないのであれば、私はそれでいいです。」

馬車の中で、父から多分謝罪をされるから、アシェルはどうしたい?と聞かれていた。
僕は被害者だけど、誘拐事件は貴族には醜聞問題で、有る事無い事を言われやすい。
だから、あまり大事にされたくなかった。

「侯爵の慈悲に感謝する。」

と、再び頭を下げられた。
僕でも王族に何度も頭を下げられるのは、心臓に悪い。
王太子殿下から、犯人逮捕後の話をされた。

「第2王子は廃藉が決まり、母親の側妃も前回と今回の件に関与していることから、実家のある国に帰されることが決まりました。」

側妃は小国の王子で、陛下に惚れて無理矢理嫁いできたという話を思い出す。
その頃王妃は、王太子殿下を出産した後、身体の体調を崩していた。
危惧していたことは避けられたが、魔力がなくなり、次の子を出産することができなくなってしまった。

「実行犯は、クリシタリア王国でクーデターを企てていた組織の一味とわかりました。」

クリシタリア王国は、ハロルドの国だ。
何人かの残党に逃げられたと手紙に書かれてあったが、この国まで逃げ込んできたようだ。

「彼らは古い伝手を使って、密入国していたのがわかりました。クリシタリア王国と今連絡を取っていますが、約20年前に国交を断っていますので、彼らの処分は時間がかかりそうです。」

アルサスさんが、

「まだ国交を回復してなかったの?陛下、何してんの?」

父と僕はアルサスさんの話し方に驚いた。
アレクセイからは聞いていたけど、本当にそのまんまと、今日知った。

「いや、あれからまだ王が交代していなくてな。次代の王次第で決めようかとしていたのだ。」

「なら、仕方ないね。」

うんうんとアルサスさんが頷く。
20年前に何があったんだろう?と、今は聞かないでおく。
それに連絡が取りづらいならと、

「陛下、発言してもよろしいでしょうか?」

「許す。」

「クリシタリア王国の第2王子となら、すぐに連絡が取れますが、宜しければ私の方からも連絡を致しましょうか?」

「おお!助かる。是非頼む。」

アレクセイから小声で聞かれた。

「いつの間に知り合った?」

「ハロルドだよ。」

「えっ!初等科の時にいつも一緒にいた?」

「そう。」

「なら、納得した。」

と、アレクセイは少し嫉妬してくれたようだ。
2人の間に甘い空気が流れ出す。
それを断ち切るように、王太子殿下が話し出す。

「ゴホン、ええと、で、一味のボスですけれども、アシェル殿に鼻骨と肋骨を2カ所折られて、ただいま入院しております。実行犯達は取り調べには素直に答えてくれているそうです。」

副団長達から、お前何したの?と言う視線を浴びる。
見ていた父とアレクセイは黙っていた。

「発言を、」

「よいよい。自由に発言をしてもよい。」

「ありがとうございます。ええと、そのボスにお腹を蹴られて、ひん剥かれそうにされましたので、お礼に肋を2本足で踏んで折りました。鼻骨は抵抗した際に足が当たって折れたかと思われます。」

上半身を脱がされ触られたこと、血を舐められたことは言わないでおく。
あくまでも曖昧に伝えておく。
アルサスさんは笑い出し、王族と副団長は若干引いていた。

「アシェル君、最高!」

「はい、アルサスさんの『お礼は倍以上で返す』との教えを実行させていただきました。」

「流石僕の2番弟子!」

「ちょ、ちょっと待て。アシェル殿はアルサスの弟子なのか?!」

陛下が聞いてきた。
アルサスさんは、さも当然とばかりに答える。

「そだよ。大事な息子を嫁に出すんだから、僕達が半端なヤツに出すわけないじゃない。」

「母さん。」

大事な息子と言われて、アレクセイが照れている。可愛い。

「僕の弟子もしっかりしているから、王太子の御世も安泰だねぇ。」

と、アルサスさんは言う。
王族の顔色が悪いことは、誰も指摘しなかった。いや、出来なかった。
そう言えば、と思い聞いてみる。

「アルサスさん、僕をいつも2番弟子って言うけど、1番弟子ってセイ君?」

「違うよ。セイはギルにべったりだったからね。1番弟子は、隣国の公爵夫人だよ。この国に療養に来た時に知り合ったんだよ。」

「へぇ。」

「今ある生活魔道具も彼の発案で作られたんだよ。シャワーとか冷凍庫とか色々。」

「すごいですねぇ。」

「ホントに!ここ10年で生活もだいぶ良くなったからね。今度一緒に会いに行くかい?」

「行きたいです!」

と、2人で盛り上がってしまった。
どんな人だろうかとワクワクしてしまう。
と、アレクセイから手をポンポンと叩かれる。

「アーシェ、落ち着こうな。」

「あっ、失礼致しました。」

と、陛下達に頭を下げて詫びる。

「よい。しかし、アシェル殿は、侯爵ともリナともにあまり性格は似なかったようだな?」

「リナ?」

父に聞いてみる。

「リナイエル。母のことだ。」

「リナは、一時我の護衛騎士をしていたから、よう知っておる。」

「アシェルは普段は物静かな方ですよ。ただ、アルサス殿と一緒の時は引っ張られというか、何というか。」

「ちょっと侯爵、僕が悪いの?」

「どちらかと言えば、アルの影響を1番受けているよな。」

と、副団長が言う。

「セイより飲み込みが早くて、色々教えていただけだよ?」

その色々が問題なのだ!と、誰もが心の中でツッコむ。

「んっ、オルスト侯爵、アシェル殿、こちらから詫びに行くのが本当のところ、わざわざ出向いてもらって済まんかった。」

「陛下、直々に謝罪のお言葉をいただきましたので、私共にこれ以上はお言葉は不要にございます。」

「あいわかった。」

と、謁見らしきものは終了した。
アレクセイ達はそのまま仕事に直行して、父と2人帰宅した。
馬車の中で父に聞いた。

「母上は陛下を護衛するほど強かったんですか?」

「強かった。だが、アシェルのように無茶はしなかった。」

「…僕も最近は自制はしています。」

「あまりアレクセイ君に心配をかけるなよ。」

「はい。」

父もアレクセイを気に入っているので、時々こうして釘を刺される。

「父上はあまり母上の話をしなかったので、今日は少し聞けて嬉しかったです。」

「……まだアシェルが小さかったから、母恋しさに泣くと思ってな。そうか、もうすぐ17だな。リナの話を聞いても、泣くことはないか。」

「もう母恋しさに泣く歳ではありません。たまにでいいので、母上の話を聞かせてください。」

「そうだな。」

父が僕を思って話さないでいたことも、今でも深く母を愛していることも知っている。
寡黙な父はこうして言わないと話してはくれない。
そんな父を愛した母の話は、素敵な話だろうと思った。











































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