菫青石が輝くとき

ゆい

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ーーーアシェルsideーーー

カーテンの隙間から漏れた朝日で目が覚めた。
いつもの朝と違い、お腹が重かった。
お腹を見やれば、誰かの腕があった。
隣を見れば、アレクセイが寝ていた。
幼い頃も昼寝の際に僕を寝かしつけて、そのまま隣で寝ていたな、と思い出す。
久しぶりに見るアレクセイの寝顔。
あの頃から寝顔はあまり変わっていなかった。
アレクセイの寝顔を見ていたら、昨日のことを思い出し、恥ずかしくなってきた。
アレクセイに背を向け、悶えてしまう。
胸は弄られていたけど、その先はまだまだだと思っていた。
それに、僕が夫になると思っていたから、閨の教育も夫側のしか受けたことがなかった。
妻側の教育は、道具とかも使うとは聞いていたが、こういうことかとわかった。
妻側の教育、受けたほうがいいのか?

アレクセイがもぞもぞと動き出したので、起きたようだ。
アレクセイの方を向けば、まだ半目のアレクセイと目が合う。

「…アーシェ。」

「セイ君、おはよう。」

「おはよう。」

アレクセイが顔を近づけ、チュッと軽く唇にキスをする。

「昨日はごめん。少し無理やりだった。アーシェの気持ちも確かめないで。」

「僕こそ、ごめん。セイ君が心配したのも、怒ったのも僕を思ってでしょ?だから、セイ君は謝らないで。」

「ん。アーシェは優しいな。俺も怒ってないよ。他の人がアーシェを触ったことが、嫌だった。」

「うん。僕もセイ君が誰かに触られたと話を聞けばそう思うから、今回は僕の不注意だったよ。本当にごめんなさい。」

「あまり無茶はしないでくれよ。」

「はい。」

素直に返事をした。

「ところで、僕、途中から記憶ないけど、セイ君がベッドまで運んでくれたの?」

「…ああ、うん。ほぼ酸欠でアーシェが気を失ってしまったようで。シャワーでもう1回キレイに流してから、ベッドに運んだ。」

少し気まずそうに説明してくれた。

「えっ、あ、ありがとう。」

「いや、あの、イヤじゃなかったか?」

「セイ君に触られてイヤなことはないよ。ただ驚いただけ。妻側の閨教育は受けたことなかったから。」

「ああ、道具を使って受け入れやすくするんだっけ?」

「…そうなの?」

「一応名前だけの侯爵夫人予定だけど、マナーと一緒に習った。」

「セイ君も、……道具使った?」

「いや。座学だけ。実技はしていないよ。」

「…そっかぁ。」

「実技してないから、嫁失格?」

「違う違う。僕は夫側しか教育されなかったから、セイ君がそっちを望むなら、セイ君にやり方を教えて貰おうかなと思っていたんだ。」

「アーシェ、ありがとう。座学だけだけど、一緒にしていこうか?アーシェなら、抱きたいし、抱かれたいから。」

「うん、僕も。セイ君に全部もらってもらいたい。」

「アーシェ。」

アレクセイからキスをされる。
気持ちを確かめ合うような優しいキスだった。

僕がアレクセイを抱いても、アレクセイが僕を抱いても、どっちでもいいんだ。
僕は、セイ君にされるならなんでも嬉しいから。
アレクセイも同じ気持ちでいてくれて嬉しい。




着替えて食堂に行けば、父はすでに食べ終わっていた。
時間はいつもより1時間も早いくらいなんだけど。
朝の挨拶を交わして、席に着く

「アシェル。騎士団から連絡がきたから、王宮に行かねばならん。」

「わかりました。」

「アレクセイ君、君もだ。」

「かしこまりました。」

「あと、アレクセイ君。…程々にな。」

父はそう言って席を立ち、食堂からでと行った。
使用人達が朝食を運んでくれる。

「アシェル様、おはようございます。具合はいかがですか?」

執事長のゲイルが僕の前にサラダを置き、聞いてきた。

「おはよう、ゲイル。僕は大丈夫だよ。マルスは?」

「マルスは昨日お医者様に診ていただきまして、どこも異常がありませんでしたので、今日からまた働かせてもらいます。」

「そう、それは良かった。でも後遺症が出るかもしれないから、その時は隠さずに申告するように言ってね。」

「はい。そのように伝えます。」

ゲイルは優しい笑みを浮かべた。
僕は水を飲んでから、サラダ、オムレツ、パン、スープとゆっくりと食べていく。
隣のアレクセイは、騎士だけあって、運ばれてくる皿を次々に綺麗にしていく。
それでも足りないのか、おかわりをしていた。
僕の倍は食べている。

「セイ君、足りなかったら、もっと頼んでいいからね?」

「うん。いつも思うけど、ここの食事は美味しいから、つい、食べ過ぎちゃうんだ。」

「そう。料理長に伝えておくよ。」

美味しそうに食べるアレクセイは可愛い。
父も僕もあまり食べる方でないから、アレクセイがいる時は料理長も張り切って大量に作ると聞いている。
嫁に来ても、使用人達からも大事にされそうだな。

食べ終わってから、僕達はそれぞれの部屋に戻って、王宮に行くために服を着替える。
アレクセイの部屋は、僕の部屋の隣に作ってある。

先に騎士服に着替え終わったアレクセイが部屋に入ってきた。

「アーシェ、これ。」

と、箱を渡された。
開けてみるとカフリンクスが入っていた。
宝石は青紫色で四角にカットされている。
台座はプラチナだろう。

「まだちょっと早いけど、誕生日プレゼント。」

「ありがとう、セイ君!」

「これ、光に当てると色が少し変わって見えるんだ。」

一つを摘み、窓近くに移動する。
陽に翳すと、少し銀色にも見えた。

「本当だ、綺麗!」

「アイオライトって言って、道を正しく示すという石言葉があるって聞いて、アーシェの御守りになればって。」

「セイ君!」

僕は思わず抱きついてしまった。

「すっごく嬉しい!どうしよう!叫びたい!」

「ちょっと、落ち着こうな。」

と、背中をポンポンされる。

「ああ、落ち着かないよ。そうだ!セイ君、付けて!」

アレクセイにカフリンクスを渡す。
アレクセイは受け取り、袖のボタン穴を合わせて付けてくれた。
片方も付けてもらいながら、先に付けたカフリンクスを僕はじっと見ていた。

「綺麗だね。」

「アーシェに似合うと思って。そんなに喜んでくれるなんて、嬉しい。」

「大事にするね。」

「うん。」

アレクセイはついでとばかりに、アスコットタイもつけてくれて、ジャケットまで着せてくれた。
髪まで整えてくれる。
『僕の嫁、最高!』
と、心の中で叫んでおく。
アレクセイが僕を整え終わったら、左手を差し出した。
エスコートの合図だ。
僕の右手をアレクセイの左手に乗せる。
アレクセイのエスコートで部屋を出た。


玄関には父がもうすでに準備を終えて待っていてくれた。
3人で馬車に乗り込み、王宮に向かった。









玄関まで歩いている時に、アレクセイから聞かれた。

「そう言えば、義父上の『程々に』って何?」

「……ああ、えーっと、つまりその、あまりそういう行為に耽るなと、言いたかった、みたいです。」

「えっ!あっ!ああ、…そういうことか。」

アレクセイは額に手を当てて、バツが悪い顔をした。

「僕も何度か言われているから、結婚式挙げるまでは、お互い気を付けようか。」

「そうだな。」

2人して反省しながら、玄関まで歩いた。
















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