菫青石が輝くとき

ゆい

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ーーーアシェルsideーーー

男達に、柱に縛りつけらた縄を解かれた。
すぐにまた、両手を後ろに縛られ、床に転がされる。
他の男達は、見張りに戻って行き、御者をしていた男と2人きりになった。

「何だ、急に大人しくなったな。」

男は僕の制服のシャツのボタンを外していく。
上着ごと、肌けされる。

「ヒョロいから貧相な身体をしているかと思っていたけど、割に筋肉があるじゃないか。」

と、お腹を撫でられる。
ゾワッとして鳥肌が立つ。

「ん?なんだ、鬱血痕か?」

今度は鎖骨につけられていた鬱血痕を触られる。

「何だ、もう男の味を知っているのか?お貴族様なのに、早いねぇ。」

ベタベタと上半身を触られる。

「…ねぇ、手首が痛い。結び直してよ。」

「坊ちゃんはそう言って縄を解いた瞬間逃げるだろ?」

「手首が痛い。」

「…ダメだ。」

「手首が痛い。」

「うるせぇ!」

「痛いんだって!」

両足を抱えるように曲げて、男の顔面を目掛けて、身体を反りながら両足で蹴りを入れた。

「ぶっ!」

男は後ろに吹き飛び、壁に当たった拍子に頭も打ち、鼻血を出しながら気を失った。
僕は、袖に隠していたナイフで両手の縄を切り、両足の縄も切る。
男に拘束魔法をかけるのも忘れない。
このまま帰るのも癪なので、制服を整えて、収納魔法から剣を取り出し、部屋を出た。
大きな物音のあとに部屋から出てきたのが僕で、男達は一瞬呆けていた。
この部屋にいるのは3人。
さっき見た時は全部で6人だった。

「捕まえろ!」

と、1人が言って、3人が襲いかかってきた。
武器を持ってなかったので、そのまま拘束魔法で縛りあげた。

「てめぇ!これを外せ!」

と、騒ぐ。

「うるさいなぁ。」

1人の男の首元に剣を当てる。
わざとスッと剣を引いて、薄皮一枚を切った。
切られたところから血が出る。
男達は黙った。

「首と胴がお別れしたくなかったら、質問に答えろ。」

男達は躊躇いのない僕に恐怖したのか、顔を蒼ざめながらこくこくと頷く。

「仲間はあと何人?」

「…2人。」

「何処にいる?」

「玄関で見張っている。」

「そう。」

僕は部屋を出て、気配を消して近づいて拘束魔法で2人を縛りあげた。
運ぶのが面倒くさいので、さっきの部屋まで2人連れて転移をした。
5人とも、転移魔法に呆気を取られていた。
僕が縛られていた部屋に行き、男を引き摺りながら運んだ。
6人をまとめて縛りあげた。

「これで全員?」

部屋にいた男達は頷く。

「バカ!何素直に頷いているんだ。」

「殺されるよりマシだ!」

「んなわけないだろ!」

「んなわけあるんだって。」

「うるさいよ。黙っていてくれる。」

冷めた目をして低い声音で言ったら、黙った。
さて、どうしようかな?と考えていた時に、口に手紙を咥えたガラスの鳥が僕の元に飛んできた。
手紙を受け取ると鳥は置物へと戻った。
手紙はアルサスさんからだった。
手紙を読む。
収納魔法に入れてあるメモ帳と万年筆を出して返信を書き、鳥を手紙の上に乗せる。
鳥は手紙を咥えて戻って行った。
そして僕は次の行動へと移る。
男達の1人の服を掴むと、侯爵邸の玄関まで転移した。
そこにはアレクセイ始め、父上、アルサスさん、副団長、騎士団一個隊が待っていた。

「アシェル!」

「アーシェ!」

と、父上とアレクセイに抱きつかれた。

「ただいま。」

「アシェル、心配した。」

「アーシェ、殴られたのか?」

と、2人は心配してくれた。

「心配かけてごめん。マルスは?」

「マルスは小屋で縛られるのを発見した。今治療中だ。」

「そう、それは良かった。」

御者の名前はマルス。
ビリーじゃない。

「アーシェ、誰に殴られた?」

「セイ君、僕は大丈夫だよ。治療は後にして、今はこっちを先にしようね。」

怒るアレクセイを宥める。

「副団長、アルサスさん、アジトに飛びます。」

と2人と隊の半分を引き連れて転移した後、すぐに侯爵邸へと戻る。
戻った時には、6人の男達は騎士達に縄で縛られていた。
残った隊長に確認してから、拘束魔法を解く。
隊長は取り調べのため、詰め所に運ぶと言う。
その前に少し話をしたいから、許可を貰う。
未だボスの男は気を失っていたので、顔を平手打ちにして起こす。

バチンッ!

「いってぇ!何すんだ!」

「やっと起きたね。頭打って気を失ったから、死んだかと思ったよ。」

「てめぇ!…え?あ?」

やり返そうとしたらしいが、やっと縛りあげられていることに気づく。
周りを見渡せば、場所は変わり、騎士達がいて、手下は縛られていた。

「い、いつの間に。」

「あなたが気を失っている間に。さて、お腹を蹴ってくれたお礼をしないとね。まだ痛いし。肋と腕、どっちがいい?」

「な、何を言っている。」

「だから、お礼だって。で、どっち?」

「どっちもいやだ!」

「なら僕が決めてあげるよ。……うーん、腕は縛られているから、肋にしてあげるよ。」

笑顔で僕は言い、ボスを蹴って地面に転がすと肋に力を込めて踏んだ。
バキッ!と、骨が折れる音がした。

「ああ、もう一つお礼をしないとだったね。」

と、違う場所も力を込めて踏む。
血を勝手に舐めた件も忘れてはいなかった。
バキッ!
荒事に慣れている騎士達さえ、僕の行動には引いていた。
父上とアレクセイは、さも当然だという態度をしていた。

「隊長さん、僕の用事は終わったよ。もう連れて行っていいよ。ちなみに今悶えているのがボスだから。運ぶ時には丁重にね。折れた肋が肺に刺さったら、死んじゃうから。」

聞いていた騎士達は、少し顔色を悪くしながら、男達を連行して行った。
男達は、ボスの姿を見て、蒼白になりながら騎士達に従っていた。
ボスは担架に乗せられて運ばれて行った。

僕は父上達に連れられて、屋敷に戻っていった。
サロンで待機してもらっていた医者に診てもらい、口の中と頬とお腹に治癒魔法をかけられた。
鈍いお腹の痛みが引いていく。
頬は痛みがないわけでなかったけど、血の味がずっとしていたから、中々傷が塞がなかったようだ。

父上とアレクセイに大体のことのあらましを話す。
御者が代わっていた時点で、僕は馬車の中で父上宛にノートの紙を破り、手紙を書いた。
誘拐かもしれないから、騎士団に連絡をお願いしていた。
父上は、次の手紙が来ないから、アレクセイ達に連絡したと言っていた。
丁度3人が一緒にいたので、アルサスさんの転移魔法ですぐに来てくれた。
アルサスさんが僕宛に手紙を飛ばしたら、すぐに返事がきたので、無事であることがやっとわかった、と。
話をしていると、ガラスの鳥がやってきた。

『第2王子を捕らえた』

だけ書かれてあった。
これで犯人は全員捕まったようだ。
一安心とまでになった。





部屋に戻る時もアレクセイは付いてきた。
部屋に入るなり、内鍵を閉められ、抱きしめられた。

「アーシェ、アーシェ。」

強く抱きしめられる。
僕の肩がアレクセイの涙で濡れていく。

「セイ君、心配かけてごめんね。」

僕はアレクセイの背中に手を回して、ポンポンと優しく叩く。
僕は、アレクセイが泣き止むまで、ずっと彼の背中を優しく撫でていた。


























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