菫青石が輝くとき

ゆい

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ーーーアシェルsideーーー


ガツンッ!と腹を蹴られた。

「っっ!!」

「はっ、呻き声すら上げないのか?」

腹を蹴った男はそう言った。

「っ、勿体無くて、聞かせ、られないよ。」

痛みを堪えて睨みながら、僕は言う。
周りは『この野郎!』とか言い出したが、蹴った男は面白いモノを見つけた顔をして、周りを手を挙げて制す。
コイツがボスなんだろう。

「お前、いいな。俺のにしたくなった。」

と、僕は腹を蹴られる前に顔を殴られていて、殴られた際に口の中を切っていた。
その口端から流れた血を親指でグイッと拭われ、その血を男はペロッと舐める。

「勘弁してくれ。僕の全てはセイ君のものなんだから。血を勝手に舐めた代償は後からきっちりもらうからね。」

「はっ、本当にいいな。」

男は笑い出した。
周りは『また悪い癖が出た』と言っている。








僕はここ最近浮かれていた。
セイ君が宝石店に行ったと情報をもらっていた。
僕の誕生日プレゼントだろうとすぐに推測したから。
どんなものをくれるか楽しみにしていた。
アレクセイからのプレゼントなら、なんだって嬉しい。

婚約して2年経つ頃には、アレクセイからもキスをしてくれるようになった。
アレクセイは時々雄の顔になる。
可愛い顔も好きだけど、この顔も好きだ。
僕に欲情してくれている瞳で凝視みつめられるだけで、『もう早く食べて』と思ってしまう。
服で見えない場所に鬱血痕を残してくれるようになった。
僕も残したいんだけど、騎士団で揶揄われるから結婚したらな、と言われてしまった。
早く結婚して、間近で可愛くてカッコいいアレクセイを愛でたい!

「オルスト様は最近ご機嫌ですね?」

隣の席の子から声をかけられた。
最後の授業が終わり、帰り支度をしながら聞かれた。

「そう見えますか?お恥ずかしい。」

と、両手で両頬を押さえた。
貴族はあまり表情を顔に出さないように教育されているから、顔に出ていたなら恥ずかしい行為だ。

「いえいえ、雰囲気が楽しそうにしていたので、何かあるのかと気になりまして。」

「そうなんですね。もうすぐ誕生日だからと浮かれてました。」

「おめでとうございます。誰もが誕生日は特別ですからね。」

「ありがとうございます。今年は更に特別になりそうな予感がしまして、浮かれてました。」

「それは良かったです。帰りがけに話しかけてすみません。」

「いえいえ、聞いていただいてありがとうございます。では、ごきげんよう。」

と、僕は教室から出て行った。
この後残っていたクラスメイト達は、僕が浮かれていた内容を知り、一安心したという。
僕はそんなに悪巧みしてないよ!

馬車に乗ろうとした時にいつもの御者じゃないことに気がついた。

「今日はビリーじゃないの?」

「ビリーは少し体調を崩しまして、急遽私が代わりを勤めさせていただきました。」

「そう、ビリーにお大事にと伝えておいて。」

僕は馬車に乗った。
馬車が動き出してから、鞄からノートと万年筆を取り出して書きものをした。
気がついたらいつもの違う道を走らせていたので、

「道が違うんじゃない?」

と、声をかけたが返答がない。
返答がない代わりに、馬車内に眠り玉を投げ込まれた。
眠り玉とは、旅人が魔獣に遭遇した時に使う携帯武器のことだ。
魔獣を眠らせている間に逃げるものだ。
玉から立ち上る煙を吸ってしまった僕はそのまま眠ってしまった。
僕は魔獣じゃないんだけど!





目が覚めると、上半身を柱ごと一緒に縛られて、両手は後ろで両足も縛られている状態でていた。
柱ごと縛られている場合、転移魔法が使えなかった。
僕が触れているものなら、一緒に転移をする。しかし、家ごと転移するには魔力が足りなかったから。
いや、家なのかさえわからないけど。
小さな部屋で、柱が1本だけだった。
家具も見当たらない。

足音がバタバタと聞こえたら、ドアが開いた。

「本当に捕まえてくれたんだ。これが約束の金だ。」

僕の顔を確認してから、男達に懐から報酬らしき金を渡した。

「引き続き、見張っていてくれ。こちらの用意が出来次第引き取る。」

「何の真似です。……殿下?」

男達の会話に横から挟むように僕は言った。
第2王子は僕の方を向く。

「お前の、お前のせいで私は王位継承権をなくしたんだ!」

向いた途端に喚き出した。

「アレクセイばかりでなく、私からも王位継承権すら奪ったお前が許されると思っているのか!」

「……ただの逆恨みじゃないですか。自業自得ですよ。」

「っ!だまれ!」

ガン!と左頬を殴られた。
油断していたから、歯を食いしばらなかったので口の中が切れて、口端から少し血が流れた。

「お前だけは絶対に許さない!」

僕は冷めた目で第2王子を見る。

「奴隷商人に売ってやる。二度とこの国に戻れないようにしてやる!」

と言い、部屋を出て行った。

「坊ちゃんは人を煽るのが上手いねぇ。」

御者をしていた男が言った。
顔立ちは貴族っぽく、所作は貴族でなかった。

「…殿下の沸点が低いだけだろ。」

「はっ、言うねぇ。平民みたいな顔立ちなのに、王子さんが剣術も体術もできるから気をつけろって言った割にはあっさり捕まえられたな。」

「顔は関係ないだろ。……ああ、あなたの顔の方が貴族らしいね。貴族の庶子かな?それとも母親が貴族に弄ばれてあなたが生まれた?でも、養育費も払ってもらえなく」

ガツンッ!と腹を蹴られた。
加減なしに蹴られた。
そして冒頭へと戻る。

男は笑いやむと、僕を見ながら、

「どうせ奴隷になるんなら、味見くらいしてもいいよな。」

僕は思いっきり顔を顰めた。

「ボス。王子さんがいつ戻るかわかりませんよ?」

「大丈夫、こんだけ憎まれているんだから、俺が犯しても、感謝されるだろ?」

「なるほど。」

いや、『なるほど』じゃない!
初めてがアレクセイじゃなくて、ムサイおっさんなのかと思うと泣けてきた。

「おや、坊ちゃんは怖くて怯えちゃったかな?」

男は、ニヤニヤしながら言う。
違う意味で泣きたいとは言わなかった。
今日は喋る度に殴られたから、黙っておくことにした。
蹴られたお腹はまだ痛いし。



貞操の危機にも関わらず、どうやって逃げようかしか僕は考えていなかった。






























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