菫青石が輝くとき

ゆい

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ーーーアレクセイsideーーー


俺は宝石店にて悩んでいた。
アーシェの誕生日プレゼントを。

俺の誕生日にネックレスをプレゼントされた。
『仕事柄、指輪は普段つけられないから、ネックレスに通して、いつも身に付けられる方がいいでしょ?』と、今日は会えるからと付けた、俺の指に嵌っている指輪を触りながら言った。
『セイ君のお守りになるから、身に付けて欲しいんだ。』と、言われた。

店に入り、何が似合うかと悩んでいた。
店員が恋人なら自分の瞳の色の宝石はどうかと言ってきた。
でも、アーシェはあまり赤い色を好きでないのを知っているから、落ち着いた青色の宝石を見せてもらうように頼んだ。

「オッドレイ様、こちらの宝石は如何でしょうか?」

青紫の宝石を見せられた。

「こちらはアイオライトと言いまして、わずかな太陽の光を指し示して、嵐から逃れる事ができることから、船乗りの石とも言われております。道を正しく示す、誠実、愛を貫くという石言葉もあります。これは内包物が多く含まれているもので、光に翳すと、角度によっては違う色が見えるものになっております。」

手袋を渡されたので、手袋を嵌めてから宝石を手に取る。
窓から刺す光を当てると、銀色に見えたり、濃い紫色に見えたりした。
その宝石は、アーシェの瞳を連想させた。
本人は薄い水色と思っているが、少し暗い場所に行くと、薄い紫色にも見える。
陽の光で、銀色に見える時もある。
本人だけが知らない。
石言葉の『愛を貫く』なんて、そのものじゃないかと思った。

「これくらいの大きさだと何がいいですか?」

「そうですね、…ブローチやカフス、タイピンなどは如何でしょうか?」

「…カフスにしてくれませんか?」

「はい。かしこまりました。デザインのご要望はございますか?」

「いえ、俺はよくわからないので、お任せします。」

「かしこまりました。お時間をいただきますが大丈夫でしょうか?」

「2週間くらいでできますか?」

「はい。では、ただいま引渡証をお作りしますので、少々お待ちくださいませ。」




婚約して2年が過ぎた
俺は19歳になり、アーシェは今度の誕生日で17歳になる。
来年、アーシェの卒業とともに結婚式を予定している。
アーシェからのたっての希望だった。
俺はアーシェと結婚できるなら、いつでも良かった。
父さん達は『まだ早い』と言っていたが、アーシェが俺がいかに可愛いか、それがどんなに危険かを懇々と説明した。
父さんは途中から『息子のそんな話は聞きたくない』と、半分死んだ目をしていた。
母さんは笑い過ぎて『腹筋崩壊した!』と言いながら笑い続けていた。
侯爵は一貫して『アシェルの好きにしていい』と言っていた。
俺は顔を真っ赤にして、悶えながら聞いていた。
俺を『可愛い』と言うはアーシェだけだから!
こうしてアーシェの希望が通り、結婚式が決まった。
2年も経てば、俺もそれなりの貴族の振る舞いも身についたから、侯爵も許してくれたのだろう。

侯爵は穏やかな人だった。
アーシェは侯爵似だった。
お茶や食事を一緒にしてもあまり話さない。
アーシェの話をすると喜んで聞いてくれたり、話したりしてくれるけど。
アーシェとも親子らしい会話があまりない。
一度だけ、アーシェに聞いた。
『俺が嫁になること反対していない?』と、返ってきた答えが、『めちゃくちゃ喜んでいるよ。毎日母上の絵にアシェルが良い嫁を連れてくるって言っているから。』と。
…良い嫁?それは本当に俺なのかと思った。
その時に初めて義母上の肖像画を見せてもらった。
実に素晴らしい筋肉だった、…じゃなくて、騎士の中の騎士という人だった。
顔も身体もがっしりとしていた。
『驚いたでしょ?母上だよ。見て。右足ないでしょ。部下が魔獣にやられそうになった時に庇って、右足を喰われたんだって。笑いながら話していたよ。父上はさ、僕が母上から剣の才能を継いだと知った時に、母上のように怪我することを心配した。だから、騎士を辞めた時は安心したんじゃないかな。父上の真意はわからないけど。右足があってもなくても、隣にいてくれるだけで嬉しかったと思うよ。』
椅子に座る義母上の隣の立つ侯爵。
2人とも穏やかな顔をしていた。

家に帰ってから父さんに義母上について聞いてみた。
先輩であり、上司だったと話してくれた。
『誰からも頼られて、普段は落ち着いた雰囲気を醸し出していた人だった。戦闘が始まれば一転して、戦神のように勇ましく獰猛な戦いをみせてくれた。亡くなった時も領地で病が流行り、侯爵ととも対処をしていたが、感染ってしまったみたいで。倒れるまで隠していたと聞いた。侯爵はもっと早くに気づいてやれば、と今でも後悔をしているよ。この前そんな話をしてくれたんだよ。彼は最期まで騎士道を貫いたと、私は思うよ。本当に尊敬するよ。』
義母上を思い出しながら、父さんは話してくれた。
誰も義母上について語ったことがなかったので、その日は初めて義母上の話が聞けてよかった。


俺は学園に入るまで普通だと思っていた。
祖父達は遊びに来てくれるが、遊びに行ったことはなかった。
学園に入って、祖父達が前公爵夫妻達であることを知った。
父さんも母さんもそれなりに有名人であった。
学園から農産科に帰るとアーシェがいる。
アーシェの顔を見て安心した。
いつもと変わらず『セイ君、おかえり』と優しく言ってくれた。
友達はできたけど、俺がいない時に話していたのを聞いたことがあった。
『なんで僕が男爵子息と仲良くしないといけないんだ。』
『顔はまだいいから、一応愛人候補かな。』
『公爵家の後盾があれば。』
誰もが俺という人を見てないとわかった。
そしたら、名前で呼ばれることがイヤになった。


アーシェが学園に入学する頃、遠回しに学園で話しかけてくるなと言った。
目立つ俺がアーシェのそばに居たら、イジメられる可能性が高かったから。
アーシェは了承してくれたが、傷ついた顔をしていた。
こんな守り方しかできない自分がイヤだった。
話さなくなってから7年。
時々アシェルの噂を聞いていた。
伯爵子息と婚約。
婚約者の浮気。
アーシェが心配だった。
薬草畑で泣いていた時に久しぶりに話しかけた。
剣の打ち合いもした。
そして2年生に囲まれていた時に助けた。
でも、あの時の顔も、何か悪いことを考えていた時の顔だった。
アーシェは何を企んでいるんだ?
聞きたかったけど、聞けなかった。
多分聞いても教えてくれないから。
アーシェから『嫁に来い』は嬉しかった。
その後で知ったことは、全部俺と結婚するためだったと言っていた。
俺はアーシェのことをずっと諦めていた。
アーシェはずっと想い続けていてくれた。
諦めなくていいのなら、俺も伝えるよ。
『愛している』と。



2週間後にカフスを取りに行った。
素敵なカフスに仕上がっていた。
お金を支払って店を出た。
アーシェの誕生日が待ち遠しい。
物凄く喜んでくれる笑顔が目に浮かぶ。
少し浮かれていた。
そんな俺を父さんと母さんは生温かい目で見ていたのも気付かないくらいに。
侯爵家から伝令が来るまでは。

アーシェが誘拐された、と。













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