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5ー後日談ー
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あれから早いもので、僕は高等科に上がった。
身長も伸びてきて、アレクセイと目線が同じくらいにまで伸びた。
急激に伸びたので、身体のあちこちが痛くて、眠れないこともしばしばあった。
アレクセイは騎士試験に無事合格して、この春から騎士として働いている。
休みの日は、うちに来てもらい、貴族の振る舞いを学んでもらっている。
父から、『夫人の仕事はアシェルがしても、振る舞いくらいは出来た方がいいだろう』と、切実に言われてしまった。
アレクセイは粗野ではないけど、アルサスさんがあまり教えてないのか、平民のそれに近かった。
アルサスさん達に聞いたら、2人とも忙しくて、祖父達任せだった。
祖父達もただ可愛がるだけで、教育は親の領分とばかりに口を出さなかったらしい。
アレクセイに騎士として役職が上がれば、剣術ばかりとはいかなくなるからと説明したら、納得してくれて、休みの日にうちに通うようになった。
僕が学園でいない時は、時々父とお茶を飲んでいると話してくれた。
父はあまり話す方ではないから、会話が成立しているのか不安だった。
でも、僕の話で盛り上がっているって言っていた。
アレクセイは小さい頃の話、父は学園に上がってからの話をしているそうだ。
別の共通話題を早く作ってもらいたいよ。
ハロルドから時々手紙が届く。
あの事件の後処理で帰国後は毎日奔走していたが、やっと落ち着いてきたらしい。
ハロルドの国でクーデターの計画が上がっていたことが事件により発覚したからだ。
何十年か前に王族の過ちにより他国から締め上げを喰らい、流通がままならなくなり、食糧不足になり、暴動が起きたことがあった。
その頃より地下で、王政より民主主義へのクーデターの計画が始まっていたらしい。
アルサスさんがよく言う『民があっての王』の意味をよくわからせる出来事になった。
今の我が国の王族はアルサスさんの教育のもと、馬鹿なことはしでかさない。
クーデターが起これば、貴族も貴族ではなくなる。
爵位なんて意味を為さなくなる。
これまで貴族だからと平民に威張っていた者達は、これからはどこまで襟を正せるかが勝負のしどころだろう。
高等科に上がった際に何人かが入学してきた。
その中で1人の伯爵子息が話題に上がった。
彼は体が弱く、12歳を過ぎたあたりから徐々に丈夫になってきたので入学してきた。
見た目も儚そうで、誰しもが守ってあげたいという可憐な容姿をしていた。
彼の周りはすでに何人かの取り巻きが出来上がっていた。
しかし、あの男爵子息の病弱設定を思わせるところもあり、大半の人達は同級生として接するに留まっていた。
ハロルドがいなくなったので、僕は大抵一人で過ごすことが多かった。
今までバカにしていた者達の家に抗議文を出して以降、大人しくなった。
そして事件解決の報告書を僕の父(本当は僕だけど、世間的にはそうした)がしたことから、尊敬と畏怖の目で見られるようになった。
それに加えて、剣術で学園敵なしのアレクセイに勝ちはしないけど、負けもしないことから、一目置かれるようになった。
ここ最近になって、お一人様を満喫している僕に食堂に行くと、話しかけてくる人がいた。
「オルスト君、隣いいかい?」
「…どうぞ。」
1歳上のマグドレン公爵家の次男が最近声を掛けてくるようになった。
1歳上には第2王子もいて、側近候補として名が上がっていた。
「オルスト君、この間のこと考えてくれたかい?」
第2王子の側近候補にならないかと誘われていた。
多分真意はアレクセイを取り込みたいのだろう。
「…お断りしたはずですが?」
あまり話したくもないので、食事のペースを上げる。
「そこを考え直してみないか?」
「無理ですね。側近をしている暇なんて僕にはありません。それに家の後継者は側近になれないはずです。もう一度第2王子殿下と法典を読み直した方がよろしいですよ。」
「~~っ。」
悔しいそうなマグドレン先輩を置いて、さっさと食べ終わった僕は席を立った。
アレクセイを取り込みたい理由が何かを調べておくべきだな、と僕は思った。
久しぶりに学園休日とアレクセイの休日が重なったので、買い物と称してデートをすることにした。
目立たない平民寄りの服装で出掛けた。
この服装になると、僕は完全に平民の中に埋没してしまうが、アレクセイは何を着ても、カッコ良さが出てしまう。
案の定、街では目立った。
しかも手を繋いでいるのは僕。
『不釣り合い』とかいう声が聞こえてくる。
アレクセイにも聞こえたのか、ギュッと手を握ってくる。
アレクセイを見れば、僕を心配している優しい目をしていた。
「セイ君、僕は大丈夫だよ。」
「うん、ならいい。」
アレクセイの気遣いが嬉しかった。
武器屋に行って剣を見たり、アレクセイのオススメの定食屋に行った。
定食屋で、今公園でバラが見頃だから観に行かないかと言われた。
食事後散歩がてら、公園を散策した。
十何年も品種改良したバラが公園には多く植えられていて、観に訪れる人も多かった。
休憩しようと言われ花壇から離れて、木陰になっているベンチに座った。
「バラ、見事だったね。」
「うん。ここさ、バラが盗まれないように母さんの魔法がかけられているんだよね。」
「あっ、だから『触らないでください』の立看板があちこちにあるんだ。」
「そう。母さんも母さんでえげつない魔法を施しているし。」
「うん、今度習いに行くよ。」
「アーシェは相変わらず違う方向にいくのな。…アーシェ、コレ。」
と小さな箱を渡された。
開けてみるとイヤーカフが2つが入っていた。
「初任給で買った。お、お揃いなんだ。…指輪嬉しかったから。」
照れながらアレクセイは言う。
どうしてこんなに可愛んだろう。
僕はイヤーカフを手に取り、防御魔法を付与する。
「セイ君、つけて。」
と、アレクセイに1つ渡して、僕の耳に付けてもらう。
そしたら、僕もアレクセイに付けてあげた。
「セイ君のイヤーカフに防御魔法を付与したから。仕事柄ケガは日常茶飯事かもしれないけど、大きなケガがないようにね。」
「アーシェ、ありがとう。」
はにかんだ笑顔のアレクセイが可愛かった。
周りに誰かいないか、観ているものがいないかを即座に確認すると、軽くキスをした。
「~~っ、アーシェ、ここ外!」
「うん、でも可愛い顔をするセイ君が悪いよ。大丈夫、誰も見てないよ。確認はしたから。」
「…アーシェ、おまえ完璧すぎだろ。」
「まだまだだよ。セイ君のために日々努力だよ。」
「原動力が俺かよ。」
「?何当たり前のこと言っているのかな。当主以外の勉強なんて、誰にも文句を言わせないで、セイ君と一緒になるためなんだからね。」
「…うん。アーシェが俺のためって言うと、なんでも許せてしまうはなんでだろ?」
「ふふっ、なんでだろうね。」
認識阻害魔法をすぐに展開して、今度は深くキスをする。
舌を入れれば、おずおずと僕より厚めの舌が絡んでくる。
半年は経っているのに、未だにキスに慣れないアレクセイが可愛い。
あー、今日は可愛いしか連呼していない。
更に激しく攻めてしまった結果、腰を抜かし、色気ダダ漏れ状態のアレクセイを連れ回すのが危険になり、即座に転移魔法で家に連れて帰った。
客間を用意させ、ベッドに寝かせた。
日頃の疲れもあり、すぐさま寝てしまった。
父からは『程々にな。』と注意されてしまった。
長期休暇が終わってから、第2王子と伯爵子息と取り巻き達を一緒にいるところを見ることが多くなった。
アルサスさんが幼い頃お昼寝の時によく聞かせてくれたざまぁ物語の展開に似ているなと思った。
誰か必ず断罪されるが、それを大逆転に導く知性と度胸と時の運。
実に面白かった。
絶好の機会を逃すなという教えだろう。
誰が断罪され、逆転劇を見せてくれるか、楽しみになった。
……うん、楽しみにしている場合ではなくなった。
僕が断罪されたからだ。
学園の初等科5年生以上と高等科との交流会に、第2王子が壇上に上がり、突然僕の名前を呼び、伯爵子息が入学してからずっと僕にイジメられていると言い始めた。
楽しみにしていたから、わざと情報を取らなかった僕が悪いよ。
でもまさか僕とは思わなかったよ。
周りも僕がそんなことをすることはないとわかっている。
でも、相手が仮にも王族である以上、下手なことは言えない。
「オルスト侯爵子息、何か申し開きはあるか?私は優しいからな、話くらいは聞いてやろう。」
伯爵子息の腰を抱きながら、第2王子は言う。
「………ない。」
「はぁ?聞こえないぞ。」
「『実にくだらない。』と言ったんだ。」
「きっ、貴様!」
「僕が彼をイジメる理由は一欠片もない。合ったとしても学園でイジメる程度なら僕はしない。やるなら、お家断絶まで持っていくのが、上位貴族の常識だ。」
上位貴族子息の何人かは、『それは常識じゃない!』とツッコミたかった。
「イジメの証拠も彼の証言のみ。学園は至る所に監視カメラがついていますが、確認されましたか?まあ、してないでしょうね。まずは証拠をきちんと用意してから相手を訴えてくださいね。あっ、本日は交流会ですので、初等科の後輩達に身を持って、このようなことをしてはいけないという手本を見せてくれたのでしょうか。さすが殿下、素晴らしいです。」
僕は言いながら、殿下に拍手を送った。
殿下は辱められて、顔を真っ赤にしていた。
伯爵子息と取り巻き達は顔色が悪かった。
「貴様!不敬だ!誰かコイツを捕まえろ!」
しかし誰も動かなかった。
「な、何故誰も動かん!」
「で、殿下。今彼に敵うものがいないからです。」
「何?!」
「学力、剣術、体術、魔法全てにおいて、学園のトップにいるんです。」
「そ、そんな。こんな平凡顔のくせに。」
「顔は関係ないでしょ。…ああ、殿下はカッコいい方がお好きでしたもんねぇ。例えば、僕の婚約者アレクセイみたいなのが。」
「!!」
「何度も告白して、フラれていましたよね?」
「な、何故それを!」
「で、婚約者になった僕を側近候補として使い潰したら、アレクセイを手に入れる計画を立てられていましたよね?」
僕はクスクス笑いながら言う。
何人かは僕のクスクス笑いが怖いのか、後退りをする。
失礼だな!
「実に幼稚な計画で笑ってしまいましたよ。初等科1年生の子の方がまだ実現性の高い計画を立てられる。それにこの断罪劇も実に幼稚だ。」
「くっ。」
「そっちの彼は側室の約束でもしたんですかね。アレクセイ欲しさの計画のようですけど、幼稚な計画でも王族であれば無理でも押し通せると思ったんですかね。しかし、相手が悪かったですね。」
僕は今最高に悪い顔をしていると思う。
壇上の殿下達は顔を蒼ざめていく。
「謂れのないことで罪を被せようとしたとして、王家、伯爵家には抗議文を出させてもらいます。」
「そ、そんな。」
「マグドレン様、側近候補として諌められずにいたあなたも同罪ですよ。」
「わ、私もか!」
「…あなたはもう少し上位貴族として学ばれた方がよろしいでしょう。では、殿下、私は色々と忙しくなりそうなので、これで御前失礼致します。」
と、礼をして、出口に向かう。
でも、2歩歩いてから思い出したかのように殿下に言った。
「そうそう、殿下。アレクセイにまだちょっかいをかけるようでしたら、こちらも考えはありますからね。」
と言いたいことを言い、今度こそ出口に向かった。
人が勝手に避けて道を作ってくれた。
実に気持ち良かった。
王家から謝罪文が届いた。
抗議文を出す前に。
いやぁ、あまりにも早くてこっちが驚いたよ。
公爵家、伯爵家、取り巻きの家からも謝罪文が届いた。
どれも家で処罰を与えるという文言だった。
屋敷に生涯幽閉だろう。
父にまた『程々にな。』と言われてしまった。
僕的には抗議文で済ます辺り、程々なんだけど。
僕はアレクセイに関することは、振り幅が振り切ってしまうのがいけないらしい。
この件でアルサスさん達は大笑いをした。
その後は、王家と公爵家に抗議しに行ったらしい。
『うちの子の嫁入り先に手を出すな』と言ってくれたらしい。
相変わらず楽しい人達だ。
アレクセイから『あまり無茶をしないでくれ』と言われた。
アレクセイのためなら、無茶を無茶とも思わないけど、悲しまさせるのはやめようと誓った。
婚約して1年が経つ。
今日も僕は、アレクセイに愛の言葉を囁く。
ーーーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
心から感謝します。
一応これで完結となります。
R-18を設定していましたが、性的、暴力的シーンがなかったので、外させていただきます。
もし、リクエストがあれば追加するかもしれませんが。
感想など一言だけでもいただけたら、嬉しいです。
身長も伸びてきて、アレクセイと目線が同じくらいにまで伸びた。
急激に伸びたので、身体のあちこちが痛くて、眠れないこともしばしばあった。
アレクセイは騎士試験に無事合格して、この春から騎士として働いている。
休みの日は、うちに来てもらい、貴族の振る舞いを学んでもらっている。
父から、『夫人の仕事はアシェルがしても、振る舞いくらいは出来た方がいいだろう』と、切実に言われてしまった。
アレクセイは粗野ではないけど、アルサスさんがあまり教えてないのか、平民のそれに近かった。
アルサスさん達に聞いたら、2人とも忙しくて、祖父達任せだった。
祖父達もただ可愛がるだけで、教育は親の領分とばかりに口を出さなかったらしい。
アレクセイに騎士として役職が上がれば、剣術ばかりとはいかなくなるからと説明したら、納得してくれて、休みの日にうちに通うようになった。
僕が学園でいない時は、時々父とお茶を飲んでいると話してくれた。
父はあまり話す方ではないから、会話が成立しているのか不安だった。
でも、僕の話で盛り上がっているって言っていた。
アレクセイは小さい頃の話、父は学園に上がってからの話をしているそうだ。
別の共通話題を早く作ってもらいたいよ。
ハロルドから時々手紙が届く。
あの事件の後処理で帰国後は毎日奔走していたが、やっと落ち着いてきたらしい。
ハロルドの国でクーデターの計画が上がっていたことが事件により発覚したからだ。
何十年か前に王族の過ちにより他国から締め上げを喰らい、流通がままならなくなり、食糧不足になり、暴動が起きたことがあった。
その頃より地下で、王政より民主主義へのクーデターの計画が始まっていたらしい。
アルサスさんがよく言う『民があっての王』の意味をよくわからせる出来事になった。
今の我が国の王族はアルサスさんの教育のもと、馬鹿なことはしでかさない。
クーデターが起これば、貴族も貴族ではなくなる。
爵位なんて意味を為さなくなる。
これまで貴族だからと平民に威張っていた者達は、これからはどこまで襟を正せるかが勝負のしどころだろう。
高等科に上がった際に何人かが入学してきた。
その中で1人の伯爵子息が話題に上がった。
彼は体が弱く、12歳を過ぎたあたりから徐々に丈夫になってきたので入学してきた。
見た目も儚そうで、誰しもが守ってあげたいという可憐な容姿をしていた。
彼の周りはすでに何人かの取り巻きが出来上がっていた。
しかし、あの男爵子息の病弱設定を思わせるところもあり、大半の人達は同級生として接するに留まっていた。
ハロルドがいなくなったので、僕は大抵一人で過ごすことが多かった。
今までバカにしていた者達の家に抗議文を出して以降、大人しくなった。
そして事件解決の報告書を僕の父(本当は僕だけど、世間的にはそうした)がしたことから、尊敬と畏怖の目で見られるようになった。
それに加えて、剣術で学園敵なしのアレクセイに勝ちはしないけど、負けもしないことから、一目置かれるようになった。
ここ最近になって、お一人様を満喫している僕に食堂に行くと、話しかけてくる人がいた。
「オルスト君、隣いいかい?」
「…どうぞ。」
1歳上のマグドレン公爵家の次男が最近声を掛けてくるようになった。
1歳上には第2王子もいて、側近候補として名が上がっていた。
「オルスト君、この間のこと考えてくれたかい?」
第2王子の側近候補にならないかと誘われていた。
多分真意はアレクセイを取り込みたいのだろう。
「…お断りしたはずですが?」
あまり話したくもないので、食事のペースを上げる。
「そこを考え直してみないか?」
「無理ですね。側近をしている暇なんて僕にはありません。それに家の後継者は側近になれないはずです。もう一度第2王子殿下と法典を読み直した方がよろしいですよ。」
「~~っ。」
悔しいそうなマグドレン先輩を置いて、さっさと食べ終わった僕は席を立った。
アレクセイを取り込みたい理由が何かを調べておくべきだな、と僕は思った。
久しぶりに学園休日とアレクセイの休日が重なったので、買い物と称してデートをすることにした。
目立たない平民寄りの服装で出掛けた。
この服装になると、僕は完全に平民の中に埋没してしまうが、アレクセイは何を着ても、カッコ良さが出てしまう。
案の定、街では目立った。
しかも手を繋いでいるのは僕。
『不釣り合い』とかいう声が聞こえてくる。
アレクセイにも聞こえたのか、ギュッと手を握ってくる。
アレクセイを見れば、僕を心配している優しい目をしていた。
「セイ君、僕は大丈夫だよ。」
「うん、ならいい。」
アレクセイの気遣いが嬉しかった。
武器屋に行って剣を見たり、アレクセイのオススメの定食屋に行った。
定食屋で、今公園でバラが見頃だから観に行かないかと言われた。
食事後散歩がてら、公園を散策した。
十何年も品種改良したバラが公園には多く植えられていて、観に訪れる人も多かった。
休憩しようと言われ花壇から離れて、木陰になっているベンチに座った。
「バラ、見事だったね。」
「うん。ここさ、バラが盗まれないように母さんの魔法がかけられているんだよね。」
「あっ、だから『触らないでください』の立看板があちこちにあるんだ。」
「そう。母さんも母さんでえげつない魔法を施しているし。」
「うん、今度習いに行くよ。」
「アーシェは相変わらず違う方向にいくのな。…アーシェ、コレ。」
と小さな箱を渡された。
開けてみるとイヤーカフが2つが入っていた。
「初任給で買った。お、お揃いなんだ。…指輪嬉しかったから。」
照れながらアレクセイは言う。
どうしてこんなに可愛んだろう。
僕はイヤーカフを手に取り、防御魔法を付与する。
「セイ君、つけて。」
と、アレクセイに1つ渡して、僕の耳に付けてもらう。
そしたら、僕もアレクセイに付けてあげた。
「セイ君のイヤーカフに防御魔法を付与したから。仕事柄ケガは日常茶飯事かもしれないけど、大きなケガがないようにね。」
「アーシェ、ありがとう。」
はにかんだ笑顔のアレクセイが可愛かった。
周りに誰かいないか、観ているものがいないかを即座に確認すると、軽くキスをした。
「~~っ、アーシェ、ここ外!」
「うん、でも可愛い顔をするセイ君が悪いよ。大丈夫、誰も見てないよ。確認はしたから。」
「…アーシェ、おまえ完璧すぎだろ。」
「まだまだだよ。セイ君のために日々努力だよ。」
「原動力が俺かよ。」
「?何当たり前のこと言っているのかな。当主以外の勉強なんて、誰にも文句を言わせないで、セイ君と一緒になるためなんだからね。」
「…うん。アーシェが俺のためって言うと、なんでも許せてしまうはなんでだろ?」
「ふふっ、なんでだろうね。」
認識阻害魔法をすぐに展開して、今度は深くキスをする。
舌を入れれば、おずおずと僕より厚めの舌が絡んでくる。
半年は経っているのに、未だにキスに慣れないアレクセイが可愛い。
あー、今日は可愛いしか連呼していない。
更に激しく攻めてしまった結果、腰を抜かし、色気ダダ漏れ状態のアレクセイを連れ回すのが危険になり、即座に転移魔法で家に連れて帰った。
客間を用意させ、ベッドに寝かせた。
日頃の疲れもあり、すぐさま寝てしまった。
父からは『程々にな。』と注意されてしまった。
長期休暇が終わってから、第2王子と伯爵子息と取り巻き達を一緒にいるところを見ることが多くなった。
アルサスさんが幼い頃お昼寝の時によく聞かせてくれたざまぁ物語の展開に似ているなと思った。
誰か必ず断罪されるが、それを大逆転に導く知性と度胸と時の運。
実に面白かった。
絶好の機会を逃すなという教えだろう。
誰が断罪され、逆転劇を見せてくれるか、楽しみになった。
……うん、楽しみにしている場合ではなくなった。
僕が断罪されたからだ。
学園の初等科5年生以上と高等科との交流会に、第2王子が壇上に上がり、突然僕の名前を呼び、伯爵子息が入学してからずっと僕にイジメられていると言い始めた。
楽しみにしていたから、わざと情報を取らなかった僕が悪いよ。
でもまさか僕とは思わなかったよ。
周りも僕がそんなことをすることはないとわかっている。
でも、相手が仮にも王族である以上、下手なことは言えない。
「オルスト侯爵子息、何か申し開きはあるか?私は優しいからな、話くらいは聞いてやろう。」
伯爵子息の腰を抱きながら、第2王子は言う。
「………ない。」
「はぁ?聞こえないぞ。」
「『実にくだらない。』と言ったんだ。」
「きっ、貴様!」
「僕が彼をイジメる理由は一欠片もない。合ったとしても学園でイジメる程度なら僕はしない。やるなら、お家断絶まで持っていくのが、上位貴族の常識だ。」
上位貴族子息の何人かは、『それは常識じゃない!』とツッコミたかった。
「イジメの証拠も彼の証言のみ。学園は至る所に監視カメラがついていますが、確認されましたか?まあ、してないでしょうね。まずは証拠をきちんと用意してから相手を訴えてくださいね。あっ、本日は交流会ですので、初等科の後輩達に身を持って、このようなことをしてはいけないという手本を見せてくれたのでしょうか。さすが殿下、素晴らしいです。」
僕は言いながら、殿下に拍手を送った。
殿下は辱められて、顔を真っ赤にしていた。
伯爵子息と取り巻き達は顔色が悪かった。
「貴様!不敬だ!誰かコイツを捕まえろ!」
しかし誰も動かなかった。
「な、何故誰も動かん!」
「で、殿下。今彼に敵うものがいないからです。」
「何?!」
「学力、剣術、体術、魔法全てにおいて、学園のトップにいるんです。」
「そ、そんな。こんな平凡顔のくせに。」
「顔は関係ないでしょ。…ああ、殿下はカッコいい方がお好きでしたもんねぇ。例えば、僕の婚約者アレクセイみたいなのが。」
「!!」
「何度も告白して、フラれていましたよね?」
「な、何故それを!」
「で、婚約者になった僕を側近候補として使い潰したら、アレクセイを手に入れる計画を立てられていましたよね?」
僕はクスクス笑いながら言う。
何人かは僕のクスクス笑いが怖いのか、後退りをする。
失礼だな!
「実に幼稚な計画で笑ってしまいましたよ。初等科1年生の子の方がまだ実現性の高い計画を立てられる。それにこの断罪劇も実に幼稚だ。」
「くっ。」
「そっちの彼は側室の約束でもしたんですかね。アレクセイ欲しさの計画のようですけど、幼稚な計画でも王族であれば無理でも押し通せると思ったんですかね。しかし、相手が悪かったですね。」
僕は今最高に悪い顔をしていると思う。
壇上の殿下達は顔を蒼ざめていく。
「謂れのないことで罪を被せようとしたとして、王家、伯爵家には抗議文を出させてもらいます。」
「そ、そんな。」
「マグドレン様、側近候補として諌められずにいたあなたも同罪ですよ。」
「わ、私もか!」
「…あなたはもう少し上位貴族として学ばれた方がよろしいでしょう。では、殿下、私は色々と忙しくなりそうなので、これで御前失礼致します。」
と、礼をして、出口に向かう。
でも、2歩歩いてから思い出したかのように殿下に言った。
「そうそう、殿下。アレクセイにまだちょっかいをかけるようでしたら、こちらも考えはありますからね。」
と言いたいことを言い、今度こそ出口に向かった。
人が勝手に避けて道を作ってくれた。
実に気持ち良かった。
王家から謝罪文が届いた。
抗議文を出す前に。
いやぁ、あまりにも早くてこっちが驚いたよ。
公爵家、伯爵家、取り巻きの家からも謝罪文が届いた。
どれも家で処罰を与えるという文言だった。
屋敷に生涯幽閉だろう。
父にまた『程々にな。』と言われてしまった。
僕的には抗議文で済ます辺り、程々なんだけど。
僕はアレクセイに関することは、振り幅が振り切ってしまうのがいけないらしい。
この件でアルサスさん達は大笑いをした。
その後は、王家と公爵家に抗議しに行ったらしい。
『うちの子の嫁入り先に手を出すな』と言ってくれたらしい。
相変わらず楽しい人達だ。
アレクセイから『あまり無茶をしないでくれ』と言われた。
アレクセイのためなら、無茶を無茶とも思わないけど、悲しまさせるのはやめようと誓った。
婚約して1年が経つ。
今日も僕は、アレクセイに愛の言葉を囁く。
ーーーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただきありがとうございます。
心から感謝します。
一応これで完結となります。
R-18を設定していましたが、性的、暴力的シーンがなかったので、外させていただきます。
もし、リクエストがあれば追加するかもしれませんが。
感想など一言だけでもいただけたら、嬉しいです。
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もっと!
新婚イチャラコ!!
なぁ恋 様
お読みいただきありがとうございます。
リクエストありがとうございます。
とても面白いお話でした。腹黒強強主人公大好きです!!後日談で、もっとラブラブな絡み欲しいです!よろしくお願いします。
mi−renren 様
お読みいただきありがとうございます。
リクエストありがとうございます。