ゆい

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5ー後日談ー

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「こんな所に穴がある」

 そう呟いて、僕は胸の高さにある穴の中に顔を入れて覗いてみる。

「暗くてわからないけど外に繋がってる?」
「たぶん。それを調べたくてここに来ました。他にも何ヶ所か同じような穴がありましたよ。フィル様、少しの間ここで待っていてください。調べてきます」
「僕も行く」
「安全が確認できるまでダメです。一応この周辺に結界を張っておきます。異変があれば、すぐに俺を呼んでください」
「…わかったよ」

 僕は不満げに唇を突き出した。
 ラズールが困ったように息を吐いて手を伸ばしてくる。軽く僕の頬に触れてから穴に両手をかけ、軽々と登って穴の中へと入っていった。 
 どんどんと奥へと進むラズールに「気をつけてね」と声をかける。
 ラズールの姿が暗い穴の中に消え、ついには見えなくなってしまった。
 採掘場の中は静かだ。僕の息づかいと天井からボトリと落ちる水の音しか聞こえない。
 昨夜、ゼノ達をここに残して村長の家に戻ると、ラズールが村長に「今日明日は村人は採掘場に行かないように」と頼んでいた。実際は脅していたのだけど。
 村長の話だと、村人達が石を採掘する時には、歌を歌ったり大声で掛け声をかけたりして賑やかだそうだ。その賑やかな声が、今日は響かなかった。だから余計に静かに感じるのだろうか。
 そんなことを考えながら、ラズールが入った穴の下で、膝を抱えて座る。
 夜の穴の中はとても冷える。暗くてよく見えないけど吐く息はきっと真っ白だ。村長の家を出る時にはそんなに寒いと思わなかったから、ラズールが持つ荷物の中にストールを入れて、採掘場の外の茂みの中に置いてきてしまった。
 
「寒い…」

 指先も冷えて感覚が鈍くなっている。
 僕はフードを脱ぐと、茶色のカツラを取って結い上げていた銀髪を解いた。そして長い髪で首を覆って、もう一度フードをかぶる。

「長すぎるから切りたいと思ってたけど、役に立つもんだな」

 ブツブツと呟きながら、カツラを上着のポケットに突っ込む。動かないから余計に寒いのかと立ち上がったその時、誰かが採掘場の中に入ってきたような気がした。
 僕は足音を立てないように入口に向かおうとした。直後に後ろでタンと音がして「どこへ行くのですか」とラズールの声が聞こえた。
 僕は振り向きラズールに走り寄る。
 ラズールは、服についた汚れを叩いて落とし、僕を見た。

「どうだった?外に出れそう?」
「はい。少し狭いですが外と繋がってます。ところでどこへ行こうとしてたのですか?」
「入口に行こうかと…。誰かが入ってきた気がする」
「ああ。またバイロン国の騎士が来たのか?しかしまだ夜なのに…」
「でも…入ってきてると思う。…ほらっ、足音が聞こえない?」
「たしかに。二人…か。フィル様、とりあえずこの穴に隠れましょう」

 カツカツという足音がどんどんと近づいてくる。何か話してるようだけど、声がかすかにしか聞こえない。
 早く隠れなければと思っていると、近づいていた足音が遠ざかっていく。

「横穴の方へ行きましたね。さて、倒れているバイロン国の騎士を見つけてどうするか…」
「ラズール、様子を見に行こう」
「そうですね」

 僕はラズールの前に出て先に歩く。
 しかし横穴に入る時には、ラズールが前に出て僕を守るようにして進んだ。

 



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感想 10

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みんなの感想(10件)

m‥·*"
2025.02.11 m‥·*"

 「おすすめ作品」から参りました。
 作者様、はじめまして。ガチ読み専のm‥·*"と申します。mにシッポが付いていますが、他のm様との区別マークに過ぎず、mと申します(面倒な説明〜すみません)。

 アレクセイさんはきっとガチムチな漢前で騎士of騎士の正統派系(多分)、対しアシェルさんは暗器やレイピアなんかが似合う華奢っぽい細マッチョの隠密系(恐らく)、ハロルドさんはどこぞの王子様で当て馬(十中八九)、と第1話で妄想しました。が、ハロルドさんは当て馬ポジではなく、ラストまで親友盟友ポジでした〜 でも、それが、とてもとても好ましかったです〜 ふふっ♫
 そ〜し〜て、攻めぇアシェルさん、受けぇアレクセイさん、なのですねぇーーー♪ これはもぉ、わたくしの性癖刺激しまくりシチュにございますぅ〜 大きい身体の受けくんに、華奢な風体なのにムスコくんはご立派攻めくんは、垂涎物です。
 えちep.R18が無いのが非常に残念至極でしたが、アシェルさんの策士っぷりをとても愉しませて頂きました多謝! でも正直に申し上げますと、アシェルさんとアレクセイさんのえちep.がありでムーンさんへの掲載もあったらレビューしたかったな、と存じました。
 没落後のエドワード視点や帰国後のハロルド視点も拝読してみたいと思いましたし、アレクセイさん視点もあったらなー……
 そんなアレコレを思いました。ホント設定や構成が良くとても愉しめましたです。ありがとうございました♢
 寒波寒波と姦しいですが、作者様、くれぐれもご自愛召されまして。

ゆい
2025.02.11 ゆい

m 様

お読みいただきありがとうございます。

アレクセイのガチムチには笑いました。アレクセイは、警察官や消防士くらいのイメージ、アシェルはダンサーくらいのイメージで書いていました。速さも重要ですから、筋肉つけすぎは重過ぎて動けないかと思いまして。
2人のその後は【菫青石が輝くとき】で投稿をしています。m様の性癖にマッチするかわかりませんが、楽しんでいただけたら嬉しく思います。

解除
豆餅
2025.02.03 豆餅

短編のはずなのに長編を読んだあとのような満足感は何?
面白くて主要キャラの存在感や性格、まして周りのキャラの魅力がこんなに心に残って続編希望となったのは初めてだった。さすが豆餅様。豆餅様の他の小説も私の心のワクワクを引き出して日頃のストレスを和らげてくれる。
これからも私が老眼に負けるその日まで豆餅様の小説を探しだし読み続けていきます。

ゆい
2025.02.03 ゆい

豆餅 様

お読みいただきありがとうございました。
熱いお言葉ありがとうございます。
計画性なしの思いつきで投稿しているので、短編で終わらせないとなんですよ。性格的に長編は難しいです。

解除
@9030
2024.11.08 @9030

とても面白かったです😆✨
ざまぁされた側のこんなはずではなかったのに…的な話も読んでみたかったです😊

ゆい
2024.11.09 ゆい

@9030様

お読みいただきありがとうございます。
第三者立場は考えてなかったです。それも面白そうですね。

解除

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