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僕が再婚した後の話
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僕とシリウス様が結婚して、2年が経った頃、隣国と隣接する境界の森で魔獣の氾濫が起こった。
シリウス様は、魔獣退治の指揮を執るため行くことが決まった。
陛下は王宮から離れられなく、王弟殿下は今、隣国に外渉に出向いている。
王族として軍経験もあるシリウス様が行くことになった。
そして、結婚して初めて離れて暮らすことになった。
警護が手薄になるため、離宮から王宮へと部屋を移した。
いつも隣にいるシリウス様がいなくて、そわそわと落ち着かない日々を過ごした。
王妃様も王弟殿下妃も、僕に気遣ってくれて、お茶に誘ってくれる。
孫達と一緒に遊んだりもするが、やっぱりどこか落ち着かない。
ぼーっとする日も増えて来た。
庭園を散歩して、疲れたので東屋で少し休む。
ぼーっと景色を観ていると、声をかけられた。
「義母上、大丈夫ですか?」
「…陛下。」
「隣に座ってもいいですか?」
「はい。」
陛下は隣に座る。
「もう、昔のように名前で呼んでもらえないのですね。」
「すみません。王宮にいる以上は誰が聞いているかわからなくて。」
「いえ、私の我儘です。…初めて会った日を覚えていらっしゃっいますか?」
「ええ、もちろん。シリウス様の釣果をもてなしていただきました。」
「あれは本当に美味しかったです。」
「シリウス様が王妃様や子供達の喜ぶ顔が観たいと仰せでしたので、上手く釣れて良かったです。」
「あの時、義母上は優しく微笑んでいました。私はその笑顔が少し哀しそうなものだと記憶しています。」
「…そうでしたか。」
「今であれば、色々知っているので理解はできます。あの頃は理解できず、母上に聞いたのです。『あの人はなんで哀しそうに笑うの』と。」
「…王妃様はなんて答えましたか?」
「母上は何も答えてくれませんでした。その代わり私に議題を出しました。『あなたが心から笑えるようにしてあげない。』って。私は間違った方向に捉えてしまって、イタズラをしたと、反対にフェネルさんから怒られてました。」
「あのイタズラの数々は、笑わせるためだったのですね。ふふっ。」
「笑いましたね。今だから話せる話です。時々しか来ないから、何をしていいかわからない結果、あのようになっただけです。」
「でも、びっくり箱は、本当に上手にできていました。」
「母上は面白がって観ていましたね。」
「ええ、王妃様も幼い頃はいたずらっ子のようでしたよ。『血は争えないわ』なんて言ってられましたから。」
「この庭園も一緒に散策をしましたね。」
「そうですね。陛下はすぐに駆け出して、捕まえるのが大変でした。」
「私はフェネルさんが来るのを楽しみにしていました。いっぱい叱って、いっぱい褒めてくれて。案外母上より母親らしかったかもしれません。」
「それは勿体無いお言葉です。」
「…私達は縁があって家族になりました。義母上。悩みがあるなら相談してください。父上に比べたら頼りになりませんが。」
「ありがとう。…そうですね。僕は何をしていいかわからないんです。従者をしていた時は忙しなく動き回っていましたし、結婚してからはシリウス様のお世話をしています。急に動かなくて良くなってしまったので、何をしていいかわからなくなってしまいました。根っからの貧乏性ですね。」
「つまり、時間の使い方がわからないということですね。」
「はい。今の立場上、動き回るのは難しいですから。」
「でしたら、少し政務を手伝っていただけませんか?今は各領地から税の報告書が上がっているのですが、計算をする係で人手が足りなくて。義母上、そのての書類は大丈夫でしょうか?」
「公爵家にいた時に何度かお手伝いをしたことがあります。」
「ならお願いしたいのですが?」
「はい、お手伝い程度でよければ。」
と、話が決まり、早速明日から始めることになった。
前陛下の奥方とわからないようにメガネをかけて、髪型を少し変えた。
名前もフェネルでなく、フィンと名乗った。
係のトップは僕のことを知っているが、他の方達には黙ってもらうことにした。
忙しいのに、気を遣わせるのが悪かったから。
「フィンさんが来てくれて、本当に助かります。」
昼休憩で共に食堂で食事をとる仲間にそう言われた。
「僕なんかでお役に立てていれば良かったです。」
「いやいや、私達より計算が早くて正確ですよ。」
「本当に有難いです。」
その時、食堂の一角が騒がしくなった。
「また、あいつらか。」
「あいつらって。」
「スラッドレイ公爵家の三男と取り巻き達です。公爵家だから誰も注意できなくて。」
「コネで文官になったって言われているけど、本当に仕事ができないらしいよ。」
「今は庶務課にいます。」
「なるほど。」
「フィンさんも目をつけられないように気をつけてくださいね。」
「わかりました。」
久々に嫌な家名を聞いたな、と思った。
経理課に書類を届けて、新たな書類もらった帰りに、スラッドレイ公爵子息達と遭遇した。
彼らは仕事をするわけでもなく、廊下で話をしていた。
とりあえずすれ違い様に軽く会釈をして通り過ぎようとしたが、声をかけられた。
「おい、待てよ。」
「何か御用でしょうか?」
「お前、見ない顔だな。所属はどこだ。」
「計算係でございます。」
「ああ、40過ぎの手伝いが入ったって聞いたが、お前か。」
「へぇ、40過ぎにしては、見えないじゃん。」
「ちょっと俺達と話そうぜ。」
と、腕を掴まれる。
「お離しください。仕事があります。」
「ちょっとだけだって。」
無理に引っ張られ、書類を落とす。
「ああ!」
思わず声をあげてしまった。
「何をしている!」
と、別の方向から声が聞こえる。
「ヤバっ!」
と言って彼らは走り去っていった。
僕はほっとして、散らばった書類を拾う。
声をかけてくれた方も手伝ってくれた。
「ありがとうございます。」
と、お礼を言い、改めて顔を見ると、
「…アルフォンス。」
「母上?」
と、奇妙な再会をしてしまった。
アルフォンスに今だけ計算係に手伝いに来ているので黙っていて欲しいと頼んだ。
アルフォンスは報告書の提出で登城したと言っていた。
もうすぐで結婚して、爵位を継ぐ話を聞いた。
『おめでとう』と伝えた。
少しはにかみながら、『ありがとうございます』と言ってくれた。
執務室まで、書類を運ぶのを手伝ってくれながら、そんな話をした。
次の約束はできないけど、アルフォンスの幸せそうな顔を見れて嬉しかった。
ある程度の税務の仕事の区切りがみえてきた頃、シリウス様と離れて1ヶ月は経っていた。
魔獣の氾濫も治まってきており、軍もそろそろと帰還すると聞いた。
やっとシリウス様に会えると思ったら、仕事も捗った。
昼休憩の食事の時に、
「フィンさん、最近前にも増して仕事が早いねぇ。」
と、言われた。
「夫がもうすぐ帰って来れそうと聞いて。」
「ああ、旦那さんは騎士なのかな。」
「死者も出ていないって聞いたから、みんな無事に戻って来られそうで良かったです。」
「氾濫で死者無しってすごいよね。」
「前陛下の指揮が良かったんだろう。」
「退位後も軍の顧問役を望まれていたけど、断られたって騎士から聞いたことがある。」
「そうなんですか?」
「ああ、なんでも、後添えになられた奥方と離れたくないって聞いたよ。」
「話は聞いたことあるけど、ものすごい美人だって。」
「あまり表に出ない方だから顔を知る人は少ないけどね。」
「そう、なんですね。」
顔をあまり知られていないけど、結構な噂になっていたことは知らなかった。
なんかこんな顔ですみませんと謝りたくなった。
「フィンさんは今週いっぱいで終わりだっけ?」
「あ、そうです。」
「寂しくなるなぁ。」
「フィンさん、インクや用紙の補充とかも先回りしてやってくれていたから、本当に助かっていたんだよ。」
「そんなことはないですよ。」
「もう、正式に文官にならない?」
「上司に掛け合うよ。」
「いえ、皆さんのお気持ちだけいただいておきます。夫がいない間だけのお手伝いの約束なので。」
「そうか、残念。」
「本当に寂しくなるなぁ。」
後ろから声をかけられる。
「なんだお前、結婚していたのか。」
スラッドレイ公爵子息達だった。
「貴方方には、関係ないでしょ。」
「お前、口のききかたには気をつけろ!」
「何故です。同じ文官でここは職場です。身分は関係ないはずです。」
「なんだと!」
「第一、貴方方は何をしに王宮に来ているのですか。仕事もせず、ふらふらしてばかりで。この食事も給金も民の血税です。銅貨1枚たりとて無駄にしてはいけないものです!」
聞いていた周りは、僕に拍手をくれた。
「わ、私に恥をかかせるな!」
と、殴られそうになり、目を瞑り、歯を食いしばった。
ガッ!!
音はしたけど、衝撃も痛みもない。
目を開けると大きな背中が見える。
顔を見れば、アルフォンスだった。
「アルフォンス!」
「怪我はありませんか?」
「アルフォンスが怪我している!」
「鍛えていますので、これくらいは大丈夫です。」
「口から血が。」
ハンカチを取り出して口元を拭う。
「貴方に怪我がなくて良かった。」
「全然良くないよ。」
「ク、クレスト侯爵子息。何故貴様がそいつを庇う!」
「庇っていけない方はない。」
「ああ、もしかして、子息の情人か?顔だけは綺麗だからな。」
くだらないことを言い出した。
アルフォンスも呆れている。
「アルフォンス、医務室に行こう。冷やさないと腫れるよ。」
「そんな泣きそうな顔をしないでください。本当に大丈夫です。」
「おい!聞いているのか!」
とスラッドレイ公爵子息は喚き出した。
「なんの騒ぎだ!」
と、食堂に陛下が入ってきた。
「何があった。誰か状況を話せ!」
「陛下、私がスラッドレイ公爵子息に殴られそうになったところをアルフォンスに庇ってもらい、このような騒ぎになりました。」
一歩前に出て、私が自ら話した。
「貴方に怪我はないですか!」
慌てたように、メガネを取られ、私の顔を触る。
「私はございません。アルフォンスに庇われたと申し上げました。陛下、大丈夫ですから、手をお離しください。」
陛下が私の身を案じた姿を見て、周りは騒然となった。
「クレスト侯爵子息、感謝する。誰か医務室にお連れしろ。スラッドレイ公爵子息、王宮内の私闘は禁止されている。よって3ヶ月の謹慎と減俸を申し付ける。これより調査の如何により更に罰があると思われよ。」
「陛下、何故ですか!何故そんな騎士の妻の言うことを信じるのですか!」
「私の妻だからだ。」
シリウス様の声がした。
「「「前陛下!」」」
「シリウス様!」
私はシリウス様に駆け寄った。
シリウス様は僕を愛しいという目で見つめながら、頬を撫でる。
「全く此奴に迎えに行かせても戻って来ないから、私から出向いてみたら、この騒ぎだ。」
「すみません。」
「フェネルが謝ることではない。手伝いをしていたと聞いた。」
「はい。シリウス様がいないので暇を持て余していたところ、陛下よりお話をいただきましてお手伝いさせていただきました。」
「そうか。楽しかったか。」
「はい!久しぶりの書類仕事は楽しかったです。周りの方達も優しい方達ばかりでした。」
「それで、フェネルは今殴られそうになったと申したな。」
「シリウス様?」
「おい。」
「はっ、父上。今処分を申し付けたところです。」
「手緩い。」
「は?」
「手緩いと言った。知らぬとは言え、王族に手をあげた。理由は十分だろ。」
「しかし、それ以上は。」
「公爵家の教育は相変わらずだな。この際、」
「シリウス様!ダメです!現陛下はローレンス様です。前陛下と言えども越権行為です。ローレンス様も、父上だからと何でも言うことは聞いてはいけません。きちんとダメならダメと言ってください!」
「…わかった。」
「はい、義母上。」
「僕はアルフォンスを医務室に連れて行きます。陛下とシリウス様はこの後の対処をお願いします。さあ、アルフォンス、行きましょう。」
と、アルフォンスを医務室に連れて行った。
廊下を歩いていると、アルフォンスはくつくつ笑い出した。
「どうしたんですか?」
「いえ、母上はすごいなと思いまして。陛下にも前陛下にもちゃんと苦言を呈することができて。」
「長い付き合いですから。王妃様がいらっしゃれば、同じことを言ったと思いますよ。…アルフォンスにしたかったことを代わりにしていただけかもしれません。」
「それだけでは、人は言うことは聞きません。母上は誰も私の代わりにはしていませんよ。」
「…だといいです。アルフォンス、庇ってくれてありがとう。」
「母親を守るのは当然です。」
「それでも、」
「母上、私は捨てられたとは思っていません。」
「アルフォンス。」
「一緒に過ごした記憶はありませんが、大切に抱きしめられた感覚は覚えています。父上から話を聞きました。離れた時は母は追いつめられていて、とても私を育てる状況じゃなかった、と。」
「……。」
「母上、だから、私は捨てられたとは思いません。それに父を恨んだこともありません。母上の選択は最善だったのです。」
「…ありがとう、アルフォンス。」
「多分、もうお会いすることはないと思います。今回の件で前陛下は母上を離宮から出さないでしょう。」
「そうですね。世代交代もしたのにしゃしゃり出ては、老害とも言われますね。」
「んー。ちょっと違いますが、まあそうことにしておきましょう。たまに手紙を出してもよろしいですか?」
「はい。僕も返します。」
「私達はこのくらいの距離でいいと思います。」
「そうですね。アルフォンスは侯爵様に似ていらっしゃるから、思い出してしまいますね。」
「それでも、私を愛してくれてありがとうございます。」
「私の元に産まれてきてくれてありがとう。」
「はい、送っていただきありがとうございます。」
「しっかり診てもらってください。」
アルフォンスは頷くと、医務室に入っていった。
計算係に戻り、仕事半ばだが夫が帰ってきたので辞めなくていけない話をしようとしたら、
「フィンさんが前陛下の奥方だったんですね!」
「食堂ではカッコよかったです!」
「本当に!『血税を銅貨1枚も無駄にするな!』は効きました。」
「なんだか、お恥ずかしいです。…皆さんすみません、夫が戻って参りましたので、辞めなくてはいけません。仕事半ばですが。」
「フィンさんがいたおかげで今年は進みが早いくらいです。」
「暇な時にまたお手伝いに来てください。」
「戻られたら、前陛下達を慰めてあげてくださいね。叱られたってしょんぼりしてましたよ。」
「はぁ、もう、やってしまいました。」
僕は額に手を当てた。
臣下の前で2人の情けない姿を見せてしまったことを反省した。
係の部屋を出た後は、陛下の執務室に向かう。
執務室の前にいた兵が僕の訪れを告げてくれ、中に入る。
2人は、本当にしょんぼりとしてソファに座っていた。
陛下の隣に宰相が座っていたので、シリウス様の隣に座る。
「シリウス様、陛下、臣下の前で叱責をしてしまいまして、申し訳ございません。」
僕は頭を下げて謝った。
シリウス様も陛下もオロオロした。
「違いますよ、奥方様。陛下達は奥方様が怒っているんじゃないかと案じているだけですよ。寧ろこの御二方をお止めできるのは、奥方様だけですので、今回の件は助かりました。」
「そ、そうだぞ。フェネル、もう怒ってないか?」
「私は初めから怒っておりません。シリウス様の影響力はまだありますので、あまりバカなことは言わないでくださいな。」
「ああ、済まなかった。フェネルが傷付けられたかと思うと、頭に血が昇ってな。」
「義母上、私も反省しております。父上を諌められず、すみません。」
「はい、じゃあ、この件はお終いにしましょう。いつまでも引きずっては政務に影響します。僕は、離宮を整えてきますので、シリウス様は引き続きお仕事をしてください。離宮でお待ちしております。」
と、席を立ち、部屋から出た。
執事長に離宮に何人か掃除に回して欲しいと伝え、僕は王宮の間借りの部屋にある荷物を纏めると、離宮に戻った。
シリウス様が戻られる頃には、いつもの離宮の雰囲気に戻っていた。
「ああっ、やっ、…シリウス、様、…もう。」
シリウス様の上に座った状態で後ろから抱き込まれて下から突き上げられている。
陰茎はキツく握られて、射精もできない。
2回ほど達したあとは、ずっと握られていた。
「其方は、イきすぎると気を失うからな。今日は頑張って私に抱かれ続けなさい。」
「ダメ、ダメ、あっ、イかせて、ください。」
「ほら、こっちを向きなさい。」
後ろを向けば、シリウス様から、激しいキスをされる。
もう気持ち良すぎて、頭がボヤけてくる。
更に深く激しく突かれた時に、目の前が雷が走った感覚がして、真っ白になった。
「あっ、な、に?」
シリウス様の陰茎を締め付けながら、痙攣している。
「フェネル、中イキしたな。」
「中イキ?」
「射精しなくても、この中でイクことだ。」
と、お腹を撫でられる。
お腹を触られるとゾワゾワして、更にシリウス様のを締め付ける。
「だ、め、さわら、ない、…で。」
「フェネル気持ちいいか?」
「こ、…わい。」
「怖い?」
「ぼくじゃ、なくなる、あっ、かんじが、…する。」
涙をポロポロ溢し、顔を横に振りながら言う。
「大丈夫だ。フェネルはフェネルだ。私のフェネルだ。」
更に激しく突かれ続けて、ようやくシリウス様が達した。
ぐったりしている僕に口移しで水を飲ませる。
やっと寝れると思ったけど、ふにふにとお尻を揉まれる。
「シリウス様?まだするんですか?」
「ダメか?まだフェネルが足りない。」
「僕は十分満ち足りました。もう寝ましょう。」
「いや、まだ足りていないはずだ。さぁ、もう1回。」
「もう何度目ですか。僕は無理です。…あっ、本当、に、む、…り。」
と夜が白むまで寝かせてもらえなかった。
起きたら夕方だったのにはびっくりした。
その夜も動けない僕は美味しくいただかれたわけで、ベッドから出れたのは3日後だった。
あれからスラッドレイ公爵家から謝罪文が届いた。慰謝料とともに。
でも今回の件で徹底的に子息のみならず、家自体にも調査が入り、税の詐称や闇取引など色々発覚した後、公爵家は爵位返上、領地没収、成人は鉱山労働を命じられた。
加担していた家も同じ罰を受けることになった。
幸いなことに未成年はいなかった。
もらった慰謝料は、公爵領だった領民の為になることに使われることが決まった。
僕自身、給金も離縁の慰謝料も全然使っていないから、シリウス様と2人なら、一生暮らすくらいの蓄えはあった。
今の生活はシリウス様が全部負担してくれているけど。
今日もシリウス様と穏やかな時間を過ごしている。
お茶をいただいていると、
「最近市政でフェネルの人気が高まっていると聞いた。」
「はあ?なんですか、それは?僕、民の前に出たことはありませんよ?」
「食堂で啖呵を切った様を見ていた文官達から話が流れたようだ。」
「それは、…恥ずかしいです。忘れてもらいたいです。」
「フェネルの半生を芝居の演目にしたいと嘆願書もきているらしいぞ。」
「絶対許可しないでください!」
「するわけないだろ。フェネルのことは私だけ知っていればいいのだから。」
「…それもそれで恥ずかしいです。」
「フッ、今更何を言う。」
「シリウス様はいじわるです。」
「フェネルをいじめるのもなかすのも私だけだ。」
「だから、そういう恥ずかしいことは言わないでください!」
僕は顔を手で覆い隠す。
結婚してからは、シリウス様は日に甘さを伝えてきて、僕はいつまで経っても慣れなかった。
「相変わらずフェネルは可愛いな。」
と、僕の頭を撫でる。
僕は隣にいるシリウスさまの肩に頭を乗せる。
「シリウス様のバカ。」
「私にそんな口をきくのは、どの口だ?」
笑いながら僕の顎を持ち上げ、キスをしようとしてくる。
僕はそっと目を閉じた。
あとちょっとというところで声をかけられる。
「お取り込み中すみません。義母上、少しよろしいでしょうか?」
「よろしくない。帰れ!」
「父上は私の気配はわかってましたよね?」
陛下は空いている椅子に座る。
僕は見られたのが恥ずかしくて、シリウス様の肩に顔を隠した。
「何の用だ。」
「義母上なんですけど、一度お目に掛けたいという嘆願書が多く届けられまして。次の建国祭には是非出席を、と。」
「えっ、無理無理!あのバルコニーから手を振るんでしょ?無理です!」
「義母上、手を振るだけです。お願いします。」
「大勢の前に出るのは、ちょっと、気後れするよ。無理だよ。」
「だ、そうだ。諦めろ。」
「父上も出席ですよ?今回の氾濫の功労者ですから。まさか先陣をきっていたなんて、指揮官の仕事じゃないですよ。」
「私が出た方が早く終わる。」
「ロダン公爵夫妻も次々に倒したそうですけど、若者の出番はまだまだ先になりそうですね。」
「ふんっ、鍛練が足らん。」
「もうシリウス様はすぐにそういう。陛下、今お茶を淹れてきますね。」
と僕は席を立った。
「お前は何かと、フェネルに構うな?」
「ええ、父上が駄目だったら、私の側室に望むくらいは好いていますよ。」
「何?」
「きちんと王妃にも話はしてありますよ。王妃も反対はしませんでしたし。」
「ほお。」
「父上良かったですね。息子に盗られなくて。」
「…たまには訓練に付き合って貰おうか?」
「イヤですよ。私は父上ほど剣術は上手くありません!」
「鍛練だ、鍛練。」
「もう、また2人喧嘩しているんですか?」
「してない。ローレンスを鍛練に誘っていただけだ。」
「なら、お茶くらい飲んでからにしてください。はい、陛下。」
「ありがとうございます。」
離宮で穏やかな時間をシリウス様と過ごす。
時々誰か訪れ、賑やかな時間もある。
それが再婚して2年経った頃の僕の日常である。
シリウス様は、魔獣退治の指揮を執るため行くことが決まった。
陛下は王宮から離れられなく、王弟殿下は今、隣国に外渉に出向いている。
王族として軍経験もあるシリウス様が行くことになった。
そして、結婚して初めて離れて暮らすことになった。
警護が手薄になるため、離宮から王宮へと部屋を移した。
いつも隣にいるシリウス様がいなくて、そわそわと落ち着かない日々を過ごした。
王妃様も王弟殿下妃も、僕に気遣ってくれて、お茶に誘ってくれる。
孫達と一緒に遊んだりもするが、やっぱりどこか落ち着かない。
ぼーっとする日も増えて来た。
庭園を散歩して、疲れたので東屋で少し休む。
ぼーっと景色を観ていると、声をかけられた。
「義母上、大丈夫ですか?」
「…陛下。」
「隣に座ってもいいですか?」
「はい。」
陛下は隣に座る。
「もう、昔のように名前で呼んでもらえないのですね。」
「すみません。王宮にいる以上は誰が聞いているかわからなくて。」
「いえ、私の我儘です。…初めて会った日を覚えていらっしゃっいますか?」
「ええ、もちろん。シリウス様の釣果をもてなしていただきました。」
「あれは本当に美味しかったです。」
「シリウス様が王妃様や子供達の喜ぶ顔が観たいと仰せでしたので、上手く釣れて良かったです。」
「あの時、義母上は優しく微笑んでいました。私はその笑顔が少し哀しそうなものだと記憶しています。」
「…そうでしたか。」
「今であれば、色々知っているので理解はできます。あの頃は理解できず、母上に聞いたのです。『あの人はなんで哀しそうに笑うの』と。」
「…王妃様はなんて答えましたか?」
「母上は何も答えてくれませんでした。その代わり私に議題を出しました。『あなたが心から笑えるようにしてあげない。』って。私は間違った方向に捉えてしまって、イタズラをしたと、反対にフェネルさんから怒られてました。」
「あのイタズラの数々は、笑わせるためだったのですね。ふふっ。」
「笑いましたね。今だから話せる話です。時々しか来ないから、何をしていいかわからない結果、あのようになっただけです。」
「でも、びっくり箱は、本当に上手にできていました。」
「母上は面白がって観ていましたね。」
「ええ、王妃様も幼い頃はいたずらっ子のようでしたよ。『血は争えないわ』なんて言ってられましたから。」
「この庭園も一緒に散策をしましたね。」
「そうですね。陛下はすぐに駆け出して、捕まえるのが大変でした。」
「私はフェネルさんが来るのを楽しみにしていました。いっぱい叱って、いっぱい褒めてくれて。案外母上より母親らしかったかもしれません。」
「それは勿体無いお言葉です。」
「…私達は縁があって家族になりました。義母上。悩みがあるなら相談してください。父上に比べたら頼りになりませんが。」
「ありがとう。…そうですね。僕は何をしていいかわからないんです。従者をしていた時は忙しなく動き回っていましたし、結婚してからはシリウス様のお世話をしています。急に動かなくて良くなってしまったので、何をしていいかわからなくなってしまいました。根っからの貧乏性ですね。」
「つまり、時間の使い方がわからないということですね。」
「はい。今の立場上、動き回るのは難しいですから。」
「でしたら、少し政務を手伝っていただけませんか?今は各領地から税の報告書が上がっているのですが、計算をする係で人手が足りなくて。義母上、そのての書類は大丈夫でしょうか?」
「公爵家にいた時に何度かお手伝いをしたことがあります。」
「ならお願いしたいのですが?」
「はい、お手伝い程度でよければ。」
と、話が決まり、早速明日から始めることになった。
前陛下の奥方とわからないようにメガネをかけて、髪型を少し変えた。
名前もフェネルでなく、フィンと名乗った。
係のトップは僕のことを知っているが、他の方達には黙ってもらうことにした。
忙しいのに、気を遣わせるのが悪かったから。
「フィンさんが来てくれて、本当に助かります。」
昼休憩で共に食堂で食事をとる仲間にそう言われた。
「僕なんかでお役に立てていれば良かったです。」
「いやいや、私達より計算が早くて正確ですよ。」
「本当に有難いです。」
その時、食堂の一角が騒がしくなった。
「また、あいつらか。」
「あいつらって。」
「スラッドレイ公爵家の三男と取り巻き達です。公爵家だから誰も注意できなくて。」
「コネで文官になったって言われているけど、本当に仕事ができないらしいよ。」
「今は庶務課にいます。」
「なるほど。」
「フィンさんも目をつけられないように気をつけてくださいね。」
「わかりました。」
久々に嫌な家名を聞いたな、と思った。
経理課に書類を届けて、新たな書類もらった帰りに、スラッドレイ公爵子息達と遭遇した。
彼らは仕事をするわけでもなく、廊下で話をしていた。
とりあえずすれ違い様に軽く会釈をして通り過ぎようとしたが、声をかけられた。
「おい、待てよ。」
「何か御用でしょうか?」
「お前、見ない顔だな。所属はどこだ。」
「計算係でございます。」
「ああ、40過ぎの手伝いが入ったって聞いたが、お前か。」
「へぇ、40過ぎにしては、見えないじゃん。」
「ちょっと俺達と話そうぜ。」
と、腕を掴まれる。
「お離しください。仕事があります。」
「ちょっとだけだって。」
無理に引っ張られ、書類を落とす。
「ああ!」
思わず声をあげてしまった。
「何をしている!」
と、別の方向から声が聞こえる。
「ヤバっ!」
と言って彼らは走り去っていった。
僕はほっとして、散らばった書類を拾う。
声をかけてくれた方も手伝ってくれた。
「ありがとうございます。」
と、お礼を言い、改めて顔を見ると、
「…アルフォンス。」
「母上?」
と、奇妙な再会をしてしまった。
アルフォンスに今だけ計算係に手伝いに来ているので黙っていて欲しいと頼んだ。
アルフォンスは報告書の提出で登城したと言っていた。
もうすぐで結婚して、爵位を継ぐ話を聞いた。
『おめでとう』と伝えた。
少しはにかみながら、『ありがとうございます』と言ってくれた。
執務室まで、書類を運ぶのを手伝ってくれながら、そんな話をした。
次の約束はできないけど、アルフォンスの幸せそうな顔を見れて嬉しかった。
ある程度の税務の仕事の区切りがみえてきた頃、シリウス様と離れて1ヶ月は経っていた。
魔獣の氾濫も治まってきており、軍もそろそろと帰還すると聞いた。
やっとシリウス様に会えると思ったら、仕事も捗った。
昼休憩の食事の時に、
「フィンさん、最近前にも増して仕事が早いねぇ。」
と、言われた。
「夫がもうすぐ帰って来れそうと聞いて。」
「ああ、旦那さんは騎士なのかな。」
「死者も出ていないって聞いたから、みんな無事に戻って来られそうで良かったです。」
「氾濫で死者無しってすごいよね。」
「前陛下の指揮が良かったんだろう。」
「退位後も軍の顧問役を望まれていたけど、断られたって騎士から聞いたことがある。」
「そうなんですか?」
「ああ、なんでも、後添えになられた奥方と離れたくないって聞いたよ。」
「話は聞いたことあるけど、ものすごい美人だって。」
「あまり表に出ない方だから顔を知る人は少ないけどね。」
「そう、なんですね。」
顔をあまり知られていないけど、結構な噂になっていたことは知らなかった。
なんかこんな顔ですみませんと謝りたくなった。
「フィンさんは今週いっぱいで終わりだっけ?」
「あ、そうです。」
「寂しくなるなぁ。」
「フィンさん、インクや用紙の補充とかも先回りしてやってくれていたから、本当に助かっていたんだよ。」
「そんなことはないですよ。」
「もう、正式に文官にならない?」
「上司に掛け合うよ。」
「いえ、皆さんのお気持ちだけいただいておきます。夫がいない間だけのお手伝いの約束なので。」
「そうか、残念。」
「本当に寂しくなるなぁ。」
後ろから声をかけられる。
「なんだお前、結婚していたのか。」
スラッドレイ公爵子息達だった。
「貴方方には、関係ないでしょ。」
「お前、口のききかたには気をつけろ!」
「何故です。同じ文官でここは職場です。身分は関係ないはずです。」
「なんだと!」
「第一、貴方方は何をしに王宮に来ているのですか。仕事もせず、ふらふらしてばかりで。この食事も給金も民の血税です。銅貨1枚たりとて無駄にしてはいけないものです!」
聞いていた周りは、僕に拍手をくれた。
「わ、私に恥をかかせるな!」
と、殴られそうになり、目を瞑り、歯を食いしばった。
ガッ!!
音はしたけど、衝撃も痛みもない。
目を開けると大きな背中が見える。
顔を見れば、アルフォンスだった。
「アルフォンス!」
「怪我はありませんか?」
「アルフォンスが怪我している!」
「鍛えていますので、これくらいは大丈夫です。」
「口から血が。」
ハンカチを取り出して口元を拭う。
「貴方に怪我がなくて良かった。」
「全然良くないよ。」
「ク、クレスト侯爵子息。何故貴様がそいつを庇う!」
「庇っていけない方はない。」
「ああ、もしかして、子息の情人か?顔だけは綺麗だからな。」
くだらないことを言い出した。
アルフォンスも呆れている。
「アルフォンス、医務室に行こう。冷やさないと腫れるよ。」
「そんな泣きそうな顔をしないでください。本当に大丈夫です。」
「おい!聞いているのか!」
とスラッドレイ公爵子息は喚き出した。
「なんの騒ぎだ!」
と、食堂に陛下が入ってきた。
「何があった。誰か状況を話せ!」
「陛下、私がスラッドレイ公爵子息に殴られそうになったところをアルフォンスに庇ってもらい、このような騒ぎになりました。」
一歩前に出て、私が自ら話した。
「貴方に怪我はないですか!」
慌てたように、メガネを取られ、私の顔を触る。
「私はございません。アルフォンスに庇われたと申し上げました。陛下、大丈夫ですから、手をお離しください。」
陛下が私の身を案じた姿を見て、周りは騒然となった。
「クレスト侯爵子息、感謝する。誰か医務室にお連れしろ。スラッドレイ公爵子息、王宮内の私闘は禁止されている。よって3ヶ月の謹慎と減俸を申し付ける。これより調査の如何により更に罰があると思われよ。」
「陛下、何故ですか!何故そんな騎士の妻の言うことを信じるのですか!」
「私の妻だからだ。」
シリウス様の声がした。
「「「前陛下!」」」
「シリウス様!」
私はシリウス様に駆け寄った。
シリウス様は僕を愛しいという目で見つめながら、頬を撫でる。
「全く此奴に迎えに行かせても戻って来ないから、私から出向いてみたら、この騒ぎだ。」
「すみません。」
「フェネルが謝ることではない。手伝いをしていたと聞いた。」
「はい。シリウス様がいないので暇を持て余していたところ、陛下よりお話をいただきましてお手伝いさせていただきました。」
「そうか。楽しかったか。」
「はい!久しぶりの書類仕事は楽しかったです。周りの方達も優しい方達ばかりでした。」
「それで、フェネルは今殴られそうになったと申したな。」
「シリウス様?」
「おい。」
「はっ、父上。今処分を申し付けたところです。」
「手緩い。」
「は?」
「手緩いと言った。知らぬとは言え、王族に手をあげた。理由は十分だろ。」
「しかし、それ以上は。」
「公爵家の教育は相変わらずだな。この際、」
「シリウス様!ダメです!現陛下はローレンス様です。前陛下と言えども越権行為です。ローレンス様も、父上だからと何でも言うことは聞いてはいけません。きちんとダメならダメと言ってください!」
「…わかった。」
「はい、義母上。」
「僕はアルフォンスを医務室に連れて行きます。陛下とシリウス様はこの後の対処をお願いします。さあ、アルフォンス、行きましょう。」
と、アルフォンスを医務室に連れて行った。
廊下を歩いていると、アルフォンスはくつくつ笑い出した。
「どうしたんですか?」
「いえ、母上はすごいなと思いまして。陛下にも前陛下にもちゃんと苦言を呈することができて。」
「長い付き合いですから。王妃様がいらっしゃれば、同じことを言ったと思いますよ。…アルフォンスにしたかったことを代わりにしていただけかもしれません。」
「それだけでは、人は言うことは聞きません。母上は誰も私の代わりにはしていませんよ。」
「…だといいです。アルフォンス、庇ってくれてありがとう。」
「母親を守るのは当然です。」
「それでも、」
「母上、私は捨てられたとは思っていません。」
「アルフォンス。」
「一緒に過ごした記憶はありませんが、大切に抱きしめられた感覚は覚えています。父上から話を聞きました。離れた時は母は追いつめられていて、とても私を育てる状況じゃなかった、と。」
「……。」
「母上、だから、私は捨てられたとは思いません。それに父を恨んだこともありません。母上の選択は最善だったのです。」
「…ありがとう、アルフォンス。」
「多分、もうお会いすることはないと思います。今回の件で前陛下は母上を離宮から出さないでしょう。」
「そうですね。世代交代もしたのにしゃしゃり出ては、老害とも言われますね。」
「んー。ちょっと違いますが、まあそうことにしておきましょう。たまに手紙を出してもよろしいですか?」
「はい。僕も返します。」
「私達はこのくらいの距離でいいと思います。」
「そうですね。アルフォンスは侯爵様に似ていらっしゃるから、思い出してしまいますね。」
「それでも、私を愛してくれてありがとうございます。」
「私の元に産まれてきてくれてありがとう。」
「はい、送っていただきありがとうございます。」
「しっかり診てもらってください。」
アルフォンスは頷くと、医務室に入っていった。
計算係に戻り、仕事半ばだが夫が帰ってきたので辞めなくていけない話をしようとしたら、
「フィンさんが前陛下の奥方だったんですね!」
「食堂ではカッコよかったです!」
「本当に!『血税を銅貨1枚も無駄にするな!』は効きました。」
「なんだか、お恥ずかしいです。…皆さんすみません、夫が戻って参りましたので、辞めなくてはいけません。仕事半ばですが。」
「フィンさんがいたおかげで今年は進みが早いくらいです。」
「暇な時にまたお手伝いに来てください。」
「戻られたら、前陛下達を慰めてあげてくださいね。叱られたってしょんぼりしてましたよ。」
「はぁ、もう、やってしまいました。」
僕は額に手を当てた。
臣下の前で2人の情けない姿を見せてしまったことを反省した。
係の部屋を出た後は、陛下の執務室に向かう。
執務室の前にいた兵が僕の訪れを告げてくれ、中に入る。
2人は、本当にしょんぼりとしてソファに座っていた。
陛下の隣に宰相が座っていたので、シリウス様の隣に座る。
「シリウス様、陛下、臣下の前で叱責をしてしまいまして、申し訳ございません。」
僕は頭を下げて謝った。
シリウス様も陛下もオロオロした。
「違いますよ、奥方様。陛下達は奥方様が怒っているんじゃないかと案じているだけですよ。寧ろこの御二方をお止めできるのは、奥方様だけですので、今回の件は助かりました。」
「そ、そうだぞ。フェネル、もう怒ってないか?」
「私は初めから怒っておりません。シリウス様の影響力はまだありますので、あまりバカなことは言わないでくださいな。」
「ああ、済まなかった。フェネルが傷付けられたかと思うと、頭に血が昇ってな。」
「義母上、私も反省しております。父上を諌められず、すみません。」
「はい、じゃあ、この件はお終いにしましょう。いつまでも引きずっては政務に影響します。僕は、離宮を整えてきますので、シリウス様は引き続きお仕事をしてください。離宮でお待ちしております。」
と、席を立ち、部屋から出た。
執事長に離宮に何人か掃除に回して欲しいと伝え、僕は王宮の間借りの部屋にある荷物を纏めると、離宮に戻った。
シリウス様が戻られる頃には、いつもの離宮の雰囲気に戻っていた。
「ああっ、やっ、…シリウス、様、…もう。」
シリウス様の上に座った状態で後ろから抱き込まれて下から突き上げられている。
陰茎はキツく握られて、射精もできない。
2回ほど達したあとは、ずっと握られていた。
「其方は、イきすぎると気を失うからな。今日は頑張って私に抱かれ続けなさい。」
「ダメ、ダメ、あっ、イかせて、ください。」
「ほら、こっちを向きなさい。」
後ろを向けば、シリウス様から、激しいキスをされる。
もう気持ち良すぎて、頭がボヤけてくる。
更に深く激しく突かれた時に、目の前が雷が走った感覚がして、真っ白になった。
「あっ、な、に?」
シリウス様の陰茎を締め付けながら、痙攣している。
「フェネル、中イキしたな。」
「中イキ?」
「射精しなくても、この中でイクことだ。」
と、お腹を撫でられる。
お腹を触られるとゾワゾワして、更にシリウス様のを締め付ける。
「だ、め、さわら、ない、…で。」
「フェネル気持ちいいか?」
「こ、…わい。」
「怖い?」
「ぼくじゃ、なくなる、あっ、かんじが、…する。」
涙をポロポロ溢し、顔を横に振りながら言う。
「大丈夫だ。フェネルはフェネルだ。私のフェネルだ。」
更に激しく突かれ続けて、ようやくシリウス様が達した。
ぐったりしている僕に口移しで水を飲ませる。
やっと寝れると思ったけど、ふにふにとお尻を揉まれる。
「シリウス様?まだするんですか?」
「ダメか?まだフェネルが足りない。」
「僕は十分満ち足りました。もう寝ましょう。」
「いや、まだ足りていないはずだ。さぁ、もう1回。」
「もう何度目ですか。僕は無理です。…あっ、本当、に、む、…り。」
と夜が白むまで寝かせてもらえなかった。
起きたら夕方だったのにはびっくりした。
その夜も動けない僕は美味しくいただかれたわけで、ベッドから出れたのは3日後だった。
あれからスラッドレイ公爵家から謝罪文が届いた。慰謝料とともに。
でも今回の件で徹底的に子息のみならず、家自体にも調査が入り、税の詐称や闇取引など色々発覚した後、公爵家は爵位返上、領地没収、成人は鉱山労働を命じられた。
加担していた家も同じ罰を受けることになった。
幸いなことに未成年はいなかった。
もらった慰謝料は、公爵領だった領民の為になることに使われることが決まった。
僕自身、給金も離縁の慰謝料も全然使っていないから、シリウス様と2人なら、一生暮らすくらいの蓄えはあった。
今の生活はシリウス様が全部負担してくれているけど。
今日もシリウス様と穏やかな時間を過ごしている。
お茶をいただいていると、
「最近市政でフェネルの人気が高まっていると聞いた。」
「はあ?なんですか、それは?僕、民の前に出たことはありませんよ?」
「食堂で啖呵を切った様を見ていた文官達から話が流れたようだ。」
「それは、…恥ずかしいです。忘れてもらいたいです。」
「フェネルの半生を芝居の演目にしたいと嘆願書もきているらしいぞ。」
「絶対許可しないでください!」
「するわけないだろ。フェネルのことは私だけ知っていればいいのだから。」
「…それもそれで恥ずかしいです。」
「フッ、今更何を言う。」
「シリウス様はいじわるです。」
「フェネルをいじめるのもなかすのも私だけだ。」
「だから、そういう恥ずかしいことは言わないでください!」
僕は顔を手で覆い隠す。
結婚してからは、シリウス様は日に甘さを伝えてきて、僕はいつまで経っても慣れなかった。
「相変わらずフェネルは可愛いな。」
と、僕の頭を撫でる。
僕は隣にいるシリウスさまの肩に頭を乗せる。
「シリウス様のバカ。」
「私にそんな口をきくのは、どの口だ?」
笑いながら僕の顎を持ち上げ、キスをしようとしてくる。
僕はそっと目を閉じた。
あとちょっとというところで声をかけられる。
「お取り込み中すみません。義母上、少しよろしいでしょうか?」
「よろしくない。帰れ!」
「父上は私の気配はわかってましたよね?」
陛下は空いている椅子に座る。
僕は見られたのが恥ずかしくて、シリウス様の肩に顔を隠した。
「何の用だ。」
「義母上なんですけど、一度お目に掛けたいという嘆願書が多く届けられまして。次の建国祭には是非出席を、と。」
「えっ、無理無理!あのバルコニーから手を振るんでしょ?無理です!」
「義母上、手を振るだけです。お願いします。」
「大勢の前に出るのは、ちょっと、気後れするよ。無理だよ。」
「だ、そうだ。諦めろ。」
「父上も出席ですよ?今回の氾濫の功労者ですから。まさか先陣をきっていたなんて、指揮官の仕事じゃないですよ。」
「私が出た方が早く終わる。」
「ロダン公爵夫妻も次々に倒したそうですけど、若者の出番はまだまだ先になりそうですね。」
「ふんっ、鍛練が足らん。」
「もうシリウス様はすぐにそういう。陛下、今お茶を淹れてきますね。」
と僕は席を立った。
「お前は何かと、フェネルに構うな?」
「ええ、父上が駄目だったら、私の側室に望むくらいは好いていますよ。」
「何?」
「きちんと王妃にも話はしてありますよ。王妃も反対はしませんでしたし。」
「ほお。」
「父上良かったですね。息子に盗られなくて。」
「…たまには訓練に付き合って貰おうか?」
「イヤですよ。私は父上ほど剣術は上手くありません!」
「鍛練だ、鍛練。」
「もう、また2人喧嘩しているんですか?」
「してない。ローレンスを鍛練に誘っていただけだ。」
「なら、お茶くらい飲んでからにしてください。はい、陛下。」
「ありがとうございます。」
離宮で穏やかな時間をシリウス様と過ごす。
時々誰か訪れ、賑やかな時間もある。
それが再婚して2年経った頃の僕の日常である。
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