【完結】陸離たる新緑のなかで

ゆい

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番外編1

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小さな頃から時々、こことは全く違う世界の夢を見ていた。
『僕』の家族は、ばあちゃんだけだった。
保育園に通って、小学校に通う。
本当に小さい頃から、色んなことを学ぶ。
友達と鬼ごっこをしたり、ひらがなや足し算引き算を習って、買い物をしたり、僕ではできない体験をしていた。
『僕』は、何にでも一生懸命だった。
かけっこも、テストも。
家に帰れば、ばあちゃんのお手伝いをして、夕食を食べ、宿題をして、終わればテレビを観て笑う。
この世界では、普通の日常らしいけど、僕は楽しかった。
特に、機械っていうのが凄かった。
テレビも車もそうだけど、蛇口を捻れば水は出てきて、ガス台は取手を回せば火がつく。
暗くなればスイッチを押せば明るくなる。
どんな仕組みなのかわからなかったけど、僕はワクワクした。

ばあちゃんは『女』だった。
『女』は胸が出ていて、股に大事なものがついていなかった。
一緒にお風呂に入った時にばあちゃんに詩音は聞いたことがあった。
『ばあちゃんは何でちんこついてないの?』
『ばあちゃん、女だから、ちんこいらないんだよ。』
『ふ~ん。』
いやいや、詩音わかったのか?
僕はわからなかった。
学校の保健体育の授業でわかった。
この世界は、男と女がいるって。
僕の世界は、男しかいなかった。
当たり前が当たり前でなくなった。

僕は日中は色々な本を読むようになった。
この世界に女性がいない理由を知りたくなった。
けれど、どの本も、どの文献にも書いていなかった。
教会にも行った。
司祭様にこの世界の成り立ちの話を聞いてみた。
でも満足のする答えは返ってこなかった。
《神様が作った世界》で、済まそうとしたから、教会にある本を片っ端から読み漁った。
でも、どれも《神様が作った世界》だった。

この時僕は5歳。
おかしな子供だったよね。
両親はさぞ困っていたと思う。
三男だからと猫かわいがりした結果、ワガママに育ったと言うわけでもなく、ただ、字は読めるし、本を読み漁るし、質問は大人もわからないようなことばかりだもん。


詩音は、僕より年上だったが、性格が素直なのか、あまり物事を考えないので、人に言われたら言われるがまま行動することが多かった。
僕はその度に、ダメだ!と叫んでみるけど、止められたことは1度もなかった。
友達と思っていたのに、仲間外れにされたり、嘘をつかれて移動教室に遅れて行き、先生に怒られたり。
『何故、詩音は、害意がわからないのだろうか?』と思い、観察をしてみる。
クラスメイトに掃除当番だとかで、用事や塾があるから言われれば、すぐに代わったあげた。
性質的にお人好しなんだろう、と思った。
でも、よくよく観察してみると違った。
自分が我慢さえすれば、丸く納まるって思っていた。
陰口で『母親に捨てられた。』『父親は誰かわからない。』と言われて、バカにされ続けていた。
ばあちゃんに迷惑かけない為にも、争わず、逆らわないことが、詩音の生きる術だったと知った。
僕は両親がいて、兄がいて、貴族で生活に困ることはなかった。
欲しいものも読みたい本も、両親に言えば用意がしてもらえた。
僕の当たり前は、詩音にとっては当たり前でなかった。
話に聞く社交界よりも、詩音の現実の方が厳しそうだった。




7歳を迎えた年に、王宮より招待状が届いた。
学園に入る前の交流も兼ねて、陛下からお祝いの言葉をいただく催しがある。
母様から何遍も『あまりしゃべってはいけないよ!友達ができないわよ?!』って言われていたので、大勢の中では微笑むくらいに留めておいた。
その内1人がロダン公爵子息達の話を言い出した。
彼はどうやら、酷いイタズラに合わされたらしい。
話を聞いていたら、そりゃ言いたくなるわって思った。
でも、何故か悪口に発展していった。
太っているとか、食べ方が汚いとか。
子供の言う悪口はまだ可愛いなぁなんて思いつつ、そろそろと柱に隠れていて、今にも飛び出してきそうな子達を見つけた。
僕も段々と聞いているのも苦痛になっていたので、

「悪口を言えるだけ君達は立派なの?」

って、彼らに聞いてみた。

「誰かを困らせるようなイタズラはしたことはないの?」

「嫌いな食べ物も残さずに食べれる?」

彼らは黙ってしまった。
心当たりがあって、言い返せなかったみたいだった。
ばあちゃんが『顔の良し悪しや体型から判断してはいけないよ』ってよく言っている。
でもねばあちゃん、第一印象の顔や体型で判断することは、割に当たっているらしくて、覆らせるのがなかなか難しいらしいってテレビで聞いた気がする。
でも、詩音を通して観ていて絶対許せなかったのは、顔の悪口だ。
顔は、両親、両親の親とか親族の誰かに似て生まれてくる。
両親に望まれて生まれたんだから、顔の悪口だけは絶対許せなかった。

「容姿だけの悪口はダメだよ。顔や身体は、親からもらった大事なものなんだから。他人がとやかく言うことではないよ。でも行動で悪口を言うなら、…それは仕方ない。その人が悪いんだから、悪口を言うのは止めないよ。」

と、僕はそれだけを言って立ち去る。
『母様ごめん。僕友達いらないわ。』ってなんて考えながら。
柱に隠れている子達と目があった。
とりあえず、にこっと笑っておく。
『そんな太るくらい偏食ができるなら、詩音に分けてやりたいわ』なんて思いながら。
そんな彼らから、婚約の申し込みが来た。
速攻お断りしましたが。




翌年には、学園に入学した。8~14歳までが初等科、15~17歳までが高等科に分かれている。
実は、本を読み漁っていたおかげかあまり勉強をしなくても成績は良かった。
ちなみに数学は詩音のおかげで、助かっている。
数学は12歳からで小学校に習った足し算引き算を始める。
掛け算割り算は14歳になってから。
僕、7歳の時に覚えましたが?

学園に入ってから、詩音の夢を見ることはめっきりと減った。
10歳の時に、久しぶりに観るなぁっと思っていたら、詩音は高校生になっていた。
家にばあちゃんはいなかった。
日中は学校で勉強をして、夜はアルバイトをして稼いでいた。
家に寝に帰る以外は、ずっと動き回っていた。
目が覚めた時、僕は泣いていた。
ばあちゃんを想って、詩音を想って。
朝起こしにきた使用人に見られ、案の定家の中は大騒ぎになった。
小さい頃から泣きもしない、大人を口で言い負かす僕が泣いているからだ。
こんなことで大騒ぎしている家族を見たら、なんだか笑えて、泣けてきた。
詩音を想って、また泣いてしまった。
目を腫らした僕は、その日初めて学園を休んだ。

翌日登校したら、何人かが急に休んだので心配したと言ってくれた。
『ありがとう。』と、僕は答えた。
その何人かの中には、公爵家の双子もいた。
『クラス違うのに、なぜ休んだの知っているの?こわっ!』と思った僕は悪くないと思う。
詩音の世界の言葉で言えば、ストーカー行為じゃない?














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