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季節も冬になり、肌寒い日々が続いている。
冷えると傷痕に痛み出す。
家族は心配して、暖かい部屋で過ごすように、と言われた。
中庭はもちろん、書庫などにも行けなくなってしまい、ネリにあれこれ頼んしまう。
ネリには本当に申し訳ない。

相変わらずアベルとカインは私に会いにやってくる。

「寒いから、無理をして来なくてもいいよ?」

「「やだ。」」

「毎週の楽しみが減る。」

「学園で会えないから、来るだけだから。」

「そんなこと言われても、学園で私とはあまり話さなかったって聞いたけど。」

「…覚えていないけど、シオンは、あまり人とは関わらなかったよ。なんて言うか、こう、一線を踏み越えてはいけない雰囲気を出していて。」

「そうそう。みんなに同じ対応をしていた。身分で擦り寄ってきたり、見下したりはしなかった。」

「だから、裏では人気があったんだよ。シオンは、『孤高の白百合』なんて呼ばれていたんだから。」

「ナニソレ、恥ずかしい二つ名。」

思いっきりイヤな顔をした。

「ローダンゼン家に来るようになって、色んな表情のシオンが観れて、嬉しいんだ。」

「私も。感情豊かなシオンがかわいい。」

「はいはい。って言うか、何故私なの?他にもっと可愛い人っていると思うんだけど。」

「7歳の時にお城で会ったことも覚えてない?」

「覚えてないよ。何かあったの?」

「7歳になる年代の貴族の子息を陛下がお城に招待してくれて、お祝いの言葉をいただくんだ。その時に出逢ったんだよ。」

「でも、公爵家と伯爵家では身分差があって、私からは話しかけなかったと思うし、家の繋がりもないから、話さなかったハズだよ?」

「それがさ、私達はあの頃は我儘し放題で、好きな物しか食べなかったから、太っていたんだ。」

「親は気にも掛けてくれないから、本当にやんちゃし放題だった。今思い返すだけでも恥ずかしい。」

「でも、他の子達はそんな私達を表では持て囃して、陰に隠れて悪口言いたい放題だった。」

「たまたまそれを聞いてしまって、飛び出て行こうっていう時にシオンが『悪口を言えるだけ君達は立派なの?』って彼らに聞いてきたんだ。」

「『誰かを困らせるようなイタズラはしたことはないの?』『嫌いな食べ物も残さずに食べれる?』って。」

「彼らは黙ってしまったよ。心当たりがあって、言い返せなかったみたいだった。」

「『容姿だけの悪口はダメだよ。顔や身体は、親からもらった大事なものなんだから。他人がとやかく言うことではないよ。でも行動で悪口を言うなら、…それは仕方ない。その人が悪いんだから、悪口を言うのは止めないよ。』って言って去って行ったんだ。」

「行動が悪いから、悪口は止めないって、私達は胸に刺さったね。」

「本当に。他の子達や使用人達を困らせていたからね。」

「でもさ、シオンの言葉で私達は変わろうと思えたんだ。」

「悪口言われないくらいになりたいって。」

「だから、その時から私達の嫁はシオンだけしか考えてこなかったよ。」

「…ねぇ、恋愛要素ゼロなんだけど、その話。どこに惚れ要素あったの?」

「それは、「私達の秘密だよ。」」

「えーっ!なんか怖い!」

そんな話を聞いて、出会いはわかった。
でも、どこに惚れたかが謎のままになった。
それにしても、シオンは幼い頃から弁が立つ子だったみたいだ。
後で母様に聞いてみよう。



その場から立ち去って行くシオンと目が合い、ニコッと2人に微笑んだ。
まるでもう誰も悪口は言わないよ、とばかりに。
その笑顔に、アベルとカインは惚れてしまったらしい。
その話を聞くのは、だいぶ後になってからだった。




「母様聞いてください!」

夕食後のお茶で、母様に今日聞いた話をした。

「シオンは幼い頃から、弁が立つ子だったのですか?」

父様とラナン兄様は明後日の方向に視線を逸らした。
母様は溜息をついた。

「そうなのよ。大人顔負けに理路整然と話すの。だから、外では極力話さないようにさせていたの。人によっては、悪い方に受け取る人もいるでしょ?」

「そうなんですね。私もそうします。私はまだまだ貴族に慣れていないので、話せば平民丸出しです。」

「シオンは、言葉遣いは丁寧だけど、時々ボロが出るから、気をつけるに越したことはないわね。」

「シオンは学校でも言葉遣いを習ったのかい?」

と、ラナン兄様が聞いてきた。

「就職活動の面接練習の時に実践でよく使う敬語を習いました。その後は、就職のマナーの本を読んで、敬語を覚えたくらいです。」

「就職のためか。だからちょっと硬さがある話し方なのかな?」

「硬い、ですか?でも、普段から、こういう話し方でないと、たまに『俺』って言いそうになりますし、楽な話し方になってしまいます。」

「なら、父様達といっぱいおしゃべりをして、慣れていこうか。」

「はい!おしゃべりは嬉しいです。あっ、でも、アベルとカインは、詩音のままで話している時が多いです。友達と話しているからかな?」

「そうか、…家の中だけにしてくれ。外では気をつけるように。」

「わかりました。」

「さぁ、他に何の話をしたか母様に聞かせてちょうだい。」

と、母様にねだられたら、答えないわけにもいかないので、今日の出来事をほぼ話した。
シオンが一線を引いていた理由もわかった。
今日はシオンの一面を知ることができて良かった。






本格的に寒い日々のある日、父様から、

「シオンに、ロダン公爵家から婚約の申し込みがきたけど、どうする?」

「…どうしましょう?」

「私は受け入れても良いと思っている。最近のシオンは、2人を心待ちにしているようだし、楽しそうに彼らの話をする。何より彼らもシオンを大事にしてくれているのがわかる。」

「…私は自分の気持ちがよくわかりません。友愛なのか、恋愛なのかがわからないんです。」

「そうか。」

「父様、少し時間が欲しいです。自分の気持ちに向き合いたいです。」

「わかった。ただ覚えておいておくれ。相談できる家族がいることを。」

「はい、悩んでも答えがでなかったら、相談します。」

父様と話し終わり、部屋を出て、そのまま中庭に行く。
石碑の前にしゃがみこみ、石碑に話しかける。

「シオン、どうしたらいい?前の世界みたいにとりあえず付き合ってダメなら別れるなんて、簡単なことじゃないよね。」

女子に人気のある友達がいたが、告白されたら付き合って、イヤになったら別れてを、繰り返していた。
いつだったか『束縛がキツくて』って話をしてくれた。
『同じ気持ちを返さないといけないのも辛い。俺だって、俺のしたいことがあるのに。』と。
恋人ができるのは、必ずしも良いことばかりでないと。

「シオン、私は彼らが好きだと思うよ。でも、それは同じ感情でないかもしれない。婚約したら、結婚もしなくちゃいけないよね。一生を共にするんだ。だから、怖いのかもしれない。」

母親みたいに浮気ばかりするなんてことはないだろうけど、反対に浮気されたら、私はやっぱりって受け入れてしまいそうだから。
自分が辛くても、我慢しそうだった。

でも彼らの隣に並び立つのは、俺以外って考えたら、胸が痛くなった。
あの優しい笑顔、スマートなエスコートは、俺以外にしてもらいたくない。
そう思っただけで、気持ちが決まった。
婚約を受け入れよう、って。



「シオン様。こちらでしたか。」

「ネリ。」

「アベル様とカイン様がお見えになっています。寒いので屋敷に戻りましょう。」

「うん。」

しゃがみこんでいた私に手を貸してくれて立たせてくれた。
立った瞬間、背中に痛みが走った。

「っっいっ!!」

「シオン様?」

「せ、せな、か、…いっ!」

立っていられなくて、ネリに倒れかける。

「シオン様、失礼します。」

ネリは私を横抱きして、走って屋敷に戻った。
近くにいた使用人に父様に連絡をしてもらい、私は自室へと運ばれた。

医者に来てもらい、診察を受けた。
冷えによって、まだ修復がしきれていない神経が痛み出したみたいだ。
患部を温めて安静にするしかなかった。
今後も冷えで起こるかもしれないから、無理のないようとも言われた。
その後は父様と母様に話があると、3人は部屋を出て行った。
部屋にアベルとカインが残っていた。

「ごめんね。折角来てもらったのに。」

「気にするな。」

「来週もまた来るから。」

2人は私の頭を撫でて帰って行った。
撫でられた頭が少し熱かった。





医者から話を聞き終えた父様から話があった。

「シオン、辛い話になるけど聞いてくれ。背中の神経の損傷が思っていたより酷くて、段々と歩けなくなるらしい。ここのところ、歩くにもやっとだったから、冬のせいにしていたが、違ったようだ。しかも傷の後遺症で、魔力の回路も損傷をしているから、このままだと、魔法も使えないままだ。」

「…もう、一生?」

魔法の練習をしたことがなかったから、わからなかった。
長時間外で立っていられないから。

「いや、隣国の方が医療が進んでいるから、療養に行かないかと言われた。」

「でも、…お金がかかるでしょ?」

「それは大丈夫だ。学園から慰謝料をもらってあるし、何より父様はシオンの為ならいくらでも工面する。」

「でも……。」

「ネリもつけるし、父様達も時々会いに行く。心配はない。隣国には、ラナンの婚約者もいるから、力になってくれる。」

「……うん。」

「大丈夫だ。また普通に歩けるようになるし、なんなら、走れるようになるよ。」

「うん。」

「それと、公爵家にはきちんと話をしておく。アベル様とカイン様が好きなんだろ?彼らなら、シオンを待っていてくれるよ。」

「うん。私、彼らが好き。気持ちの整理がついた。」

「そうか。戻ってきても、すぐに嫁に行かれるのは淋しいな。」

「すぐに嫁には行かないよ?父様達大好きだもん。」

「そうか。それは嬉しいな。」

「2人には私から話すよ。きちんと元に戻ってから、お嫁に行くって。」

「そうだな。それに魔力がなければ、子供もできないから、治ってからだな。」

「そうなの?子供は魔力がないとできないの?」

「まだ、そこまでは教えてなかったな。それは帰ってきてからだな。今は身体を治すことに専念してほしい。」

「はい。父様、色々とありがとう。我儘言ったね。」

「こんなのは、我儘の内に入らん。シオンは私達の可愛い子だ。助けるのは当たり前だ。」

「うっ、とう、さ、ま、あ、…りが、とう。」

「本当にシオンは涙脆いな。傷痕に障るから、早く泣きやめ。」

父様は宥めるように、頭を撫でてくれた。
母様は、医者からの話で、私の悲しい顔を見れないって、父様に託したらしい。
父様から母様と兄達に話を伝えるって言ってくれた。



翌日、アベルとカインはお見舞いに来てくれた。
ベッドから出れない私は、今日は身体を起こしても痛みはなかったので、起きていた。

昨日の内に、父様は公爵家に返事の手紙を送ったようだ。
アベルとカインに隣国に療養に行くこと、2人が好きだから、身体をきちんと治してから、婚約をして欲しいと伝えた。
2人は、私からの『好き』と言う初めての言葉を聞いて喜んでくれた。

「私は、シオンを待つよ。カインは?」

「私も待つ。結婚はシオン以外考えられないよ。」

「ありがとう。…でも、前の私と同じじゃないんだよ。性格が全く違うし。」

「性格が違うのはわかっているよ。これだけ一緒に過ごしているんだから。」

「記憶喪失って言っても、めちゃくちゃ性格が悪くなったとかじゃないし。ただ前より刺々しさがなくなった。」

「ぽやぽやしているところがある。」

「前より庇護欲が唆られる。」

「…それって大人に言うセリフじゃないよ。」

「まぁ、前より可愛くなった。」

「本質的なところは変わっていないんじゃない?従者にも感謝の言葉は言うし。」

「貴族ならしてもらって当たり前だから、言わない方が多いけど、シオンは変わらずに言うね。」

「人として当たり前だと思うけど?」

「そうだね。ローダンゼン家の人達は普通に言っているね。」

「この家で育ったシオンだから、いいんだよね。」

「ありがとう。家族が褒められて嬉しい。」

「「シオンが可愛い。」」

「そうそう、来週には出発するから。」

「そんなに早いのか?」

「うん。早めに治療に取り掛かった方がいいって。準備もあるから、来週には行けるって、言われた。」

「シオン、手紙を書くよ。」

「字はまだ汚いけど、私も書くね。」

「私達を忘れないでね。」

「忘れないよ。3人で並んで歩きたいんだ。支えてもらって歩くんじゃなくて、一緒に歩きたいんだ。だから、きちんと治してくるね。」

「シオン、…約束が欲しい。」

「約束?」

「私達の元に戻ってくる約束の証が欲しい。」

「どんなの?」

「シオンとキスしたい。」

「えっ!」

「だめ?」

「うっ、……いいよ。」

アベルがベッドに乗り上がり、私の両頬がアベルの両手で覆ったら、アベルの顔が近づいてきた。
わたしは自然と目を閉じた。
唇が重なって、何度も角度を変えて吸われる。
離れた時は、ちょっと息が上がっていた。

「次は私だね。」

カインは、アベルとは反対側に既に座っていた。
カインは、私の顎を持ち上げ、キスをしてきた。
角度を変えていると、舌を入れてきそうになったので、私はビックリして、パッと離れた。

「カイン、それはまだダメ!」

「何?どうしたの?」

「舌を入れようとしたら、拒まれた。」

「まだ私もしていないぞ!」

「だから、しようとしたの!」

「…あまり、シオンに負担をかけるなよ。」

「あ、そっか。シオン、ごめん。」

「…初めてキスしたんだから、まだソレは無理だよ。」

恥ずかしくて、手で顔を隠す。
2人はよしよしと頭を撫でてくる。
どこか子供扱いされているようだ。
そんなやり取りも当分できなくなる。

「…アベル、カイン、お願いがあるんだ。わ、私を抱きしめてほしいんだ。2人の温もりを感じたい。」

2人は何も言わずに両側から優しく抱きしめてくれた。
温かくて、心地良かった。
『ここが私の帰る場所になるんだね。』って呟いたら、2人して両頬にキスをくれた。

























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