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中編
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「ごめんよ、わたしは子供が欲しかったんだ。君は子供ができないから・・・・・・このようなことになって残念だよ」
(まるで私が子供が産めない身体のように言うのね? 結婚してから子供ができる行為をしたのはほんの数回よ。それなのに、あなたは私を不妊症の妻だと言うの?)
「この屋敷はマイゼッティ男爵家のものだから、悪いけど出て行ってほしい。君の実家は没落貴族で両親も他界しているから気の毒だとは思う。だが、子供を産めなかったサブリーナには男爵夫人でいる資格はない。住む場所は用意してあげよう。家具付きのワンルームマンションを市井で見つけた。一人で暮らすにはちょうどいいと思う。毎月3万ダラ(1ダラ=1円)の援助はするよ」
夫は気絶から目覚めたばかりの私にそう話しかけた。前もって準備してきたかのような手際の良さだ。
お義母様のお葬式には、介護中は一切顔も出さなかった親戚やら友人と名乗る方が大勢いらっしゃって、遺産や形見分けの話を私にしてきた。
「妻には形見分けやら遺産の話は関係ありませんよ。嫁の立場で相続できるものなど、なにひとつありませんからね。話は長男であるわたしにしてほしいし、わたしは頻繁に王都から戻って来て、母上の介護を手伝ったのですから」
夫の話は大嘘で姑が介護生活になってから領地に戻ってきたことはないし、まして介護なんてひとつもしたことはない。
「そうそう。わたしだって頻繁に母上を見舞ったよ。母上の話し相手になったり、オムツだって何度も取り替えたさ」
エドアルド様は得意そうに胸を反らした。
「あら、私もだわ。娘のバジーリアとよくお姉様を訪ねました。来るたびにとても喜んでくださって、本当にバジーリアのことが可愛かったようだわ。ほら、お姉様には娘がいないから。形見分けは、あの大きなルビーのネックレスをちょうだい。きっとお姉様も私にして欲しがっているわ。それからサファイアのネックレスはバジーリアにくださいな」
ビビアーナ様の、『くれくれ発言』が止まらない。
それを呆れて眺めていた私にビビアーナ様は声をかけた。
「嫌ねぇ。関係ない人は向こうに行ってなさいよ。嫁にはなにも相続できるものはないわ。なにか貰おうとしたってそうはいかないわ。赤の他人のくせに図々しいわよ!」
(確かにその通りだ。私は嫁でしかないし、葬式の後では離縁され嫁の立場でもなくなるのだから・・・・・・子供もいない私は惨めだわ)
葬式の間中雑用は私に回ってくるけれど、親族同士の相続の会話からは除外され、まるで使用人のような扱いに今までの結婚生活がとても虚しいものに思えた。
(私はこの家では家族ではない。だったら、私はなんだったのだろう? そうか・・・・・・私はただでこきつかえる家政婦だったのね?)
唇を噛みしめ涙が頬をつたった。
私は市井の夫が用意したという建物の前にいる。そこは狭い路地裏の日も差さない、外壁にはヒビが入ったような物件だ。近くにドブのように濁った川が流れており、すえた匂いが漂い吐き気がこみ上げた。
私の部屋だといわれたのは201号室。扉を開けると確かに家具付きではある。けれど、それは使い古された家具で、以前の住人が置いていったにすぎない粗大ゴミのようなものだった。
悔しさと情けなさでまたもや涙が溢れ止まらない。
ところが、まもなく一人の弁護士が私を訪ねてきて、
「フェドーラ前男爵夫人の遺言状が発見されました。サブリーナ様が相続なさった屋敷にお連れします」
と、言われたのだった。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
後編で怒濤の巻き返しがあります。後半長めですが、夫やその弟、夫人の妹などのざまぁ展開になります。
(まるで私が子供が産めない身体のように言うのね? 結婚してから子供ができる行為をしたのはほんの数回よ。それなのに、あなたは私を不妊症の妻だと言うの?)
「この屋敷はマイゼッティ男爵家のものだから、悪いけど出て行ってほしい。君の実家は没落貴族で両親も他界しているから気の毒だとは思う。だが、子供を産めなかったサブリーナには男爵夫人でいる資格はない。住む場所は用意してあげよう。家具付きのワンルームマンションを市井で見つけた。一人で暮らすにはちょうどいいと思う。毎月3万ダラ(1ダラ=1円)の援助はするよ」
夫は気絶から目覚めたばかりの私にそう話しかけた。前もって準備してきたかのような手際の良さだ。
お義母様のお葬式には、介護中は一切顔も出さなかった親戚やら友人と名乗る方が大勢いらっしゃって、遺産や形見分けの話を私にしてきた。
「妻には形見分けやら遺産の話は関係ありませんよ。嫁の立場で相続できるものなど、なにひとつありませんからね。話は長男であるわたしにしてほしいし、わたしは頻繁に王都から戻って来て、母上の介護を手伝ったのですから」
夫の話は大嘘で姑が介護生活になってから領地に戻ってきたことはないし、まして介護なんてひとつもしたことはない。
「そうそう。わたしだって頻繁に母上を見舞ったよ。母上の話し相手になったり、オムツだって何度も取り替えたさ」
エドアルド様は得意そうに胸を反らした。
「あら、私もだわ。娘のバジーリアとよくお姉様を訪ねました。来るたびにとても喜んでくださって、本当にバジーリアのことが可愛かったようだわ。ほら、お姉様には娘がいないから。形見分けは、あの大きなルビーのネックレスをちょうだい。きっとお姉様も私にして欲しがっているわ。それからサファイアのネックレスはバジーリアにくださいな」
ビビアーナ様の、『くれくれ発言』が止まらない。
それを呆れて眺めていた私にビビアーナ様は声をかけた。
「嫌ねぇ。関係ない人は向こうに行ってなさいよ。嫁にはなにも相続できるものはないわ。なにか貰おうとしたってそうはいかないわ。赤の他人のくせに図々しいわよ!」
(確かにその通りだ。私は嫁でしかないし、葬式の後では離縁され嫁の立場でもなくなるのだから・・・・・・子供もいない私は惨めだわ)
葬式の間中雑用は私に回ってくるけれど、親族同士の相続の会話からは除外され、まるで使用人のような扱いに今までの結婚生活がとても虚しいものに思えた。
(私はこの家では家族ではない。だったら、私はなんだったのだろう? そうか・・・・・・私はただでこきつかえる家政婦だったのね?)
唇を噛みしめ涙が頬をつたった。
私は市井の夫が用意したという建物の前にいる。そこは狭い路地裏の日も差さない、外壁にはヒビが入ったような物件だ。近くにドブのように濁った川が流れており、すえた匂いが漂い吐き気がこみ上げた。
私の部屋だといわれたのは201号室。扉を開けると確かに家具付きではある。けれど、それは使い古された家具で、以前の住人が置いていったにすぎない粗大ゴミのようなものだった。
悔しさと情けなさでまたもや涙が溢れ止まらない。
ところが、まもなく一人の弁護士が私を訪ねてきて、
「フェドーラ前男爵夫人の遺言状が発見されました。サブリーナ様が相続なさった屋敷にお連れします」
と、言われたのだった。
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後編で怒濤の巻き返しがあります。後半長めですが、夫やその弟、夫人の妹などのざまぁ展開になります。
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