(完)「君を大事にしたいからキスはやめておこう」とおっしゃった婚約者様、私の従姉妹を妊娠させたのは本当ですか?

青空一夏

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(ルーベン視点)

 国王陛下が中央の裁判長席に厳めしい顔でお座りになっている。その周りには司法官がずらりと立ち並び、裁判が始まるのを待っていた。

 青ざめた顔で被告席にいるのはポピーとダニエル・メンデス男爵だ。証人席にはライリーが雇ったという薬草証人
デクスターがおり、参考人席には私が呼びつけたレジー・ゴーサンス準男爵がいる。




 レジーの話をライリーから聞き、すぐにゴーサンス準男爵家に向かい問い詰めたのだ。幸い夫人は外出中で私はメインのドローイングルーム(応接室)に通された。

「君がポピーといい仲なのはわかっているんだ。いつからなのか教えてほしい。嘘は言うなよ。調べればすぐわかることだ。」

 こんな質問はいきなりした方が、相手が答えを用意する暇がないから真実が聞ける。

「妻と結婚する前からです。もしかして妊娠のことですか? あれは勘違いだったと後から言われましたよ」

「本当に妊娠していなかったんだな?」

「僕にはそう言ってましたね。妊娠はしていないし、そういう行為をしたことは誰にも言わないでほしい、と言われました。ですから、ポピーに何を頼まれたか知りませんが僕は悪くないです!」

「君が悪いなんてひとことも言っていない。ただ妊娠するようなことをポピーとしたことがある、と裁判で証言してくれ。」

「え! 妻にばれたら殺されます!」

「バカか! 証言しないと私がゴーサンス準男爵家をつぶすぞ! 妻を裏切っておいて、ばれるから証言しないとは卑怯者だな。男たるもの、浮気するならばれてもいい覚悟ですることだ!」

 私の怒鳴り声に、レジーの妻が扉を開けて笑いながら入ってきた。いつの間にか外出から帰ってきており、ドローイングルームの扉の向こうで聞き耳をたてていたのだろう。

「浮気には気がついておりましたわ。レジー様、証言してくださいな。妻の私が知っていたのですもの。周りもきっと気づいていたはずですわ。 この裁判の後、私達も離婚調停に入りましょうね! まだ子供ができていなくて本当に良かったです。もしポピー様が妊娠なさっていたら、責任をとって結婚してあげるといいわ!」

「いや、それは・・・・・・一時的な気の迷いだったんだよ・・・・・・本当にすまない」

「気の迷いね? そんないい加減な気持ちで女性が妊娠するような行為をするなんて、赤ちゃんに対して申し訳ないと思わないのですか? 性欲だけをぶつけて、生まれてくる子供の責任をとることも考えないなんて吐き気がするわ!」

 まぁ、奥方が怒るのもわかる。レジーが恨みがましく私を見たが自業自得だ。

「とにかく、君は私の言うように証言しなさい。奥方には離縁されるかもしれないが、ゴーサンス準男爵家の事業は助けてやろう。君は女癖が悪いようだが、仕事はそれなりにできるようだしね。調べさせてもらったよ。少し資金繰りに困っていただろう?」
 にっこりと提案すれば、食いつくように私に何度も頷いたのだった。





 ポピーの身体を診察してもらう女医は、王立女子貴族学園の校医も務めている女性にお願いした。彼女にも私は直接話に行き、丁寧に頭を下げた。

 彼女の名前はエリザ・ルソー。ルソー伯爵家の三女で、真面目で嘘が大嫌いな性格のようだ。兄上の事件をかいつまんで話したら、とても同情してくれた。

「ジョシュア様がお可哀想ですね。私で良ければお力になりますよ。托卵しようなんて浅ましい女性は、男性の敵でもありますが女性の敵でもありますからね!!」

 熱く持論を述べる彼女は、すっかりこちら側の味方だ。

 血液検査技師まで傍聴人席に座らせ、いつでも裁判に参加してもらう準備もととのえる。”純潔の証”なんて嘘だと確信していたし、それを証明したい。

 やるからには、完璧に勝つ! これはアラベスク侯爵家を舐めると、どんな目に遭うかということの見せしめにもなるのだ。

「さて、これで皆揃ったのか? では、裁判を始める! ダニエル・メンデス男爵のジョシュア・アラベスク侯爵に対する殺人未遂罪。ポピー・メンデス男爵令嬢の脅迫罪に詐欺罪。それから・・・・・・ゴーサンス準男爵との密通?」

 国王陛下が呆れたようにポピーを睨み付けた。

「この後の裁判では王立女子貴族学園でのイザベル・カステロ伯爵令嬢への誹謗中傷についてもご判断いただくことになりそうです。原告はカステロ伯爵家のライリー様。誹謗中傷をした者に対して一律1,000万ダラの慰謝料請求がされています」
 司法官の一人が国王陛下に報告を終えると、傍聴人席にいたイザベル嬢を虐めていた女性達が、驚きの声をあげたのだった。

 誹謗中傷は訴えらる覚悟をもってすることさ! 浮気と同じようにね。
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