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しおりを挟む(ルーベン視点)
「とにかく、メンデス男爵はポピーを連れて速やかにここから出て行ってください! ここはシャトーホテルではない!」
「ですが、もう結婚も決まっているのですからここにいる権利はありますわ! 裁判になってもいいんですか!」
ポピーが激怒して私を脅すが、そんなことを気にする私ではない。
こいつらは、「裁判、裁判」と叫べばなんでも通ると思い込んでいる。
(私を見くびったことを後悔させてやろう! 必ずな!)
「あぁ、裁判なら望むところだね。それに結婚が決まっているとは、国王陛下に許しをもらい貴族間結婚承認書を賜って初めて言える言葉だ。そんなことも知らないのか?」
「・・・・・・でも、でも・・・・・・”純潔の証”があれば結婚を求めることができましたよね?」
「あぁ、それが本物ならね? そして裁判になれば、実際にポピー嬢の身体を診察してもらうことを要求するよ? 妊娠の有無もそこでわかるし、今まで堕胎の事実があるかどうかも確認できるかもな! 少なくとも君の身体の状態が公になるということだ。恥ずかしいことだと思わないか? さぁ、帰ってくれ! 裁判で会おう!」
「くっ・・・・・・私の娘を脅すのですか? 卑怯だと思いませんか? 女性のデリケートな問題を公に晒すなど! 自分の責任を逃れる為に女性を訴えるなど、浅ましい男が行うことです! アラベスク侯爵家の男性として汚名を被ることになるぞ!」
メンデス男爵が抗議の声をあげる。
「あぁ、それはとても昔の考えですね。女性を守る騎士道精神。だが、この世には守るべき価値のない女性もいます。嘘つきな身持ちの悪い女性を守る為に犠牲になる必要は少しもない。アラベスク侯爵家の家名が傷つくことを心配してくださるなら余計なお世話だ。これは兄上ではなく私が原告人となり行う」
「そんなとができるわけがない! 当事者ではないでしょう?」
とメンデス男爵。
「私はこのアラベスク侯爵家の者だ。当主夫人になろうとする、つまりこのアラベスク侯爵家を乗っ取ろうとする者を排除する権利はありますよ。あなた達には”詐欺”と”お家乗っ取りの”疑いがある。さらに、ここで私の要求どおりにこの屋敷からでていかないのなら”不退去罪”で罪がもう一つ増えるだろう」
メンデス男爵とポピーは慌てて屋敷から出ていき、私とライリーは苦笑したのだった。
「兄上は医者に診せた方がいい。それから、メンデス男爵家に出入りしていた薬を扱う商人を突きとめたい。このあたりで睡眠薬を扱う商人はそれほど多くないよな?」
「すぐに医者を呼びます」
と執事。
「叔父上の屋敷に出入りしていた商人なら俺に任せろ。カステロ伯爵家にも出入りしてる薬草を扱う商人の一人だと思う」
とライリー。
私は意気消沈している兄上を見て、優しく声をかけた。
「兄上も災難でしたね。まさかこんな子供騙しのような手口に引っかかるとは・・・・・・」
「・・・・・・面目ないよ。・・・・・・実は・・・・・・最初はルーベンの子供がお腹にいると言われたんだ。ルーベンは多くの女性と付き合っていたのだろう? だから、もしかしたらと思った。お前は大事な時期だし、大使になれるチャンスを逃したら可哀想だと・・・・・・」
「はぁーー? 兄上! そんなに私を信用していなかったのですか? あの醜聞は女性がうるさくまとわりつくから自分で流したものですよ。そんなことぐらい、わかりそうなものでしょう? 私の時間はほとんどが勉学で消えていた。女性と遊ぶ暇などあるわけがないでしょう?」
私は心外な思いでつい声を荒げた。兄弟だからわかり合っている、と勝手に思い込んでいたのだ。
「そうだったのか・・・・・すまない。・・・・・・ところで、カステロ伯爵家に莫大な借金があるのも嘘なのだろうか?」
兄上は今度はライリーの顔を見て尋ねる。
「はぁーー? あるわけないでしょう? そんなもの! カステロ伯爵家を見ていればわかりそうなものだ。借金どころか当家の事業はうまくいきすぎて、資産運用に頭を悩ませているくらいなのに・・・・・・」
ライリーはいきなりの借金疑惑に、明らかに機嫌が悪くなっている。
「もしかして、あのメンデス男爵が言ったのですか? あの男は詐欺師ですよ。どう見たって胡散臭いでしょう? ライリー、ごめんよ。君の叔父上を悪く言った」
「あぁ、気にするなよ。メンデス男爵は昔から大嫌いなんだ。なんであれが父上の弟なんだろう? まったく父上とは性格が違う」
ライリーが不快げに顔をしかめた。
「で、兄上。”純潔の証”はどこにありますか? 至急、鑑定させましょう。人間の血でない可能性もあるし、他人の血の可能性もある。さぁ、持ってきてください」
「ないよ。ポピーが持っている。メンデス男爵家の金庫の中だそうだ」
「兄上・・・・・・それ、ダメなやつです。”純潔の証”は男が保管するものに決まっているでしょう? その女性が産んだ子供が自分の血を引く正当な跡継ぎである、と一族の者に知らしめる為のものですよ。ポピーを当主夫人に据えるのなら”純潔の証”はアラベスク侯爵家の当主の部屋に保管するのが決まりだ」
「なんていうか、めちゃくちゃされてたんだな・・・・・・お前の兄ちゃん・・・・・・」
ライリーが呆れた声で呟く。
「兄上、まだイザベル嬢を愛していますか?」
「もちろんだ。彼女しか私の心にはいない」
「っ!! ダメです!! ジョシュア様ではイザベルを守れない!」
ライリーがいきなり語気を荒げて兄上を睨み付けた。
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青空異世界言葉説明
※シャトーホテル:貴族の屋敷や別荘を改造した宿泊施設。平民でもお金持ちの商人や医師、上級役人等が貴族気分を味わえるので人気があった。
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