(完)「君を大事にしたいからキスはやめておこう」とおっしゃった婚約者様、私の従姉妹を妊娠させたのは本当ですか?

青空一夏

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 私は屋敷に戻り、庭園の一角にある鳩小屋の前で泣く。この大きな小屋はお兄様の趣味で建てた往復鳩用のものだ。

 この世界では手紙のやり取りは郵便馬車を使う。往復鳩を使うのはお兄様が考案したもので、まだ研究中だった。

 通常、伝書鳩は鳩の帰巣本能を利用するから、育てた鳩を移動させた地点からの鳩小屋までの一方通行でしか手紙を送ることはできない。

 でもお兄様は往復鳩を飼育している。これは二カ所の地点を往復するように訓練された鳩だ。今はお兄様が留学しているママレードナ王国の学園と、この鳩小屋とを往復できる鳩が10羽ほどいる。

「なにか困ったことがあったら俺を頼れ! 鳩に手紙をつけて飛ばすだけさ。郵便馬車なんかよりよっぽど早く着くからな」

 あれは二ヶ月程前。休暇で帰省なさった時に、お兄様は私の頭を撫でながらそうおっしゃった。

(お兄様に相談しようかな・・・・・・でも今は学期末の試験でお忙しいはず・・・・・・どうしよう)






ーー王立貴族女子学園、イザベルの教室ではポピーを取り巻く女子達と、そこから距離をとる女子達の二つのグループができていた。登校する元気のなかったイザベラはすっかり遅刻し、ほとんどの女子学生はすでに教室にいる。ーー



「あら、寝取られ女が来ましたわよ」

「従姉妹に婚約者を取られるなんてマヌケですわね。なにが大事にされているよ。いつも自分だけ聖女みたいな顔をして、いけすかない子だと思っていたわ」

「あーいう清純ぶった女って、男性からはつまらないって思われるのですわ。捨てられるなんてかわいそーー」

 ぎりぎり私に聞こえるように囁く声は、悪意に満ちている。




 私はポピーのグループを横切って、もうひとつのグループの中心に座る。私の座席に集まった友人達は心配そうな眼差しを私に向けた。

「イザベル様、ポピー様がおっしゃっていることは本当なのですか? あの方はもう妊娠していて、お相手はジョシュア・アラベスク侯爵様だと吹聴して回っていますわよ」

「ジョシュア様は否定なさらかったから本当でしょうね・・・・・・皆様、お騒がせしてごめんなさいね」

「あら、イザベル様は少しも悪くないですわ。ポピー様が常識がないと思います。従姉妹の婚約者を取るなんて!」

「アラベスク侯爵様にもがっかりですわ。あんなに綺麗な男性なのに残念な中身。ジョシュア様の弟のルーベン様は女性とのお付き合いが多い、とはお聞きしたことはありますけれど、まさかジョシュア様がねぇ」

「あら、ルーベン様は噂だけで振られた女性達が、あることないこと言いふらしているって聞きましたけど」

「あの兄弟は二人とも素敵ですものね。ジョシュア様は銀髪アメジストの典型的な美男子。ルーベン様は黒髪に虹色の瞳のエキゾチックな・・・・・・なんていうか・・・・・・女心をそそる危険な美貌・・・・・・」

「きゃーー!! わかる!! あの魅惑の虹色の瞳!! じっと見つめられたら気絶しそう」

「そうそう。あの瞳だけでもう女性はメロメロですわ・・・・・・青い部分に黄色、オレンジが混ざって神秘的でしょう?」

「海と陸を表わしているような複数色の瞳は、アースアイと言うらしいです。だからルーベン様は、希少価値のアースアイの極上の美男子なのですわ。ただ女性にだらしない、という噂が定着していますから、お近づきになろうという勇気は持てませんわね」

「そこなのよ! あの噂のせいで、婚約者もまだいないでしょう? 外交官になる未来は決まっているのに、勿体ないですわね」

「ってことは、今が狙い目なのでは? でもあの方はモテるでしょうから妻になったら浮気で泣かされそうですわね。そう言えば、イザベル様のお兄様のライリー様も素敵! たしか婚約者もまだいませんわね?」

「えぇ、お兄様は・・・・・・」


 話題がすっかりルーベン様とお兄様に移ったことでほっとする。

 でも不思議なの! 今まで仲がいいと思っていた子がポピーのグループに入って私の悪口を言うのを何度も見かけた。逆に今まで仲良しでもなかった子が、急に私に味方してくれることもある。思いやりのある人って、こんな時にわかる。

 思いやりのある優しい友人はこの話題には触れないようにしてくれたし、わざと大きな声で慰めようとしてくる女子は、瞳の奥に面白がるような気持ちが透けて見えた。ポピーは私を見下して嬉しそうにしているが、表向きは申しわけなさそうな顔をとりつくろっている。

 あんなに楽しかった学園生活が今では辛い時間になってしまった。皆と仲良く恋バナをしていた空間では、私を嘲笑う囁きが頻繁になされ、なにも悪いことをしていない私が貶められていく。








 屋敷に戻ってまた往復鳩を見つめる。

 両親に相談するのは簡単だ。すぐに婚約破棄に動いてくれるに違いない。だけど・・・・・・まだ私はジョシュア様に未練があった・・・・・・だって、信じたくない・・・・・・あんなに優しかったジョシュア様だったのに。


 私はペンを取りジョシュア様とポピーの話しを手紙に詳細にしたためた。

「お願い。お兄様に届けて!」

 往復鳩の頭を撫でて手紙を結び天に放つ。


(お兄様・・・・・・助けて・・・・・・)







(ルーベン視点)

「おい! お前の兄はなにをしてくれちゃってんだよぉ!! 俺は怒った、今、猛烈に腹を立てているぞ! ジョシュアはクソだ!」

「は? いきなりなんだよ! 親友の君にでも兄上の悪口は言われたくないな! 兄上は若くしてアラベスク侯爵家を継ぎ、頑張っているのだぞ!」

「ルーベン! お前の女好きの噂が全てデマなのは知っている。お前はその顔でモテすぎて、わざと自分で女が寄りつかない噂を流させたのはお見通しだぞ! だがな、お前の兄はガチの女好きなんだよ。妹を裏切ってポピーを妊娠させるって鬼畜だろう!」

「は? なんだって? 詳しく教えてくれ。そんな話しは初耳だ」

 私は同じく外交官を目指している同級生、カステロ伯爵家の長男ライリーに詰め寄った。






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ジョシュアの弟はルーベンです。前回ライリーと混同して誤字が多数ありました。すみません。ちなみにライリーはイザベルの兄です。
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