(完)「君を大事にしたいからキスはやめておこう」とおっしゃった婚約者様、私の従姉妹を妊娠させたのは本当ですか?

青空一夏

文字の大きさ
上 下
3 / 11

3

しおりを挟む
 私は屋敷に戻り、庭園の一角にある鳩小屋の前で泣く。この大きな小屋はお兄様の趣味で建てた往復鳩用のものだ。

 この世界では手紙のやり取りは郵便馬車を使う。往復鳩を使うのはお兄様が考案したもので、まだ研究中だった。

 通常、伝書鳩は鳩の帰巣本能を利用するから、育てた鳩を移動させた地点からの鳩小屋までの一方通行でしか手紙を送ることはできない。

 でもお兄様は往復鳩を飼育している。これは二カ所の地点を往復するように訓練された鳩だ。今はお兄様が留学しているママレードナ王国の学園と、この鳩小屋とを往復できる鳩が10羽ほどいる。

「なにか困ったことがあったら俺を頼れ! 鳩に手紙をつけて飛ばすだけさ。郵便馬車なんかよりよっぽど早く着くからな」

 あれは二ヶ月程前。休暇で帰省なさった時に、お兄様は私の頭を撫でながらそうおっしゃった。

(お兄様に相談しようかな・・・・・・でも今は学期末の試験でお忙しいはず・・・・・・どうしよう)






ーー王立貴族女子学園、イザベルの教室ではポピーを取り巻く女子達と、そこから距離をとる女子達の二つのグループができていた。登校する元気のなかったイザベラはすっかり遅刻し、ほとんどの女子学生はすでに教室にいる。ーー



「あら、寝取られ女が来ましたわよ」

「従姉妹に婚約者を取られるなんてマヌケですわね。なにが大事にされているよ。いつも自分だけ聖女みたいな顔をして、いけすかない子だと思っていたわ」

「あーいう清純ぶった女って、男性からはつまらないって思われるのですわ。捨てられるなんてかわいそーー」

 ぎりぎり私に聞こえるように囁く声は、悪意に満ちている。




 私はポピーのグループを横切って、もうひとつのグループの中心に座る。私の座席に集まった友人達は心配そうな眼差しを私に向けた。

「イザベル様、ポピー様がおっしゃっていることは本当なのですか? あの方はもう妊娠していて、お相手はジョシュア・アラベスク侯爵様だと吹聴して回っていますわよ」

「ジョシュア様は否定なさらかったから本当でしょうね・・・・・・皆様、お騒がせしてごめんなさいね」

「あら、イザベル様は少しも悪くないですわ。ポピー様が常識がないと思います。従姉妹の婚約者を取るなんて!」

「アラベスク侯爵様にもがっかりですわ。あんなに綺麗な男性なのに残念な中身。ジョシュア様の弟のルーベン様は女性とのお付き合いが多い、とはお聞きしたことはありますけれど、まさかジョシュア様がねぇ」

「あら、ルーベン様は噂だけで振られた女性達が、あることないこと言いふらしているって聞きましたけど」

「あの兄弟は二人とも素敵ですものね。ジョシュア様は銀髪アメジストの典型的な美男子。ルーベン様は黒髪に虹色の瞳のエキゾチックな・・・・・・なんていうか・・・・・・女心をそそる危険な美貌・・・・・・」

「きゃーー!! わかる!! あの魅惑の虹色の瞳!! じっと見つめられたら気絶しそう」

「そうそう。あの瞳だけでもう女性はメロメロですわ・・・・・・青い部分に黄色、オレンジが混ざって神秘的でしょう?」

「海と陸を表わしているような複数色の瞳は、アースアイと言うらしいです。だからルーベン様は、希少価値のアースアイの極上の美男子なのですわ。ただ女性にだらしない、という噂が定着していますから、お近づきになろうという勇気は持てませんわね」

「そこなのよ! あの噂のせいで、婚約者もまだいないでしょう? 外交官になる未来は決まっているのに、勿体ないですわね」

「ってことは、今が狙い目なのでは? でもあの方はモテるでしょうから妻になったら浮気で泣かされそうですわね。そう言えば、イザベル様のお兄様のライリー様も素敵! たしか婚約者もまだいませんわね?」

「えぇ、お兄様は・・・・・・」


 話題がすっかりルーベン様とお兄様に移ったことでほっとする。

 でも不思議なの! 今まで仲がいいと思っていた子がポピーのグループに入って私の悪口を言うのを何度も見かけた。逆に今まで仲良しでもなかった子が、急に私に味方してくれることもある。思いやりのある人って、こんな時にわかる。

 思いやりのある優しい友人はこの話題には触れないようにしてくれたし、わざと大きな声で慰めようとしてくる女子は、瞳の奥に面白がるような気持ちが透けて見えた。ポピーは私を見下して嬉しそうにしているが、表向きは申しわけなさそうな顔をとりつくろっている。

 あんなに楽しかった学園生活が今では辛い時間になってしまった。皆と仲良く恋バナをしていた空間では、私を嘲笑う囁きが頻繁になされ、なにも悪いことをしていない私が貶められていく。








 屋敷に戻ってまた往復鳩を見つめる。

 両親に相談するのは簡単だ。すぐに婚約破棄に動いてくれるに違いない。だけど・・・・・・まだ私はジョシュア様に未練があった・・・・・・だって、信じたくない・・・・・・あんなに優しかったジョシュア様だったのに。


 私はペンを取りジョシュア様とポピーの話しを手紙に詳細にしたためた。

「お願い。お兄様に届けて!」

 往復鳩の頭を撫でて手紙を結び天に放つ。


(お兄様・・・・・・助けて・・・・・・)







(ルーベン視点)

「おい! お前の兄はなにをしてくれちゃってんだよぉ!! 俺は怒った、今、猛烈に腹を立てているぞ! ジョシュアはクソだ!」

「は? いきなりなんだよ! 親友の君にでも兄上の悪口は言われたくないな! 兄上は若くしてアラベスク侯爵家を継ぎ、頑張っているのだぞ!」

「ルーベン! お前の女好きの噂が全てデマなのは知っている。お前はその顔でモテすぎて、わざと自分で女が寄りつかない噂を流させたのはお見通しだぞ! だがな、お前の兄はガチの女好きなんだよ。妹を裏切ってポピーを妊娠させるって鬼畜だろう!」

「は? なんだって? 詳しく教えてくれ。そんな話しは初耳だ」

 私は同じく外交官を目指している同級生、カステロ伯爵家の長男ライリーに詰め寄った。






୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

ジョシュアの弟はルーベンです。前回ライリーと混同して誤字が多数ありました。すみません。ちなみにライリーはイザベルの兄です。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

あなたの愛が正しいわ

来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~  夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。  一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。 「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

理不尽な理由で婚約者から断罪されることを知ったので、ささやかな抵抗をしてみた結果……。

水上
恋愛
バーンズ学園に通う伯爵令嬢である私、マリア・マクベインはある日、とあるトラブルに巻き込まれた。 その際、婚約者である伯爵令息スティーヴ・バークが、理不尽な理由で私のことを断罪するつもりだということを知った。 そこで、ささやかな抵抗をすることにしたのだけれど、その結果……。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。

処理中です...